猫向けワクチンの有害反応
ワクチン接種は特定疾患に対する体内における免疫反応を増強してくれますが、 異物に対する反応が強すぎると「有害反応」として発現します。その中でも最も厄介なのがアナフィラキシーで、IgE抗体が介在するタイプIの即時性アレルギー反応だと考えられています。一般的な定義は「接種後数分で卒倒、チアノーゼ、低体温、呼吸困難、頻呼吸といった症状を呈する」で、最悪のケースでは死亡してしまうこともあります。
このたび麻布大学を中心としたチームは、農林水産省に蓄積された有害反応レポートを元に、ワクチン接種を受けた猫たちの間で一体どの程度の頻度で有害反応が生じているのかを調査しました。
このたび麻布大学を中心としたチームは、農林水産省に蓄積された有害反応レポートを元に、ワクチン接種を受けた猫たちの間で一体どの程度の頻度で有害反応が生じているのかを調査しました。
アナフィラキシーの発生回数
調査対象となったのは2004年4月から2019年3月までの15年間。ワクチン接種に対する重大な有害反応は全部で316ケースあり、そのうち130頭がアナフィラキシーと診断されました。さらに76%に相当する99頭では死亡が確認されたとも。その他、ワクチン接種から1時間以内に症状が現れたものの情報不足によってアナフィラキシーと断定できないグレーケースも20頭いたそうです。
一方残念なことに、接種されたワクチンの総数がわからないため、有害反応の絶対数は判明したものの全体の中における発症頻度を計算することまではできませんでした。
一方残念なことに、接種されたワクチンの総数がわからないため、有害反応の絶対数は判明したものの全体の中における発症頻度を計算することまではできませんでした。
アナフィラキシーの症状
アナフィラキシーを発症した猫たちの症状を調べたところ、以下のような内訳になりました。
Kurata Masaki, Ochiai Masato, Itoh Tadahiro et al., The Journal of Veterinary Medical Science(2021), DOI:10.1292/jvms.21-0437
アナフィラキシー主症状(複数回答)
- 心血管系=61%卒倒・低血圧・粘膜蒼白・徐脈・低体温
- 消化器系=54%嘔吐・下痢
- 呼吸器系=72%呼吸困難・チアノーゼ・頻呼吸
- 皮膚=11%顔面浮腫・掻痒
Kurata Masaki, Ochiai Masato, Itoh Tadahiro et al., The Journal of Veterinary Medical Science(2021), DOI:10.1292/jvms.21-0437
アナフィラキシーに要注意
2003年以降、ワクチンの製造業者及び獣医師はワクチンを含む医薬品によって引き起こされた疾患や有害反応を報告することが義務付けられました。当調査の元データはこの制度を通して農林水産省に蓄積された有害反応レポートです。逆に言えば、それ以前の期間における有害反応は全くわかっていなかったということでもあります。
発生頻度は未知数
アメリカ国内における調査では、2002年から2005年の期間中、496,189頭の猫たちに合計1,258,712回ワクチンが接種され、そのうち17ケース(100万回中0.135ケース)でアナフィラキシーが確認されたといいます。またカナダ国内における調査では、2010年から2014年の期間中、合計61のアナフィラキシーが確認され、1万回中0.029ケース(100万回中2.9ケース)と算定されました。
日本においてはワクチンの接種総数自体がわからず、また必ずしも同じワクチンが使用されているわけではないため同様の割合を算出することはできませんが、「100万回中数ケース」がざっくりながら1つの目安になるでしょう。
日本においてはワクチンの接種総数自体がわからず、また必ずしも同じワクチンが使用されているわけではないため同様の割合を算出することはできませんが、「100万回中数ケース」がざっくりながら1つの目安になるでしょう。
アレルギー反応の原因物質は?
重度のアレルギー反応であるアナフィラキシーを引き起こしたのはワクチンに含まれるウシ血清アルブミン(BSA)や安定剤ではないかと推測されています。
世界保健機構(WHO)は人間向けのワクチンにおけるBSAの含有量を1回あたり50ng未満にするよう提言しています。一方、重要なアレルゲンであるにも関わらず、猫向けに製造されたワクチンに含まれるBSAはこれまでまったく調査されていませんでした。
麻布大学のチームが統計調査と合わせて2018年時点で市販されていたワクチン29種の成分分析を行ったところ10種で検出され、1回分中に0.31未満~196μg(幾何平均12μg)であることが判明しました。アレルギー反応を引き起こすのに十分な量であること、および猫における食品アレルギーの主要アレルゲンが牛肉であることから、調査チームは製造工程で使用されるBSA(それを含むFCS)を可能な限り減らす努力をすべきと提言しています。
その他、犬の場合と同様タンパク質の安定剤として使用されているゼラチン(加水分解コラーゲン)やカゼインがアレルゲンになった可能性も指摘されています。
世界保健機構(WHO)は人間向けのワクチンにおけるBSAの含有量を1回あたり50ng未満にするよう提言しています。一方、重要なアレルゲンであるにも関わらず、猫向けに製造されたワクチンに含まれるBSAはこれまでまったく調査されていませんでした。
麻布大学のチームが統計調査と合わせて2018年時点で市販されていたワクチン29種の成分分析を行ったところ10種で検出され、1回分中に0.31未満~196μg(幾何平均12μg)であることが判明しました。アレルギー反応を引き起こすのに十分な量であること、および猫における食品アレルギーの主要アレルゲンが牛肉であることから、調査チームは製造工程で使用されるBSA(それを含むFCS)を可能な限り減らす努力をすべきと提言しています。
その他、犬の場合と同様タンパク質の安定剤として使用されているゼラチン(加水分解コラーゲン)やカゼインがアレルゲンになった可能性も指摘されています。
高齢猫はハイリスク
アナフィラキシーで死亡した猫たちの年齢を統計的に調べた結果、歳が若い猫よりも年を取った猫の方が死亡率が高いことが明らかになりました。詳細な原因は不明ですが、何らかの持病を持っていることが関係しているのではないかと推測されています。
命を救う早期の発見と治療
アメリカにおける報告ではアナフィラキシーによる死亡率は11.8%(2/17)~ 28.1%(9/32)とされており、日本国内における死亡率76%とはだいぶかけ離れていることがわかります。原因としては飼い主や獣医師が「大丈夫だろう」と高をくくっているため症状の発見や医療的な介入が遅れたからではないかと推測されています。
アナフィラキシーはコアワクチンでもノンコアワクチンでも発症することが確認されています。高齢猫の場合はとりわけ接種直後の体調の変化にご注意ください。