猫の変形性関節症の病態と症状
猫の変形性関節症とは、骨と骨とをつないでいる関節に炎症が発生した状態のことで、「骨関節炎」とも呼ばれます。同じ場所に繰り返し炎症が生じることによって骨が増殖したり(=骨棘, こつきょく)、関節表面の滑りをよくする軟骨が磨り減ったりします。
基本的にはどこの関節でも起こりうる生理現象ですが、体重を支える前足のひじ関節、および後足の膝関節・股関節などで多発します。2015年に行われた調査では、適正体重の猫では体重のかかり方が「前足:後足=1.26:1」だったのに対し、太り気味の猫では「前足:後足=1.42:1」だったといいます(→出典)。また2006年、骨関節炎を抱えた28頭の猫を調査したところ、股関節での発症が38%だったのに対し、肘関節では45%だったという結果が出ています(→出典)。こうした知見から考えると、後足よりも前足の方が関節炎にかかるリスクが高いと言えそうです。
犬と比較し、猫は足を引きずるといった症状をなかなか見せないため、正確な発症率に関してはわかりません。しかし筋骨格系以外の疾患で動物病院を訪れた12歳以上の猫100頭のうち、X線検査でたまたま変形性関節症の徴候が見られた割合は90%に及ぶというデータがあります(Pederson, 2000)。ですから私たちが気付かないだけで、潜在的な罹患数はかなりの数に上るのかもしれません。猫が変形性関節症にかかったときの主な症状は以下です。
猫の変形性関節症の主症状
- 運動を嫌がる
- 動作が遅くなった
- 関節の動きが固い
- 関節の腫れ
- 関節の変形
- 痛み(触ると嫌がる)
- ぐったりして元気がない
- 歩き方がおかしい
猫の変形性関節症の原因
猫の変形性関節症の治療
猫の変形性関節症の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
猫の変形性関節症の主な治療法
- 基礎疾患の治療 別の疾病によって変形性関節症が引き起こされている場合は、まずそれらの基礎疾患への治療が施されます。例えば股関節形成不全や膝蓋骨脱臼が関節への負担を増加させ、結果として炎症が起こっているような場合には、まずそれらの疾患への治療がなされます。
- 対症療法 変形性関節症の明確な原因が分からない場合は、疾患の原因を取り除くよりも、症状の軽減を目的とした治療が施されます。具体的には鎮痛薬や抗炎症約の投与などです。
- 幹細胞療法 近年海外では、「幹細胞療法」(stem cell treatment)による治療例が続々と報告されています。この治療法は、患畜の細胞から培養した幹細胞を患部に直接注入することで、変形を起こした軟骨や靭帯を修復するという画期的なものです。日本国内ではまだ普及していませんが、将来的には変形性関節症に対する根治療法として広まっていくことが期待されます。
- 悪化の予防 変形性関節症の悪化を予防するため、飼い主の側でできることはやっておきます。例えば肥満気味の場合はダイエットをしたり、嫌がっているのに強引に運動をさせないなどです。