猫の爪切りの必要性
猫の指先にある鋭い爪は獲物をつかまえたり木に登るときに用いられます。ですから人間と接点のない屋外暮らしの猫にとってはある程度必要となるでしょう。
一方、人間と一緒に家の中で暮らしているペット猫の場合、獲物を捕まえる必要も木に登る必要もありません。ですから以下に述べるようなさまざまなトラブルを未然に防ぐため、飼い主が定期的に爪切りをしてあげる必要があります。
NEXT:爪の構造を理解しよう!
一方、人間と一緒に家の中で暮らしているペット猫の場合、獲物を捕まえる必要も木に登る必要もありません。ですから以下に述べるようなさまざまなトラブルを未然に防ぐため、飼い主が定期的に爪切りをしてあげる必要があります。
爪切りで予防できること
- 猫ひっかき病 猫ひっかき病とは、猫の爪に付着したバルトネラヘンセラ(Bartonella henselae)という細菌が引っかき傷から体内に入ることにより、患部の発赤(約10日後)、リンパ節の腫れ、全身倦怠感、関節痛といった症状を引き起こす病気。猫の爪を切らないと皮膚に傷ができやすくなり、細菌の入り口になってしまいます。
- 家具へのダメージ 猫の爪は多層構造になっており、一番外側にある爪を剥がすことで常に尖った状態に保とうとします。爪を剥がすときは引っかかりのよいものが必要となりますが、ちゃんとした爪とぎを用意していないと壁紙やソファ、カーペットといったものにガリガリと爪をこすりつけ、文字通り「爪痕」を残してしまいます。
- ケガ予防 猫の爪がとがったままだと、猫同士が喧嘩した時流血騒ぎになるかもしれません。あるいは何らかの拍子に飼い主の皮膚に触れた時、ミミズ腫れになってしまうかもしれません。
上記したようなトラブルが発生して「もう猫なんていらない!」となってしまわないよう、飼い主は定期的に猫の爪をチェックし、ケアしてあげる必要があります。それでは具体的な手順ややり方を見ていきましょう!
猫の爪の基本構造
猫の爪を切る際は、猫の爪の解剖学的な基本構造を理解しておく必要があります。やま勘でむやみやたらに爪をカットしてしまうと、猫に「深爪」(ふかづめ)を負わせてしまい、思わぬトラブルの元になりかねません。
猫の爪の内部構造
猫の爪は内側と外側の二層構造になっており、内側のクイック(quick)と呼ばれる部分には神経と血管が通っています。猫が爪とぎをするのは、古くなった爪の最外層をはがすことで、常に新しい爪をむき出しにしておくためです。猫の爪は、鉛筆のキャップのように幾重にも重なった構造をしており、内側に新しい爪ができると、古くなった外側の層をはがす必要性が生じます。飼い主が爪切りでカットするのは、爪の外側の鋭利な先端のみで、内側(quick, クイック)は決して傷つけてはいけません。人間で言うと「深爪」した状態になり、大変な痛みが生じますし、出血した場合なかなか止まりません。
「quick」とは爪の下にある「生きた部分」という意味です。
図解・爪が飛び出すメカニズム
猫の爪が飛び出す構造は以下のようになっています。爪の下に付着した深趾屈筋腱(しんしくっきんけん)というケーブルが、深趾屈筋(しんしくっきん)という筋肉に引っ張られることで、ちょうど滑車のように爪が外に飛び出す構造です。
猫の爪の構造
図解・爪を指で出させる方法
猫の爪が飛び出す仕組みがわかれば、どうすれば人間の指で猫の爪を出させることが出来るのかもわかります。上で示した図のように、爪の根元部分を上下から指で挟むように押せば、自然と爪が飛び出すというわけです。猫の爪きりをする際に必要な知識ですので、覚えておいてくださいね!
猫の爪を切る方法
さて、猫の爪の基本構造と爪の出し方が分かったところで、早速実践編へ移りましょう。
猫の爪切りに必要な道具
猫の爪を切る際には爪切りが必要となりますが、人間の平べったい爪とは根本的な構造が違いますので、人間用の爪切りは用いないでください。ハサミ(ニッパー)型もしくはギロチン型の猫専用爪切りが市販されていますのでそれらを使うようにします。猫の爪は、ちょうど人間の爪が極端な巻き爪になってしまったような状態です。人間用の爪切りで上下や左右から挟んでしまうと、爪がおかしな割れ方をしてしまうことがあります。猫用の爪切りは圧力が四方から均等にかかるようにできていますので、こうしたアクシデントも防げます。
ハサミ(ニッパー)型の特徴は小さくて子猫~成猫まで幅広く使える点。ギロチン型の特徴は大きくて老猫の分厚くなった爪でも楽にカットできる点です。どちらを使うにしても刃の部分が錆(さ)びていたり刃こぼれしていないことを確認して下さい。 爪やすりはカットしたあとに残る角張った部分を丸くするために用います。止血剤は万が一深爪をして血が出てしまったときの備えです。切った後の爪の先っぽを放置すると、たまに踏んづけて痛い目にあうことがありますので、掃除機や粘着テープも用意しましょう。
ハサミ(ニッパー)型の特徴は小さくて子猫~成猫まで幅広く使える点。ギロチン型の特徴は大きくて老猫の分厚くなった爪でも楽にカットできる点です。どちらを使うにしても刃の部分が錆(さ)びていたり刃こぼれしていないことを確認して下さい。 爪やすりはカットしたあとに残る角張った部分を丸くするために用います。止血剤は万が一深爪をして血が出てしまったときの備えです。切った後の爪の先っぽを放置すると、たまに踏んづけて痛い目にあうことがありますので、掃除機や粘着テープも用意しましょう。
猫の爪切り道具
- 猫用の爪切り
- 爪やすり
- 止血剤
- 猫を安定できる場所
- 掃除機や粘着テープ
猫の爪切りの手順
猫の爪を切るときは、まず安定した場所に猫を寝かせ、前足をつかみます。爪を上下からはさむようにして押すと、自然に爪が外に飛び出します。飛び出した爪のうち、根元半分くらいは「クイック」と呼ばれ、神経と血管が通っています。クイックより外側のとがった部分を2mmほどカットするのが基本です。前足についている親指(dewclaw)も忘れずにチェックしましょう。これを切り忘れますと、伸びた爪の先端が肉球に食い込んでしまいます。
前足が終わったら、後足も同様にカットします。カットした部分がささくれだってカーペットなどに引っかかる場合は、爪やすりをかけて滑らかにしてください。誤って「クイック」を傷つけた場合は、市販の止血剤などで止血します。飛び散った爪の破片は掃除機や粘着テープで綺麗にしましょう。爪の先端はかなり鋭利ですので、踏んづけてしまわないようご注意を。
猫の爪噛み行為は正常の範囲内で、問題になることはほとんどありません。しかしまれに小さな傷口からバイ菌が入り、「爪囲炎」(そういえん)のような症状に発展することがありますので要注意です。予防法は、飼い主が定期的に爪をカットして違和感を抱かせないことと、爪の生え際が赤く腫れていないかどうかを日頃からよく観察しておくことです。
爪切りの頻度は「猫が爪とぎをして新しい爪が下から顔を出した時」です。ただしすべての爪が同時に新品になるわけではありませんので、爪切りがあまり好きではない猫の場合は、先のとがった爪がある程度たまったタイミングで切ってあげたほうがストレスが減ってくれるでしょう。拘束されることに抵抗がない猫の場合は、とがった爪を1本でも見つけたタイミングで構いません。
猫は爪に違和感がある時、自分の歯でガジガジと噛むことがあります!
爪切りの頻度は「猫が爪とぎをして新しい爪が下から顔を出した時」です。ただしすべての爪が同時に新品になるわけではありませんので、爪切りがあまり好きではない猫の場合は、先のとがった爪がある程度たまったタイミングで切ってあげたほうがストレスが減ってくれるでしょう。拘束されることに抵抗がない猫の場合は、とがった爪を1本でも見つけたタイミングで構いません。
【動画】猫の爪切りの仕方
猫が暴れるときは?
猫がおとなしい場合は何の問題もありませんが、手をつかまれるのがどうにもこうにも嫌いな猫は結構います。そんなときは以下のような方法を試してみてください。
暴れる猫の爪を切る
- 爪切りに慣らす猫が爪切りに慣れていない場合、まずは手を触られることと同時に爪切りの見た目や感触に慣れてもらうところからスタートします。猫が大好きなおやつを用意し、「手を触る→おやつを与える」「爪切りを見せる→おやつを与える」「爪切りで手に触れる→おやつを与える」という練習を繰り返しましょう(古典的条件付け)。詳しくは以下のページもご参照下さい。
- ネットに入れるトレーニングをしたにも関わらず猫がどうにもこうにも手を触らせてくれないような場合は、猫を洗濯ネットに入れて逃げ出せないようにします。この状態で後ろから猫の手をつかみ、前のセクションで説明した要領で爪を切っていきます。
- 協力者に抑えてもらう友人や家族など協力者がいる場合は、一人が抑える役、もう一人が切る役になって共同体制で爪を切ります。
- 動物病院で切ってもらうたいていの動物病院には「猫の爪切りサービス」がありますのでこれを利用します。料金は病院によってまちまちですので各自お問い合わせください。最も多い価格帯は500~1,000円です。
- ペットシッターに来てもらうたいていの猫にとって動物病院に行くというイベントはストレスになるものです。そんな場合はペットシッターに来てもらい、家の中で爪を切ってもらいます。見知らぬ第三者の存在がまた別のストレスになりますが、外出ストレスよりはマシという猫もいるでしょう。
猫の爪切りQ & A
以下は猫の爪切りについてよく聞かれる疑問や質問の一覧リストです。思い当たるものがあったら読んでみてください。何かしら解決のヒントがあるはずです。
人間用の爪切りはなぜダメ?
爪の構造が全く違うからです。
人間の場合、爪を作り出す爪母基(そうぼき, nail matrix)は直線上に並んでいるためそこから生えてくる爪も平面上になります。一方、猫の爪母基は指の第1関節(末節骨)の先端をぐるっと取り囲むように並んでいるため、そこから生えてくる爪は人間とは全く違う形状になります。具体的には以下のような円柱構造です。 人間の平べったい爪を切るためにデザインされた爪切りは、円柱構造をしている猫の爪には全く当てはまりません。人間用の爪切りを使ってはいけない理由はここにあります。
爪切りはいつから始める?
なるべく早い段階から始めます。
猫の爪は生まれた時からある程度生えそろっていますので、爪切りのしつけはできるだけ早い段階から始めるようにします。
生まれたばかりの子猫を育てている場合は、生後2~7週齢の「社会化期」と呼ばれる脳が柔軟な時期において、指先に触られることに十分慣らしておいてください。ただしこの時期は爪があまりにも小さいので、無理に爪を切ろうとすると誤ってクイックまで切ってしまいます。授乳する時にチクチク痛いかもしれませんが、しばらくの間は切らずに我慢してください。
子猫が成長し、クイックと爪の境界線がはっきりと分かるようになってきたら実際の爪切りに移ります。なお子猫を育てるときは人間の手をおもちゃ代わりにしてあやないようにしてください。手に噛み付くことが癖になり、スムーズな爪切りが出来なくなってしまいます。
爪を切りすぎて血が出ました…
止血して猫が指先を舐めないようにしてください。
爪を切りすぎていわゆる「深爪」の状態になると、クイックに含まれる毛細血管が傷ついて指先から出血してしまうことがあります。猫が深爪をしてしまった場合は取り急ぎ市販の止血剤を清潔なガーゼで出血部に当てて血が止まるまで(5~10秒間)ホールドしてあげましょう。
成分に「硫酸第二鉄」や「硫酸銅」が含まれているせいか「組織を焼く事で止血をする薬剤」といった都市伝説が流布していますが、これらは凝集剤や脱水剤です。多少の痛みを伴うものの、素早く止血することで傷口の感染を防いでくれますので少しの間だけ我慢してもらいましょう。 止血剤が手元にない場合の代用品としては、小麦粉、片栗粉、コーンスターチなどがあります。出血している部分に粉をまぶし、血が固まるまでの5~10分間、猫を安静にします。エリザベスカラーを持っている場合は首に装着し、指先を舐められないようにすることも有効です。
首の後ろをつまんでよい?
猫の体質に合わせてください。
子猫の首の後ろをつまむと体を丸めておとなしくなります。「つまみ誘発性行動抑制」(PIBI)と呼ばれるこの現象は成長してからも残っており、ほどんとすべての成猫では首の後ろをつままれるとおとなしくなります。 「PIBI」は猫の体を固定する際には簡便な方法ですが、基本的には緊急時にだけ使うようにしてください。例えば川で溺れている猫を助ける、地震が来て猫の安全を確保する、多頭飼育崩壊を起こした家において逃げ回る猫たちを保護するといった状況です。猫に優しい病院の称号である「キャットフレンドリークリニック」では、猫の首筋をつかんでおとなしくさせる「スクラフィング」 (scruffing)と呼ばれる手技を禁じていますので、あまり望ましい方法でないことはおわかりいただけるでしょう。 とは言え、猫の中にはうなじの部分をつかまれることが妙に好きなものもいます。マッサージをしてる時、首の後ろの皮膚を揉まれてうっとりしてるような猫の場合はそれほどストレスにはならないと考えられますので、例外的に許容されるかもしれません。
猫用マスクは便利?
体を強引に押さえつけるよりはマシでしょう。
爪を切ろうとすると盛大に暴れる猫のため、目と口を覆い隠してしまう専用のマスクが市販されています。目隠しをするとおとなしくなるという猫の習性を応用した製品です。口元も覆っていますので必然的に噛みつかれる危険性もなくなります。 猫が爪切りを嫌がる理由の一つは「得体の知れないものが指先に近づいてくる恐怖感」です。一方、猫に目隠しマスクをした場合、「視界を奪われた恐怖」が発生します。どちらの恐怖感が強いかは猫によりけりですが、明るい中で体を押さえつけ、力づくで強引に爪を切るよりはいくらかマシでしょう。
ちなみに猫が布団に入って添い寝してくれる場合、目隠しマスクは必要はありません。飼い主の熟練が必要ですが、指先の感覚だけで爪切りをすることも可能ですので練習してみてください。布団の中が暗くて爪切りが見えないせいか驚くほど猫が抵抗しなくなります。ただし失敗による深爪にだけはご注意を。
電動やすりは便利?
猫が音や振動を気にしないなら使えます。
ペットグッズとして電動爪やすり(ネイルグラインダー)というものが市販されています。これは高速で回転するやすりを爪の先端に当て削り取ってしまうというものです。ですから厳密に言えば爪切りではなく「爪削り」となるでしょう。 電動爪やすりを使う際の最大のネックとなるのは音と振動です。 猫の耳が不自由でそもそも音が聞こえないという場合は受け入れてくれるかもしれませんが、大抵の猫はモーター音を怖がって逃げてしまいます。また仮に音を気にしなかったとしても、指先に加わるヤスリの振動を嫌がって暴れるかもしれません。
全く不可能ではありませんが、事前に電動ヤスリの音や振動に十分慣らしておく必要があります。しつける際の基本的な理論は「古典的条件付け」です。「音を聞かせる→おやつを与える」「指先に触れる→おやつを与える」といった練習を繰り返し、猫が嫌がらない程度まで慣らしてください。
電動ヤスリを用いた爪削り
猫の体を無理やり押さえつけ、なおかつ騒音を発する道具で強引に爪やすりをかけるのは相当なストレスになります。ストレスに起因する病気を発症する危険性もありますので、支払った料金の元を取ろうとして猫に無理強いするのはお控えください。
最悪の場合は「ストレスサインとしての病気」を発症することがあります。猫の性格にかかわらず爪切りは最短で終わるように心がけましょう。