トップ猫の栄養と食事猫に必要な栄養素

猫に必要な栄養素・完全ガイド~適正量から欠乏症(失調症)・過剰症まで

 猫に必要な栄養は、私たち人間と同じ「六大栄養素」(炭水化物・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラル・水)です。ただし「完全肉食動物」であるため各栄養素の適正量がかなり異なります。まずは栄養学の基礎をマスターし、欠乏症(失調症)や過剰症が起こらないようしっかりと食餌管理をしてあげましょう。

猫に必要な炭水化物は?

 「炭水化物」(たんすいかぶつ, carbohydrate)とは単糖と呼ばれる炭素を含んだ分子を構成成分とする有機化合物の総称です。体内で分解されエネルギー源となる炭水化物を「糖質」、分解されず腸内細菌の発酵作用を受ける炭水化物を「食物繊維」と呼び分けることもあります。 炭水化物は米やパスタ(スパゲティ・マカロニ)の主要な構成成分  糖質の方は主として脳や筋肉に取り込まれてエネルギー源として活用されます。余った分はインシュリンというホルモンの働きで脂肪細胞や筋肉細胞に蓄えられ、逆に空腹時は体内のタンパク質(筋肉)や脂質(脂肪)が分解され、、糖質の最小単位である「グルコース」が合成されて利用されます。炭水化物(糖質)のカロリーはおよそ1グラム/4キロカロリーで、主な含有食品は砂糖・米・でんぷん・とうもろこし・イモ類などです。
欠乏(失調)症と過剰症 猫において炭水化物の明確な適正摂取量は定められていませんが、フード中(乾燥重量)に含まれる炭水化物が35%までなら十分消化できると考えられています。しかし含量が40%を超えると、高グルコース血症(高血糖)、尿中へのグルコースの排出(尿糖)、下痢、鼓腸、おなら等が発生しやすくなるという報告もあります。

猫にとっての炭水化物

猫にとってねずみとは、適度に炭水化物を含んだ完全栄養食。  猫にとって炭水化物(糖質)はさほど重要な栄養素ではありません。猫は長い進化の歴史の中で、主としてネズミなどのげっ歯類をえさとしてきましたが、そうしたげっ歯類の体内には、草や穀物や木の実などの炭水化物が含まれていることもあります。例えば猫の好物として名高いネズミの体組成を調べた調査によると、炭水化物が1.2%、タンパク質が55%、脂質が38.1%だったといいます。このようにわずかですが、猫の獲物の中には炭水化物が含まれているのです。もし体に炭水化物の消化吸収能力が無いと、こうした獲物の体内に残っている炭水化物が体内に入るたびに嘔吐や下痢を繰り返してしまうでしょう。
 ですから、雑食である犬や人間に比べると劣りますが、猫にもある程度の消化吸収能力はあるわけです。ただし、猫の感覚からすると「メインディッシュである肉を食べるついでに、炭水化物を消化吸収する」といった感じで、さほど重視はしていません。

炭水化物の種類

 炭水化物は単糖・二糖・多糖に分類されます。それぞれに属する代表的な物質は以下です。

単糖

 「単糖」(たんとう)とは、それ以上加水分解されない糖類のことです。種類としては体内でエネルギー源になる「グルコース」(ブドウ糖)、果物に多く含まれる「フルクトース」(果糖)、グルコースほど甘くなく、またそれほど水にもとけない「ガラクトース」などがあります。
 単糖の中でも特にグルコースは、摂取した脂質やタンパク質などからも体内で合成され、脳や筋肉のエネルギー源になる重要な栄養素です。血中の糖濃度は人間と同様、主として脳内の視床下部(ししょうかぶ)という部分で自動調整されていますが、濃度が低いときはグルカゴンというホルモンの作用で体内の脂肪や筋肉を分解してグルコースを血中に補給し、逆に高すぎるときはインスリンというホルモンの作用で血中から脂肪細胞に中性脂肪(いわゆる肥満の原因である”ぜい肉”)という形で貯蔵されます。なお、血中のグルコース濃度が高い状態を「高血糖」、逆に低い状態を低血糖と呼びます。
 猫の体内における糖の代謝能力には限界があります。例えばグルコースの代謝に関わる「グルコキナーゼ」という酵素の働きは雑食動物に比べて極めて弱く、またフルクトースの代謝に関わる「フルクトキナーゼ」という酵素に至っては、そもそも持っていません。こうした糖代謝能力の低さが、猫が時に「完全肉食動物」と呼ばれる理由です。

二糖

 「二糖」(にとう)とは、糖類の最小構成単位である単糖2分子が脱水縮合し、グリコシド結合を形成して1分子となった糖のことです。種類としては砂糖などに含まれる「スクロース」(グルコース+フルクトース/ショ糖とも)、牛乳などに含まれる「ラクトース」(グルコース+ガラクトース/乳糖とも)、麦芽などに含まれる「マルトース」(グルコース+グルコース/麦芽糖とも)などがあります。
猫は二糖類の一種であるショ糖(砂糖)を感じるセンサーを持っていない  猫の舌には甘みを感じるセンサーが存在しないといわれています。これは甘みを感じさせる代表格である砂糖(栄養学的にはショ糖=スクロース)が猫の体にとって、さほど重要ではないことの顕著な証拠といえるでしょう。また牛乳を飲むと下痢を起こしてしまう猫もいますが、これは牛乳に含まれる乳糖(ラクトース)を分解する「ラクターゼ」と言う消化酵素が不足しているためです。生まれてすぐのころは母乳を分解するためラクターゼの活性は高まっていますが、離乳後は急激に減少します。成猫になるとラクトースの分解能力はほぼ失われ、体重1キロあたり1.3gまでなら何とか分解できるものの、それ以上になると腸内微生物の発酵を受けて下痢や鼓腸(おなかが張る)の原因となってしまいます。

多糖

 「多糖」(たとう)とは、単糖分子がグリコシド結合によって多数重合した糖のことです。種類としては植物のグルコース貯蔵形態で、じゃがいもの根などに貯蔵される「デンプン」、動物のグルコース体内貯蔵形態で、筋グリコーゲンや肝グリコーゲンなどの形で貯蔵される「グリコーゲン」などが挙げられます。
分解酵素アミラーゼをほとんど含まない猫にとって、デンプンの分解は一苦労。  猫の唾液には、デンプンを分解する「アミラーゼ」という酵素が含まれていません。ですから人間のように、お米を噛んでいるうちに分解されて甘みが出てくるということはないでしょう。また体内におけるアミラーゼ活性も低く、犬のおよそ1/3程度しかないと推測されています。ですからじゃがいもや米など、デンプンを多く含む食事を与えたとしても、体内で消化分解されず、下痢を起こしてしまう可能性があるのです。猫が市販ペットフードに含まれるデンプンをすぐに消化できるのは、ドライペットフード生産で使われる「エクストルード加工処理」(押し出し成型)がデンプンをゼラチン化し、穀物中のデンプンの消化性を高めているためです。

食物繊維

 「繊維」(せんい, fiber)とは、グルコースがα結合ではなくβ結合した重合体の総称です。具体的にはビートパルプに多く含まれるセルロース、ペクチン、ヘミセルロースなどがあります。またこんにゃくのマンナンオリゴ糖(グルコマンナン, MOS)、アスパラやバナナのフラクトオリゴ糖(FOS)、チコリーのイヌリンなども食物繊維に含まれます。
 繊維がもつ最大の特徴は、猫の体内の酵素ではβ結合を切断できず、腸内にいる微生物の酵素だけが切断できるという点です。微生物によって分解された繊維は、さまざまな経路を経てピルビン酸という物質に代謝されます。そしてこのピルビン酸は短鎖脂肪酸に転換され、宿主である動物の腸管の健康を維持するための基となります。つまり腸内微生物は、動物の体内に住まわせてもらっている代わりに、腸の動きを活発にするという「家賃」を支払っているわけです。
繊維の働き
  • 消化管内の内容物の通過時間を調整する
  • 血中グルコースレベルを調節する
  • 腸管内のpHを減少させ、嫌気性の微生物の割合を増加させる
  • 微生物の短鎖脂肪酸、ビタミンK、ビオチン、二酸化炭素、メタンなどを産生を促す
  • 短鎖脂肪酸は結腸においてイオンや水分の吸収を促進する
  • 大腸粘膜の健康を維持する
 繊維の整腸作用を利用した毛球症予防のフードの中には、この食物繊維が7%以上含まれているものもあります。ただし、たくさん摂りすぎると下痢やおならの原因になりますので「適量」が重要です。
 なお、微生物が生み出す短鎖脂肪酸(酪酸・プロピオン酸・酢酸など)は馬や牛といった草食動物にとってはエネルギーの75%を占めています。一方、犬や猫にとってはエネルギー全体のわずか5%以下しか占めていません。この違いは、雑食である犬や肉食である猫の腸が短く、また食物の通過時間が速いため、微生物が繊維を分解するだけの十分な時間がないためです。腸の長さに関し、猫は体長の4倍、犬は6倍、ウサギは10倍、そして馬や牛では20倍程度と言われています。
NEXT:タンパク質とは?

猫に必要なタンパク質は?

 「タンパク質」(protein)はアミノ酸と呼ばれる分子が鎖状に連結して構成される高分子化合物の総称。主として筋肉やホルモンなど、アミノ酸を必要とする体内組織に変わります。炭水化物(糖質)、脂質からタンパク質は合成されませんので、外から食事として摂取する必要があります。 鮪や肉の赤身はタンパク質の主要な供給源になる  タンパク質のカロリーはおよそ1グラム/4キロカロリーで、主な含有食品は肉の赤身部分・魚・大豆製品・卵白・牛乳・チーズなどです。
欠乏(失調)症と過剰症 最低摂取量に関しては、 NRC(全米研究評議会)が「理想体重1kgにつき3g以上」、AAHA(アメリカ動物病院協会)が「理想体重1kgにつき5g以上」と推奨しており、やや幅があるようです。一方、猫は完全肉食性でタンパク質の分解が得意ですので、上限は設けられていません。

猫の必須アミノ酸

 タンパク質は体内で「アミノ酸」と呼ばれる22種類の物質に分解されます。このアミノ酸の内、体内で合成できず食事として摂取する必要のあるものが「必須アミノ酸」(ひっすあみのさん)で、成人(成猫)では体内で合成できるものの、成長の早い段階では体内での合成量が十分でなく、不足しやすいアミノ酸が「準必須アミノ酸」(じゅんひっすあみのさん)です。
 猫には11種類の「必須アミノ酸」と2種類の「準必須アミノ酸」があることがわかっています。必須アミノ酸に関しては、AAFCO(米国飼料検査官協会)が最低摂取量を公開していますので以下のページも合わせてご覧ください(下段の4項目を除いた全て)。 猫の必須アミノ酸・機能と最少栄養要求量
猫の必須アミノ酸
  • バリンカッテージチーズ、魚、鶏肉、牛肉、ラッカセイ、ゴマ、レンズマメなどに多く含まれる
  • ロイシン牛乳、ヨーグルト、海苔、和牛、鶏卵、食パン、大豆
  • イソロイシン俗に「筋肉をつくる」「疲労を抑える」といわれており、運動中の筋肉消耗の低減に一部で有効性が示唆されている
  • リシンリシンが欠乏するとビタミンB群の1つ、ナイアシンの不足を招く。これによりペラグラ(ニコチン酸欠乏症候群)にかかることがある。クレソン、ホウレンソウなどに多く含まれる
  • トレオニンカッテージチーズ、鶏肉、魚、肉、レンズマメ
  • メチオニン血液中のコレステロール値を下げ、活性酸素を取り除く作用がある。ホウレンソウ、グリーンピース、ニンニク、ある種のチーズ、トウモロコシ、ピスタチオ、カシューナッツ、インゲンマメ、豆腐、テンペ、肉類では鶏肉、牛肉、魚肉など大部分のものに含まれる
  • ヒスチジンヒスタミンなどの原料で、脂肪細胞からの脂肪の分解を促進する。マグロなどに多く含まれる
  • フェニルアラニン脳内で神経伝達物質に変換される重要な必須アミノ酸
  • トリプトファン肉、魚、豆、種子、ナッツ、豆乳や乳製品などに豊富に含まれる
  • タウリンカルボキシル基を持たないため厳密な意味ではアミノ酸ではないが、便宜上必須アミノ酸に分類される。消化作用を助けるほか、神経伝達物質としても作用する
  • アルギニンアンモニアの生体内解毒を助け、免疫反応の活性化、細胞増殖促進し、コラーゲン生成促進などにより、創傷や褥瘡の治癒を促す。肉類、ナッツ、大豆、玄米、レーズン、エビ、牛乳などに多く含まれる
 猫の必須アミノ酸のうち、バリン~トリプトファンまでの9種類は人間にとっての必須アミノ酸でもあります。いわゆる「ネコマンマ」と呼ばれる、ご飯に味噌汁をかけてかつをぶしをかけたような食事では、上記した必須アミノ酸を摂取することは到底不可能です。アミノ酸の中でもアルギニンとタウリンが欠乏すると、深刻な体調不良に陥る危険性があります。
 「タウリン」が不足すると進行性網膜萎縮という病気にかかったり、心臓の機能が低下したり、繁殖能力や成長力が阻害されたりします。「アルギニン」が不足すると尿を正常にろ過することが出来なくなって、アンモニア中毒にかかったり、脂肪肝になる危険性が高まります。
猫の準必須アミノ酸
  • システイン赤唐辛子、ニンニク(※猫に有毒)、タマネギ(※猫に有毒)、ブロッコリー、芽キャベツ、オート麦、小麦胚芽に含まれる
  • チロシン動物性タンパク質に広く含まれる
 システインは本来、体内においてメチオニンから作り出されますが、幼齢期においては生成能力が足りないため、外から補う必要があります。チロシンは神経伝達物質の前駆物質であり、血漿中のノルアドレナリンやドパミンのレベルを増加させる作用を持ちます。

猫のタンパク質要求量

 犬のタンパク質要求量が、体重1kg当たり1.6~2.5gであるのに対し、猫のそれは3~5gと高めです。この理由は、体内におけるタンパク質不足とそれに伴う各種の体調不良を予防する必要があるためです。
 猫の肝臓は炭水化物を代謝する各種酵素の活性が低いかわりに、タンパク質(アミノ酸)から糖(グルコース)を新生する「トランスアミナーゼ」や「デアミナーゼ」といった酵素の活性が高く維持されています。この酵素活性は食事の質にかかわらずほぼ一定であるため、タンパク質の摂取量が少ないにもかかわらず、積極的にタンパク質が分解されるという状況が容易に発生します。つまり、体内でタンパク質不足が起こりやすいのです。
 こうした体質の違いにより、猫のタンパク質推奨値は犬よりも高く設定されています。
NEXT:脂質とは?

猫に必要な脂質は?

 「脂質」(ししつ, fat)は水には溶けないけれどもエーテルやクロロホルムといった有機溶媒には溶ける物質の総称。構成分子は炭素、水素、酸素で、トリアシルグリセロール、リン脂質、コレステロール、コレステロールエステルといった形を取ります。 脂質は動物の脂肪組織中に多量に含まれている  生体内で余った脂質はインシュリンというホルモンの働きで脂肪細胞や筋肉細胞に蓄えられ、逆に空腹時は体内のタンパク質(筋肉)や脂質(脂肪)が分解され、糖質(グルコース)が合成されて利用されます。脂肪が蓄積する過程が肥満、逆に意識的に脂肪を減らす過程がダイエットです。脂質のカロリーはおよそ1グラム/9キロカロリーで、主な含有食品は肉の脂身部分・バター・生クリーム・マヨネーズ・植物油・卵黄などです。
欠乏(失調)症と過剰症 猫の1日に必要な脂質の量に厳密な決まりはありませんが、カロリーが「9kcal/g」と高いので(炭水化物とタンパク質は共に4kcal/g)、他の栄養素とのバランスを考えた上で摂取量を決めることが望まれます。

脂質の種類

 脂質は栄養学上おおまかに「単純脂質」「複合脂質」「誘導脂質」の3種類に分けられますが、このうち食事として摂取する機会が多いのは、単純脂質に属するトリアシルグリセロール、つまり「中性脂肪」でしょう。平たく言うと肉の脂身のことです。中性脂肪は体内で分解され、脂肪酸(しぼうさん)とグリセリンに分かれます。さらに脂肪酸には「飽和脂肪酸」(ほうわしぼうさん)と「不飽和脂肪酸」(ふほうわしぼうさん)があり、体内において多くの生理作用を示します。
脂肪酸の種類
  • 飽和脂肪酸飽和脂肪酸(ほうわしぼうさん)は畜産動物の肉に多く含まれ、常温で固体を維持します。病気との関連が示されいるため、人間でも過剰な摂取は推奨されていません。
  • 不飽和脂肪酸青魚ばかり食べていると、不飽和脂肪酸の過剰摂取で、「黄色脂肪症(イエローファット)」を発症することも。不飽和脂肪酸(ふほうわしぼうさん)は、植物や青魚の中に多く含まれ、常温でも液体のままです。1930年代の動物実験により、不飽和脂肪酸を欠くことで皮膚障害や不妊などが引き起こされることが分かっています。ただし過剰な摂取は逆に健康を損ないます。不飽和脂肪酸はアジ、サバ、カツオなどの青魚に大量に含まれているので、これらの魚ばかりたべている猫では腹部などの皮下脂肪が酸化・変性して炎症を起こし、 黄色脂肪症(イエローファット)という病気になることもあります。魚を多く摂取する際は量に気をつけると同時に、抗酸化作用のあるビタミンEを併せて摂ることが重要です。

猫の必須脂肪酸

 体内で他の脂肪酸から合成できないために、食事として摂取する必要がある脂肪酸を「必須脂肪酸」(ひっすしぼうさん)と呼びます。必須脂肪酸に関しては、AAFCO(米国飼料検査官協会)が最低摂取量を公開しています。基本的な作用と共にまとめましたので以下のページも合わせてご覧ください(下段の4項目)。 猫の必須脂肪酸・機能と最少栄養要求量
猫の必須脂肪酸
  • リノール酸エネルギーの利用と貯蔵、アラキドン酸の前駆物質。人や犬は体内でリノール酸からアラキドン酸をある程度合成することができますが、猫は合成することができないため、食べ物から摂る必要があります
  • αリノレン酸エネルギーの利用と貯蔵、エイコサペンタエン酸の前駆物質
  • アラキドン酸エネルギーの利用と貯蔵、エイコサペンタエン酸の前駆物質。アラキドン酸は植物にはほとんど含まれないため、必然的に動物の肉を食べる必要があり、これは猫が肉食である理由の一因と言えるでしょう。主に肉、卵、魚、母乳などに多く含まれています
  • EPAとDHAEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)共にエネルギーの利用と貯蔵、網膜や神経組織の発達、膜の流動性調節
NEXT:ビタミンとは?

猫に必要なビタミンは?

 「ビタミン」(vitamin)とは、体の調子を整える作用を持った、欠くことのできない化学物質のことです。ビタミンの種類は、脂によく溶ける性質を持った「脂溶性ビタミン」と、水によく解ける性質を持った「水溶性ビタミン」とに大別されます。なおビタミンに関しては、AAFCO(米国飼料検査官協会)が最低摂取量を公開しています。基本的な作用や「欠乏症」(失調症)、「過剰症」と共にまとめましたので以下のページも合わせてご覧ください。 猫に必要なビタミン一覧
脂溶性ビタミン
  • ビタミンA皮膚や粘膜を丈夫に保ち、感染予防に効果がある。猫はβカロテンをビタミンAに変換する腸内ジオキシゲナーゼという酵素を持っていないため不足しがちになります
  • ビタミンD腸管からのカルシウムの吸収を盛んにする。猫では、皮膚内での光合成によりビタミンDを合成する7-デヒドロコレステロールという物質が少ないため、不足しがちになります
  • ビタミンE血管壁を丈夫に保ち、動脈硬化を予防する
水溶性ビタミン
  • ビタミンB1糖質(炭水化物)をエネルギーに変える
  • ビタミンB2体毛、皮膚、脂質の代謝を促進する。抗酸化作用
  • ビタミンB6歯、皮膚の代謝を促進し胃酸の分泌を活性化する
  • ビタミンB12ヘモグロビン、アミノ酸の生成を促進する
  • ナイアシン(ニコチン酸)血管拡張作用と性ホルモンの合成
  • 葉酸(ビタミンM)DNAと赤血球の合成
  • パントテン酸副腎皮質ホルモンの合成
  • ビタミンCコラーゲンを生成し、カルシウムの代謝を促す
 猫が猫草を食べる理由は、不足している葉酸(ビタミンM)を補給するためではないかという仮説がありますが、今の所実証した人はいません。最後に挙げたビタミンCに関し、猫は体内で合成できるため実は外部から摂取する必要がありません。逆にビタミンCが必要なのは、霊長類とモルモットと数種の魚類だけですので、私たち人間の方がマイナーの部類に入ります。ちなみに人間がグルコースからビタミンCを生成することができないのは、「L-グロノラクトンオキシダーゼ」と呼ばれる酵素が不足しているためです。
NEXT:ミネラルとは?

猫に必要なミネラルは?

 「ミネラル」(mineral)とは生体にとって欠かせない微量元素のことで、日本語では「無機質」(むきしつ)と呼ばれます。多すぎても少なすぎても体調不良に陥るため、摂取には慎重を要する栄養素です。

猫に必要なミネラル

 ミネラル(無機質)に関しては、AAFCO(米国飼料検査官協会)が最低摂取量を公開しています。基本的な作用や「欠乏症」(失調症)、「過剰症」と共にまとめましたので以下のページも合わせてご覧ください。 猫に必要なミネラル一覧
ミネラル(無機質)一覧
  • 鉄(Fe)ヘモグロビン中で酸素の運搬に役立つ
  • カルシウム(Ca)骨に沈着して骨格を形成する
  • マグネシウム(Mg)カルシウムと共に筋肉の収縮を助ける
  • リン(P)カルシウムと共に骨や歯を丈夫にする
  • 亜鉛(Zn)酵素を活性化し、細胞分裂を正常に行わせる
  • ナトリウム(Na)カリウムと共に血管の機能を正常に保つ
  • カリウム(K)ナトリウムと共に血管の機能を正常に保つ
  • ヨウ素(I)甲状腺ホルモンの成分となる
 アメリカでは人間用のカルシウムサプリメントによる中毒事故が多く報告されています。症状は嘔吐、下痢、急性の腎不全などです。症例は主に犬ですが、飼い主が猫に無理やり飲ませることで事故につながってしまう可能性も否定できません。カルシウムサプリには多くの場合、腸管からの吸収を早める目的でビタミンDが添加されています。このビタミンは脂溶性で過剰症がありますので、薬を飲ませるときのように人間用サプリメントを強引に口の中に入れるのは控えましょう。

猫の食塩摂取量

 食塩もナトリウム(Na)と塩素(Cl)からなるミネラルの一種です。人間には馴染み深い調味料ですが、猫における摂取量に関してはよくわかっていません。例えば以下のような感じです。
猫のナトリウム摂取量は?
  • NRC「NRC」(全米研究評議会)によると、猫のナトリウムの推奨摂取量に関し、成長期の子猫で「3.09mg/kcal」(740mg/MJ)、維持期にある成猫で「0.17mg/kcal」(40mg/MJ)と定められています(2006年度版)
  • AAFCOAAFCO(アメリカ飼料検査官協会)の栄養ガイダンスでは、猫の年齢、性別、妊娠状態にかかわらず、ナトリウムの摂取最小値が「0.5mg/kcal」と定められています(2016年度版)
  • ナント大学フランス・ナント大学を中心としたチームが2016年の時点で存在している猫の塩分(ナトリウム)摂取に関する研究を網羅的に調べなおしたところ、猫の年齢にかかわらず1日当たり3.1mg/kcal(740mg/MJ)程度が妥当だろうとの結論に至っています
 上記したように、調査機関によって基準値がバラバラです。あえて上限値と下限値を設定すると、子猫だろうと成猫だろうとフード1kcal中に含まれるナトリウムの許容量は以下のようになるでしょう。
✓猫のナトリウム摂取許容量=0.5mg~3.1mg/kcal
 下限値を下回ると腎臓の負担が増えて慢性腎不全を悪化させてしまう危険性があります。逆に上限値を上回ると、人医学の分野で確認されているような各種の疾患(高血圧や心臓病など)を引き起こしてしまう可能性を否定できません。現時点では上記した範囲内に抑えるのがもっとも無難だと考えられます。
 例えばある猫の1日の摂取カロリー数が400kcalの場合、ナトリウムの摂取量は「0.5mg×400kcal」~「3.1mg×400kcal」で「200mg~1,240mg」ということになります。食塩1gに含まれるナトリウムはおよそ400mgですので、ナトリウム200mg~1,240mgを食塩でイメージすると「0.5~3g」程度となるでしょう。ナント大学が行った調査の詳しい内容は以下のページでも報告してありますのでご参照下さい。 猫における塩分(ナトリウム)の許容最大値と最小値 NEXT:水の必要量は?

猫に必要な水は?

 猫の身体は、胎児期~未成熟期には80~90%、成猫になると60~70%が水分で占められています。一般的に、猫が1日に必要とする水の量は「1.2×(30×体重kg)ml」程度です。つまり、体重4kgなら144ml、5kgなら180ml、8kgなら288ml程度ということになります。ただしこの量はあくまでも目安で、運動量、病気の有無、季節、妊娠や出産、ウェットフードかドライフードかなどによって容易に変動します。

飲水不足による健康被害

 猫の祖先であるリビアヤマネコは砂漠出身のため、あまり頻繁に水を飲む機会がありませんでした。その結果獲得したのが「のどが渇いても我慢する能力」や「おしっこを濃縮する能力」です。しかしこの特殊能力は、猫の健康に悪影響を及ぼす危険因子としての側面も持っています。
水を飲まない弊害
  • 脱水症状気温が高い夏場、あまりにも飲水量が少ないと脱水症状に陥ることがあります。体水分の5%損失で「体調不良」、10%損失で「意識障害」、15~20%損失で「生命の危機」というのが一般的な目安です。
  • 泌尿器系の病気日常的な飲水量が少ないと尿が濃くなり、さまざまな泌尿器系疾患を発症することがあります。一例を挙げると、下部尿路症候群膀胱結石腎結石特発性膀胱炎などです。
 猫がこうした疾患にかからないよう、飼い主は猫がなるべくたくさん水を飲むよう促してあげる必要があります。ただし、一日に飲む水の量が体重1kg/45mlを超えると、逆に「多飲」という病的な状態が疑われます。具体的には腎機能の低下や糖尿病などが考えられますので、あまりにも大量に飲む場合は獣医さんに相談しましょう。 猫の泌尿器の病気

猫に水を飲ませるコツ

 泌尿器系の疾患を予防するため、猫には毎日適切な量の水を飲ませる必要があります。以下は、猫に効果的に水を飲ませる際のヒントです。
猫に水を飲ませる方法
  • 水飲み場を増やす水を飲む場所は1ヶ所だけではなく、部屋の中に複数ヶ所設けた方がベターです。「あ、水飲むの忘れてた!」という具合に、まるで思い出したかのように飲んでくれるかもしれません。また多頭飼いの家庭においては、他の猫との資源の共有を避けるという意味もあります。
  • 常に新鮮な水を飲み水は常に新鮮なものを補充するようにします。うっすらと水面に埃が浮かんでいたり、微妙な匂いの変化があると、猫はそっぽを向いてしまうことがあります。
  • 容器は清潔に水飲み容器の底に発生するピンクのシミ水飲み容器を長時間放置しておくと、底にピンク色のシミのようなものが発生することがあります。これは「セラチア」(Serratia marcescens)と呼ばれる細菌、もしくは「ロドトルラ」(Rhodotorula)と呼ばれる酵母の一種だと考えられます。害はほとんどありませんが、ひょっとすると鼻が敏感な猫にとっては、忌避の原因になってしまうかもしれません。水は最低でも12時間で1回取り替え、容器の底をこまめに洗ってぬめりが残らないようにした方がよいでしょう。
  • 噴水式を使ってみるまるで噴水(ファウンテン)のようにちょろちょろと水を吹き出してくれる市販品があります。テネシー大学獣医科学部のチームが行った調査では、「たいして飲水量は変わらない」という残念な結果が報告されていますが、水の動きに興味を引かれていつもよりたくさん飲んでくれるかもしれません。 循環式の水飲み容器で猫の飲水量は増えるのか?
  • マタタビを混ぜてみる水に混ぜるスタイルのマタタビフレーバーが市販されています。に反応示す猫の場合は効果があるかもしれません。
  • 好物を水で薄める大好きなドライフードを水でふやかしたり、ペースト状のおやつに大さじ1~2杯の水を加えて飲水量を増やすという方法があります。猫が嫌がらないようでしたら試してみる価値はあるでしょう。2019年に行われた観察調査でも、栄養成分や猫の嗜好性を高めるフレーバーを添加することで飲水量を増やすことができるとの結果が報告されています。 水を飲まない猫の飲水量を増やすコツは鶏肉フレーバー?
  • 水にとろみをつけるオレゴン州立大学獣医学校を中心としたチームが2021年に行った調査では、単純に水の粘度(とろみ)を高めると猫の飲水量が増える可能性が示されています。具体的には食物繊維の一種であるヒドロキシプロピルメチルセルロースを1%の割合で溶かし、粘度を282センチポアズに調整するというものです。水をペチャペチャする際、舌先に付着する水の量が増えることで結果的に飲水総量が増えるものと考えられています。 猫の飲水量を増やす簡単なコツは「とろみ」をつけること
  • 水に塩を混ぜる(?)2016年に行われた最新調査により、猫にとって問題となるのは食塩の摂り過ぎではなく、逆に不足の方である可能性が示されました。猫とミネラルでも解説したとおり、ナトリウムの1日摂取量が「0.5mg~3.1mg/kcal」の範囲内であれば重大な体調不良を招くことはないと考えられますので、水に軽くお塩を振ってみるのもよいでしょう。ただしフードにもナトリウムが含まれていますので、その分を差し引いた上で与えて下さい。猫における塩分(ナトリウム)の許容最大値と最小値
  • 適度な運動をする適度な運動をさせることで呼吸が荒くなると、あえぎ呼吸(パンティング)を通して体液が失われます。それを補うためいつもより必死に水を飲んでくれる可能性があります。
  • カルキを避ける猫は「カルキ」を含む水道水を敬遠することがあります。カルキ臭のないミネラルウォーターか、一度沸騰させてカルキ臭を飛ばして冷ました水の方が飲んでくれるかもしれません。水が気に入らないと便所や風呂場の残り湯を飲むこともありますので、落下事故などへの注意が必要です。

猫の飲水量を測る方法

 噴水式の給水器を使っていたり多頭飼いしている家庭においては難しいかもしれませんが、単頭飼いの家庭において猫の飲水量をある程度は測ることができます。
 まず容器にぴったり100cc(100g)水を入れ、いつも容器を置いている場所に安置しましょう。この時猫が水を飲まないようブロックしておいて下さい。6時間後、水の重さを計測してみます。例えば95cc(95g)に目減りしている場合、6時間の自然蒸発量が5cc(5g)であることがわかります。 一定時間における水の自然な蒸発量をあらかじめ知っておく  再び容器に100cc(100g)の水を入れ、今度が猫が飲める状態にして安置しましょう。6時間後に回収して水の重さを量ったとき、もし80cc(80g)になっていたら、蒸発分5ccを差し引いた15ccが猫の飲水量ということになります。 一定時間内に目減りした水の量から自然蒸発量を差し引いた分が猫の飲水量  水の蒸発量は置き場所、容器の面積(空気と水の接触面積)、季節、室温や湿度によって微妙に変化しますので、グラム単位の正確な計測を行う場合はかなりまめにチェックしなければなりません。毎日の飲水量を表計算ソフトなどに入力しておけば、月ごとの変化や平均量も見えてくるでしょう。こうしたデータは水分の摂取不足や摂取過剰にいち早く気づく際のヒントになってくれます。

ミネラルウォーターで結石?

 「猫にミネラルウォーターを与えると結石ができる」といううわさをよく耳にします。これは真実なのでしょうか?実はそう単純な話ではありません。
ミネラルウォーターが猫の結石の原因であるというのは都市伝説。  猫で多いとされる無菌性のストラバイト結石は、低マグネシウム-リンの療法食を与え、尿を酸性(pH6.5未満)に傾けることで予防につながるとされています。また猫の腎結石と尿管結石の90%以上を占めるとされるシュウ酸カルシウム結石は、過剰なタンパク質の摂取を避け、尿を希釈(尿比重1.030未満)して酸性に傾くのを避けることで予防につながるとされています。ストラバイト結石の場合とは逆に、尿を酸性(pH6.5未満)に傾けるような療法食は避けることが推奨されています出典資料:ACVIM
 上記したように、結石の種類によって予防法や注意点が全く変わってしまうため、マグネシウムを含んだ「ミネラルウォーターが結石の原因になる」という風説が、正しいとも間違っているとも断言はできません。
 確実に言えるのは、猫の飲水量が増えると尿の相対過飽和度(RSS)が低下して結石ができにくくなるということです。これはおしっこが薄くなって中に溶けている成分がくっつきにくくなり、結晶化しにくくなるという意味です。「ミネラルウォーター=有害」という関係性は確定していませんが、「飲水量が少ない=結石リスク増大」という図式は確定していますので、猫がたくさん水を飲んでくれるよう、できるかぎりの工夫をこらして病気を予防してあげましょう。
猫の健康を守るためには、このページで紹介した六大栄養素をバランスよく給餌することが大切です。適切な食事量の計算法やフードの選び方に関しては「キャットフードの選び方」で詳しく解説してあります。