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アニマルホーディング(病的な多頭飼育)を独立した精神疾患として認める動きあり

 飼育しきれない数の犬や猫を病的に集める「アニマルホーディング」を、独立した精神疾患として認める必要性が指摘されました(2017.9.21/ブラジル)。

詳細

 調査を行ったのは、ブラジル「Pontifical Catholic University of Rio Grande do Sul」を中心としたチーム。2015年8月から2016年5月の期間、ブラジル南部にある都市ポルト・アレグレ(人口140万人)の動物福祉事務局(SEDA)と協働し、病的に動物たちを集め大量飼育している「アニマルホーダー」に関する情報を収集し、社会経済的なステータスとホーディング(hoarding, 病的な多頭飼育)との関連性を調査しました。その結果75の家庭が候補として挙がり、48の家庭と実際にコンタクトが取れたと言います。そこから「コミュニケーションに問題がある」、「視覚と聴覚に障害を抱えている」といった条件で除外していったところ、最終的に33人が調査対象となりました。明らかになった事実は以下です。
アニマルホーダーの特徴
  • 平均年齢=61.39歳
  • 女性=73%
  • 動物との居住年数=平均23.09年
  • 非生物を同時蒐集=56.7%
  • 自分が健康であると認識=73%
  • 健康に何らかの問題を抱えている=63%
  • 動物たちの合計=1,357
  • 犬915+猫382+アヒル50
  • 囲い込みの平均数=41
  • すべての動物に不妊手術済=22%
  • 就学期間=平均9.39年
  • パートナーがいない=88%
  • 一人暮らし=52%
  • 無職・年金暮らし=61%
アニマルホーダーの典型像は、「クレイジーキャットレディ」というステレオタイプに驚くほど一致する  アメリカ精神医学会が出版している「精神障害の診断と統計マニュアル・第5版」(DSM-5)によると、現在「アニマルホーディング」は「ホーディング障害」の一種として見なされているものの、細かく見ていくとこのカテゴリの典型像から外れる部分が認められるため、今後は「ホーディング障害」の一部門ではなく、「アニマルホーディング障害」という独立した疾患として再定義する必要があるのではないかと提唱しています。
Animal Hoarding Disorder: A new psychopathology?
Ferreira, E.A., Psychiatry Research (2017), dx.doi.org/10.1016/j.psychres.2017.08.030

解説

 現行の「DSM-5」では、アニマルホーディングの診断基準として以下の3つが設けられています。
アニマルホーディング・DSM-5版
  • 数多くの動物たちを囲い込んでいる
  • 最低限の給餌、衛生管理、医療管理を行っていない
  • 動物たちが置かれている劣悪な環境をみても行動を起こそうとしない
 3つめの診断基準に象徴されるように、DSM-5では「客観視能力の欠如」がアニマルホーダーの特徴とされています。一方当調査では、27%の人が「ホーディングの結果として何らかの困難をきたしている」との認識を示し、自己客観視能力がある程度保たれているという傾向が確認されました。このように従来的なステレオタイプでは説明できないケースが少なからずあるため、調査チームは「アニマルホーディング障害」という独立したカテゴリを新設し、以下のような診断基準を用いるのが妥当ではないかと提案しています。
新・アニマルホーディング障害
  • たくさんの動物を囲い込んでいる
  • 最低限の給餌、衛生管理、医療管理を行っており、動物の置かれている状況(病気、飢え、死を含む)や環境(過剰な飼育頭数、極端に不健全な状況など)が悪化すると行動を起こす。動物の置かれている状況や環境が重大でない場合は、第三者が介入したためである
  • 動物を手放すことを渋ったり嫌がったりする。動物たちの行く末に強い関心を持っており、決して他人に世話を任せようとしない
  • 動物と共に生活することにより睡眠、食事、衛生管理など日常的な活動に重大な変化と乱れが見られる
  • アニマルホーディングは個人に重大な苦しみを招く。また社会的ネットワークとの接触が最小限になったり完全に孤立化するにつれ、個人の社会的な役割、勤労者としての役割、その他の個人の生活における重大な分野における役割(自分や他者にとって安全な生活環境を保つなど)を不全に陥れる
  • 認知的柔軟さや抑制の欠如、計画や段取りを立てることの困難さから、実行者としての役割不全が認められる
客観視能力
■妥当~良好
ホーディングに関する信念や行動が問題であると認識している
■劣っている
証拠を示してもホーディングに関する信念や行動が問題であるとは思っていない
■欠如している
証拠を示してもホーディングに関する信念や行動が問題であるとは全く思っていない
 上記したように、仮に良好な客観視能力が保たれていたとしても、自分の行動に抑制が効かない時点で精神疾患としてみなすというのが新基準の眼目です。 アニマルホーダーの中には自分が引き起こした状況の異常性を認識しているものもいる  日本国内で頻繁に聞かれる「多頭飼育崩壊」の中には「アニマルホーディング障害」(多頭飼育障害)を患っているケースが少なからずあると推測されます。一般的には「指導」という形で介入することが多いようですが、アニマルホーダーの特徴の1つは他人の言葉に頑なに耳を傾けないという点ですので、多くの場合徒労に終わることでしょう。ホーディングが疾患の一種であるならば、今後は地方レベルでの条例による強制的な介入や医療的なアプローチなど、従来とは違った対策が必要になると考えられます。
2017年8月23日・静岡
富士宮市の住宅でトイプードルとみられる小型犬88匹を飼育する女性が自力での管理が難しくなったとして飼育を断念し、県と同市、動物愛護団体、静岡市獣医師会が22日、連携して、うち32匹を救出した。8月中に残りの犬も保護し、新たな飼い主を探す。 静岡新聞
2017年8月26日・北海道
室蘭市内の空き家で見つかった70匹超の猫は、室蘭保健所の収容施設の許容量を超えており全頭が市内のボランティア団体に引き渡された。行政側は多頭飼育崩壊した猫の処理に対して、発覚後に殺処分する以外の有効な手だてがないのが現状だ。 北海道新聞
Hoarding of Animals Research Consortium 動物の虐待事例等調査報告書(H25) Animal Hoarding(ASPCA)