猫の飲水量・調査詳細
調査を行ったのはネスレピュリナペットケアのチーム。臨床上健康な32頭の猫(平均年齢7.1歳 | 平均体重4.7kg | 9段階BCSの中央値6)を対象とし、飲み水に栄養成分やフレーバーを添加することで飲水量を増やすことができるかどうかを検証しました。
チームはまず、猫の飲み水に「水道水」、「水道水+栄養成分」、「水道水+栄養成分+鶏肉フレーバー」というバリエーションを設けました。次に猫たちをランダムで「水道水だけ」(4頭)、「水道水+栄養成分」(16頭)、「水道水+栄養成分+鶏肉フレーバー」(16頭)という3つのグループに振り分け、1日の飲水量、摂食量、尿比重、尿量などを44日間にわたってモニタリングしました。具体的な観察スケジュールは以下です。猫たちが食べるドライフードおよび室内環境はグループ間で統一されています。
Brian M. Zanghi PhD; Emma Wils-Plotz PhD et al., American Journal of Veterinary Research November 2018, Vol. 79, No. 11, Pages 1150-1159, doi.org/10.2460/ajvr.79.11.1150
飲水量検証デザイン
- 第1期(7日間)基本的な飲水量(ベースライン)を知るための期間。猫によって79~200mL/日と幅があり、平均値は118 ± 26 mL/日
- 第2期(17日間)第1期で明らかになった1日飲水量と同じ量の添加水を、通常の水道水とは別に用意する
- 第3期(10日間)第1期で明らかになった1日飲水量の1.5倍量の添加水を、通常の水道水とは別に用意する
- 第4期(10日間)第1期で明らかになった1日飲水量の2倍量の添加水を、通常の水道水とは別に用意する
水のタイプと飲水量の変化
- 水道水グループ第2期で20mL(16.7%)減少し、第3期で12.2%減少したものの有意な差ではなかった。調査期間を通じ、飲水量に統計学的な格差は見出されなかった
- 栄養成分グループ✓第2期→ベースラインから17mL(15.4%)増加したが統計的に非有意。体重ベースでは20 ± 7 mL/kg/日、総飲水量ベースでは94±27mL/日
✓第3期→ベースラインから25.3%増加し統計的に有意。体重ベースでは25 ± 11 mL/kg/日、総飲水量ベースでは118±42/日
✓第4期→ベースラインから43.8%増加し統計的に有意。体重ベースでは30 ± 12 mL/kg/日、総飲水量ベースでは139±50/日 - 栄養成分+鶏肉味グループ✓第2期→ベースラインから21mL(18.4%)増加し統計的に有意。体重ベースでは25 ± 6 mL/kg/日、総飲水量ベースでは115 ± 24/日
✓第3期→ベースラインから57.4%増加し統計的に有意。体重ベースでは36 ± 10 mL/kg/日、総飲水量ベースでは167± 43/日
✓第4期→ベースラインから95.6%増加し統計的に有意。体重ベースでは46 ± 15 mL/kg/日、総飲水量ベースでは213 ± 70/日
Brian M. Zanghi PhD; Emma Wils-Plotz PhD et al., American Journal of Veterinary Research November 2018, Vol. 79, No. 11, Pages 1150-1159, doi.org/10.2460/ajvr.79.11.1150
猫の飲水量・解説
猫の祖先であるリビアヤマネコは飲み水が少ない砂漠地帯で長い間暮らしてきました。その結果として獲得したのが、体内の不要物を極限まで濃縮し、少ない尿尿で体外に排出するというエコシステムです。貴重な水を体の中から失わないために発達させた機能ともいえます。
水を飲まない猫と飼い主の工夫
こうした特異体質で厄介なのは、水が豊富にあるにもかかわらずなかなか飲もうとしないことです。その結果、尿の中に溶け込んでいる成分が濃縮に伴って結石となり、尿結石に進展してしまいます。
尿結石を予防するため、これまで猫の飼い主たちは飲み水の量を増やすためのさまざまな方法を考案してきました。例えばウェットフードを与える、水飲みボールを複数箇所に置く、噴水式のファウンテンボールを使う、食事場所と水飲み場を離す、塩分(ナトリウム)を摂取させるなどです。今回ネスレの調査チームは行ったのは「水にフレーバーを添加する」という古典的な裏技に相当します。
栄養フレーバーによる飲水量増加
水道水に栄養成分や鶏肉のフレーバーを添加したところ、猫たちの飲水量が増えました。この増加は特に「栄養成分+フレーバー」というダブル添加グループで顕著でした。また飲み水の量が増えたグループでは、それに連動するように尿比重の低下も見られました。これは単位当たりの尿に溶けている物質の量が少なくなったと言うことです。結果として尿結石のリスクは下がると考えてよいでしょう。
理想とされる猫の尿比重値
全世界共通のコンセンサスは無いものの「1.035」という尿比重を保っていれば結石のリスクはかなり軽減できるといいます。第4期に関し、「栄養成分」グループでは尿比重が1.021、「栄養成分+フレーバー」グループでは1.038と、理想値にかなり近づきましたので、飲水量の増加によるおしっこの希釈効果は確かにあるようです。
栄養フレーバー水の作り方
今回の実験で実際に用いられた添加水の具体的なレシピは以下です
栄養成分添加水
- ホエイタンパク=1.2%
- グリセリン=1.0%
- 塩化カリウム=0.1%
- ハイドロコロイド=0.11%
- 鶏肉フレーバー=0%
- 水分=98.5%
- 粗タンパク=1.2%
- 粗脂肪=0.1%未満
- 繊維=0.2%未満
- りん=0.01%未満
- カリウム=0.0245%
- マグネシウム=0.0026%
- ナトリウム=0.0048%
鶏肉フレーバー水
- ホエイタンパク=1.2%
- グリセリン=1.0%
- 塩化カリウム=0.1%
- ハイドロコロイド=0.11%
- 鶏肉フレーバー=1.0%
- 水分=97.9%
- 粗タンパク=1.72%
- 粗脂肪=0.31%
- 繊維=0.2%未満
- りん=0.01%未満
- カリウム=0.031%
- マグネシウム=0.0029%
- ナトリウム=0.0134%