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健康な猫における黄色ブドウ球菌とMRSAの保有率

 完全室内飼いの健康な猫を調べた所、およそ15頭のうち1頭が抗生物質が効かない黄色ブドウ球菌の一種「MRSA」を保有していることが明らかになりました(2016.11.7/ポーランド)。

詳細

 調査を行ったのは、ポーランド・ヴロツワフ大学獣医学部のチーム。2013年1月から2014年11月の期間、ヴロツワフに暮らしている完全室内飼いの臨床上健康な猫415頭を対象とし、結膜嚢、鼻腔、肛門、股間から菌のサンプルを綿棒で採取しました。そして猫たちの生活環境を「単独飼い」、「多頭飼い」、「繁殖施設」の3つに分類し、黄色ブドウ球菌とMRSA(抗生物質の一種「メチシリン」に対する耐性を獲得し、薬が効かなくなってしまった黄色ブドウ球菌のこと)の保有率を調べたところ、以下のような事実が判明したといいます。以下は部位別の保菌率でカッコ内はMRSAを示しています。
黄色ブドウ球菌の保有率
猫の肛門や股間よりも目や鼻腔内における黄色ブドウ球菌の保有率が高い
  • 最低一箇所に保有=17.5%(6.63%)
  • 結膜嚢=7.38%(2.46%)
  • 鼻腔=9.27%(3.91%)
  • 肛門=2.59%(1.07%)
  • 股間の皮膚=4.58%(1.46%)
 さらに、サンプル採取時から12ヶ月遡って飼い主やペットのライフスタイルを調査した所、MRSAを含む黄色ブドウ球菌の保有率を高める危険因子として以下のような項目が浮かび上がってきました。
黄色ブドウ球菌の危険因子
  • 過去1年間、飼い主、猫、同居動物など、家庭内に黄色ブドウ球菌を保有した生活者がいる
  • 人間や動物を対象とした医療施設で1人以上の飼い主が働いている
  • 犬と同居している
  • 過去1年のうち猫が抗生物質投与か化学療法を受けた
 ペット動物と人間の間でMRSAの移行が起こるという現象は、過去に行われた多くの調査で確認されているため、飼い主は危険因子に関する知識を持っていた方がよいとしています。 Prevalence and Risk Factors of Colonization with Staphylococcus aureus in Healthy Pet Cats Kept in the City Households.
Bierowiec K, P?oneczka-Janeczko K, Rypu?a K. BioMed Research International. 2016;2016:3070524. doi:10.1155/2016/3070524.

解説

 健康な人のうち鼻腔内に黄色ブドウ球菌を保有している人の割合は、恒常的な保有者で10~30%、一時的な保有者で70~90%と言われています。またヨーロッパの9つの国で行われた調査によると、鼻腔内において黄色ブドウ球菌が陽性と出た人の割合は、ハンガリーの12.1%からスウェーデンの29.4%まで大きな開きがあり、平均で21.6%だったとのこと。ですから猫で見られた「17.5%」という保菌率は、それほど驚くべき数字では無いようです。
 黄色ブドウ球菌を保有している人では、皮膚病、傷口での菌コロニー形成、手術部位の感染症、呼吸器感染症のリスクが高まると言われていますが、これらの現象は宿主の免疫力が低下したタイミングで常在菌が勢力を増して病原性を発揮する、いわゆる「日和見感染症」の一種だと考えられます。菌を保有している犬や猫でも同じ現象が起こると予想されますので、飼い主としては「まずは菌を保有させないこと」と「菌を保有しても免疫力を落とさないこと」を念頭に置いた予防策を立てる必要がありそうです。
 過去に行われた調査では、抗生物質が効かないMRSAに関し、人間もしくは動物を対象とした医療機関で働いている人、および入院患者で保有リスクが高まると報告されています。この事実は今回の調査でも「飼い主が医療施設で働いていることが猫の保菌率を高める」という形で追認されています。病院などで働いている方、もしくは過去1年間に入院歴がある方は、ペットに菌を移してしまわないよう、手洗いの励行を習慣化した方がよいかもしれません。また逆に、ペットから菌をもらってしまわないよう、比較的保菌率が高い目や鼻腔を触った後はよく手を洗うようにした方がよいと思われます。 猫の膿皮症