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【最新】猫のワクチン接種・完全ガイド~種類、費用から頻度、副作用まで

 猫の感染症を予防してくれるというワクチン接種はそもそも必要なのでしょうか?必要だとしたらいつどのようなタイミングで打てばよいのでしょうか?種類・費用から頻度・副作用までワクチンに関する基本情報を検証しながら考えていきましょう(🔄最終更新日2024年4月)

ワクチン接種の必要性

 ワクチン(vaccine)とは毒性を無くしたか弱めた病原体のことです。ワクチン接種とはワクチンを動物の体内にあらかじめ注入することで抗体(病原体を攻撃する防御システム)を作っておき、感染症にかかったときの症状を軽減することを意味します。

人におけるワクチン接種

 人間においては予防接種法が定められており、重要度が高い病気に関しては予防接種を受けることが推奨され、なおかつ行政が費用を負担してくれることもあります。例えば麻疹(はしか)、風疹、結核、水痘などです。かつては「義務」として必ず受けることがルール化されていましたが、近年は「努力義務」となり、なるべくなら受けることが望ましいという位置づけに変わっています。このようにコロコロと行政の態度が変わる理由は、医学的な知識の発展に伴いワクチンの必要性に疑問が出てきたり、ワクチンによる重大な副作用事例が報告されるようになってきたからです。

猫におけるワクチン接種

 猫におけるワクチン接種は、犬の狂犬病予防接種のように受けないと法律違反になるということはありません。ただし家庭動物等の飼養及び保管に関する基準 (環境省告示)により「疾病及びけがの予防等の家庭動物等の日常の健康管理に努めること」と定められていますので、人間における予防接種と同様「努力義務」(できれば受けることが望ましい)という位置づけだと考えられます。
 ワクチンにはわずかながら副作用を引き起こす危険性もありますので、病気にかかる危険性と副作用の危険性をてんびんにかけ、最終的に受けるかどうかを決める必要があります。以下は猫向けワクチンが開発されている代表的な感染症です。
猫用ワクチン対応感染症

ワクチンは必要ない?

 そもそも猫にワクチン接種は必要なのでしょうか?完全室内飼いされており外界と接する機会が一切無い猫においては、感染症にかかる可能性は限りなくゼロに近いと言えます。しかし以下に述べるような状況にある猫においては、何らかの病原菌と接してしまう可能性を否定できません。
ワクチンの必要性が高い猫
  • 飼い主が他の猫を触った飼い主が友人や知人の家で飼われている猫に触ったり、ネコカフェに行って猫に触ったり、外で野良猫を触ったりした場合、皮膚や被毛に付着している病原体が手や衣類に付いてしまう可能性があります。その状態で帰宅して飼い猫を触ってしまうと、手や衣服から病原体が猫の被毛に移り、毛づくろいを通して体内に入ってしまうかもしれません。
  • 猫を放し飼いにしている室内と屋外を自由に行き来できる放し飼いという飼育スタイルの場合、飼い猫が外にいる猫と接触する可能性が生まれてしまいます。外猫になめられたりひっかかれると、病原体が口や傷口から入り込み感染が成立してしまうかもしれません。
  • 外猫を迎え入れたすでに猫を飼っている家庭の中に新たに外猫を迎えている場合、外猫が何らかの病原体を持っていると先住猫に感染症が移ってしまうかもしれません。
 上記したような状況においては、たとえ猫が室内に暮らしていたとしても病原体と接する機会が生まれてしまいます。必然的にワクチン接種の必要性は高いといえるでしょう。「ワクチンは必要ない?」という疑問に答えるのは簡単ではありませんが、しいて一言で表すと「猫の生活スタイルによって必要性は変動する」となるでしょうか。
NEXT:ワクチンの種類は?

ワクチンの種類

 ワクチンには製造工程によって「不活化ワクチン」と「生ワクチン」とがあります。またメーカーによって「単独」「3種混合」「5種混合」といった組み合わせがあります。

不活化と生ワクチン

 ワクチンには、化学処理などによって殺したウイルスや細菌を使用した「不活化ワクチン」と、毒性を弱めた微生物やウイルスを使用した「生ワクチン」とがあります。「不活化ワクチン」と「生ワクチン」のそれぞれの特性を一覧化すると、以下のようになります。 2020 AAHA/AAFP Feline Vaccination Guidelines
種類と特性不活化ワクチン生ワクチン
特徴化学処理などにより死んだウイルス、細菌、リケッチアなどを使用したワクチン。副反応が出にくい反面、免疫力の持続期間が短い。毒性を弱めた微生物やウイルスを使用したワクチン。獲得免疫力が強い反面、副反応の可能性が高い。
製剤猫パルボウイルス感染症・猫ウイルス性鼻気管炎・猫カリシウイルス感染症・猫白血病ウイルス感染症・狂犬病猫パルボウイルス感染症・猫ウイルス性鼻気管炎・猫カリシウイルス感染症・猫伝染性腹膜炎
接種の目安3~4週空けて2回 →2回目接種後7~10日で免疫獲得3週空けて2回 →2回目接種後7~10日で免疫獲得
接種方法皮下注射・筋肉内注射皮下注射・筋肉内注射
有毒化なし極めてまれ
アジュバントあり不要
 アジュバント(adjuvant)とは、不活化ワクチンの効果を高めるために混ぜられる添加物のことで、「ワクチンの副作用・注意点」のセクションで詳述します。

ワクチンメーカーと費用

 発症頻度の高い感染症に関しては非常に多くのワクチンが開発されており、その組み合わせによっておおよそ1~5種までに分類されます。費用に関しては、2015年に公開された「家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査及び飼育者意識調査」によると猫白血病ウイルス感染症(FeLV)を含まない混合ワクチンが4,474円、含むものが6,514円程度となっています。
 以下は日本のワクチンメーカーが製造している猫用ワクチンの一覧です。商品名の下にある記載項目は、冒頭から「対象疾患名 | 製造業者 | 性質(生・不活化) | アジュバント(添加物) | 詳細」の順です。「詳細」リンクをクリックすると、動物用医薬品等データベースが公開しているワクチンの詳細情報が別ウィンドウで表示されます。副作用等をご自身の目でご確認ください(🔄最終更新日2024年4月)
 なおかつて微生物化学研究所(京都微研)の6種と7種ワクチン(フィラインシリーズ)が流通していましたが、2017年に発覚したデータ改ざん不祥事に伴い市場から消えています。製造が再開されるかどうかは未定です。
感染症名3種4種5種単体
猫ウイルス性鼻気管炎
猫カリシウイルス感染症
猫汎白血球減少症
猫クラミジア感染症
猫白血病ウイルス感染症
猫エイズウイルス感染症

1種ワクチン

3種ワクチン

全てに共通している対象疾患は、猫ウイルス性鼻気管炎猫カリシウイルス感染症猫汎白血球減少症の3つです。
  • 猫用ビルバゲンCRP上記3疾患 | ビルバックジャパン | 生 | 無 | 詳細
  • ノビバックTRICAT上記3疾患 | MSDアニマルヘルス | 生 | 無 | 詳細
  • ピュアバックスRCP上記3疾患 | ベーリンガーインゲルハイムアニマルヘルスジャパン | 混合 | 無 | 詳細
  • フェロセルCVR上記3疾患 | ゾエティスジャパン | 生 | 無 | 詳細
  • フェロバックス3上記3疾患 | ゾエティスジャパン | 不活化 | エチレン・アクリル酸・油 | 詳細

4種ワクチン

5種ワクチン

NEXT:接種頻度は?

ワクチンの接種頻度

 ワクチンをどのような頻度とタイミングで接種するかに関する計画はワクチネーションプログラムと呼ばれます。

ワクチン接種の時期

 生後間もない子猫にワクチンを接種する際は、受動免疫が切れたタイミングで行う必要があります。「受動免疫」(じゅどうめんえき, 移行抗体)とは、異物を排除する抗体を母猫から初乳経由で受け取ることで、生まれてから8~12週間だけ機能する期間限定の免疫力のことです。 母猫からの受動免疫(移行抗体)の消失とワクチンの接種時期  この受動免疫が機能している間は、たとえワクチンを接種したとしても血液中に残っている母猫の抗体が直ちに排除してしまうため、十分な免疫力が形成されません。ですから子猫の体内に自家製の「能動免疫」(のうどうめんえき)を付けさせるには、母親から受け取ったおすそ分けの「受動免疫」が切れた16週齢以降を目安としてワクチンを接種する必要があるというわけです。

ワクチン接種計画

 AAFP(全米猫獣医協会)およびWSAVA(世界小動物獣医協会)のガイドラインではコアワクチンの接種プログラムを公開しています。コアワクチンとは全ての飼い主に受けておいてほしい必要性の高いワクチンのことで、具体的には猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症、猫汎白血球減少症に対するワクチンのことです。
 子猫が母猫の初乳を飲んでる場合は、6~8週齢頃に初回のワクチンを接種することを勧めています。また初年度の最終接種は、母猫からの移行抗体が十分薄くなった16週以降に来るよう調整します。一方、母猫の初乳を飲んでいない子猫に関しては免疫力が非常に弱い状態にあります。IgG抗体を生成できるようになるのは4週齢頃からですが、副作用や個体差を考慮し、6週齢頃からスタートするのが一般的です。なおワクチン接種履歴が全くわからない成猫に関しては一般的にすぐ接種が行われます。 2020 AAHA/AAFP Feline Vaccination Guidelines / WSAVA 犬と猫のワクチネーションガイドライン
コアワクチンの接種プログラム
  • 生後6~8週に1回目接種
  • 2~4週空けて2回目接種
  • 生後16週以降で最終接種
  • 最終接種から6ヶ月後に免疫強化用接種(ブースター)
  • その後は1~3年の間隔を空けて再接種
 2015年に更新された「WSAVAワクチン接種ガイドライン」により、幾つかの変更点が加えられました。具体的には「ワクチン初回接種8~9週齢→6~8週齢」、「2回目以降の接種間隔3~4週→2~4週」、「ブースター接種は12ヶ月後→6ヶ月後」などです。またコアワクチン用の抗体テストキットが実用化されたことから、場合によっては利用するよう推奨しています。詳しくは以下の記事をご参照ください。 猫のワクチン接種ガイドライン最新2015年版が登場  ブースター(追加接種)以後の接種間隔をどの程度に設定するかは議論が分かれるところです。日本では慣習的に毎年接種が推奨されていますが、世界的には3年に1回が標準化されつつあります。ブースターの必要性は猫の体質や生育環境によって大きく変動し、最終的には「ワクチンによる副作用の危険性が、感染症にかかる危険性よりも十分に低いかどうか」という観点で決定されます。また猫のコアワクチンは犬の場合と違い、たとえ接種したとしても期待通りの感染防御能を示さないことがあるという知識は持っていて損にはならないでしょう。この傾向は特に多様な変異種が存在する「猫カリシウイルス」や強毒種がいる「猫ヘルペスウイルス」において顕著です。
NEXT:副作用や注意点は?

ワクチンの副作用・注意点

 ワクチンを接種したからといって100%病気を予防できるわけでもありませんし、全く副作用やデメリットがないというわけでもありません。以下ではワクチン接種に伴う注意点について時系列に沿って解説します。

アジュバントの功罪

 アジュバント(adjuvant)とは、不活化ワクチンの効果を高めるために混ぜられる添加物のことです。生ワクチンには用いられません。様々なタイプがありますが、アジュバントの詳細な作用メカニズムに関しては不明な部分も残っているというのが現状です。主な種類を以下に示します。 イラストで見る獣医免疫学(インターズー)
アジュバントの種類
  • 貯留型 貯留型は、ワクチン内の抗原がゆっくりと代謝されるようにするアジュバントのことです。水に溶けず、ゆっくりと分解されるリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ミョウバン(アラム)、フロイント不完全アジュバントなどが用いられます。接種した箇所にはマクロファージを多く含む肉芽腫が形成され、その中からゆっくりと抗原が体内に漏れ出すようになります。その結果、通常なら数日で代謝される抗原が、数週間体内にとどまるようになり、長期にわたって免疫応答を持続させるようになります。
  • 微粒子型 微粒子型は、抗原が効率的に免疫細胞に貪食されるように促すアジュバントのことです。乳剤、ISCOMs、リポソームなどが用いられます。これらの物質は細菌とほぼ同じサイズであるため、免疫細胞によって優先的に貪食されるようになります。
  • 免疫刺激型 免疫刺激型は、サイトカインの産生を促進するアジュバントのことです。病原体としての目印をもったリポ多糖類、サポニン、グルカンなどが用いられます。これらの物質はマクロファージを活性化してサイトカインの分泌を促し、結果としてヘルパーT細胞の免疫反応を刺激します。
  • 混合型 混合型は、上記した3種類を適宜組み合わせたものです。油をベースとしたフロイント完全アジュバント(FCA)などが含まれます。
 アジュバントは「免疫獲得を促進する」という良い面ばかりではなく、悪い面も持っています。例えば、狂犬病ワクチンや猫白血病ウイルス感染症ワクチンに含まれているアジュバントは、猫の肉腫を引き起こす可能性が示唆されています出典資料:M.J.Hendrick, 1992)。また人医学の領域では、子宮頸がんワクチンのアジュバントが失神や意識消失を引き起こしているのではないかと推測している人もいます出典資料:NPOJIP, 2014)
 このようにアジュバントは、免疫力を高めると同時に副作用も引き起こすこともありますので、「ワクチン=安全」という盲信は危険です。ワクチンの種類では、商品名の下にアジュバントの有無を併記しました。気になる方は項目中の「詳細」リンクをクリックし、「アジュバント」という欄を確認してみてください。

コアワクチンと慢性腎不全

 コアワクチンでは一部の製品を除き、ウイルスの毒性を薄めて製造した生ワクチンが用いられています。多くの場合、製造過程では猫の腎臓由来の細胞を質的に均一化した「Crandell Rees feline kidney(CRFK)」と呼ばれる細胞が用いられますが、ワクチンを接種したときにCRFK由来のタンパク質に対する抗体も偶発的に生成されてしまう可能性が古くから指摘されています。
 実際、コロラド州立大学が行った調査ではコアワクチンの非経口的な接種によりCRFK溶解物もしくはネコ腎細胞溶解物に対する抗体が形成されること、およびCRFK溶解物を接種した猫の半数で間質性腎炎が引き起こされることが確認されています。さらにイギリス・ブリストル大学の調査では、ワクチン(※コアに限らず)の接種頻度が少なくとも2年に1回である場合、慢性腎不全を発症するハザード比が5.68倍に跳ね上がることも報告されています。
 最新の調査ではCRFKの抗原タンパクも同定されていますので、はっきり証明はされていないものの、CRFKを用いて製造されたコアワクチンによって偶発的に形成された抗体が、自分自身の腎臓を異物として攻撃対象にしてしまう危険性は否定できません。ブースター(追加接種)をどのくらいのペースで受けるかを決める際のヒントにはなるでしょう。 猫の慢性腎不全の原因はコアワクチン接種?

内在性レトロウイルスの腫瘍源性

 猫向けワクチンの製造工程で使用される細胞(CRFK)に内在的に含まれるレトロウイルス(内在性レトロウイルス, ERV)が製剤の中に混入してしまう現象が確認されています。例えば猫における内在性レトロウイルスの代表格であるRD-114ウイルスなどです。
 猫の体内における内在性レトロウイルスの病原性がはっきり証明されているわけではありませんが、リンパ肉腫や悪性腫瘍組織内におけるRD-114ウイルスの発現量が正常細胞のそれを超えていることから、ひょっとすると腫瘍源性を有しているのではないかと疑われています。
 こうした懸念を受け、そもそもRD-114ウイルスがワクチンの中に混入しないような製造工程の研究を進めているのが日本の京都大学です。現在研究チームは、ゲノム編集技術(TALEN)を用いてRD-114ウイルスの生成に関与している塩基配列(RDRS)のenv遺伝子をノックアウトすると、細胞中におけるRD-114ウイルスが検出不能レベルになることまで確認しています。この技術が商業的に実現可能かどうかを見定めるには、今後のさらなる調査が必要です。 猫向けワクチンに含まれる内在性レトロウイルスと腫瘍の形成リスク

免疫力低下時のリスク

 免疫力が低下した体にワクチンを接種する際は、「ウイルスの毒性を弱めて製造された生ワクチンが病原性を発揮してしまうリスク」、「免疫応答が弱まった体内においては、ワクチンを接種しても十分な免疫力が獲得されないリスク」、そして「ワクチン接種と免疫刺激が既存疾患の悪化に拍車をかけてしまうリスク」が常に伴います。
 2022年、欧州猫疾患諮問委員会(ABCD)が安全性に関するエビデンス(医学的な証拠)を精査し、免疫力が低下した猫に対するワクチン接種のガイドラインを公開しました。該当する研究がそもそもないため人間や犬におけるデータを転用せざるをえなかったり、既存研究があってもエビデンス強度が弱かったりして完全とは程遠い内容ですが、暫定的な知識ベースとして以下のページにまとめてありますのでご参照ください。 免疫力が低下した猫に対するワクチン接種のリスクとメリット

ワクチン接種前の注意

ワクチン接種は医師の健康診断を受けてから  ワクチン接種の前夜は特に体調をよく観察しておきます。下痢をしていたり、食欲がなかったり、何かしら体調に不安がある場合は、ワクチン接種を延期します。
 飼い主の目から見てとりわけ問題がないと思われる場合、今度は獣医師によって問診と触診、体温測定、心音聴診、内部外部寄生虫の有無を検査します(便は前日のものを飼い主が持参)。そして、「今ワクチンを接種しても問題がない」という獣医師のお墨付きが取れた時のみ、ワクチン接種を決行します。ワクチン接種後、体調が悪くなったときなどにすぐ対応できるよう、ワクチンは午前中に接種する方がよいでしょう。
 なお、基本的に妊娠中の猫にはワクチン接種を行いません。もしこれから出産を計画している猫がいる場合は、交配の3週間以上前にワクチンを接種して、母猫の抗体を上げておきます。

ワクチン接種時の注意

 毒性を弱めたり無くしたりしても、ワクチンはあくまで「異物」ですから身体にとってよくない反応、いわゆる「副作用・副反応」が現れることもあります。以下はワクチン接種時に発生しうる悪影響です。

副作用・副反応

ワクチン接種後、24時間程度食欲をなくしたりぐったりする猫もいますが、それは正常な反応です  接種してからしばらくの間、元気がなくなったり、食欲がなくなる子もいますが、24時間以内に収まるようであれば、許容できる範囲の副作用・副反応と考えられます。しかし元気のありなしに関わらず、接種後1日程度は、シャンプーや過激な運動を控えるようにしましょう。もし24時間を経過しても元気がなかったり、注射した箇所から出血しているような場合は、念のため獣医師に相談します。
 なおアメリカのバンフィールド動物病院において、2002年から2005年の間に集められたデータによると、約50万頭の猫に対し125万単位のワクチンが接種され、30日以内に何らかの副反応を示した割合は0.52%だったといいます。またそのうち3日以内に何らかの症状を示したものの割合が92%にも達したとのこと。報告があった症状のうち上位のものを列挙すると以下のようになります。 2013 AAFP Feline Vaccination Advisory Panel Report
ワクチン接種後の副反応
  • ぐったりして元気がない=54%
  • 注射箇所の部分的な炎症=25%
  • 嘔吐=10%
  • 顔周辺の浮腫=6%
  • 全身性のかゆみ=2%
 副反応は猫の健康状態や用いられたワクチンの種類によって大きく変動しますが、予備知識として重要です。なお国産ワクチンの副作用に関しては、農林水産省が公開している副作用情報データベースというページで検索することもできます。

一番怖い「アナフィラキシー・ショック」

 ワクチン接種の副作用で一番恐ろしいのは、アナフィラキシーショックと呼ばれる過激なアレルギー反応です。これは体内に入ってきた異物に対し免疫機構が過剰に反応してしまい、逆に生命に危険を及ぼしてしまう現象のことです。AAFP(全米猫獣医師協会)によると、1~5ケース/10,000ワクチン(0.01~0.05%)程度の割合で発生すると推計されています。また日本国内で2021年に行われた最新の調査報告では、2004年4月から2019年3月までの15年間で合計316の有害反応が見つかり、そのうち130頭がアナフィラキシーだったとされています。さらに76%に相当する99頭では死亡が確認されたとも。
 アナフィラキシーの特徴は、早ければ接種10~15分後くらいで呼吸困難、嘔吐、けいれん、血圧低下などの症状がみられる点です。早急に治療をしなければショック死してしまうかもしれないので、できれば接種後30分程度は病院内や病院の近くに待機しておいたほうが安全でしょう。ちなみに一度でもアナフィラキシーを起こした猫は、次から同じメーカーのワクチン接種はできませんので、飼い主がワクチン名を覚えておいて下さい。 日本国内の猫におけるワクチン接種とアナフィラキシー

ワクチン接種後の注意

 ワクチンによる抗体ができるには2~3週間ほど必要です。ワクチン後2~3週間は感染のおそれがあるところに連れて行ったり、他の猫との接触を避けた方が安全です。
 また米国内での統計調査によると、1万頭に1~3.6頭くらいの割合でワクチン接種をした部位が盛り上がってこぶ状になり、最終的に悪性化する「注射部位肉腫」(FISS)を発症するとされています。先述した「アジュバント」が犯人と目されていますが、明確な因果関係については不明のままです。もし2~3週間たっても腫れが引かず、手で触知できるしこりが残っている場合は、ごくまれに肉腫(悪性腫瘍)に変化することもありますので、獣医師にご相談下さい。またFISSに関する詳しい情報は以下のページにまとめてありますのでご参照ください。 猫の注射部位肉腫(FISS)  同じ箇所に注射すると肉腫ができやすいことから、従来接種していた背中や肩甲骨付近ではなく、太ももや後ろ脚、しっぽの先に注射する獣医師もいます。これは、万が一背中に悪性腫瘍が出来てしまった場合、手術で切除するのが非常に難しくなるという観点からです。例えば下の図は、AAFPが推奨しているワクチン接種部位です。緑色の部分が推奨部位、バツ印の付いた部分が非推奨部位になります。 AAFPによるワクチン接種推奨部位と非推奨部位・概略図  しかし背中よりも、太ももや脚の方が痛みを強く感じる猫が多いため、一長一短と言った所でしょう。飼い主は、注射箇所がなるべく重ならないよう、前回のワクチン注射を体のどの部位に行ったかを記憶・記録しておくようにします。
完全室内飼いは基本中の基本です。屋外にアクセスできる猫の感染症リスクが2.77倍になり、平均寿命が2歳以上短くなることが確認されています。ワクチンの効果は100%ではありません! 猫を放し飼いにしてはいけない理由