トップ猫の手入れとケア猫の歯磨きの仕方

猫の歯磨きの仕方・完全ガイド~うまくできないときのコツからおやつやおもちゃの選び方まで

 猫の歯磨きの仕方について、写真や動画付きで詳しく解説します。歯周病を始めとする口の中の病気を予防するためにも、定期的に歯のチェックをしましょう。また猫が嫌がって歯磨きができないときの代用グッズもご紹介します。

猫の歯磨きの必要性

 人間と同様、猫にも歯周病はあります。柔らかいフードばかり食べて、歯の隙間に歯垢がたまってしまうことが主な原因です。歯垢が歯石に変化してしまうと、更に歯垢が溜まりやすくなり、結果として歯周病へと発展します。一度歯周病にかかると口臭がひどくなり、人間との共同生活にも支障をきたしますので、飼い主が定期的に猫の口内を歯磨きによってメンテナンスしてあげることが重要となります。 猫の歯周病 猫の歯と名称
  • 門歯・切歯上6+下6=12本
    食事のときは肉をちぎったり削ぎ落とす | 毛づくろいのときは毛玉をほぐす | 爪をガジガジと噛んで古い層を剥がす
  • 犬歯上2+下2=4本
    獲物の首筋に食い込ませて脊髄を切断する
  • 前臼歯上6+下4=10本
    肉を噛み切る | カリカリを噛み砕く
  • 後臼歯上2+下2=4本
    肉を噛み切る | カリカリを噛み砕く

猫の歯の構造と名称

 猫の歯は、歯茎から外に出た「歯冠部」(しかんぶ)と、歯茎の中に埋もれた「歯根部」(しこんぶ)に大別されます。歯茎の炎症である歯肉炎(しにくえん)が生じやすいのは、歯冠部と歯根部の境目に当たる「歯肉溝」(しにくこう)です。この歯肉溝が炎症などによって目減りし、溝が深くなった状態は「歯周ポケット」と呼ばれます。歯がこの状態になってしまうとさらに食べかすや細菌がたまりやすくなり、炎症の連鎖が始まります。こうして発症するのが「歯周病」です。
猫の歯の外面図
猫の臼歯を外側から見た模式図
  • 歯冠歯冠(しかん)は、歯の中で歯茎から外に飛び出している部分のことです。実際に食物と接触し、噛んだり切ったりするという重要な役割を担っています。
  • エナメル質エナメル質(Enamel)は歯冠の表面を覆っている硬い外層のことです。96%の無機質と4%の水+有機質で構成されています。哺乳動物の体内で最も硬い組織ですが、強い衝撃には弱く、時に欠けたり折れたりします(歯牙骨折)。
  • 歯肉歯肉(しにく)とは歯の根元を覆い尽くす上皮組織のことです。「歯茎」と言った場合は、歯肉の中で外側から見える部分を指します。歯冠に隣接し、骨に付着していない部分は「歯肉縁」と呼ばれ、歯肉退縮(炎症で歯肉が目減りした状態)の目安として用いられます。
  • 歯肉溝歯肉溝(しにくこう)とは、歯冠と歯肉の境目にできる小さな溝のことです。通常は隙間が小さく、細菌の侵入などを防いでくれますが、炎症などでこの溝が深くなってしまうと、食べかすなどがたまりやすくなり「歯周ポケット」と呼ばれるようになります。
猫の歯の断面模式図
猫の臼歯を断面で見た模式図
  • ゾウゲ質ソウゲ質(Dentin)は70%の無機質、20%の有機物、10%の水分より成り、エナメル質よりは柔らかい組織です。歯を内側から支えることにより、強度を持たせています。
  • セメント質セメント質(Cementum)は歯の根元にあり、ゾウゲ質の外側を覆う組織のことです。60%の無機質、25%の有機物、15%の水から構成されています。セメント質とエナメル質の境目は「セメントエナメル境」(CEJ)と呼ばれ、歯周病を評価するときの目安として用いられます。
  • 歯髄歯髄(しずい)は、歯の中心部を通る神経と血管の総称です。歯髄腔という空間の中に納まっています。虫歯がこの歯髄に達すると、神経を刺激して痛みを誘発します。
  • 歯槽骨歯槽骨(しそうこつ)は歯を支える骨性組織であり、歯槽骨と歯の間は歯周靭帯(歯根膜)というケーブルで支えられています。歯周病が進行すると、歯槽骨にまで炎症が及び、徐々に骨が削られていきます。

猫の歯面蓄積物

 歯の表面に付着するものは「歯面蓄積物」と総称され、「菌膜」(ペリクル)、「歯垢」(プラーク)、「歯石」(ターター)などがあります。日頃のケアを怠(おこた)ると歯周病になりますので、歯磨きの頻度は毎日が理想です。 時間の経過と歯面蓄積物の推移  菌膜は歯を磨いた直後から歯の表面に形成される薄い膜のことで、数百万個の細菌から構成されています。菌膜が放置された場合、約24時間で形成されるのが歯垢です。これは細菌コロニーに唾液、多糖類、細胞成分などが加わって構成されるネバネバした塊のことを指します。さらにこの歯垢が放置された場合、2~3日で歯石が形成されるようになります。これは歯垢にカルシウムやリン酸塩が結合し、石灰化して硬くなったものです。歯面蓄積物の推移を模式的に示すと上図のようになります。
歯垢や歯石を口の中に作らないためには、菌膜が形成されてから24時間以内にこれを除去しなければいけないことがお分かりいただけるでしょう。「歯磨きの頻度は毎日」とされているのはこのためです。
NEXT:口内チェック方法

猫の歯・口の健康チェック

 以下でご紹介するのは、猫の歯・口によく見られる異常と、それに関連した疾患の対応一覧表です。もし猫の歯・口に以下で述べるような異常や変化が見られた場合は、念のため疾患の可能性を疑い、場合によっては獣医さんに診てもらいます。 猫の歯・口の病気
猫の歯・口の異常と病気
猫があくびした瞬間をうまく写真や動画で撮影できれば、細かなチェックができるかも。
NEXT:歯磨きのやり方は?

猫の歯磨きのやり方

 猫の歯を磨く際の具体的な手順を、画像と動画を交えてみていきましょう。

歯に触ることに慣れさせる

指が猫の口に入ると、おいしいものがある、という条件反射を作っておくと、歯磨きがとても楽になります。  猫の歯磨きをするに当たっては、飼い主が猫の歯に触っても噛み付かない程度にしつけておくことが必要となります。成長してからのしつけは時間がかかりますので、噛む力が弱い離乳期頃からスタートするのが理想です。成猫の口の中に指を入れるトレーニングでは、万が一噛まれても大事に至らないよう、最初は厚手の手袋などを着用すると安全でしょう。ガーゼや歯ブラシの先に猫の好きな食べ物の汁などをしみこませ、「指(歯ブラシ)が口の中に入る→おいしい!」という条件反射を作ります。 猫を歯ブラシに慣らす
古典的条件付け
 以下でご紹介するのは、口元を触られることを嫌がる猫を徐々に慣らしていくときのトレーニング動画です。「接触→ごほうび」という古典的条件付けを基本にしています。トレーニングの基本理論に関しては猫のしつけの基本もご参照ください。 元動画は→こちら

猫の歯の磨き方

猫の歯を磨くときは、薬を飲ませるときと同様、頭を固定しながら親指で上唇をめくるようにします  猫の歯を露出させるには、前や後ろから猫の頭部を上から手でつかみ、上唇を親指でめくり上げるようにします。猫の歯ブラシは、指先にガーゼを巻きつけたり、猫用の歯ブラシを用いますが、人間用の歯ブラシは硬すぎて歯茎を傷めますので、基本的に使わないで下さい。歯石は特に奥歯(前臼歯・後臼歯)につきやすいので、忘れずに磨きます。できれば毎日行うことが理想です。
 人間用の歯磨き粉にはミントが入っていることがあり、西洋マタタビ(キャットニップ)と同じ作用を持ちますので猫には使用しない方がよいでしょう。歯磨き粉を食べ物と思い込んで、飼い主がいない間にチューブを破って食べてしまうかもしれません。人間用キシリトール入りの歯磨き粉も使わないほうが良いでしょう。猫では比較的安全とされているものの、犬においては急性低血糖発作を起こして急死してしまうことがあります。また殺菌効果を期待してティーツリーオイルを飲ませたり歯に塗り付けるといった行為もNGです。猫用の歯磨き粉には猫が好む味付けがされている物もあるので、猫も抵抗なく歯磨きを受け入れることが出来ます。 猫に必要な歯磨きグッズ
猫の歯磨きの動画
 以下でご紹介するのは猫の歯磨きの仕方を解説したハウツー動画です。最新の調査ではキシリトールが猫に無害である可能性が示されていますが(Jerzsele, 2018)、体内における代謝経路が完全に解明されたわけではありません。犬においては歯に良いどころか少量でも低血糖を引き起こす危険な成分ですので、使わないほうが安全です。 元動画は→こちら
 なお短頭種として知られるのペルシャエキゾチックを対象とした調査により、かなり高い確率で歯並びの不整列や歯牙疾患を抱えていることが明らかになりました。これらの鼻ぺちゃ品種では、鼻先の骨格が無理な繁殖によって強引に短くされているため、どうしても口の中に悪影響が出てしまうのです。 短頭種の鼻ぺちゃ猫は下顎が寸詰まりになって歯並びが悪くなる
鼻ぺちゃ品種の飼い主は、とりわけ注意深く猫の口の中をチェックしてあげる必要がありますね。
NEXT:デンタルクリーニングとは?

猫のデンタルクリーニング

 飼い主が日常的に歯磨きを行っていても、歯垢や歯石が口の中に残って歯周病に発展してしまうことがあります。そこで必要となってくるのが、専門の技術を持った人が専用の道具を用いて歯のケアをするデンタルクリーニングです。全身麻酔をかけて行うパターンと麻酔をかけずに行ういわゆる「無麻酔デンタル」というパターンがあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。

麻酔下でのデンタルクリーニング

 麻酔下でのデンタルクリーニングは、猫に全身麻酔をかけた上で施術を行います。理想的な頻度は年に2回で、麻酔を用いますので動物病院以外ではできません。値段は病院によってまちまちですが、麻酔料金を抜いた施術料金だけで5,000~12,500円程度とされています。主なメリットとデメリットは以下です。
全身麻酔デンタルケア
  • メリット拘束ストレスがかからない | 歯周ポケットまでケアできる | 歯の裏側までケアできる | 下顎の歯までケアできる | 抜歯できる | 歯の表面をつるつるにするポリッシングまでできる
  • デメリット麻酔による事故や副作用の危険性がある(特に肥満猫や高齢猫) | 開口器による顎関節へのダメージや血流障害の危険性がある | 料金が高い | 獣医師の説明が不十分なことがある
 デンタルクリーニングを行っている動物病院はたくさんありますがその内容は漠然としていることが多く、事前にしっかりとやり方を説明をしない獣医師も少なくありません。デンタルクリーニングをフルコース行うと以下のような内容になります。
猫のデンタルクリーニング・フルコースの施術内容
  • 歯肉縁上の歯石取り肉眼で確認できるところに蓄積した歯石を取り除きます。歯石が頑固にこびりついている場合は音波スケーラー(2,000~6,500ヘルツ)や超音波スケーラー(25,000~45,000ヘルツ)を用いて粉砕します。
  • 歯肉縁下のクリーニング歯と歯茎の間のすき間(歯周ポケット)をきれいにすることで、超音波器具やキュレットと呼ばれる小さな道具が用いられます。
  • 歯冠のポリッシング専用の研磨機と歯の研磨剤を含んだペイストを用い、クリーニングの途中で生じた歯の表面の小さな傷やデコボコを平らにします。
  • 歯肉溝の洗浄歯と歯茎の隙間にたまった歯石のカスやポリッシングで使用した研磨ペイストの残りをきれいに洗い流します。
  • シーラント処理歯の表面にあるデコボコにフッ素樹脂をコーティングします。
 以下でご紹介するのは全身麻酔下で猫に対して行われるデンタルクリーニングの動画です。歯石除去→クリーニング・ポリッシング→シーラント処理という順番で施術が展開します。 元動画は→こちら
 外から見える歯垢や歯石を取り除くだけでは、歯周病の発症と関係が深い歯肉溝で起こっている病変までは防ぎきれません。動物病院が掲げる「デンタルクリーニング」という看板に、いったいどこからどこまでが含まれているのかは必ず事前に確認しておいてください。
 もし、歯肉縁上の歯石を取り除くだけで歯肉縁下の歯垢や歯石には全くタッチしていない場合、歯牙疾患に力を入れており、専用の施術室と専門の技術者が整っている病院に相談しなおしたほうがよいでしょう。また施術のビフォーアフターを写真で撮ってもらうと、何が変わったのかが一目でわかるため安心です。
 なお2021年、歯周病予備軍もしくはすでに歯周病を発症した猫を対象として行われるデンタルクリーニングが、全身麻酔を通じて急性・慢性の腎障害をもたらす危険性がオレゴン州立大学のチームにより指摘されました。歯周病そのものではなく、歯周病を改善しようとして行う治療行為自体が逆に腎臓に負担をかけているという皮肉な関係性です。麻酔によるリスクはかねてから指摘されていましたが、思ったより深刻な後遺症を残すかもしれませんので、しっかり把握しておいたほうが良いでしょう。 デンタルクリーニングが猫の腎不全の原因に?

無麻酔のデンタルクリーニング

 無麻酔のデンタルクリーニングとは、麻酔や鎮静剤を一切用いず意識がある状態の猫に施術を行うことです。日本小動物歯科研究会では、ペット動物のデンタルケアを「全身麻酔下でトレーニングを受けた獣医師がすべき処置である」と位置付けていますが、一部の獣医師やトリマー、動物看護士、歯科衛生士などが安価で安全を売りにして無麻酔デンタルを行っています。メリットとデメリットは以下です。
無麻酔デンタルケア
  • メリット麻酔による事故や副作用の心配がない | 目に見える部分くらいはきれいにできる | 料金が安い
  • デメリット動物に拘束ストレスがかかる | 歯周ポケットのケアは不完全になりやすい | 歯の裏面のケアはできない | 下顎の歯のケアは困難 | 抜歯は不可 | 動物が動いて口腔内を傷つけてしまうことがある | 施術者が獣医師でないことがある
【画像の元動画】Cat Teeth Cleaning - No Anesthesia or Sedation 無麻酔デンタルでは強い拘束ストレスを猫に強いてしまう  麻酔をかけておらず自由に動くことができる猫の歯に対し、1本ずつ時間をかけて施術するということはほぼ不可能でしょう。ですから無麻酔デンタルにできるのは部分的な歯石の除去だけということになります。
 麻酔によるリスクがないというメリットはあるものの、レントゲン撮影も歯肉縁下ケアも行わないため、無麻酔デンタルクリーニングは歯周病の予防効果に関してはそれほど期待できないという点は覚えておく必要があるでしょう。
体を無理やり押さえつける施術により、猫が口元に触られる事自体を拒むようになる危険性があります。猫が肥満や高齢で麻酔のリスクが高いという場合以外は基本的に推奨されません。
NEXT:歯磨きの代用品は?

歯磨きできないときの代用品

 猫の歯周病を予防するためには歯磨きが必要であるということは常識ですが、飼い主の多くは猫に対して毎日歯磨きすることを諦めてしまいます。理由は「 嫌がる」「暴れる」「噛む」など、猫から激しい抵抗を受けるからです。
 そうした飼い主のために、歯磨きの代用となる様々なグッズが売られています。以下はその一例です。科学的に検証した効果と合わせてご紹介します。

デンタルフードの効果

 デンタルフードとは、歯垢を取り除く効果を持ったキャットフードのことです。効果はかなり限定的であるものの、歯磨き作用自体はあることが確認されています。まとめると「粒が大きめのドライフード」が良いようです。

ドライフードの歯磨き効果

 水分含量が少ないドライフードを食べていると、口の中の健康状態が比較的健康に保たれるようです。
 2006年から2007年にかけポーランド国内で開業している700を超える動物病院に協力を仰ぎ、猫合計6,371頭分の医療データを収集してもらいました(Buckley, 2011)。具体的には歯の表面の蓄積物、下顎リンパ節の大きさ、歯肉組織の健康状態を評価し、「OHI」(口腔衛生インデックス)として客観的に数値化するというものです。
 その結果、OHIの平均値は与えられているフードの水分含量によって大きく影響を受けることが分かったと言います。具体的には以下です。数値が大きいほど衛生状態が悪いことを意味しています。
フードタイプと猫の口腔衛生(OHI)
フードタイプと猫の口腔衛生(OHI)一覧グラフ
  • 手作りのみ=3.65
  • ウエットのみ=3.20
  • 手作りと市販フード=2.97
  • ドライ+ウエット=2.68
  • ドライのみ=2.20
 「手作りフード」が最悪のスコアだったのに対し、「ドライフードのみ」が最高のスコアとなりました。
 腎臓に疾患を抱え、水分の摂取量を多くするよう指示されている猫においては、ドライフードよりウェットフードの方が向いています。口の中の状態だけでなく、全身性の疾患と相談しながら最善のフードを選ぶ必要があるでしょう。

粒の大きさと歯磨き効果

 フードの粒が大きいほど歯の表面に対する歯磨き効果が生まれやすいことが確認されています。
 40頭の猫を対象とし、給餌するフードの大きさや形状が歯垢の蓄積にどのような影響をもたらすかが検証されました(Clarke, 2010)。用いられたフードの種類は以下です。フードBには「トリポリりん酸ナトリウム」、フードDには「トリポリりん酸ナトリウム」と「アスコルビルリン酸ナトリウム」が添加されています。 三角形と四角形のドライフードスペック比較表  猫を10頭ずつ4つのグループに分割し、上記した4種類のフードを与えて28日後のタイミングで口内チェックを行ったところ、以下のような結果になったと言います。数字が大きいほど歯垢がたくさん溜まっているという意味です。 フード粒の大きさや形状と歯垢の蓄積度  フードAとBの間に違いが見られなかったことから、「トリポリりん酸ナトリウム」には歯垢の蓄積予防効果がないことが確認されました。三角形をしたフード(AおよびB)と、四角形をしたフード(CおよびD)を比較したところ、四角形のフードの方が歯垢が蓄積しにくいことが明らかになりました。また「アスコルビルリン酸ナトリウム」を添加したフードDにおいて統計的に有意な歯垢減少効果が確認されました。
 こうした事実から調査チームは、フードの粒が大きいほど猫の咀嚼が促され、フード表面と歯の表面との摩擦が生じ、歯磨き効果が生まれて歯垢の蓄積予防につながるとしています。またはっきりとしたメカニズムまでは分からないものの「アスコルビルリン酸ナトリウム」には歯垢の蓄積予防効果があるのではないかと推測しています。
 フードの粒が大きいと歯磨き効果が生まれやすくなることは事実です。しかし猫の歯の状態が悪かったり口内炎で咀嚼をしたがらない時は、噛む前に丸飲みしてしまいますので期待したような効果は得られないでしょう。

デンタルフードの効果は限定的

 デンタルフードを食べているだけで歯がピカピカになるわけではありません。その効果はかなり限定的で、歯垢の量をせいぜい1~2割減らすだけであることが確認されています。
 平均年齢4.2歳の猫24頭(オス15頭+メス9頭)を対象とし、歯垢の蓄積予防に効果があるとされているデンタルフード(Royal Canin Oral Care 30)と通常のドライフードを交互に給餌するという試験が行われました(Marshall-Jones, 2017)
 一方のフードを28日間給餌した後、他方のフードに切り替えてさらに28日間給餌し、両方の期間における歯垢の蓄積度合いを定量的光誘起蛍光法(QLF)でデジタル的に計測しました。
 その結果、デンタルフードを食べることによって、口内全体における歯垢の専有面積が14.3%減少したといいます。この値はローガン・ボイス変法と呼ばれるアナログ手法で評価したときも14.6%とほとんど変わりませんでした。 デンタルフードで取り除けるのは、歯の表面に付着した歯垢の1~2割に過ぎない  残念ながら、歯周病の発症と関わりが深い歯の根元(歯茎に近い方)の歯垢はあまり取れません。デンタルフードを食べているだけで歯がピカピカになり、歯磨きが全く必要なくなると考えるのは早合点です。

デンタルおやつの効果

 デンタルおやつとは歯磨き効果を持った猫用おやつのことです。「デンタルガム」「デンタルチュー」「デンタルトリーツ」などとも呼ばれます。過去に行われたいくつかの実験で、デンタルおやつにはある程度の歯磨き効果があることが確認されています。

デンタルおやつと口腔衛生

 デンタルおやつには口の中の健康状態を保ってくれる効果がいくらかあるようです。
 2006年から2007年にかけポーランド国内で開業している700を超える動物病院に協力を仰ぎ、猫合計6,371頭分の医療データを収集してもらいました(Buckley, 2011)。具体的には歯の表面の蓄積物、下顎リンパ節の大きさ、歯肉組織の健康状態を評価し、「OHI」(口腔衛生インデックス)として客観的に数値化するというものです。
 その結果、家庭内における口腔ケアがOHIに影響を及ぼしていることが明らかになりました。具体的には以下です。数値が大きいほど衛生状態が悪いことを意味しています。
飼い主による口腔ケアと猫の口腔衛生(OHI)
飼い主による口腔ケアと猫の口腔衛生(OHI)一覧グラフ
  • ケアなし=3.73
  • 歯磨き+おやつをたまに=3.19
  • 歯磨き+おやつを週に数回=2.64
  • ガム毎日=2.63
  • 歯磨き毎日=2.50
 口腔内にトラブルを抱えている可能性に関し、毎日歯磨きを受けている猫では12%、毎日デンタルおやつを与えられている猫では10%、歯磨きやデンタルおやつを週に数回与えられている猫では14%減少すると見積もられました。
 「歯磨き」の具体的な内容も「おやつ」の具体的な製品名も分からないため、上記した結果を頭ごなしに信用するのは危険です。しかし少なくとも、全く口腔ケアをしていないときよりは、デンタルおやつを食べているときの方がいくらか口の中の状態が衛生的に保たれるようです。

猫用ビルバックチュウ

 「Virbac C.E.T 猫用ビルバックチュウ」という製品を用いた実験の結果をご紹介します(Gorrel, 1998)
 室内飼いされている15頭の猫を対象とし、ドライフードを統一した上で最初の4週間ではデンタルチュウを1日1個、次の4週間ではデンタルチュウなしで給餌し、それぞれのフェイズにおける歯肉炎、歯垢の蓄積度、歯石の蓄積度を比較しました。
 その結果、歯垢と歯石に関し以下のような格差が見られたと言います。数字は大きければ大きいほど蓄積の度合いが高いことを意味しています。「チュウあり」「チュウなし」の順番です。
ビルバックチュウと歯垢・歯石
デンタルチュウ(Virbac C.E.T)を猫に与えることにより歯垢と歯石両方の蓄積が抑制される
  • 歯垢スコア=5.79 | 7.21
  • 歯石スコア=1.99 | 3.28
 歯垢にしても歯石にしても、デンタルチュウ(おやつ)を与えられていた時の方が蓄積が少なくなることが明らかになりました。製品は猫が丸呑みできないようかなり大きめに作られていますので、上記調査で見られた歯垢や歯石の予防効果は、主としておやつをガジガジかじることによる機械的な歯磨き作用だと考えられます。
 1998年当時と形状や含有成分が同じかどうかはわかりませんが、現在「Virbac C.E.T 猫用ビルバックチュウ」という製品は歯周病菌の抑制効果や口臭予防効果が示されているラクトペルオキシダーゼ(ラクトパーオキシダーゼ)を含んでいるようです。
 与える時の注意点は、猫が丸呑みせずしっかり「ガジガジ」していることを確認すること、及び1個16kcalの 熱量があるため用量(1日1個)を守ることです。

Whiskas Dentabits

 「Whiskas Dentabits」という製品を用いた実験結果をご紹介します(lngham, 2002)
 24頭の猫を対象とし、最初の4週間ではデンタルチュウを1日8個、次の4週間ではデンタルチュウなしで給餌し、それぞれのフェイズにおける歯肉炎、歯垢の蓄積度、歯石の蓄積度を比較しました。
 その結果、以下のような格差が見られたと言います。数字は大きければ大きいほど蓄積の度合いが高いことを意味しています。「チュウあり」「チュウなし」の順番です。
Whiskas Dentabitsと口腔衛生
デンタルチュウ(Whiskas Dentabits)を猫に与えることにより歯肉炎、歯垢、歯石の度合いが抑制される
  • 歯肉炎スコア=0.64 | 0.72
  • 歯垢スコア=5.77 | 6.78
  • 歯石スコア=0.69 | 1.91
 歯肉炎、歯垢、歯石の全てにおいて、デンタルチュウ(おやつ)を与えられていた時の方が健全に近い値を示しました。
Whiskas Dentabitsの形状  用いられた「Whiskas Dentabits」という製品は丸呑みしにくいような特徴的な形状をしていますので、ガジガジと咀嚼する時に機械的な剥離作用が働き、歯の表面から歯垢や歯石が取り除かれたのだと考えられます。
 この製品は日本国内で流通していませんが、似たような形状を持ったおやつには同様の歯磨き効果があるかもしれません。

デンタルジェルの効果

 デンタルジェルとは猫の歯に塗ることによって口の中の衛生状態を保つ製品のことです。アスコルビン酸亜鉛を含んだデンタルジェルが、猫の口内環境を改善させる可能性が示されています。
 36頭の猫を18頭ずつ2つのグループに分け、一方にだけ1日1回、上顎の両犬歯と接する粘膜上にアスコルビン酸亜鉛ジェルを1滴(0.05ml)ずつ垂らすという実験が行われました(Clark, 2001)
 6週間に渡って様々な指標をチェックしたところ、以下のような違いが現れたと言います。数字が大きいほど状態が悪いという意味です。
歯垢の蓄積スコア
アスコルビン酸亜鉛ジェルによって猫の歯垢蓄積スコアが改善する
歯肉炎の重症度スコア
アスコルビン酸亜鉛ジェルによって猫の歯肉炎重症度が改善する  歯石のスコアに関しては両グループ間で違いが見られませんでした。また口臭のスコアに関しては、ジェルグループで減少傾向を見せたものの、統計的に有意とまでは判断されませんでした。一方、歯周病菌として有名な「Porphyromonas gingivalis」のコロニー数に関しては、ジェルグループにおいて統計的に有意な減少が確認されました。
 現在、アスコルビン酸亜鉛を含んだデンタルジェルは市販されていないようですが、亜鉛を有効成分として含んだ他の商品は流通しているようです。成分の安全性(危険性)に関しては「犬猫用歯磨き粉の成分・大辞典」でまとめてありますのでご確認ください。
歯周病予防のゴールドスタンダードは「歯磨き」です。まずはそちらを試し、どうしてもできないときだけグッズに頼りましょう。
NEXT:歯磨きQ & A集

猫の歯磨きQ & A

 以下は猫の歯磨きについてよく聞かれる疑問や質問の一覧リストです。思い当たるものがあったら読んでみてください。何かしら解決のヒントがあるはずです。

グリニーズ®はおすすめ?

VOHCによる認証は受けています。

 「VOHC」(獣医口腔衛生評議会)とはペット用デンタル製品の認証を行っているアメリカの団体。独自の審査基準を設けており、プロトコルに沿って製造メーカーから提出された結果を審査した上で「VOHC Accepted」という表記を許認可しています。平たく言うと「この製品には効果がありますよ」というお墨付きです。
 最低2回の給餌試験を必須条件としており、また1回目と2回目の試験では別の個体を用いることを義務付けています。その他の規定は、クロス・オーバーデザインによる給餌試験の場合は、1フェイズにおける最低期間が28日などです。
 デンタルガムとして有名な「グリニーズ®」(Greenies)もVOHCの認証を受けていますが、VOHCのホームページ上でもグリニーズの公式ホームページ上でも、一体どのようなデザインで試験が行われ、どのような結果が得られたのかに関しては公開されていません
 客観的な検証ができない状態ですので、「グリニーズはおすすめ?」という問いに対しては「VOHCによる認証は受けている」という控えめな答え方にとどめておくのが妥当でしょう。

歯磨きおもちゃの選び方は?

摩擦性と耐久性がポイントです。

 歯磨きにしてもデンタルフードにしてもデンタルおやつにしても、歯の表面に対する摩擦が歯垢をそぎ落とすと言う原理は共通です。市販の歯磨きおもちゃを買う時も、手作りの歯磨きおもちゃを作る時も、この基本原理だけは外さないようにします。 歯の表面に対する機械的な刺激が歯垢を物理的に除去する  おもちゃと歯の表面との間に摩擦を引き起こすためには、猫がガジガジと噛み付くことが必要です。またたびなどを含んでいると咀嚼行動を誘発しやすいかもしれません。おもちゃの素材はつるっとしたものではなくザラッとした繊維素材を選ぶようにします。
 忘れてはならないのが耐久性です。何度もガジガジ噛み付いていると、そのうち壊れてバラバラになってしまいます。破片を飲み込んでしまうと胃や腸の中でひっかかり、場合によっては開腹手術を余儀なくされることもあります。使用したおもちゃは毎日チェックし、少しでも綻(ほころ)びが見られたら新しいものに交換した方が安全でしょう。 猫へのまたたびの与え方 猫と楽しく遊ぶには?

またたびの木はおすすめ?

血行促進効果はありますが歯磨き効果は限定的です。

 猫向けの嗜好品としてまたたびの木が売られています。ガジガジかじることで歯磨き効果がありそうですが、実際に与えてみるとそれほどうまくはいきません。
 まず第1に、またたびの多幸感成分(猫をうっとりさせる成分)はほとんどがでこぼこした果実に含まれており、枝の方にはあまり含まれていません。その結果、またたびの粉には反応するけれども木や枝には反応しないという猫がたくさんいます。
 第2に、木や枝をガジガジかじっていると表面が削れてだんだんとささくれだってきます。これを猫が誤って飲み込んでしまうと、喉に引っかかったり食道に刺さったりして大変危険です。
 第3に、枝を噛む時は奥歯を使いますが、歯の先端部分とは接触するものの、歯垢が蓄積しやすい歯の頬面部分(表から見える面)とはあまり接触しません。
 上記したような様々なデメリットがあることから、またたびの木や枝にはさほど歯磨き効果はないと推測されます。とはいえ、ガジガジかじることで歯茎の血行を促進するという効果くらいはあるでしょう。もし与える時は、猫が誤飲したり怪我をしないよう、飼い主がいる時にだけ与えるよう注意します。

ペット用歯磨き粉は安全?

微妙な成分も含まれています。

 ペット用の歯磨き粉としてペースト状の製品がいくつか売られています。しかし含有成分をよくよく見てみると、必ずしも安全とは言い切れないような物質が含まれていることがあります。例えば以下のような成分です。
安全性が不明な成分
 ペット用歯磨き粉の中には安全性が確認されていない物質を不用意に含んでいるものがあります。心配な方は上記した成分が含まれている製品は避けた方が良いでしょう。特に猫では肝臓における酵素活性が他の動物とは違いますので、思いもよらぬ健康被害が出る可能性を否定できません。なお歯磨き商品に含まれる成分の安全性(危険性)に関しては「犬猫用歯磨き粉の成分・大辞典」でまとめてありますので、使用する際は事前に必ずご確認ください。

マウスクリーナーはおすすめ?

亜鉛には歯周病菌の繁殖を抑える可能性が示されています。

 マウスクリーナーとは飲み水の中に入れるだけで口の中の状態を改善してくれるという製品のことです。口の中に直接スプレーするというタイプもあります。何種類かありますが、ほとんどに共通しているのは成分として「亜鉛」を含んでいるという点でしょう。
 亜鉛(Zn)には口内細菌の増殖を抑える効果が確認されています。例えば別々の5つの調査に参加した合計88人の被験者を対象とした調査では、クエン酸亜鉛を0.5%の割合で含んだ歯磨き粉を使用した場合、16時間後と22時間後のタイミングにおける歯垢の再蓄積が抑制されると報告されています(Saxton, 1986)。 また酸化亜鉛のナノ粒子(35nm)を50μg/mlの割合で含んだ溶液が、口内細菌の増殖を抑制し歯垢(バイオフィルム)の形成を阻害したとの報告もあります(Khan, 2013)
 一方、猫向けのマウスクリーナーは飲み水に混ぜたり口内に直接スプレーするという形で摂取させるものです。歯の表面に直接塗りつけた時と同じ効果があるかどうかはわかりません。また水の味が変わってしまって飲水量が減ってしまう可能性もあります。実証データを公開しているメーカーがありませんので、効果があるともないとも言えないのが現状です。
 ちなみにSCF(食品科学委員会)は2002年、人間向けの亜鉛摂取量基準として「1日25mgまで」という値を示しています出典資料:EFSA。体重60kgとすると、単純計算で体重1kg当たり0.4mg程度です。
 デンタルジェルを使うにしてもマウスクリーナーを使うにしても、亜鉛の摂取量が上記した基準値を超えないように注意する必要があります。なお歯磨き商品に含まれる成分の安全性(危険性)に関しては「犬猫用歯磨き粉の成分・大辞典」でまとめてありますので、使用する際は事前に必ずご確認ください。

歯磨きと寿命は関係ある?

口の中の健康状態と寿命との関係性が示唆されています。

 アメリカ国内にある一次診療施設の動物病院から、犬345,393頭分の医療記録を集めて死亡リスクに影響を及ぼす因子を統計的に検証したところ、デンタルケアと寿命との間に関係性があることが判明したと言います。具体的には超音波を用いたデンタルクリーニングを受けている犬では、クリーニングを受けていない犬に比べ、死亡リスクが20%ほど低下する(ハザード比0.817)というものです(Urfer, 2019)
 またデンタルケアを受けている猫に比べ、受けていない猫では血清中のIgG抗体濃度が高かったという報告もあります。これが歯周病に対する免疫反応なのか、それとも歯周病によって引き起こされた二次的な疾患に対する免疫反応なのかはわかりませんが、口内衛生が全身的な免疫反応に影響を及ぼす可能性が示唆されています(Cave, 2012)
人間においては歯周病が全身的な疾患の引き金になることが確認されています。猫においては慢性腎不全の発症リスクを高めることが確認されていますので、人も猫も歯磨きは大事ですね!