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フラクトオリゴ糖(FOS)~安全性と危険性から適正量まで

 キャットフードのラベルに記された「フラクトオリゴ糖」(FOS)。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも猫に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、猫の健康にどのような作用があるのでしょうか?

フラクトオリゴ糖の成分

 フラクトオリゴ糖はショ糖にフラクトースが1~3個結合した難消化性のオリゴ糖。英語の「FructoOligoSaccharides」から「FOS」とも呼ばれます。消化管の酵素では分解できないことから、体の栄養源というよりも腸内の善玉菌(特にビフィズス菌)の栄養源(プレバイオティクス)として加えられます。 キャットフードの成分として用いられる「フラクトオリゴ糖」を多く含む食品  フラクトオリゴ糖を含む天然食材の代表はアスパラガス、バナナ、リーキ(西洋ネギ)、ブルーアガベ(テキーラの原料)などです。工業的にはショ糖(砂糖)を原料とし、糖加水分解酵素であるフラクトシルトランスフェラーゼを用いて大量生産されます。

フラクトオリゴ糖は安全?危険?

 フラクトオリゴ糖を猫に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?以下でご紹介するのはフラクトオリゴ糖に関して報告されている安全性もしくは危険性に関する情報です。

人間に対する作用・影響

 フラクトオリゴ糖に関しては、人間を対象とした膨大な数の実験や調査が行われています。しかしその結果はクリアとは言えず、影響があったというものから全くなかったというものまで様々です。
 日本においては特定保健用食品の成分として認められており、「ビフィズス菌を増やして腸内の環境を良好に保つ」等の保健用途表示が許可されています。ビフィズス菌の数が増えることはいくつかの調査で確認されていますが、ビフィズス菌が増えることで明白な健康増進効果があることは確認されていません。「効果がなかった」という調査結果のあまりの多さから考えると、そもそも表示が許可されていること自体が奇妙にも思えます。
 ちなみにEFSA(欧州食品安全機関)が2016年に行った科学的な検証の結果、スクロースから生成された短鎖フラクトオリゴ糖が腸内で発酵して排便回数を正常に保つとか、胆汁酸の放出を促すと言った作用は確認できないとの結論に至っています 出典資料:EFSA
 下痢に対する無影響量は男性で体重1kg当たり0.3g、女性で体重1kg当たり0.4g程度と推計されており、1日摂取量の目安は3~8gです。これ以上取るとお腹が緩んでしまう危険性があるということです。

猫に対する作用・影響

 そもそも、一般的に「善玉菌」と呼ばれている菌を猫の腸内で増やすことが、何らかの健康増進効果につながっているかどうかはよくわかっていません
 人間においては、未消化アミノ酸を元にした腸内における発酵作用で、アンモニア、脂肪族アミン、インドール、フェノール、揮発性含硫分子などの腐敗性成分が生成されます。そしてこれらの成分は悪臭の原因になると同時に大腸や直腸がんの原因になる可能性が示唆されているため、食事内容によって腸内細菌叢を変化させれば、上記した成分の量を減らすことができるのではないかと期待されています。具体的にはビフィズス菌や乳酸菌などの「善玉菌」を優勢にするなどです出典資料:H. S. Hussein, 1999
 猫の腸内細菌には人と同じようなビフィズス菌やラクトバチルスといった善玉菌が含まれていることが確認されています出典資料:Desai, 2009。またフラクトオリゴ糖(FOS)をフードに添加することにより善玉菌が増える可能性が示されています。しかし冒頭で述べたように、ある特定の細菌叢と健康状態との間に明白な関連性があるとは証明されていません。ですから猫におけるフラクトオリゴ糖(FOS)の安全性、危険性、および適正量に関してはよくわかっていないのが現状です。
 参考までに以下では、猫を対象としてFOSを給餌したときの結果をご紹介します。細菌の代謝産物である短鎖脂肪酸が増えることから、腸内細菌叢を活性化して増やす作用があることは間違いないようです。ほぼ確実に言えることは、糞中の悪臭成分と水分含有量が増えることでしょう。平たく言うと「柔らかくて臭いうんちが出るようになる」といったところです。

M.Hesta, 2001

 フラクトオリゴ糖(FOS)を全く含んでいない普通のフードと、FOSを3%、6%、9%の割合で含んだフードを給餌して糞便の変化を調べた所、FOSを6%以上含んでいたグループでは含んでいなかったグループに比べ、糞便のクオリティが明白に変化した。一方、3%だけ含んだフードでは同様の変化が見られなかったが、pHが低下する傾向が見られた。
 次にFOSを3%含んだフードとイヌリン(水溶性の食物繊維の一種)3%、イヌリン6%を含んだフードを給餌し、消化性のパラメーターを比較した。その結果、タンパク質の消化性に関しては無添加フードのグループと比較して低下した。これは糞中に含まれるバクテリアに窒素を取られたために起こった現象だと考えられる。
 FOS3%とイヌリン3%フードの間で有意な差は見られなかったが、FOSを給餌されたほうが糞中の短鎖脂肪酸トータル量が多かったため、腸内細菌の発酵を受けやすいものと推測される出典資料:M.Hesta, 2001

M.Hesta, 2005

 乾燥重量中28.9%のタンパク質を含むフードに3.11%のフラクトオリゴ糖(FOS)を添加して猫に給餌した所、血漿尿素濃度は低下したがFOSによる影響ではなかった。
 FOSを添加すると糞中水分含量の増加に伴い糞便量が増え、また尿中の窒素排出量を減らすことで糞中の窒素量が相対的に増えた。
 一方、糞便の臭いを構成する27種の物質に関して変化は見られなかった出典資料:M.Hesta, 2005

A.Verbrugghe, 2009

 普通体型の猫8頭と肥満体型の猫8頭を対象とし、乾燥重量中(タンパク質46%+脂質15%+炭水化物27%)に2.5%のフラクトオリゴ糖(FOS)とイヌリン(水溶性の食物繊維の一種)を添加したフードを給餌して糖耐性テストなどを行った。
 その結果、肥満猫ではグルコースAUCが増加し、インシュリンピークが遅延した。一方、空腹時血糖値、糖反応、糖AUC、空腹時血清インシュリン濃度などには影響を及ぼさなかった。
 FOSとイヌリン添加フードではプロピオニルカルニチン濃度の上昇が確認されたことから、大腸内における発酵作用とプロピオン酸吸収量の増加が起こったものと考えられる。またメチルマロニルカルニチンとAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)の低下が確認されたことから、アミノ酸を原料とした糖新生が減少したものと推測される出典資料:A.Verbrugghe, 2009

K.A.Barry, 2011

 9頭のオス猫(1.73歳)を対象とし、セルロース4%、フラクトオリゴ糖(FOS)4%、ペクチン4%のいずれかを添加したフードを30日間給餌した後、糞便を採取して解析した。
 その結果、FOS添加群ではpHの変化、総ガス量、水素ガス、アセテートプロピオン酸、酪酸、短鎖脂肪酸、分岐鎖アミノ酸、吉草酸エステルの増加が確認された。これらの変化はペクチンを添加したときよりも顕著だった出典資料:K.A.Barry, 2011

K.A.Barry, 2011

 高齢猫にフラクトオリゴ糖(FOS)4%を添加したフードを給餌した所、窒素代謝や腸内細菌叢には大きな変化が見られなかった。
 一方、腸内における発酵性や代謝の最終産物を調整し、糞便スコアを増加させ、短鎖脂肪酸や分岐鎖アミノ酸、アンモニア、4-メチルフェノール、インドール、生物起源のアミン濃度を上昇させた。また腸内における炭水化物の代謝に関与する酵素の一部がわずかに変化した出典資料:K.A.Barry, 2011

K.A.Barry, 2010

 12頭の成猫(1.7歳)を対象とし、セルロース4%、フラクトオリゴ糖(FOS)4%、ペクチン4%のいずれかを添加したフードを給餌して糞便スコアを計測した。結果は以下出典資料:K.A.Barry, 2010
食物繊維群による変化
  • ペクチン添加粗タンパクと粗脂肪の消化性が低下/アセテート、プロピオン酸、短鎖脂肪酸、スペルミジン濃度、ウエルシュ菌、大腸菌、ラクトバチルスが増加
  • FOS添加インドール濃度、ビフィズス菌の増加/チラミン、大腸菌の減少
  • FOSとペクチン共通糞便スコア、アンモニア濃度、4-メチルフェノール濃度、酪酸塩、イソ酪酸、イソ吉草酸、吉草酸、分岐鎖脂肪酸、カダベリン(腐敗臭成分)、トリプタミン(インドール誘導体)が増加

Shinohara, 2020

 臨床上健康な猫6頭を対象とし、1日1gのケストース(※FOSの一種)を8週間に渡って連続給餌し、腸内細菌叢にどのような変化が現れるかを検証した。給餌前および給餌開始から4週目と8週目のタイミングで便を採取し、中に含まれる細菌叢をDNAレベルで検出・分類したところ、ビフィドバクテリウムがやや増加すると同時に、酪酸塩を生成するメガスファエラ属の1.5~2倍の増加が確認された。またそれと連動する形で便中の酪酸塩増加も確認された。
 酪酸塩は消化管上皮細胞の免疫機能を保つと同時にエネルギーを供給する役割があるので、ケストースは猫の腸内環境を健全に保つプレバイオティクスとして有望かもしれない出典資料:Shinohara, 2020
2017年の報告では、フラクトオリゴ糖(FOS)が猫の腸内ガス(おなら)の生成量を増やす可能性が示されています。たくさん添加すればよいというものではないようです。