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猫の歯根吸収~症状・原因から予防・治療法まで

 猫の歯根吸収(しこんきゅうしゅう)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

猫の歯根吸収の病態と症状

 猫の歯根吸収とは、永久歯が解けて顎の骨に吸収されてしまう状態を言います。 猫の破歯細胞性吸収病巣~歯の根元がピンクに変色し、侵食されているのが見て取れる  乳歯が永久歯に生え変わるとき、破歯細胞(はしさいぼう)という細胞が乳歯に働きかけて溶かします。しかしこの細胞がなぜか永久歯まで溶かしてしまった状態が歯根吸収であり、破歯細胞性吸収病巣(はしさいぼうせいきゅうしゅうびょうそう)、もしくは歯頚部吸収病巣(しけいぶきゅうしゅうびょうそう)とも呼ばれます。中年期から始まる進行性の病気で、純血種猫の約80%、雑種猫の約40%がこの病気にかかっているともいわれています。なお、かつては猫に特有の病気と考えられていましたが、近年は他の動物にも発症することが確認されています。
 病変が始まるのは、歯の中でセメント質とエナメル質が結合する「セメントエナメル境」(CEJ)と呼ばれる歯根部位からです。基本的にどの歯でも発生しますが、最も起こりやすいのは上下の顎とも犬歯より後ろにある前臼歯や後臼歯とされています。 猫の歯の中で歯根吸収が起こりやすい危険地帯  猫の歯根吸収の主な症状は以下です。なお病期1~5とは、アメリカ獣医歯科学会(AVDC)が病気の進行具合を段階的に定義づけたものです。
猫の歯根吸収の主症状
  • よだれを出す
  • 口臭の悪化
  • 食欲不振
  • 歯肉の腫れと発赤
  • 歯の根元がピンク色に変色
  • 歯の縮小
歯根吸収の病気2~5
  • 病期1 歯の表面を覆う白いエナメル質の欠損があるものの0.5mm以下で、その下にあるゾウゲ質にまでは及んでいない。神経過敏は最小限にとどまった状態。
  • 病期2 欠損がエナメル質とゾウゲ質にまで及んでいるものの、まだ神経と血管のある歯髄(しずい)にまでは及んでいない。多少痛みがある。
  • 病期3 欠損が神経と血管のある歯髄にまで達しており、神経過敏が著明。患部を触ると、たとえ麻酔中でも歯をカチカチ鳴らすことがある。
  • 病期4 欠損が根元から徐々に上にある歯冠部(しかんぶ)にまで広がり始め、ちょうど木の根元を斧で削ったように歯が折れることもある。腫れた歯肉が歯の根元にせりあがってくる。
  • 病期5 歯冠が完全に欠損し、歯茎に埋まっている歯根部(しこんぶ)を覆うように歯肉が盛り上がる。

猫の歯根吸収の原因

 猫の歯根吸収の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
猫の歯根吸収の主な原因
  • 食生活の変化(?)  1960年以前、この破歯細胞性吸収病巣の症例はほとんどなく、ペットフードが登場し始めた70年代以降に急増していることから、食生活の変化が何らかの形で関係しているのではないかと考えられています。ビタミンDの過剰含有率や、フードの表面を覆っている酸性のコーティング物質などが有力視されてきましたが、どちらの説も明快な答えには至っていません。
  • 遺伝(?) 品種としてはシャムペルシャアビシニアンにやや多いとされますので、何らかの遺伝的な要因が絡んでいるの可能性もあります。
  • カルシウムの不均衡(?) 食餌中のカルシウム、マグネシウム、リンの量がアンバランスだと、体内におけるカルシウムの均衡が崩れ、誘因になる可能性が指摘されています。また副甲状腺機能低下症も遠因とされます。
  • 歯垢や歯石(?) 歯の表面に溜まった歯垢や歯石が炎症細胞を呼び寄せ、この細胞がサイトカインやプロスタグランジンといった化学物質に作用することで症状が引き起こされるという仮説もあります。

猫の歯根吸収の治療

 猫の歯根吸収の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
猫の歯根吸収の主な治療法
  • プラークコントロール  歯根吸収が病期1、すなわちエナメル質だけを侵食している場合は、歯磨きによるプラークコントロール(歯垢を溜めない)が第一の選択肢となります。つまり飼い主が自宅で猫の歯磨きを習慣化するということです。
  • 欠損部の修復  歯根吸収が病期2、すなわちエナメル質とゾウゲ質の両方を侵食している場合は、「グラスアイオノマー」と呼ばれるセメントの一種で欠損部を修復することがあります。これはフッ化物イオンを放出する物質で、露出したゾウゲ質の神経過敏を軽減すると同時にエナメル質を強化する作用を持っています。しかしこの治療法は長くて2年しかもたず、また成功率は20%程度と言われていますので、それほど劇的な改善は見込めません。
  • 抜歯  歯根吸収が病期3以降、すなわち神経と血管がある歯髄部分にまで病巣が進行した場合は、猫が激しい痛みを味わいながら生活することになりますので、抜歯が行われます。また炎症によって増殖した歯肉が邪魔な時は、炭酸ガスレーザーなどで切除することもあります。