トップ猫の迎え方多頭飼いのすすめ多頭飼い・完全ガイド

猫の多頭飼い・完全ガイド~正しい顔合わせの方法からストレス管理まで

 猫の多頭飼いとは家の中で複数の猫を同時に飼うことです。猫同士が仲むつまじく添い寝したり毛づくろいしてくれるのが理想ですが、常にそうした良好な関係が築けるわけではありません。多頭飼いを成功させるヒントがいくつか報告されていますので、科学的な文献とともにご紹介します。

多頭飼いの成功例と失敗例

 猫は体だけでなく心も柔軟な動物ですので、独りで生きていくこともできれば、他の猫や他の動物種(犬・人間 etc)と一緒に暮らしていくこともできます。猫同士を同じ家の中で飼うことは「多頭飼い」と呼ばれますが、さまざまな理由により崩壊してしまうことも少なくありません。以下は代表的な成功例と失敗例です。

猫の多頭飼い・成功例

 多頭飼いにおける「成功」とは、家の中で暮らしている人間や猫がストレスや苦痛を全く感じていない状況のことです。具体的には以下のような条件を満たしているときに成功と見なされます。 猫は血縁の有無に関わらず、他の猫と一緒に暮らしていく柔軟性を備えている
  • 猫同士の間で頻繁に親和的な行動が見られる
  • 猫同士の間で敵対的な行動が一切見られない
  • 猫が自らの意志で選べる広い空間がある
  • 猫が自らの意志で選べる豊富な資源がある
 「親和的な行動」とは複数の猫がお互いに毛づくろいする(アログルーミング)、体をすり合わせる(アロラビング)、一緒に寝る(タッチスリープ)、遊ぶ(プレイバウト)、エサやおやつを始めとした資源を共有する(リソースシェアリング)ことです。それに対し「敵対的な行動」とは、一方の猫が他の猫をにらむ、通行をブロックする、追い回す、ケンカ(ひっかく・猫パンチ・噛み付く)することです。こうした行動は猫同士の関係がうまくいっているかどうかを判断する際の指標になりますので常にチェックしておかなければいけません。 2匹の猫が見せる行動  猫はプライバシーを重んじる動物ですので、自らの意志で選べる広い空間があることは必須条件です。人間や仲間から離れて孤独に日向ぼっこをしたいと思った時、邪魔されない休息場所が部屋の中になければなりません。必然的に家にはそれなりの広さや高さが必要となります。
 また猫は嗅覚の動物ですので、他の猫の匂いがついたトイレや食器が気に食わないこともあるでしょう。デリケートな猫のため、すべての資源に関して少なくとも猫の飼育頭数分だけ用意するのが基本です。例えば猫を3頭飼っている場合、トイレ、食器、水飲みボール、ベッドといった必需品はそれぞれ3つずつ用意しておく必要があります。トイレに関しては「飼育頭数+1」でも構いません。 猫が喜ぶ部屋の作り方  上記した条件を満たすためにはある程度の出費が必要となりますが、経済的にそれが可能で、なおかつ飼い主がそれを負担に感じていないなら多頭飼いは大成功と言えるでしょう。 猫を飼う際に必要な費用

猫の多頭飼い・失敗例

 多頭飼いにおける「成功」が分かると、逆の「失敗」も同時に見えてきます。具体的には家の中で暮らしている人間もしくは猫もしくはその両方がストレスや苦痛を感じている状況のことです。 カナダ・トロントのアパート一室で発生した300頭の多頭飼育崩壊
  • 猫同士の間で親和的な行動が一切見られない
  • 猫同士の間で頻繁に敵対的な行動が見られる
  • 猫が自らの意志で選べる広い空間がない
  • 猫が自らの意志で選べる豊富な資源がない
 上記した多頭飼いの失敗例はアニマルホーディングの中に集約されます。「アニマルホーディング」(animal hoarding)とは、管理しきれない数の動物を一箇所に集め、健康と福祉をいちじるしく損ねてしまう行動のことで、大別すると「家庭型」と「施設型」とがあります。
アニマルホーディング
  • 家庭型家庭型のアニマルホーディングとは、一般人が家の中に次々と動物たちを押し込み、自由に動けるだけの空間を奪い、床には糞尿がそのままの状態で放置された状態のことです。ニュースなどで「多頭飼育崩壊」と呼ばれる事件の多くはこのアニマルホーディングであると言っても過言ではありません。近年は精神疾患の一種とする見なされ、解決するには人間に対する医療的な介入が必要であるとする見方も出てきています。 アニマルホーディング(病的な多頭飼い)を独立した精神疾患として認める動きあり
  • 施設型施設型のアニマルホーディングとは、本来動物たちを助けるはずの保護施設がホーディングを行い、健康と福祉をいちじるしく損ねてしまうことです。「自分がやらなきゃ誰がやる」という強い信念や、「どんな環境でも殺処分よりはまし」という独りよがりの価値観で動物たちを劣悪環境下に軟禁し続けますが、なぜか苦痛やストレスには気づきません。 猫の保護施設が起こす多頭飼育崩壊は新たな社会問題
 たとえすし詰め状態でなくても、猫がもっている生理的なニーズ(=生きていく上で必要な資源)や行動的なニーズ(=欲求不満を緩和する上で必要な資源)が十分に満たされておらず、何らかのストレスや苦痛を感じている状況は広い意味でのアニマルホーディングであり、ある種の多頭飼育崩壊です。猫の飼い主はさまざまな努力を通し、「失敗例」を避けて「成功例」を実現する必要があります。
NEXT:多頭飼いの必要条件

猫の多頭飼いに必要な条件

 猫を多頭飼いする理由は「猫が好き」「ひとりぼっちじゃ可哀想」「留守番させるのは気がとがめる」「一時預かり(フォスター)をやっている」「庭先に通ってくる猫を迎えることにした」などさまざまです。また「道端で子猫を拾った」という偶発的なケースもあるでしょう。
 しかし理由は何であれ家の中で複数の猫を同時に飼う場合に必要となる最低限の条件があります。詳しくは「猫を飼う前に必要な条件」で解説してありますが、以下を参考にしながらもう一度チェックし直してみましょう。これらの条件を満たせていないのに見切り発車で複数の猫を飼うと、上のセクションで紹介した「アニマルホーディング」に少しずつ近づいていきますのでご注意ください。

時間は十分あるか?

 猫1頭につき1日10分から20分のメンテナンスタイムが必要です。メンテナンスには被毛のブラッシング、爪切り、歯磨き、マッサージなどが含まれます。家の中に10頭の猫がいて世話する人間が1人の場合、1日100分から200分の時間を一人で費やす必要があります。猫は人間との接触を他の猫との接触とは別のものとして捉えている可能性が示されていますので出典資料:Randall, 1990)、「猫とのスキンシップは猫に任せておこう」という横着なスタンスでは満足してくれません。生活リズムやモチベーションを考えた時、果たしてそれだけの時間を取れるでしょうか? 猫の手入れ・ケア

空間は十分にあるか?

 猫にはストレスを感じずに過ごすことができる逃走距離と言うものがあり、およそ2mと推測されています。一頭につき半径2mの円(≒12平方m)を確保してあげるのが理想ですが、家の中に果たしてそれだけの空間があるでしょうか?また猫の飼育頭数に応じて餌の置き場、ベッド、トイレといった生活必需品の数も増えます。それらを分けて置くだけの十分なスペースは家の中にあるでしょうか?賃貸物件の場合、管理規約で飼育頭数に制限は設けられていないでしょうか? 猫が喜ぶ部屋の作り方 猫1頭に必要な広さは最低4平米、できれば12平米

災害に対処できるか?

 阪神淡路大震災や東日本大震災に象徴されるように、日本は地震大国であり、どこに暮らしていても災害に見舞われる危険性からは逃れられません。天災によって避難を余儀なくされた時、猫たちを無事に避難所にまで連れて行けるでしょうか?猫たちの面倒を一時的にでも見てくれる後見人や保証人はいるでしょうか? 災害時に必要なこと

知識は十分にあるか?

 医学に関する知識が不十分だと、外で見つけた野良猫をいきなり家の中に持ち込み、先住猫に疥癬白癬、その他伝染性のウイルス寄生虫をうつしてしまうかもしれません。また屋外の危険に関する知識がない場合、「猫の自然な行動を促す」と称して放し飼いにし、屋外で猫腸コロナウイルスに感染した状態で帰宅するかもしれません。同居している猫にウイルスを移し、そのうちの1頭が猫伝染性腹膜炎(FIP)を発症して命を落としてしまったら、猫を殺したのはウイルスではなく危険性に関する知識を持っていなかった飼い主ということになります。飼っている猫すべての健康と福祉を守るだけの、必要最低限の知識はあるでしょうか? 猫を放し飼いにしてはいけない理由

お金は十分にあるか?

 猫1頭につき生涯にかかる費用は140~230万円くらいと推定されます。その他、猫が怪我を負ったり病気にかかった時は医療費という形での臨時の出費も必要です。すべての猫の生活費だけでなく医療費も含めた出費を賄えるだけの十分な経済力はあるでしょうか? 猫を飼う際に必要な費用

条例は設けられていないか?

 地方自治体によっては、多頭飼育崩壊を予防するため飼育頭数の届け出義務を設けているところがあります。たとえば神奈川県千葉県新潟市大阪府などです。極端な多頭飼いをする場合、ご自身がお住いの地域でそのような条例は設けられていないでしょうか?
NEXT:正しい顔合わせ

猫の正しい顔合わせの方法

 過去に行われた調査では、猫同士の第一印象が悪いと敵対的な関係が長く続き、ケンカの頻度が多くなると報告されています出典資料:E.Levine, 2004)。また猫同士の仲が悪いと、飼い主に対する攻撃行動が増えるという関係性も示唆されています出典資料:Ramos, 2009)。こうした望ましくない事態が起こることを避けるため、新参猫と先住猫を同じ家の中で飼う場合は、飼い主が適切な手順を踏みながら時間をかけてご対面させなければなりません。

やってはいけないNG行為

 猫を顔合わせさせるときに一番やってはいけないのは、まるで転校生を教室の前に引きずり出して紹介するように、初日にいきなり家の中に新参猫を放り込んでしまうことです。
 飼い主の期待としては「軽く鼻挨拶を交わした後、すぐお互いをグルーミングしてくれるだろう」といった感じなのでしょうが、統計的にはおよそ半分の猫が敵対的な反応(シャーシャー威嚇する・うなる・猫パンチを食らわせる・噛みつく)を示すとされています。 初対面の猫同士を飼い主がいきなり強制的に顔合わせさせるのは絶対のNG行為  冒頭で述べたように、第一印象が悪いと猫同士の敵対関係が長期化してしまいます。また猫同士の仲が悪いと「なでる」「遊ぶ」「驚く」といった因子をきっかけとして、人間に対する猫の攻撃行動リスクを高めてしまう危険性が指摘されています。ですから何の下準備もないまま初日にいきなり先住猫と新参猫をご対面させることは絶対のNG行為です。
 部屋数が十分な場合は、居住空間を2部屋に分けます。部屋がない場合は仕方ありませんので、新参猫をキャリーに入れて玄関スペースやお風呂場などを仮宿として代用します。この際、トイレ、ベッド、食器はそれぞれの猫専用のものとし、共有しないようご注意ください。
🚨外出後の猫の匂い  動物病院に行った猫を連れ帰った後、なじみのない匂いに他の猫が警戒心を抱き、あたかも新参猫が来たかのような反応を見せることがあります。帰宅後は猫の体をウェットティッシュなどで軽く拭いて病院臭を取り除いて下さい。また外猫の匂いを付けて帰ってきますので、猫の放し飼いは絶対にしないで下さい。帰宅するごとに不要なストレスを掛けてしまいます。

匂いの交換

 猫同士のパーソナルスペースを確保した後、まず真っ先に行うべき下準備は匂いの交換(scent swapping)です。猫はそれほど目が良い動物ではありませんので、個体認識は嗅覚を通して行います。具体的には口の端にある分泌腺の匂いをかぎ合う「鼻挨拶」や、肛門周辺の分泌腺をかぎ合う「お尻挨拶」などです。

分泌腺の匂い交換

 猫の個体認識において重要な鼻挨拶やお尻挨拶を間接的に再現するため、飼い主は先住猫と新参猫の双方から分泌腺の匂いを採取し、お互いに匂いをかげるよう手伝ってあげます。採取する部位は下の写真で示した「口の端」「耳の付け根の毛が薄い部分」「肛門周辺」です。 猫の体の中で匂い付けに用いられる場所  香りや別の匂いがついていないティッシュペーパーなどで上記部位を別々にこすり、分泌物を取ります。次にそのペーパーを猫の鼻先に近づけて自発的にクンクンするかどうかを観察してみましょう。
 なじみのない匂いが猫の恐怖反応やストレスを招き、時として攻撃行動にまでつながるといった報告もありますので出典資料:Bowen, 2006)、新しい匂いに気づいた猫は警戒心を抱き、瞳孔を開いて目をまん丸くするかもしれません。しかしそのうち馴化反応が起こり、匂いに馴れて興味を示さなくなります。猫が慣れるまで、数日~1週間程度は匂いの交換を行いましょう。忘れてはいけないのは、先住猫の匂いも同様にして慣れるまで新参猫に嗅がせてあげるという点です。

体の匂い交換

 口やお尻の分泌腺ほどではないですが、猫の全身には皮脂腺がありますので、人間の嗅覚ではとらえることのできないその猫固有の匂いがあるかもしれません。猫がよく使う毛布やベッドの匂いを嗅がせ、慣れるまで数日~1週間くらい匂いの交換を行いましょう。この時の注意点として、新参猫も先住猫も伝染性の疾患を抱えていないことを事前に確認して下さい。たとえば新参猫が白癬を持っている場合、匂い交換を通じて先住猫に菌を移してしまう危険性があります。 猫の匂いがついた寝具や人の手で間接的に匂い交換を行う  もし双方の猫が十分に触らせてくれる場合は、飼い主が新参猫(先住猫)の頭や体をなで、その手を先住猫(新参猫)に嗅がせるという方法もあります。しかしこの場合も、双方が伝染性の疾患を抱えていないことを事前にしっかり確認して下さい。

排泄物の匂い交換

 人間の鼻には到底わかりませんが、おしっこには重要な個人(個猫)情報が含まれていることが判明しています。使用済みの猫砂を少量だけ取って、お互いの尿臭に慣れるまで数日~1週間くらい匂いの交換を行いましょう。「大」の方は肛門腺の匂い交換と重複しますので任意としておきます。ただ寄生虫の虫卵が移らないよう、事前に虫下しは終わらせておいて下さい。

声に慣らす

 匂いの交換が終わったら、聴覚的な刺激に慣らせることも重要です。音響機器に猫の鳴き声を録音し、双方に聞かせてみましょう。長時間リピート再生する関係上、スマートフォンよりICレコーダーの方がベターです。最初は聞こえるか聞こえないかわからないくらいの小さな音量からスタートして下さい。耳をピンと立てて瞳孔を大きく見開くでしょうが、そのうちノーリアクションになっていきます。慣れるまで少しずつボリュームを上げていきます。
 もし猫があまり鳴かず録音するのが難しいという場合は、インターネットの動画共有サイトなどで見知らぬ猫の声を録音し、上記手順に従って無限再生しましょう。猫に過剰なストレスを掛けないよう、必ず聞こえないくらいの極めて小さい音量から始めて下さい。

姿に慣らす

 匂い(嗅覚)と声(聴覚)の馴化が終わったら、最後はお互いの姿(視覚)の馴化プロセスです。
 2部屋に分かれている場合は、身体的な接触ができないよう猫が通れない程度にドアを開け、お互いの姿をのぞき見させます。相手の存在と不快感がリンクしてしまう危険があるため、飼い主が抱っこして強引に顔合わせさせることは控えて下さい。 猫を初めて顔合わせさせるときは接触できないようドアの隙間から  玄関やお風呂場にキャリーを置いて仮宿にしているような場合は、新参猫をキャリーに入れた状態のまま先住猫のいる部屋に移動します。この時、猫が「身を隠せている」と安心できるよう、格子状のケージではなく不透明のキャリーを使うようにして下さい。また先住猫のトイレ、食事場、水飲み場、寝床からは離れた場所に置くようにします。 猫を初めて顔合わせさせるときはクレートの扉を少しだけ開けて  動物病院の入院ケージに入れられた猫を対象とした調査では、出入り口に遮蔽シーツを設けることでストレスが緩和されることが確認されています出典資料:Wright, 2018)。この知見を応用し、新参猫のキャリー出入り口には布で「のれん」のようなシールドを設けてあげましょう(上写真)。ただしキャリーの内と外からお互いの匂いを嗅いだり姿を視認できるよう、1/3程度の隙間を開けておくようにします。またのれん代わりに使う毛布、シーツ、シャツなどの布製品には、飼い主の匂いが付いていた方が安心感を抱いてくれやすくなります。

いよいよ顔合わせ

 猫がお互いの姿に馴れ、いい意味で無関心になってきたら、部屋を仕切っていたドアを開けたり、キャリーに取り付けておいた毛布やシーツを取り除いて開いた状態にします。
 匂い、声、姿の馴化プロセスがうまくいっている場合、先住猫と新参猫は「鼻挨拶」や「お尻挨拶」をスムーズに行ってくれるはずです。シャーシャー言ったり猫パンチを繰り出すといった敵対的な反応が見られなかった場合、顔合わせはひとまず成功と言えます。 嗅覚を通じた猫同士のコミュニケーション~鼻挨拶と尻挨拶  しかし最初のうちは不慮の威嚇行為や攻撃行為が出てしまう危険性を否定できませんので、必ず飼い主が監督した状態で行って下さい。
 保護猫の譲渡活動においては、先住猫との仲が悪いことを理由としてトライアルを中断し、戻されることがよくあります。しかし最初の1ヶ月くらいは本来、お互いの存在に慣れるための準備期間です。必要なプロセスをスキップしていきなり新顔を部屋の中に放り込むと一触即発の状態になるのは当たり前ですので、数日~数週間の観察で「猫同士の仲が悪い!」と決めつけるのではなく、自然と慣れるまで十分な馴化期間を設けましょう。

猫たちの仲を観察

 顔合わせが終わったら猫たちの関係をしっかり観察します。多頭飼い家庭を対象とした観察調査では、同居期間が長くなればなるほど、猫同士の敵対的な行動が減ると同時に、親和的な行動も減ると報告されています出典資料:Barry, 1999)。ケンカが見られたからと言って、そうした敵対関係がいつまでも続くとは限りません。時間の経過とともにお互いの存在に慣れ、いい意味での無関心になっていく可能性も十分あります 猫における社会的な距離や無関心は仲が悪いことを意味しない  またお互いの体を擦り付ける「アロラビング」や毛づくろいする「アログルーミング」は仲の良い猫の指標ではありますが、それらがあまり見られないからと言って必ずしも仲が悪いというわけではありません。仲睦まじい光景を過剰に期待するのではなく、「猫たちが無関心なのはお互いを家族と認めた証拠」という意識を持ち、長い目で見守ってあげましょう。 2匹の猫が見せる行動NEXT:組み合わせと相性

猫の組み合わせと相性

 猫を多頭飼いする場合、猫同士の相性というものが重要になってきます。過去に行われた調査では、ベストの組み合わせのヒントになるような知見がいくつか報告されていますのでご紹介します。

母猫と子猫の相性は?

かなり仲良く暮らしていけると考えられます。

 母猫Aとその子猫4頭、母猫Bとその子猫3頭、母猫Cとその子猫1頭という血縁関係にある猫たちの同居生活を観察した所、猫同士が相互に毛づくろいをする「アログルーミング」の頻度と、1m以内の近距離にとどまる時間には血縁関係が関わっていたといいます。 多頭飼い家庭における母猫と子猫の相性はよい  父猫と子猫の関係までは断言できませんが、血縁関係が「母猫と子猫」という組み合わせの場合、多頭飼い家庭においてかなり仲良く暮らしていけると考えられます。調査の具体的な内容は以下のページをご参照下さい。 猫の血縁と相性

きょうだい猫の相性は?

かなり仲良く暮らしていけると考えられます。

 きょうだい猫2組(4頭)と、血のつながりがない猫を観察し、猫同士が相互に毛づくろいをする「アログルーミング」の頻度と、1m以内の近距離にとどまる時間をカウントした所、血縁関係にある猫同士の方が頻繁に上記親和行動を見せたといいます。
 きょうだいの組み合わせ(兄弟・兄妹・姉妹・姉弟)までは限定できませんが、猫同士が同じ母猫から同時期に生まれた同腹仔(littermate)の場合、多頭飼い家庭においてかなり仲良く暮らしていけると考えられます。またたとえ血のつながりがなくても、猫同士が生後2~7週齢時の「社会化期」を一緒に過ごした場合は、まるできょうだいのように親密になる可能性があります。 多頭飼い家庭におけるきょうだい猫(同腹仔)の相性はよい  その一方、同じ母猫から生まれたとしても、出産時期が異なる年の離れたきょうだいや、生後まもなく生き別れたきょうだいの場合は、血縁に関わらず「赤の他猫」のように振る舞うかもしれません。調査の具体的な内容は以下のページをご参照下さい。 猫の血縁と相性

オス猫同士の相性は?

去勢手術を施しているなら仲良く暮らしていけると考えられます。

 去勢済みのオス猫同士で2頭飼いされている家庭を長時間に渡って観察した所、「親和的接近(60cm以内に近づく)」「アログルーミング(頭や体を舐める)」「アロラビング(頭や体を擦り付ける)」が高い頻度で確認されたといいます。こうした行動パターンは生殖能力を保った屋外猫では観察されなかったことから、去勢手術によって体内における性ホルモンバランスが変化し、お互いの存在をライバルではなく仲間として認識するようになったのではないかと推測されています。 多頭飼い家庭における去勢オス同士の相性はよい  一方、去勢を施していないオス猫同士を飼う場合、繁殖期に合わせて攻撃性が増し、遊びの範疇(はんちゅう)を超えた本気のケンカが勃発してしまう危険性があります。調査の具体的な内容は以下のページをご参照下さい。 猫の性別と相性

メス猫同士の相性は?

避妊手術を施している場合、ややケンカが増えるかもしれません。

 避妊済みのメス猫同士で2頭飼いされている家庭を長時間に渡って観察した所、「親和的接近(60cm以内に近づく)」「アログルーミング(頭や体を舐める)」「アロラビング(頭や体を擦り付ける)」といった仲良し行動が少なく、代わりに攻撃行動が多く観察されたといいます。
 生殖能力を保った屋外のメス猫を対象とした調査では、メス猫が主体となってコロニーを形成し、協力しながら子育てをすると報告されていますので、避妊手術によって体内における性ホルモンバランスが変化し、お互いの存在をライバルとして扱うようになったのかもしれません。平たく言うと「未去勢のオスに近づいた」ということです。 多頭飼い家庭における避妊メス同士の相性はイマイチ?  一方、避妊を施していないメス猫の場合、コロニーで観察されたような親密さを見せる可能性が高いと考えられます。ただし繁殖期になるとメス特有の行動を見せ、家の中がかなりうるさくなることは避けられないでしょう。調査の具体的な内容は以下のページをご参照下さい。 猫の性別と相性

オス猫とメス猫の相性は?

去勢・避妊手術を施しているなら仲良く暮らしていけると考えられます。

 オス猫とメス猫という組み合わせで2頭飼いされている家庭を長時間に渡って観察した所、「親和的接近(60cm以内に近づく)」「アログルーミング(頭や体を舐める)」「アロラビング(頭や体を擦り付ける)」「匂いかぎ(鼻先4cm以内近づけてクンクン)」といった仲良し行動が多く見られ、攻撃行動の頻度はもっとも少なかったといいます。猫たちが不妊(去勢・避妊)手術を受けている限り、かなり仲良く暮らしていけるでしょう。 多頭飼い家庭における去勢オスと避妊メスの相性はよい  ただしどちらか一方でも手術を受けておらず、生殖能力が残っている場合、相方をパートナーとみなして年に数回特徴的な行動を見せるかもしれません。またオスとメスの両方が生殖可能な場合は、計画外の子猫が生まれてしまう可能性がかなりあります。調査の具体的な内容は以下のページをご参照下さい。 猫の性別と相性

子猫と高齢猫の相性は?

年配の猫に対するストレス管理が重要となります。

 ブラジル・サンパウロ大学の調査チームが家庭内における飼育頭数が猫たちにどのようなストレスを与えているかを検証したところ、3~4頭飼育家庭において2歳未満の猫と2歳以上の猫を比べた場合、後者においてストレスレベルが高いことが判明したといいます。
 一般論になりますが、年をとった猫は活動量が減り、窓辺で眠る時間が多くなります。一方、子猫や2歳未満の若齢猫は遊び盛りですので、他の猫を巻き込んだ「社会的な遊び」に多くの時間を費やします。ゆっくり昼寝をしたい老猫と遊びたくてしょうがない子猫が同居している場合、老猫の方が生活のペースを大きく乱されてしまうでしょう。 多頭飼い家庭における高齢猫と子猫の同居ではペースを乱される高齢猫のストレス管理が重要  年配の猫と遊び盛りの子猫や若齢猫を同じ家の中で飼うときは、とりわけ老猫に対するストレス管理が重要となります。飼い主がなるべく多くの時間を割き、猫の遊びに付き合ってあげましょう。また老猫にストレスの兆候が出ていないかどうかをまめにチェックすることも重要です。調査の具体的と対策な内容は以下のページをご参照下さい。 猫のストレス源は人間NEXT:多頭飼いストレス

猫の多頭飼いストレス

 多頭飼いにおける理想の頭数は難しい問題です。あえて回答するなら、猫や人間がストレスや健康問題を抱えておらず、多頭飼いに必要な条件が十分に満たされているときの頭数となるでしょう。
 多頭飼い家庭を対象として過去に行われた複数の調査では、多頭飼いという環境自体は猫のストレスになっていない可能性が報告されています。その代わり確認されているのは、人間の存在が猫にストレスを与えているという可能性です。

猫の飼育頭数とストレス

 猫の飼育頭数とストレスとの関係性を検証した調査では、この2項目が連動していない可能性が示されています。
 ブラジル・サンパウロ大学を中心とした共同チームは1世帯中2~4頭という多頭飼い家庭を対象とし、飼育頭数が猫たちにどのようなストレスを与えているかを検証しました。その結果、猫の性格、性別、不妊手術の有無、品種とストレスレベルは統計的に無関係だったといいます。
 また同チームが1世帯に7~48頭という極端な多頭飼い家庭内を対象として同様の調査を行いましたが、やはり家の中における猫の数、猫の性別、不妊手術の有無、品種、年齢とストレス(覚醒)レベルとは無関係だったとのこと。
 さらにイギリスにあるブリストル大学のチームが猫の飼育頭数と健康リスクとの間に因果関係があるのかどうかを統計的に調べましたが、多頭飼い自体が肥満、怪我、粗相のリスクにはなっていなかったそうです。 空間や食料と言った1頭当たりの資源が十分な場合、猫の飼育頭数はストレス源にはならない  こうした調査結果から、たとえ極端な多頭飼いでもうまく環境を整えてあげれば猫のストレスにはなりにくいと考えられます。「うまく」とは、当ページ内「猫の多頭飼いに必要な条件」というセクションで解説した内容のことです。条件を満たせていないのにやみくもに飼育頭数を増やすのは、単なるアニマルホーディングという虐待ですのでご注意ください。

人の存在とストレス

 家庭内における猫の飼育頭数自体がストレス源になっていない可能性を解説しました。その一方、過去に行われた複数の調査で共通して報告されているのは、多頭飼い家庭における猫のストレス源は他の猫の存在ではなく人間であるというショッキングな事実です。
 ブラジル・サンパウロ大学の調査チームが2~4頭の多頭飼い家庭を対象として行った調査では、「飼い主が”なでることを許容してくれる”と評した猫においてストレスレベルが高い」という関係性が確認されています。
 また同チームが7~48頭という極端な多頭飼い家庭を対象として行った同様の調査では、飼い主の社会的な満足度と猫のストレスレベルが、偶然では説明できないレベル(P=0.0003)で連動していることが明らかになったと言います。
 さらにスペインにあるバルセロナ自治大学獣医学校のチームが猫の「転嫁性攻撃行動」(≒八つ当たり)をテーマとして行った調査では、「騒音恐怖症」および「家庭内の人間の数が2人以下」という項目が攻撃行動と連動していたそうです。 多頭飼育家庭における猫の一番のストレス源は人間  こうした調査結果から多頭飼い家庭におけるストレス源は猫ではなく人間であるという悲しい可能性が強く示唆されます。調査の具体的な内容と対策は以下のページをご参照下さい。 猫のストレス源は人間NEXT:多頭飼いの問題

多頭飼いの問題と解決策

 多頭飼いにまつわる問題は多々ありますが、まずは人間である飼い主がそれらの原因にならないよう努めなければなりません。理由は「人の存在とストレス」でも解説したとおり、多頭飼い家庭における猫のストレス源は、同居している猫の存在ではなく人間の方である可能性が強く示されているからです。

ストレスが原因の病気

 獣医学の教科書には記載されていないものの、人医学で言う「心身症」に近いものが猫にもあります。平たく言うとストレスが原因で発生する病気のことで、具体的には以下のようなものが挙げられます。
猫のストレス性疾患
 飼い主による不適切な接し方が、上記した疾患を直接的・間接的に引き起こすことが大いにありえます。例えば家の内外で騒音(大音量のTV・ゲーム・音楽 etc)を垂れ流していないでしょうか?猫の気分を無視して撫で回していないでしょうか?香水やデオドラントをつけすぎていないでしょうか?服にタバコの臭いが染み付いていないでしょうか?SNS映えする写真を撮るため猫の目をじっと覗き込んでいないでしょうか?前足をつかんで踊らせていないでしょうか?大きな声を出しながら覆いかぶさるように抱きついていないでしょうか?
 自分では気づいてもいなかったような些細(ささい)なことが、同居している猫たちにストレスや苦痛を与えていることがあります。以下のページを参考にしながら、思い当たる節がないかどうかをまずチェックしましょう。 猫のストレスチェック

伝染病のクラスター

 新型コロナウイルスの蔓延により「クラスター感染」という言葉をよく耳にするようになりました。空間を共有した一群が集団で病原体に感染してしまうこの現象は、多頭飼い家庭において常に警戒しておかなければなりません。
 疾患を抱えていない集団に病原体が持ち込まれるパターンとしては「新参猫が保有していた」「先住猫を外に出した」「飼い主が媒介した」というものがあります。病原体の種類はウイルス(カリシウイルス・猫エイズウイルス・白血病ウイルス・ヘルペスウイルス)、細菌、真菌、内部寄生虫(回虫・条虫・コクシジウム)、外部寄生虫(ノミ・ダニ・ミミダニ)などさまざまです。幸い以下の項目をしっかり守れば高い確率で伝染病の蔓延を予防できます。
多頭飼い家庭の伝染病予防
  • 新参猫が保有していた家の中に新しい猫を迎えるときは先住猫と隔離します。動物病院を受診し、虫下しを行って内外の寄生虫を除去すると同時に、猫エイズウイルス感染症猫白血病ウイルス感染症といった伝染性ウイルスや、皮膚糸状菌症のチェックも行います。先住猫との顔合わせはこうした健康診断の後です。
  • 先住猫を外に出した猫を完全室内飼いにします。「猫を放し飼いにしてはいけない理由」でも詳しく解説している通り、屋外にアクセスできる猫が何らかの病原体をもらってしまう危険性は2.7倍に跳ね上がります。健康や寿命に対する悪影響があまりにも明白なため、当サイト内では猫の放し飼いを一貫してネグレクト(怠慢飼育)という消極的(非暴力的)な動物虐待として扱っています。
  • 飼い主が媒介した飼い主の手や衣服が感染媒介物(formite)となり、屋外から家の中に病原体(ウイルス・細菌 etc)を持ち込んでしまう危険性は常にあります。致死性の高いパルボウイルス(猫汎白血球減少症)に感染した猫を店に出していた猫カフェの先例もありますので、家以外の場所で猫を触ったかどうかに関わらず、帰宅後の入念な手洗いは必須です。また着用していた衣服は猫と接する前に洗濯するようにしましょう。
 なお先住猫も新参猫も、事前にコアワクチンを接種しておけば、仮に感染症を発症したとしても症状が軽くて済む可能性があります。 猫のワクチン接種

猫同士のケンカ

 動物行動医学上、猫同士のケンカは「猫間の攻撃行動」(inter-cat aggression)と呼ばれ、多頭飼い家庭においては大きな問題になることが少なくありません。遊びとケンカは時として見分けがつかないこともありますが、猫がうなり声やシャーシャーという威嚇音を出していないときは「遊び」、血が出るほど本気で引っ掻いたり噛み付いたり「ギャー!」という奇声を発するときは「ケンカ」というのが1つの目安になります。
 「猫のひっかき・噛む癖をやめさせる方法」でも詳しく解説した通り、猫たちのいがみ合いの原因としては主に以下のようなものが考えられます。具体的な解決策に関してはリンク先の記事をご参照下さい。
猫間の攻撃行動
  • 疼痛性攻撃行動腹痛、骨折、歯周病、口内炎などによる急性~慢性の痛みで気が立っているときに出る攻撃行動
  • 疾病性攻撃行動病気が原因で体調不良の時、身を守ろうとして本能的に出る攻撃行動
  • 母性攻撃行動子猫を生んだばかりの母猫が近づくものに対して見せる攻撃行動
  • 競合性攻撃行動エサ、ベッド、トイレ、飼い主など、独占したいと思っているものを巡って見せる攻撃行動
  • 遊戯性攻撃行動遊びの延長線上で見られる噛みつき、ひっかき、猫パンチ、猫キックなどの攻撃行動
  • 転嫁性攻撃行動庭にやってきた野良猫を攻撃したいけれどもガラスで仕切られて叶わない時、代わりに同居猫を攻撃するなど、八つ当たり的な攻撃行動
  • 愛撫誘発性攻撃行動猫同士が毛づくろいしていたのに、一方が急に他方に猫パンチをするなどジキルとハイド的な攻撃行動
  • 社会化不足による攻撃行動2~7週齢という社会化期において他の猫と接する機会が少ない「猫見知り」な個体が見せる攻撃行動
  • 特発性攻撃行動原因が特定できない攻撃行動
 上記したように、病気や怪我による苦痛、そもそもの相性、家の中における資源などさまざまな原因がケンカを引き起こしますが、飼い主の存在が対立関係を悪化させている可能性も忘れてはいけません。
 たとえばイギリスにあるブリストル大学のチームが行った統計調査では、多頭飼い自体がケンカに伴う怪我の予見因子にはなっていないことが示唆されています出典資料:Roberts, 2020)。一方、アメリカ・コーネル大学の調査チームが行った統計調査では、猫同士を引き合わせた時の第一印象が悪いとその後の関係性が悪化することが確認されています。 飼い主による不用意な顔合わせが猫同士の攻撃行動を助長する危険性がある  こうした事例が強く示しているのは先住猫と新参猫を顔合わせさせる時は細心の注意を払う必要があるという教訓です。外で拾った猫をいきなり部屋の中に放り込んでいないでしょうか?保護猫の一時預かりでひっきりなしに新しい猫が家の中に紹介されていないでしょうか?庭先に見知らぬ野良猫が現れて窓越しににらみ合っていないでしょうか?こうした要因はすべて猫同士の攻撃行動を助長しますが、飼い主の努力によって取り除くことが可能です。
 幸い猫たちの同居期間が長くなれば長くなるほど対立関係が緩和し、無関心~仲良しになるとの報告もあります。取っ組み合いの前に明白なうなり声がない場合は単なる遊びの延長ですので、血を流すほどの激しいケンカをしない限りはしばらく様子を見てあげましょう。 猫同士のケンカ
フェロモン製剤は有効?  猫の体から分泌される微量分子フェロモンを製剤化し、「猫が仲良くなる」という効果を謳った商品がいくつかあります。3ダースほどある科学的な調査報告に目を通しましたが、どれもその有効性をはっきり証明することには苦戦しているようです。万能薬と勘違いした飼い主が、根本的な原因への対処をサボってしまう危険性がありますので、当ページ内では軽い紹介程度にとどめておきます。 出産直後の母猫から分泌されるフェロモン(CAP)には成猫のケンカを仲裁する効果あり?

人への攻撃行動

 動物行動医学上、飼い主や来客に対する攻撃行動は「人に対する攻撃行動」(human-directed aggression)と呼ばれます。「猫のひっかき・噛む癖をやめさせる方法」でも詳しく解説しましたが、人間に対して攻撃的な態度を取る原因としては主に以下のようなものが考えられます。具体的な解決策に関してはリンク先の記事をご参照下さい。
人間に対する攻撃行動
  • 疼痛性攻撃行動病気による腹痛、怪我による痛みなどで気が立っているときに出る攻撃行動
  • 疾病性攻撃行動病気が原因で体調不良の時、身を守ろうとして本能的に出る攻撃行動
  • 恐怖性攻撃行動マンションの補修作業、道路工事、雷、急な来客、カラスの鳴き声などで恐怖を抱いているときに出る攻撃行動
  • 母性攻撃行動子猫を生んだばかりの母猫が近づくものに対して見せる攻撃行動
  • 学習性攻撃行動「手にかじりついたら引っ込めた」などの経験が積み重なって癖になった攻撃行動
  • 遊戯性攻撃行動おもちゃで遊んでいる最中に腕にしがみついたり、歩いているかかとにベッドの下から飛びかかるなど、遊びの延長線上で出る攻撃行動
  • 転嫁性攻撃行動猫同士のケンカを止めようとしたら手を引っかかれたなど、本来とは別の対象に向けられた八つ当たり的な攻撃行動
  • 愛撫誘発性攻撃行動マッサージされてしてうっとりしていたのに急に手に噛み付いてくるなどジキルとハイド的な攻撃行動
  • 社会化不足による攻撃行動2~7週齢という社会化期において人間と接する機会が少ない「人見知り」な猫が見せる攻撃行動
  • 特発性攻撃行動原因が特定できない攻撃行動
 スペインにあるバルセロナ自治大学獣医学校のチームが人間に対する転嫁性攻撃行動(≒八つ当たり)の発生因子を統計的に調べた所、猫の「騒音恐怖症」と「家庭内の人間の数が2人以下」という項目が強く関わっていたといいます。「騒音」の具体例としては落下物、TVの音、携帯電話、電気ドリルなどが挙げられ、突発的な音や爆音に起因するストレスやフラストレーションが攻撃行動につながったと考えられています。
 「家庭内の人数」は解釈が難しいところです。人数が少ないので攻撃行動の目撃回数が増えただけかもしれません。あるいは猫と人間が同一空間で過ごす時間が多いため、猫にとっての地雷を踏みやすくなり、怒りを買う頻度が増えたのかもしれません。いずれにしても家の中から猫のストレス源になりうるものを徹底的に取り除けば、不要な攻撃行動を減らすことができるでしょう。「ストレス源」には人間の存在や行動が含まれる点にもご注意下さい。 猫による人への攻撃

トイレの失敗・粗相

 ストレスがおしっこの失敗やうんちの失敗につながることはよくあります。こうした大小の粗相は、排泄されたものが嗅覚に引き起こす生理的な嫌悪感や、「嫌がらせでやっているのでは?」という飼い主の思い込みなどにより、飼育放棄につながりやすい危険なものです。
 おしっこの失敗(粗相)に関しては、まず泌尿器系に疾患を抱えていないことを動物病院で確認して下さい。体に異常がない場合は何らかのストレスが原因であると想定し、以下のページを参考にしながら原因を特定していきましょう。庭先に突然現れるようになった野良猫と窓ガラス越しに顔合わせするなど、意外なことが猫のストレス源になっているかもしれません。 猫のトイレの失敗・おしっこ編  うんちの失敗に関しては、まず陰部神経や骨盤神経に異常がないことを動物病院で確認して下さい。しっぽをドアに挟んだり強く踏まれたりすると、仙尾部外傷(しっぽ引張外傷)と言ってしっぽに連なる神経系に障害が出てしまうことがあります。体に異常がない場合は何らかのストレスが原因であると想定し、以下のページを参考にしながら原因を特定していきましょう。飼い主がパーティーピーポーで、ひっきりなしに人の出入りがあると、来客の靴の中にブツを置き去りにしてしまうかもしれません。 猫のトイレの失敗・うんち編

エサの食べすぎ・横取り

 複数の猫が食器を共有していると、1頭がどのくらいフードを食べたのかを把握することができなくなります。その結果、ある猫は食べすぎて肥満になり、ある猫は栄養不足でガリガリになってしまうかもしれません。また限られた食事資源をめぐって猫同士が攻撃的になる危険性もあります。 食事資源が限られていると猫同士の不要な争いが勃発する  多頭飼育家庭においては猫1頭につき食器1つを基本として下さい。必然的に、留守番中に自動給餌器(フィーダー)でフードを与えるスタイルは望ましくなく、飼い主が帰宅してからそれぞれの猫専用の食器に給餌するのが理想ということになります。
 なおフードの量を目見当で盛っていると猫たちの摂取カロリーが不正確になりますので、必ず計量器で正しい分量を測った上で与えるようにして下さい。 ドライタイプのペットフードを計量カップで正確に計るコツは?

過剰繁殖と崩壊

 オス猫とメス猫が同居しており、なおかつ双方とも生殖能力を保っていると、繁殖期において高い確率で交尾行動に走り、高い確率で子猫が産まれます。出産が計画外だった場合は譲渡先を探すことになりますが、いつも都合よく見つかるわけではありません。その結果、「猫の数が増える→経済的に苦しくなる→不妊手術を怠る→繁殖期になって子猫が生まれる→・・・」という悪循環が生じます。その結果が自家繁殖による多頭飼育崩壊です。  犬と比べた場合、猫における不妊手術にはかなり明白な健康増進効果が科学的に確認されています。繁殖期における望ましくない行動(大声で鳴きわめく・家の壁に尿を不プレー噴射する・オス猫同士が激しい喧嘩をする etc)や、望まない出産に伴う多頭飼育崩壊を予防すると同時に、猫の寿命を伸ばすためには、オス猫の去勢とメス猫の避妊を施すことが望まれます。 オス猫の去勢とメス猫の避妊手術
多頭飼いが成功するかどうかは飼い主の知識レベルにかかっています。先例のある失敗を避け、幸せな猫ライフを満喫して下さい。