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猫の腎結石~症状・原因から検査・治療法まで

 猫の腎結石(じんけっせき)について病態、症状、原因、治療法別に解説します(🔄最終更新日:2022年8月)。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら。また猫の採尿と尿検査についてはこちらをご参照ください。

猫の腎結石の病態・症状

 猫の腎結石とは腎臓内の腎盂と呼ばれる空間に結石が形成された状態のことです。 腎盂内に発生した腎結石の模式図  世界各国で行われた疫学調査により、猫の尿石症のうち8~9割は下部尿路(膀胱+尿道)で上部尿路(腎臓+尿管)はわずか1~2割に過ぎないことが判明しています。さらに2005~2018年の期間、カリフォルニア大学デーヴィス校の尿石解析ラボに回されてきた猫の上部尿路結石166個を調べたところ、圧倒的に多かったのがシュウ酸カルシウム結石(84.3%)で、アパタイト(6.6%)、血塊(6.0%)、尿酸塩(1.8%)、ストルバイト(1.2%)より有意に多かったといいます出典資料:L.Kopecny, 2021)
 猫の腎結石は多くの場合目立った症状が見られず、別の目的で行われたエックス線や超音波検査で偶然結石が発見されることも珍しくありません。逆に症状が見られるのは結石症がかなり進行した段階であり、主に以下のような形で現れます。
猫の腎結石の主症状
  • (結石が大きい場合)急性腎不全
  • (尿管が詰まった場合)水腎症
  • (尿路感染症の併発で)尿のにごり
 腎結石が成長すると腎盂を占拠して腎盂腎炎を引き起こし、腎実質に圧迫性外傷を加えて最終的に慢性腎臓病へと進行します。また極小の結石が尿管内で目詰まりを起こした場合、尿の流れがせき止められて腎臓がパンパンに膨らみ水腎症へと発展します。

猫の腎結石の原因

 猫の腎結石の発症原因ははっきりと解明されていませんが、結石のタイプがシュウ酸カルシウム結石に極端に偏(かたよ)っていることから以下のようなメカニズムが想定されています。

高カルシウム血症

 猫の腎結石の8~9割を占めるシュウ酸カルシウム結石は、血中や尿中におけるカルシウム濃度が高まって飽和状態に至り、結晶化することで形成されます。発症リスクを高める主な要因は以下です出典資料:Milligan, 2018)
高カルシウム血症の原因
  • 尿pH7未満
  • 特発性高カルシウム血症
  • 空腸におけるカルシウムの吸収量増加
  • 尿細管におけるカルシウム再吸収不全
  • 骨からのミネラル溶解過剰
  • 代謝性アシドーシス
  • 原発性副甲状腺機能亢進症
  • 医原性の高カルシウム血症
 医原性の高カルシウム血症とは投薬が原因で発症するタイプで、ループ利尿薬、糖質コルチコイド、酸性尿誘発剤、ビタミンCとDの過剰摂取、ビタミンB6の摂取不足などが引き金になります。

慢性腎臓病?

 慢性腎臓病と結石症(高カルシウム血症)との関連性が古くから研究されており、いくつかの発見がなされています。

腎臓病が直接因子?

 慢性腎臓病が結石症の直接的な危険因子になっている可能性が示されています。
 2006~2013年の期間、慢性腎臓病を抱えた猫59頭と健常な猫67頭を対象とし、腎臓病と結石の関係性が調査されました。その結果、慢性腎臓病を抱えた猫の方が尿石症の有病率が高かったといいます。進行ステージや腎臓内における結石の発生場所との間に関係は見られませんでしたが、膀胱結石とは負の関係が見られました出典資料:Cleroux, 2017)
 また慢性腎臓病と上部尿石症を同時に抱えた猫においては、血清FGF-23濃度がクレアチニンおよびリン濃度とは独立した形で高カルシウム血症と連動していたという別の報告もあります出典資料:Miyakawa, 2022)

腎臓病が一因?

 慢性腎臓病と特定の条件が合わさったとき、結石症の危険因子になりうる可能性が示されています。
 慢性腎臓病だけを抱えた猫と、慢性腎臓病に加えて上部尿石症を併発した猫を比較したところ、「純血種(81.6倍)」と「ドライフード(25倍)」が尿石症に対する独立した危険因子として浮かび上がってきたといいます。また尿石症を抱えた猫ではもっぱら尿の酸性化食だけが給餌されているケースが多く、血清イオン化カルシウム濃度、カルシウムの部分排泄率、尿中カルシウム濃度:クレアチニン比はすべて非尿石グループより高値を示したそうです出典資料:Hsu, 2022)

腎臓病とは無関係?

 結石症が必ずしも腎臓病を悪化させる訳ではないことから、両者の因果関係自体を疑問視する調査報告もあります。
 慢性腎臓病ステージ2もしくは3と診断された猫を「腎結石あり」7頭と「腎結石なし」7頭とに分け、24ヶ月間に渡って病状をモニタリングしました。その結果、生化学検査値、血液検査値、尿検査値にグループ差は認められなかったといいます。また腎臓病の進行、尿毒症クリーゼ、死亡率にも格差はなかったとも出典資料:Ross, 2007)

猫の腎結石の検査・診断

 猫の腎結石においては全血球計算、血清生化学、尿検査、尿培養、尿中結晶(結晶解析)、空腹時における尿pH、血圧、腹部超音波+エックス線検査といった検査が行われます。診断の大まかな目安は以下です出典資料:Milligan, 2018)
腎結石タイプの診断目安
  • シュウ酸カルシウム結石猫では圧倒的に多い/尿pH7未満/結晶尿は形状不成形で統一感なし/エックス線所見は不透過性が非常に高く、鋭利かつ不成形、大きさは大小様々で複数のミネラルが混在していることあり/尿路感染なし
  • ストルバイト結石猫ではほとんどない/尿pH7超/結晶尿は形状不成形で統一感なし/エックス線所見は鹿角(Staghorn)~円形
  • 尿酸塩結石尿pH7未満/結晶尿は通常あり/エックス線所見は鹿角で不透過性最小限/尿路感染なし
  • シスチン結石尿pH不定/結晶尿は通常あり/エックス線所見は巨大で不透過性最小限/尿路感染なし

猫の腎結石の治療・予防

 腎結石は無症状のまま数年が経過することも少なくないことから、結石が閉塞を起こして腎機能を障害していない限りは基本的にモニタリングが優先されます。

食事療法

 腎結石が腎機能に悪影響を及ぼしそうな場合、食事療法による溶解が選択されることがあります。
 しかし猫における腎結石の8~9割近くがシュウ酸カルシウムであり、ストルバイトはほとんど見られません。シュウ酸カルシウムは残念ながら溶解治療の対象外ですので、腎結石に対して食事療法が行われるケースは必然的にかなり限定されることになります。ちなみに溶解適用はストルバイト結石、尿酸結石、シスチン結石です。 猫の尿路結石症(尿石症)

外科手術

 溶解治療が効かない場合、結石を腎臓内から物理的に除去する必要があります。具体的には結石の成長に伴う腎実質の減少、腎盂腎炎の進行、水腎症に関連した腎盂尿管移行部の閉塞などが見られる場合などです。
 しかし腎切除を伴う結石の除去術では時として死亡率が18~30%にも達することから、文字通り命がけといっても過言ではありません出典資料:Berent, 2011))。また犬に対して行われる体外砕石術(体の外から強い衝撃波を当てて石を砕く)も猫に対しては決して安全ではありません。理由は砕かれた結石のかけら(直径が1mm超)が猫の極めて細い尿管(0.4mm程度)に詰まり、尿管閉塞症につながってしまう危険性がかなり高いからです。さらに猫の結石はそもそも衝撃波で破砕しにくいという別の理由もあります出典資料:Adams, 2005)
 2016年にACVIM(米国獣医内科学会)が公開した尿石症の治療ガイドライン内では、猫の体に対する侵襲性が最小限になるよう内視鏡下腎砕石術(ENL)を行うよう推奨しています出典資料:ACVIM, 2016)内視鏡下腎砕石術(ENL)の施術の様子  ただしこの治療法は特殊な訓練を受けた獣医師にしかできないため、日本国内における選択肢はどうしても限られてしまいます。また獣医療の分野に導入されたばかりで歴史が浅いため、成功率・死亡率、合併症・副作用などに関する疫学データが欠落しているのが現状です出典資料:Cleroux, 2018)

予防

 猫の腎結石は再発率が高いため、治療と同時に予防策を講じることも重要です。猫においてはシュウ酸カルシウムが大部分を占めますので、この結石の発生を予防することが取りも直さず再発予防に繋がります。具体的には酸性化食の停止、水分摂取量の増加、カルシウムとシュウ酸摂取量の調整、などです。詳しくは以下のページをご参照ください。 猫のシュウ酸カルシウム結石