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猫の肥満・太り過ぎ~症状・原因から予防・治療法まで

 脂肪の過剰な蓄積である「肥満」は関節への負担を増やし、また心臓にも悪影響を及ぼすことが確認されています。飼い主の意識によって予防も解消も可能ですので、猫のダイエットと共に予備知識を持っておくと安心です。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

猫の肥満の病態

 猫の肥満とは、体内に脂肪がたまりすぎた状態を言います。
 消費カロリーよりも摂取カロリーの方が多い場合、余ったエネルギーはまず肝臓や筋肉の中に「グリコーゲン」という形で貯蔵されます。そしてそれでもなお過剰エネルギーがある場合は、全身に存在しているエネルギー貯蔵庫ともいえる「脂肪細胞」(しぼうさいぼう)の中に、中性脂肪(ちゅうせいしぼう, トリアシルグリセロール)という形にエネルギー転換(てんかん)して蓄えていきます。そしてこの「中性脂肪」こそが、ぜい肉の正体であり肥満の原因なのです。
 近年は、ペット用の体脂肪計などのデジタル機器も動物病院に導入されるようになってきましたが、家庭に普及するまでにはまだ時間がかかりそうです。一般的に、猫の肥満判定にはBCS(Body Condition Score)というアナログ指標が用いられます。
猫の肥満判定用BCS
  • BCS1・やせすぎ 猫のボディコンディションスコア(BCS)・やせすぎ理想体重の85%以下・体脂肪率5%以下
     肋骨や背骨、腰骨のアウトラインが浮き出しており、横から見ると腹部が巻き上がって見える。上から見ると腰がくびれて砂時計のように見え、皮下脂肪はなく、尾の付け根も明瞭に区別できる。
  • BCS2・体重不足 猫のボディコンディションスコア(BCS)・体重不足理想体重の86~94%・体脂肪率6~14%
     わずかな脂肪に覆われており、肋骨や腰の骨を容易に触ることができる。腹部の脂肪もごくわずかで、触るとごく薄い脂肪層を確認できる。
  • BCS3・理想体重 猫のボディコンディションスコア(BCS)・理想体重理想体重の95~106%・体脂肪率15~24%
     わずかな皮下脂肪を通して肋骨や骨格の隆起に触れることができる。腰には適度なくびれが見て取れる。
  • BCS4・体重過剰 猫のボディコンディションスコア(BCS)・体重過剰理想体重の107~122%・体脂肪率25~34%
     皮下脂肪に覆われており、肋骨に触るのが難しい。骨格の隆起部にはかろうじて触ることができる程度。腰のくびれは不明瞭で、上から見ると背中がやや横に広がって見える。腹部は中程度の脂肪層に覆われ、丸みを帯びている。
  • BCS5・肥満 猫のボディコンディションスコア(BCS)・肥満理想体重の123~146%・体脂肪率35%以上
     厚い皮下脂肪に覆われており、肋骨に触れることができない。尾の付け根が脂肪で不明瞭。横から見るとおなかが垂れ下がり、上から見ると箱や樽の形に見える。余分な脂肪が顔、四肢に蓄積することもある。

猫の肥満の弊害

 猫の肥満の弊害としては、主に以下のようなものがあります。
肥満の主な弊害
  • 関節や筋肉への負担  体重が重いので足腰などへの負担が大きくなり、結果として関節や靭帯(じんたい=骨と骨をつなぐケーブル上の線維)、椎間板(背骨の間に挟まっているクッション)を痛めやすくなってしまいます。例えば体重5kgの猫にとって1kgの体重増加は、体重60kgの人間にとって12kgの増加に相当します。「たかが1kg太っただけじゃないか」と事態を過小評価して猫の体重増加を放置していると、最終的には愛猫の健康を損なってしまうのです。 猫の捻挫 猫の椎間板ヘルニア 猫の関節炎
  • 心臓への負担  体重が増えるということは、重い荷物を背負って歩く状態に相当します。結果として筋肉に血液を送り出している心臓への負担が増えてしまいます。
  • 呼吸器への負担  首の周りに脂肪がつくと、気管を始めとする気道が圧迫されて呼吸がしにくくなります。人間で言うと、太った人が寝ているときにいびきをかいている状態に相当します。
  • 糖尿病を発症する  過剰な食事で体内のインシュリン抵抗性が高まると、エネルギーを効率的に細胞内に入れることができなくなります。結果として糖尿病が発症します。
  • 麻酔が効きにくくなる  緊急で手術が必要となったとき、過剰な体重が麻酔の効果を薄めてしまい、それだけ手術を難しくしてしまう可能性があります。
猫の肥満と呼吸器不全  猫の肥満は、時として命取りになることがあります。
 例えば、史上最も太った猫として記録されているオーストラリアの「ヒミー」(21.3キログラム)は、1986年に呼吸器不全で死んでいます。また21世紀最大のデブ猫として有名なアメリカのミャオ(18キログラム)も、2012年に呼吸器不全を起こし、わずか2年という生涯を終えています。
 このように、猫の肥満には死の危険性すらありますので、笑い話では済まされず、十分な警戒が必要なのです。

猫の肥満の原因

 猫の肥満の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
肥満の主な原因
  • 運動不足  過剰摂取したエネルギーを運動で消費すれば差し引きゼロになって太ることはありませんが、慢性的な運動不足状態だと、余ったエネルギーが脂肪に変換されてしまいます。また、一度太ってしまうと動くことがしんどくなりますので、さらに運動をしなくなるという悪循環が生まれやすくなります。
  • 多すぎる食事  必要以上にえさを与え続けていると、体内でエネルギーが余ってしまいます。かわいいからといってついついおやつを与えすぎると、結果的に愛猫を不健康にしてしまうことになりかねません。猫の栄養と食事
  • 不妊手術  メスは卵巣、オスは精巣を取り除くことを不妊手術といいますが、その結果体内のホルモンバランスが変わり、基礎代謝の低下、食欲の増進などを招いて、結果的に肥満につながってしまうことがあります。猫の去勢と避妊手術
  • 年齢  人間と同じように、猫も年齢とともに基礎代謝が下がっていきます。その結果、今までと同じ食事量でも、少しずつエネルギーが余り気味になり、いつのまにか太ってしまうということがあります。猫の老化
  • 病気や怪我  ある種の病気や怪我が肥満を誘発することがあります。例えば関節炎にかかっている猫や下半身不随の猫、何らかの手術を受けて自宅安静中の猫などはどうしても運動量が少なくなりますので、肥満になりやすくなります。また甲状腺機能低下症クッシング症候群など内分泌系の異常によっても体重が増えてしまうことがあります。

猫の肥満の治療

 猫の肥満の治療法としては、主に以下のようなものがあります。なお効果的な減量計画については猫のダイエットにまとめましたので合わせてご確認ください。
肥満の主な治療法
  • 運動量を増やす  体内におけるエネルギーを赤字状態にするためには、運動量を増やす必要があります。関節炎や心臓病などの基礎疾患が無いなら、運動の時間や頻度を増やしたり、室内に上下動できるような猫専用の遊び空間を設けてあげると、たまった脂肪を消費しやすくなります。だたし、太り気味の猫を短期間でやせさせようと、無理矢理運動させるのはよくありません。関節や心臓への負担が大きくて猫に苦痛を与えてしまいますので、猫の様子を見ながらペース配分するようにします。 運動による猫のダイエット
  • 食事量を減らす  体内におけるエネルギーを赤字状態にするためには、運動量を増やすと同時に食事量を減らす必要もあります。なにかにつけておやつを与える習慣を正したり、同じ量でも含有カロリーの少ない療法食に切り替えたりします。またドカ食い・早食いの癖がある場合は、1回の食事分量を減らして食事の回数を増やしたり、早食いができないような特殊な食器に変えたりするのも効果的です。キャットフードのパッケージに表示してある給餌方法は一般論で、全ての猫に当てはまるわけではありません。あくまでも自分が飼っている猫の体型を日々モニターしながら食事量を微調整することが重要となります。フードによる猫のダイエット
 2015年、アメリカバージニア州の獣医大学とチェコのヒルズが行った共同調査では、ダイエット用の療法食には高い確率で太り気味の猫を痩せさせる効果があること、および体重が適正値に近づいた猫は精神面でも改善が見られることが確認されています(→詳細)。また同年、ニューヨークのコーネル大学とヒルズの共同研究チームが行った調査では、食事制限は飼い主に対する恨みを招くのではなく、逆に愛情を増やすという可能性が示されています(→詳細)。猫を適正体重にすることは、猫の心身的な健康のみならず、飼い主の精神的な健康増進にも寄与してくれますので、太り気味の猫ちゃんには是非ダイエットを実践してあげてください。 猫のダイエット