詳細
調査を行ったのはポルトガルにあるリスボン大学の獣医療チーム。短い口吻(マズル)がもたらす口腔内の変形と歯牙疾患との関連性を調べるため、2015年の1月から12月の期間、世界中のさまざまな地域(アメリカ・カリフォルニア4頭 | ポルトガル・リスボン27頭 | ポーランド・クラクフ19頭)に暮らすペルシャ40頭とエキゾチック8頭を対象とした歯牙検診を行いました。
猫たちの年齢は8ヶ月でから16.2歳。メス猫24頭(うち20頭は避妊済)、オス猫26頭(うち20頭は去勢済)という内訳です。全身麻酔をかけた上で徒手検査、写真撮影、エックス線撮影などを行ったところ、以下のような割合で口腔内の疾患が確認されたと言います。
Lisa A. Mestrinho et al., Journal of the American Veterinary Medical Association, July 1, 2018, Vol. 253, No. 1, Pages 66-72, doi.org/10.2460/javma.253.1.66
短頭種の歯牙疾患・異常
- 不正咬合歯並びが悪いことで36頭(72%)
- 叢生(そうせい)乱ぐい歯(歯並びガタガタ)のことで28頭(56%) | 特に切歯(人間で言う前歯)に多い
- 転位歯歯がおかしな方向に生えることで32頭(64%) | 検査した歯1,349本のうち「方向がずれる=106本」、「回転=9本」、「嵌頓=5本」
- 数の異常歯が多かったり少なかったりすることで38頭(76%) | 6頭(12%)は多く32頭(64%)は少ない | 総計151本の歯が欠失しており、上顎第二前臼歯が18頭で見られた
- 歯周病最低1本の歯が歯周病に冒されている44頭(88%) | 歯周病にかかっていない猫の平均年齢が2.6歳だったのに対し歯周病を抱えている猫の平均年齢が7.11歳
- 破折歯が折れることで11頭 | 合計21本の破折中、犬歯が19本と90%を占めた
- 歯根吸収最低1本の歯の歯根部が溶けて歯根吸収病変を呈していたのは35頭 | 病変を抱えている猫の平均年齢が7.9歳だったのに対し、抱えていない猫の平均年齢は2.5歳
Lisa A. Mestrinho et al., Journal of the American Veterinary Medical Association, July 1, 2018, Vol. 253, No. 1, Pages 66-72, doi.org/10.2460/javma.253.1.66
解説
不正咬合で歯並びが悪かった猫36頭のうち、上下の顎の位置関係は正常だけれども個々の歯並びに問題がある中性咬合(クラス1)が18頭(50%)、受け口(下顎近心咬合・クラス3)が14頭(38.9%)、顎の歪み(上下顎非対称・クラス4)が3頭(8.3%)、下顎が後ろに下がりすぎ(下顎遠心咬合・クラス2)が1頭(2.8%)という内訳でした。不正咬合に関する具体例は以下のページで詳しく解説してありますのでご参照ください。
鼻腔狭窄や熱中症の発症率を高めることが確認されています。こうした知識があれば、犬であれ猫であれ鼻ぺちゃという外見的な特徴を品種の中から駆逐するような動きが出て然るべきですが、どうやら世の中は逆方向に向いているようです。こうした傾向は、鼻ぺちゃ猫が登場する人気漫画を見ればよくわかるでしょう。猫の健康や福祉を本気で考えている真の猫好きなら、初心者層の衝動買いを助長するようなキャラクター設定はしないはずですけどね…。最低限以下のような情報は抑えておく必要があります。
以下の画像で示すようにを通常の猫に比べて短頭種では口吻の長さが著しく短くなっています。その結果、前方に成長しようという下顎の力と、上下の歯がかみ合わさることで生じる後方へのロックとが拮抗し、行き場を失った下顎の骨が弓なりになっています(=ventral bow)。
下顎が弓なりになると、当然ながら歯槽骨に生えている歯にも影響が及びます。歯が入るスペースが狭くなった結果が切歯の「叢生」、歯の成長過程でおかしな方向に力が加えられた結果が犬歯の「転位」、よくない歯並びによって噛む時の力学的な流れが変わった結果が前臼歯や犬歯の「歯根吸収病変」などです。
短頭種に関しては呼吸困難や水頭症・脳室拡大の原因になってる可能性が指摘されています。また犬においても