猫の膿皮症の病態
猫の膿皮症とは、皮膚上で菌が異常繁殖し、化膿して膿を排出してしまった状態です。
猫の皮膚は上から「表皮」、「真皮」、「皮下組織」に分かれており、その全てにおいて膿皮症が発症する可能性があります。以下は猫の皮膚を断面にしてみたところと、膿皮症を発症部位によって分類した一覧です。
猫の皮膚は上から「表皮」、「真皮」、「皮下組織」に分かれており、その全てにおいて膿皮症が発症する可能性があります。以下は猫の皮膚を断面にしてみたところと、膿皮症を発症部位によって分類した一覧です。
猫の皮膚の断面構造
- 表皮 表皮とは皮膚の一番外に位置している細胞の層で、上から「角質層」、「顆粒層」、「有棘層」、「基底層」という4層構造になっています。ケラチンと呼ばれるタンパク質の隙間を脂質が埋めるようにしてつなぎ合わせ、防水性を保っています。
- 真皮 真皮とは表皮を下から支える屋台骨のような存在です。コラーゲンと呼ばれるタンパク質の間を、弾性繊維(エラスチンやミクロフィブリルタンパク)と呼ばれるタンパク質が縫うように走って全体を形作っています。繊維以外の部分は、繊維芽細胞(図の中における茶色の点々)が分泌するプロテオグリカンやグリコサミノグリカンという粘り気のある糖タンパクが占めています。神経、血管、リンパ管といった組織が存在しているのもこの層です。
- 毛包 毛包とは毛を包み込んでいる構造物のことです。表皮と真皮をまたぐように存在しており、表皮に近い部分からロート部、峡部、下部に分かれます。被毛を産生するという重要な役割を担っており、犬や猫の場合、1つの毛包の中に1本の主毛と複数の副毛が混在する「複合毛包」という構造になっています。
- 皮下組織 皮下組織とは真皮の下にある層で、主に皮下脂肪から成り立っています。
膿皮症の分類
- 表面性膿皮症 表面性膿皮症とは、表皮の最上部にある角質層に発生した膿皮症のことです。
- 表在性膿皮症 表在性膿皮症とは、毛包とそれに連なる表皮に発生した膿皮症のことです。
- 深在性膿皮症 深在性膿皮症とは、毛包全体、真皮、皮下組織に発生した膿皮症のことです。
猫の膿皮症の症状と原因
猫の膿皮症を引き起こす病原菌は、グラム陽性コアグラーゼ産生性のブドウ球菌と黄色ブドウ球菌が大半です。前者は皮膚の常在菌であり、通常は害を及ぼすことがありません。また後者は、2013年にポーランドで行われた調査によると健康な猫でも6頭に1頭の割合で保有しているありふれた菌だといいます(→詳細)。しかし何らかの理由で細菌の繁殖力と猫の免疫力とのバランスが崩れると、炎症が発生して膿皮症へとつながります。
以下は、発生部位によって分類した膿皮症の原因、および症状の一覧です。犬では非常に一般的な病気ですが、猫では極めてまれとされています。
以下は、発生部位によって分類した膿皮症の原因、および症状の一覧です。犬では非常に一般的な病気ですが、猫では極めてまれとされています。
膿皮症の症状と原因
- 表面性膿皮症 表皮の角質層に限局して起こる「表面性膿皮症」には、「化膿外傷性皮膚炎」(かのうがいしょうせいひふえん, ホットスポット)、「皮膚皺襞膿皮症」(ひふしゅうへきのうひしょう, 間擦疹)といったサブタイプがあります。前者は皮膚の上にできた傷が化膿した状態で、助長する要因は、猫ニキビ、ノミアレルギーによる皮膚のかゆみ、過剰な湿度による細菌の繁殖、毛づくろい不足による被毛内の換気の悪化、長毛種などです。後者は皮膚のしわの間に炎症が生じて膿がたまった状態で、ペルシャやヒマラヤンなど、顔の皮膚にしわができやすい品種において好発します。
- 表在性膿皮症 毛包とそれに連なる表皮に起こる「表在性膿皮症」には、「膿痂疹」(のうかしん)、「表層性細菌性毛包炎」(ひょうそうせいさいきんせいもうほうえん)、「表層性拡散性膿皮症」(ひょうそうせいかくさんせいのうひしょう)、「皮膚粘膜膿皮症」(ひふねんまくのうひしょう)といったサブタイプがあります。犬では「表層性細菌性毛包炎」が最も頻繁に発症し、丘疹、膿疱、虫食い状の脱毛と言った症状を呈します。甲状腺機能低下症やクッシング症候群、脂漏症などの基礎疾患が原因となることもありますが、なぜか猫においてはほどんど見られません。以下は、細菌性毛包炎を発症した犬の皮膚外観です。
- 深在性膿皮症 毛包全体、真皮、皮下組織に起こる「深在性膿皮症」には、「深層性毛包炎」(しんそうせいもうほうえん)、「せつ腫症」(せつしゅしょう)といったサブタイプがあります。「せつ腫」とはいわゆる「おでき」のことで、細菌性毛包炎、ニキビダニ症、皮膚糸状菌症、毛包角化不全症などの影響で、毛包が破壊されて真皮成分が流出することで発症します。好発部位は、下あご、指の間、肉球、頻繁になめる前足の先端などです。
猫の膿皮症の治療・予防法
猫の膿皮症の治療法としては、主に以下のようなものがあります。膿皮症の大部分は何らかの基礎疾患の二次感染として発症しますので、症状に対する治療と同時に、基礎疾患に対する治療も必要となります。
膿皮症の主な治療・予防法
- 局所療法 表面性膿皮症の場合は局所的な治療が行われます。クロルヘキシジンやヨウ素を含んだ温水に10~15分間患部を浸すことは、かゆみや痛みを和らげ、皮膚の血流を促進する効果があります。抗菌シャンプーは壊死した組織や滲出物を除去する際に有効です。抗菌クリームや軟膏は、顎の下や指の間など局所化した患部に対して使用されます。
- 投薬治療 表在性、および深在性膿皮症の場合は全身をターゲットとした抗生物質の投与が行われます。表在性の場合は最低3週間、深在性の場合は最低6週間の投薬期間が必要です。また症状が消えてからも再発の危険性があるため、1~2週間の投薬期間を設けます。抗生物質には非常に多くの種類があり、膿皮症の程度や猫の免疫力を考慮して適宜選択されます。
- 基礎疾患の治療 基礎疾患として甲状腺機能低下症やクッシング症候群、脂漏症、ニキビダニ症、皮膚糸状菌症、毛包角化不全症がある場合は、まずそちらの治療を優先します。
- 寄生虫の管理 体の外に寄生するノミやダニといった外部寄生虫を管理することで皮膚のかゆみを抑えます。また体の中に寄生する内部寄生虫の駆除も重要です。
- 適切なメンテナンス 被毛の換気を促すため、トリミングで毛を短くしたり、日常的にブラッシングを行います。しかしあまりにも短く刈り込んでしまうと、逆に怪我をしやすくなったり紫外線をもろに浴びてしまいますので、「ほどほど」が重要です。シャンプーには細菌の繁殖を抑える効果がありますが、あまりにも頻繁にやりすぎると表皮の皮脂が落ちて防水性が低下し、細菌の侵入を許してしまうことがあります。こちらも「ほどほど」が重要です。顔にしわが多い猫種の場合は、1日1回しわの隙間を濡れタオルで拭いてあげます。
- ストレス管理 舐性皮膚炎の予防にはストレス管理が重要です。猫の幸福とストレスを参考にしながら、猫にとって心地よい環境を整えるよう努力します。また猫の免疫力を落とさないという意味においても重要です。