猫の性別と相性のよしあし
猫の性別と相性との関連性を調査したのはアメリカにあるジョージア大学のチーム。新聞広告や口コミで募集した猫の2頭飼いをしている60世帯・合計120頭の猫たちを観察対象とし、性別の組み合わせが猫たちの関係に及ぼす影響を検証しました。
性別の組み合わせは「オス猫+オス猫」「メス猫+メス猫」「オス猫+メス猫」で、選抜基準は「不妊手術済み | 完全室内飼い | 6ヶ月齢~8歳 | 少なくとも3ヶ月間同居している」です。1日のうちで飼い主が家の中にいない時間を見計らい、1頭につき10時間の行動観察を行いました。具体的な観察手順と用語の定義は以下です。
Applied Animal Behaviour Science, Volume 64, Issue 3, July 1999, Kimberly J Barry, Sharon L Crowell-Davis, DOI:10.1016/S0168-1591(99)00030-1
性別の組み合わせは「オス猫+オス猫」「メス猫+メス猫」「オス猫+メス猫」で、選抜基準は「不妊手術済み | 完全室内飼い | 6ヶ月齢~8歳 | 少なくとも3ヶ月間同居している」です。1日のうちで飼い主が家の中にいない時間を見計らい、1頭につき10時間の行動観察を行いました。具体的な観察手順と用語の定義は以下です。
🔎午前7時から午後9時どこかで1回15分の観察を8セットに分けて行う。4セット(=1時間)では一方の猫、残り4セットでは他方の猫を観察する。観察では60秒ごとに猫の居場所と猫同士の距離を記録する。これを飛び石で5日間行い、1頭につき合計10時間、全世帯合計で600時間の観察データを取る。
- 親和的な接近一方の猫が他方の猫の60cm以内に近づく/双方が同時に近づいている場合は接近速度が速い方を行動の主体とみなす
- アログルーミング一方の猫が他方の猫の頭や体を舐める
- アロラビング頭や体を他方の猫に擦り付ける
- 匂いかぎ鼻先を他方の猫の鼻先4cm以内近づけてクンクンと息を吸い込む
- 攻撃行動毛を逆立てる、耳を頭の後ろに寝かせる、シャーシャーと威嚇する、うなる、容赦のない猫パンチを浴びせる、容赦なく噛み付く、追いかけて相手をどこかに逃げこませる
Applied Animal Behaviour Science, Volume 64, Issue 3, July 1999, Kimberly J Barry, Sharon L Crowell-Davis, DOI:10.1016/S0168-1591(99)00030-1
同居期間と猫の行動
観察の結果、一緒に暮らしている期間と攻撃行動の頻度との間には負の相関関係が認められたといいます。要するに同居期間が長い猫ほどケンカが少なくなるということです。
一方、一緒に暮らしている期間と親和行動との間に関係性は見られなかったとのこと。具体的にはアロラビング、アログルーミング、匂いかぎ、近くで過ごす時間などです。また一緒に暮らしている期間が長いほど親和的な接近頻度が減るという負の相関関係が見られたとも。 同居期間が長いと、互いに近づきあって個体を再認識したり、友好関係をひっきりなしに確認し合う必要性がなくなります。その結果、接近行動やアロラビングが少なくなったのではないかと考えられます。反面、一方の猫から5m以上距離を置けるだけの十分な広さがあったにもかかわらず、猫たちは35%の時間を3m以内で過ごしたといいますので、お互いをちょうど「家族の一員」や「空気のような存在」としてつかず離れずの関係になったのかもしれません。
一方、一緒に暮らしている期間と親和行動との間に関係性は見られなかったとのこと。具体的にはアロラビング、アログルーミング、匂いかぎ、近くで過ごす時間などです。また一緒に暮らしている期間が長いほど親和的な接近頻度が減るという負の相関関係が見られたとも。 同居期間が長いと、互いに近づきあって個体を再認識したり、友好関係をひっきりなしに確認し合う必要性がなくなります。その結果、接近行動やアロラビングが少なくなったのではないかと考えられます。反面、一方の猫から5m以上距離を置けるだけの十分な広さがあったにもかかわらず、猫たちは35%の時間を3m以内で過ごしたといいますので、お互いをちょうど「家族の一員」や「空気のような存在」としてつかず離れずの関係になったのかもしれません。
性別の組み合わせと行動
猫の性別ごとの組み合わせと各種の行動頻度を比べたところ、以下のような関係性になったといいます。
- 親和的接近(オス+オス)=(オス+メス)>(メス+メス)
- アログルーミング(オス+オス)=(オス+メス)>(メス+メス)
- アロラビング(オス+オス)>(オス+メス)=(メス+メス)
- 匂いかぎ(オス+メス)>(オス+オス)=(メス+メス)
- 攻撃行動(メス+メス)>(オス+オス)>(オス+メス)
親和的行動
オス猫同士のペアにおいては「親和的接近」「アログルーミング」「アロラビング」が高い頻度で確認されました。屋外のオス猫を対象とした調査では、メス猫をめぐる争いでケンカをしたり、争いを避けるためお互いの存在を遠ざけると報告されていますので、やや矛盾する印象を受けます。
上記したような直感に反する観察結果が生まれた原因としては、不妊手術が考えられます。屋外猫の多くが生殖能力を保った状態だったのに対し、観察対象となった猫はすべて不妊手術済みでした。屋内飼育の猫の場合、去勢手術を施されたオス猫の性ホルモンバランスがメス猫に近づいて猫同士の接近行動が増えるのかもしれません。もしそうだとしたら「不妊手術の後、猫の性格が変わった」という飼い主からの逸話的な報告にも説明が付きますね。
攻撃・敵対行動
意外なことに、攻撃行動の頻度は猫1頭あたりの使用可能スペースおよび猫の体重格差とは無関係でした。さらに、ある特定の資源(トイレ・エサ・ベッド)の近くで攻撃行動が観察される頻度は、資源とは全く無関係な場所で攻撃行動が観察される頻度と変わりなかったそうです。
こうした観察結果から、猫同士の間で見られる攻撃行動のモチベーションには、資源の確保よりも他の要因が強く影響しているのではないかと考えられます。親密な行動が攻撃行動につながるというパターンがよく観察されたことから、人間が猫をなでているときに発生する「愛撫誘発性攻撃行動」が猫同士の間でもあるのかもしれません。あるいはただ単に遊びの延長でやっている取っ組み合いを、飼い主が「攻撃」と間違って認識した可能性もあるでしょう。
「防御的な攻撃行動」とも呼ばれるお腹を見せて仰向けになる状態や、攻撃を避けるために高い場所に登るという行動はただの1度も観察されず、どちらかと言えば低い場所に隠れる行動の方が多かったとのこと。 メス猫同士のペアにおいては他の組み合わせと比べて「攻撃行動」が高い頻度で確認されました。屋外のメス猫を対象とした調査では、メス猫が主体となってコロニーを形成し、協力しながら子育てをすると報告されていますので奇異な感じがします。去勢されたオス猫の場合と同様、避妊手術によってメス猫の性ホルモンバランスがオス猫に近づき、攻撃行動(ケンカ)が増えたのかもしれません。
こうした観察結果から、猫同士の間で見られる攻撃行動のモチベーションには、資源の確保よりも他の要因が強く影響しているのではないかと考えられます。親密な行動が攻撃行動につながるというパターンがよく観察されたことから、人間が猫をなでているときに発生する「愛撫誘発性攻撃行動」が猫同士の間でもあるのかもしれません。あるいはただ単に遊びの延長でやっている取っ組み合いを、飼い主が「攻撃」と間違って認識した可能性もあるでしょう。
「防御的な攻撃行動」とも呼ばれるお腹を見せて仰向けになる状態や、攻撃を避けるために高い場所に登るという行動はただの1度も観察されず、どちらかと言えば低い場所に隠れる行動の方が多かったとのこと。 メス猫同士のペアにおいては他の組み合わせと比べて「攻撃行動」が高い頻度で確認されました。屋外のメス猫を対象とした調査では、メス猫が主体となってコロニーを形成し、協力しながら子育てをすると報告されていますので奇異な感じがします。去勢されたオス猫の場合と同様、避妊手術によってメス猫の性ホルモンバランスがオス猫に近づき、攻撃行動(ケンカ)が増えたのかもしれません。
38頭は猫の行動に大きな影響を及ぼす「抜爪」(爪抜き)と呼ばれる侵襲性の高い手術を施されていました。調査内ではなぜか行動の変数として考慮されていないため、観察結果を猫全般に広げる際は注意する必要があるでしょう。
ベストな組み合わせは?
多頭飼いにおける「良い」関係を、敵対的な行動が少なく親和的な行動が多いと定義すると、オス猫とメス猫をどのような組み合わせにするのが最善なのでしょうか?上で紹介した調査結果や過去の研究などから類推すると、以下のような考え方ができるでしょう。
オス猫同士
- 未去勢オス+未去勢オス❌相性悪い
未去勢のオスが同居していると、繁殖期になったタイミングでお互いの存在をライバルとして認識するようになり、激しい取っ組み合いのケンカをしてしまうかもしれません。仮にケンカはしなかったとしても、大声で鳴きわめいたり柱にスプレー(おしっこ噴射)を撒き散らして家の中を悪臭で満たしてしまう危険性があります。 - 未去勢オス+去勢オス⚠相性いまいち
去勢手術を施したオス猫は性欲自体がなくなりますので、メス猫を巡るリビドー関連の問題行動はなくなると考えられます。それに対し未去勢のオス猫は依然として本能的な性衝動を持っていますので、繁殖期になるとオス猫特有の攻撃性を発揮してしまうかもしれません。その結果、未去勢のオスが一方的に攻撃対象となり、猫同士の関係がいちじるしく悪化してしまう危険性があります。 - 去勢オス+去勢オス⭕相性よい
家の中にいるオス猫すべてが去勢手術を受けている場合、性衝動がなくなりますので繁殖期になっても争うことがなくなります。またメス猫を誘引するため、もしくは縄張りを主張するためのスプレー(おしっこ噴射)に対するモチベーションも失います。観察結果が示しているように、「親和的接近」「アログルーミング」「アロラビング」など仲がよいことを示す行動が増え、良好な関係を築いていけるでしょう。
メス猫同士
- 未避妊メス+未避妊メス⚠相性いまいち
未避妊のメスが同居していると、繁殖期になったタイミングでオス猫を誘引するためのメス猫特有の鳴きわめきが出てしまう可能性が大です。この声はかなり大きいため家中が騒音に満たされるほか、近所迷惑から住人トラブルの原因にもなります。またオス猫を誘引するためのスプレー(おしっこ噴射)をするようになり、壁や柱が尿だらけになってしまう危険性もあります。「一緒に子猫を育てる」というほほえましい行動の報告がある一方、屋外で暮らすメス猫に限定した観察調査では、同じコロニーに属するメス猫と争いや、別のコロニーに属する猫(雌雄とも)との争いが報告されていますので、メス猫同士でケンカをしてしまう状況も十分考えられるでしょう。 - 避妊メス+未避妊メス⚠相性いまいち~⭕相性よい
どちらか一方のメス猫だけが避妊手術を受けておらず、生殖能力を保った状態の場合、相手を同性のライバルとみなして攻撃的になる可能性は減ってくれるかもしれません。しかし未避妊の方には本能的な性衝動(リビドー)が残っていますので、家の中で問題行動(鳴きわめき・スプレー)を見せる危険性は依然として残されます。 - 避妊メス+避妊メス⚠相性いまいち~❌相性悪い
家の中にいるメス猫すべてが避妊手術を受けている場合、性衝動がなくなりますので繁殖期における問題行動は減ってくれると考えられます。しかし観察結果が示しているように、不明な理由でメス猫間の攻撃行動が増加してしまうかもしれません。女性ホルモンが急減した反動で行動パターンがオス化するのかどうかはわかりませんが、避妊メス同士の組み合わせでは両者の関係性を注意深く観察する必要があるでしょう。
オス猫とメス猫
- 去勢オス+避妊メス⭕相性よい
オス猫もメス猫も不妊手術によって生殖能力を失っている場合、繁殖期における性衝動がなくなってそれに連動した問題行動もなくなると考えられます。また不測の妊娠によって里親探しに奔走する危険性もなくなります。観察結果が示しているように、お互いの匂いかぎ行動が増えて攻撃行動が減りますので、相性はよいと言えるでしょう。 - 一方だけが手術済みの状態⚠相性いまいち
オス猫が未去勢でメス猫が避妊済み、もしくはオス猫が去勢済みでメス猫が未避妊の場合、繁殖期になったタイミングで生殖能力を保った方の猫が特有の行動を見せるようになります。たとえばメス猫の場合は部屋中をゴロゴロ転げ回ったり、柱や壁におしっこを撒き散らしたり、大声で鳴きわめくなどです。またオス猫の場合はメス猫にしつこくつきまとい、のしかかってうなじに噛み付いてしまうかもしれません。リビドーが残っている方の猫は欲求不満となり、残っていない方は相方の存在をストレス源と捉える危険性がありますので、相性がよいとは言えないでしょう。 - 未去勢オス+未避妊メス❌相性悪い
オス猫とメス猫の両方が手術を受けておらず、生殖能力を保っている場合、繁殖期に入ったタイミングで双方が各種の問題行動を見せるようになります。たとえば鳴きわめき、スプレー、放浪などです。また飼い主が介入しない限り、たとえ猫同士が血縁関係にあったとしても高い確率で繁殖行動に走り、子猫が生まれてしまいます。仮に飼い主が介入して繁殖行動を防いだとしても、オスメス双方が強い欲求不満を抱いたまま過ごすことを余儀なくされるでしょう。猫の福祉、飼い主の負担、近隣への迷惑などを考慮した場合、未手術状態のオス猫とメス猫の相性は悪いと言えます。
メス猫同士においてやや対立関係が見られるかもという点を除き、不妊手術による悪影響は確認できません。養いきれない子猫の出産を予防すると同時に、繁殖期における欲求不満を解消することもできますのでとても重要な手術です。