猫ニキビとは何か?
猫ニキビとは、主に唇からあごの下にかけて発生する黒いポツポツ(コメド=角栓)のことで、炎症を伴う場合はネコざそうとも呼ばれます。予備知識がないと「ああ、キャットフードの粉がついたんだな」くらいしか思いませんが、実はバクテリアの繁殖した一種のコロニーである可能性があります。
猫ニキビは皮膚の乾燥やかぶれなど防ぐ「皮脂」(ひし)を分泌する「脂腺」(しせん)がある部位に多く発現します。皮脂腺のある場所は、猫のまぶた、あご、しっぽの付け根、唇ですが、発見されるものの多くはあごの下~口周りです。1994年から96年にかけてコロラド州立大学が25頭の猫を対象として行った発症部位に関する調査では以下のような内訳になっています(※複数回答あり)。
猫ニキビの出来やすい場所
- あごの下=100%(25頭)
- 下唇=44%(11頭)
- 上唇=36%(9頭)
- 口角=36%(9頭)
- 顔=16%(4頭)
- 耳=16%(4頭)
猫ニキビの症状
猫ニキビの症状としては以下のようなものが挙げられます。多くの場合、飼い主は一体いつ発症したのかを思い出すことができず、「気づいたらできていた」というパターンが大半です。
猫ニキビの主症状
- あごの下の黒いポツポツ
- あごの下の脱毛
- あごの下の腫れや出血
- 皮膚が硬くなる
- あごの下をしきりに掻く
猫ニキビ・軽症例
あごや口の周りに茶色~黒のツブツブが現れます。この段階では皮膚に炎症が起こっておらず、かゆみや痛みもありません。
猫ニキビ・中等度
毛の根元に当たる「毛包」という部分に軽い炎症が起こった状態です。軽症と重症のちょうど中間くらいに当たります。患部の違和感が少しずつ大きくなり、猫が自分の後ろ足で引っかき始めます。
猫ニキビ・重症例
皮膚の中で細菌やウイルスといった病原体が繁殖し、二次感染が進行した状態です。紅斑(赤くなる)や腫脹(腫れる)、かゆみ、痛み、近隣リンパ節の腫れなどが見られるようになります。さらに、猫が自分の爪でひっかくなどして重症化すると病原体が全身に回り、発熱、元気消沈、食欲不振を示すこともあります。
猫ニキビは多くの場合、軽症で命を脅かすことはありませんが、時にマラセチア菌などが繁殖することもあり、悪化すると膿が溜まって膿皮症(のうひしょう)と呼ばれる病態に進行します。そうなる前に原因について見ていきましょう!
猫ニキビの原因
21世紀になった今でも猫ニキビの明確な発症メカニズムについては解明されていません。1969年にジョージ・ミュラー医師が初めて報告して以来、50年にわたってたくさんの医師が猫ニキビの原因を突き止めようとしてきました。しかしことごとく失敗に終わっています…。ただ「おそらくこれが原因だろう」と思われる容疑者がいくつか挙がっていますので、以下で見ていきましょう。
猫ニキビの主な原因
- プラスチック容器での食事プラスチック容器は多孔性(目に見えない小さな穴がたくさん空いている)でバクテリアが繁殖しやすいため、食事の際、あごの下にバクテリアが付着してしまうことがあります。実際に報告例があるのはパスツレラ菌、レンサ球菌、ブドウ球菌です。
- アレルギー反応食事する際、食器とあごが接触し、プラスチックや金属に対するアレルギー反応が局所的に起こることがあります。あるいは、食べ物そのものに対する食品アレルギーという可能性もあるでしょう。またアトピー性皮膚炎の一部として猫ニキビを発症するというパターンもあります。
- ストレス人間と同じように、何らかのストレスが猫の免疫力を低下させ、通常であれば抑制できるはずのバクテリアの繁殖を抑えきれなくなることがあります。
- 毛づくろい不足加齢や手の怪我によって「洗顔」不足になると、バクテリアの繁殖を許してしまうことがあります。
- 皮脂の過剰分泌エサに含まれている成分が体質に合わない場合、皮脂が過剰分泌され、それがバクテリアにとってのえさになってしまうことがあります。
- ホルモンバランスの乱れ去勢・避妊手術などでホルモンバランスが崩れると、時として免疫力の乱れが生じることがあります。
- 不衛生な生活環境食器を洗わない、水を交換しないなど、飼い主の側の節度のなさがバクテリアの繁殖を助長することがあります。
- 投与した薬に対する一時的な体調変化持病などで何らかの薬剤を投与している場合、内臓の機能やホルモンをつかさどる内分泌系に一時的な不調和が生まれる可能性があります。
- ニキビダニニキビダニは毛包虫(もうほうちゅう)とも呼ばれ、バクテリアよりもはるかに大きく、顔に寄生しているダニの一種です。このダニによって引き起こされた炎症がにきびの原因である可能性もあります。
いまだに原因が特定されていない猫ニキビにはこんなに可能性が…。治療法を見てみましょう!
猫ニキビの治療
猫ニキビは原因自体が不確かなため、必然的に確実な治療法もありません。以下では自宅でもできる幾つかの対処法を列挙しますが、症状が悪化して炎症やできもの(せつ腫症)に発展している場合は速やかに獣医さんに相談しましょう。
動物病院では、白癬(はくせん)、カンジタ、自己免疫疾患、ある種の肉芽腫など、より深刻な他の皮膚疾患と鑑別診断し、場合によってはムピロシン軟膏や猫用の石鹸、経口薬などを処方してもらいます。コーネル大学付属の動物病院が行った報告(Scott, 2010)では、二次感染に対する抗生物質治療では比較的よい反応が期待できるとされています。
動物病院では、白癬(はくせん)、カンジタ、自己免疫疾患、ある種の肉芽腫など、より深刻な他の皮膚疾患と鑑別診断し、場合によってはムピロシン軟膏や猫用の石鹸、経口薬などを処方してもらいます。コーネル大学付属の動物病院が行った報告(Scott, 2010)では、二次感染に対する抗生物質治療では比較的よい反応が期待できるとされています。
猫ニキビの主な治療法
- プラスチック容器を変えてみるプラスチック表面にあるミクロな穴に生息しているバクテリアが原因の場合、穴の少ないガラスや陶器製、金属製のものに切り替えると、猫ニキビが改善することがあります。
- 食器を変えてみる金属性を使用している場合は陶器製を、陶器製を使用している場合は金属製を使うなど、使用している食器の材質を変えてみましょう。一定の物質に対するアレルギー反応が原因の場合、これで猫ニキビが改善することがあります。
- エサを変えてみるエサに含まれている何らかの成分が皮脂の分泌を過剰にしている可能性があります。現在使用しているキャットフードの主成分(パッケージの成分表示で先頭に来るもの)が「穀物」や「コーン」となっているようなら、もう少しタンパク含量の高いフードに切り替えて見ましょう。
- 住環境の見直しストレスが原因で免疫力が乱れている場合、ストレスの原因となっているものを取り除くことで、本来の免疫力を取り戻せるかもしれません。部屋の中で大きく模様替えした部分、新しく設置した電子機器、隣家で飼いはじめた犬の鳴き声、長すぎる留守番など、可能性はいろいろです。これを機に猫にとってストレスフリーとなる最善の住空間を今一度検討してみましょう。
- 水やエサの容器をこまめに洗う単純に、バクテリアが繁殖する前に洗ってしまえば、あごに移動するバクテリアも少なくなり、猫の免疫力だけで自力撃退できるようになります。ボールにヌメヌメがついていたり、ピンク色のロドトルラ(お風呂場によくできるあれ)が発生している場合は、中性洗剤できれいに洗ってあげましょう。
- ダニ予防をしっかりとするニキビダニが原因の場合、ダニ予防を徹底することで改善することがあります。市販されているダニよけグッズを使ったり、獣医さんが処方してくれるやや強力なダニよけ薬などを使用してみましょう。ニキビダニは皮膚に常在(じょうざい=健康な猫でも保有していること)しているため完全に駆除することは難しいですが、数を減らすことができるかもしれません。また、猫を放し飼いにしている場合は、これを機にぜひ室内飼いに切り替えてください。
人間のニキビと猫ニキビとは同じものではありません。中毒に陥るの危険性があるため、自己判断で人間用のニキビ薬は絶対に塗らないでください!
猫ニキビの取り方と注意
動画共有サイトでは猫ニキビを取るためのいろいろな方法が紹介されています。しかしコメドを強引に取ろうとするこうした行為は皮膚の表面にミクロの傷をつけ、病原体の侵入や皮膚の線維化を招く危険性があるためお勧めできません。例えばカミソリで毛を剃る、歯ブラシでこする、ストローの先端部分でこすり落とすなどです。
そのかわり、清潔なタオルを軽くぬらして電子レンジで人肌程度に温め(10秒くらい)、ニキビ周辺をふき取ってあげます。こうすることでニキビを物理的に除去すると同時に、顔周辺の血行を促進して免疫力を局所的に高めることができるでしょう。また怪我や高齢が原因で猫が自分で毛づくろいをできないようなときにも有効です。
無理に取ろうとすると軽症が重症に発展して膿皮症を引き起こしてしまいます!皮膚を直接こすらないよう軽く拭き取る程度に留めておくことをおすすめします。
猫ニキビのよくある質問
以下では猫ニキビに関する素朴な疑問質問にお答えします。
発症しやすい猫はいる?
いません。猫の属性にかかわらず発症します。
コーネル大学付属の動物病院が74頭の猫ニキビ患猫を対象として行った調査では、年齢、性別、不妊手術(去勢と避妊)の有無、品種による偏(かたよ)りは見られませんでした。また引き金となるような原因も特定できませんでした(Scott, 2010)。
発症しやすい年齢層は?
ありません。すべての年齢層で発症します。
1988年から2003年の15年の間に猫ニキビと診断された74頭を調べたところ、発症年齢は7ヶ月齢~17歳と幅広く、極端に多い年齢層はなかったとされています(Scott, 2010)。また25頭を対象とした別の調査では、年齢層は3ヶ月齢~15歳、発症平均年齢は4.2歳だったとも(White, 1997)。こちらでも明確な傾向は発見されませんでした。
発症頻度は?
よくわかっていませんが他の皮膚疾患と関係があるようです。
コーネル大学が15年かけて取った統計データによると、動物病院を受診した22,135頭中74頭(0.3%)、皮膚科を受診した1,407頭中74頭(5.3%)だったそうです。アトピー性皮膚炎など皮膚疾患を抱えた猫の方が発症しやすいのかもしれません。
あの黒いブツブツは何?!
異常に増えた角質細胞だと考えられます。
アリゾナ州の皮膚科専門医が行った報告によると、猫ニキビを顕微鏡で見ると皮脂腺管の膨張、管周辺の炎症、そして毛包角化症が確認されたと言います(Jazic, 2005)。模式図で表すと以下です。 毛の根元で異常増殖した病原体や角質細胞が毛穴に詰まり、あのようなブツブツ(コメド)となって現れているのだと考えられます。人間の二の腕(肘の上)によくできる「毛孔性苔癬」に近いと推測されます。
で、結局治るの?
重症例は治療したほうがよいでしょう。
コーネル大学は猫ニキビを発症した74頭のうち61頭を追跡調査しました。その結果、経過観察が取られた軽症例33頭、および治療が行われた重症例28頭のすべてにおいて大なり小なり猫ニキビが残っていたと言います。要するにとても治りにくいということです。ですから強引に取ろうとするのではなく、悪化しないようにうまく付き合っていくのが猫ニキビに対する正しい対処法なのかもしれません。ただし病原体(細菌やウイルス)が繁殖して二次感染を起こしている場合は、それ以上悪化して膿皮症に進展しないようかかりつけの動物病院にご相談下さい。
免疫力を落とさないよう猫のストレスチェックを徹底することも大事です!