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猫の採尿と尿検査・完全ガイド~おしっこの採り方から検査項目の読み方まで

 泌尿器系の病気を発症しやすい猫において、検査用のおしっこを採取する「採尿」、および病院での「尿検査」というプロセスは避けては通れない道です。ここでは病院と自宅における採尿の方法や、尿検査における項目の見方について解説します。

病院で採尿する方法

 猫とともに訪れた動物病院においておしっこを採ってもらえば、その場で検査ができるので簡便です。しかし病院における採尿は多くの場合、尿意を催していない猫のおしっこを無理やり採取することになるため、猫にストレスをかけてしまうという難点があります。
メリット
純度の高い尿を採れる
デメリット
猫へのストレスが大きい
 以下は動物病院で行われる採尿の方法、およびそれぞれのメリットデメリットです。

自然排尿を待つ

猫は飼い主や獣医の都合に合わせておしっこしてくれない  「自然排尿」(しぜんはいにょう)とは、猫が自発的におしっこするまで待ち、おしっこを出した瞬間採尿するという方法です。猫にとっても獣医さんにとっても最も負担が少ない方法と言えます。しかし緊張を強いられる病室内で、猫がすんなりとおしっこしてくれるとは限りません。また診察時間は無限ではありませんので、おしっこをする兆候が見られない場合は、速やかに他の方法に切り替える必要があります。

圧迫排尿

 「圧迫排尿」(あっぱくはいにょう)とは、おしっこを溜めておく袋状の器官である「膀胱」(ぼうこう)を、外から手で押すことによって強制的に尿意を催させるテクニックのことです。簡単かつ短時間で終わりますが、以下に述べるようなデメリットもあります。
圧迫排尿のデメリット
  • 圧迫によって猫に不快感を与える
  • 膀胱内の尿が少ない場合、検査に十分な量を採取できない
  • 膀胱内の尿が腎盂(じんう)に逆流することがある
  • 圧迫により膀胱を破裂させる恐れがある
膀胱と尿管、腎盂の位置関係模式図  「腎盂への逆流」とは、尿管と呼ばれる細い管によって膀胱の上に連結している腎盂と呼ばれるラッパ状の空間に尿が逆流してしまう現象のことです。外に出そうとしていたおしっこが、逆に内側に流れてしまったと言えばわかりやすいでしょう。また「膀胱の破裂」は、膀胱の出口ともいえる尿道が何らかの理由で詰まっているときや、膀胱の組織が弱っているときに発生する最悪の事態です。パンパンに張った水風船を無理やり手で押す状況に近いと言えます。

カテーテル採尿

 「カテーテル採尿」とは、「カテーテル」と呼ばれる細い管を尿道から挿入して強制的におしっこを吸い上げるテクニックのことです。尿道内の細菌や異物が混入する可能性が低く、純度の高いおしっこを採取できる一方、以下に述べるようなデメリットもあります。
カテーテル採尿のデメリット
  • 猫に対して不快感を与える
  • 尿道口付近の細菌を膀胱内に逆流させることがある
  • 挿入時、尿道や膀胱壁を傷つけることがある
  • 尿道口が体外に開いていないメスの場合は難しい
オス猫のペニスの位置とカテーテル挿入  尿道からカテーテルを挿入しますので、猫にとって愉快なはずはありません。また尿内に混入する細菌数は1ミリリットル中1,000個程度と推計されており、おしっこの純度という観点からはいささか問題があります。

膀胱穿刺

 「膀胱穿刺」(ぼうこうせんし)とは、お腹から膀胱に針を刺し、おしっこを吸い取るテクニックのことです。尿道周囲からの細菌や異物の混入がなく、また膀胱内の尿が少量でも安全に採れるというメリットがあります。しかしその反面、以下に述べるようなデメリットがあることも確かです。
膀胱穿刺のデメリット
  • 猫に不快感を与える
  • 注射針で膀胱やその他の組織を傷つける恐れがある
  • 出血しやすい個体では使えない
  • 飼い主の同意を得にくい
 多くの場合、超音波で膀胱の位置を確認しながら注射針の挿入を行いますが、事故の可能性がゼロとは言い切れません。また「膀胱に達するまで針を突き刺す」という手技は、いくら安全性が高くて短時間で終わると言われても、飼い主にとっては抵抗があるでしょう。

自宅で採尿する方法

 自宅で採尿する場合のメリットは、猫の自然なタイミングに合わせておしっこを採取できるため、猫へのストレスを最小限に抑えることができるという点です。逆にデメリットは、自然排尿に頼るため、尿道内の細菌が混入しやすいという点でしょう。先述した、動物病院における膀胱穿刺での尿への細菌混入が100個/mlであるのに対し、自然排尿のそれは10,000個/mlだと言われています。膀胱内にたまっているおしっこを「純粋な尿」だとすると、自然排尿によって尿道を通ってしまった尿は「不純な尿」になってしまうのです。
メリット
猫へのストレスが少ない
デメリット
尿の純度が低い
 以下は自宅採尿の方法、およびそれぞれのメリットデメリットです。

おしっこ中に採尿する

 最も簡単なのは、猫のおしっこを直接受け止めるというやり方です。この直接採尿が適しているのは、普段オープン式のトイレを使っており、おしっこの最中、人が近くにいても気にしない猫です。おおまかな手順は以下。
猫のおしっこ・直接採取法
  • 猫が尿意を催したら一緒にトイレに付いていき、後方に陣取る
  • 猫が排尿ポジションに入ったタイミングで採尿器を足の間にあてがう
  • 出てきたおしっこをダイレクトに採取
  • 清潔な容器に入れて完了
猫の放尿中、ダイレクトにおしっこをキャッチする直接採取法  おしっこを受け止める採尿器のバリエーションには、「おたま」、「スコップ」、「スポンジ」などがあります。どれを用いるにしても、検査結果にブレが生じないよう、清潔なものを用いるようにしましょう。また「ウロキャッチャー」という採尿専用のアイテムも市販されています。これは特殊なスポンジが先端についた棒で、より簡便に猫のおしっこを採取できるようデザインされています。 採尿器 ウロキャッチャー  直接採尿は、うまくいけば非常に簡単かつ短時間で終わりますので、まず最初に試してみたい方法です。しかし基本的に猫はデリケートで、近くに人や他の猫がいると、落ち着いておしっこができません。そうした猫の場合は、次に述べる「おしっこ後に採尿する」という方法によってアプローチすることになります。

おしっこ後に採尿する

 猫がおしっこを終わらせてから採取するという時間差採尿は、直接採取法よりも確実で、なおかつ猫へのストレスも少ないと考えられます。どんな性格の猫に対しても適用できるというのも大きなメリットでしょう。

システムトイレを使った採尿

システムトイレの一例  最も簡単かつ確実に尿を採取する方法は、「システムトイレ」と呼ばれているトイレを用いることです。このトイレは、スノコの上に非吸水性の特殊な猫砂を敷いたデザインになっており、猫が出したおしっこは、砂を素通りして下にあるトレー内に落ちる仕組みになっています。採尿に必要なのは、トレーにたまったおしっこを清潔な容器に移し替えることだけです。猫に対しても飼い主に対しても、最も負担が少ない簡便な方法と言えるでしょう。この方法を用いる際の注意点は以下です。
システムトイレ採尿法
  • 事前に猫をシステムトイレに慣らしておく
  • 猫砂は採尿ごとに新品を下ろす
  • トレーはきれいに拭いておき、吸水シートは敷かない
  • おしっこの保存容器は清潔なものを用いる
 いきなり今までのトイレをシステムトイレに変更してしまうと、動揺して粗相してしまう猫もいます。新しいトイレに慣らす際は、ゆっくり時間をかけて行った方が無難でしょう。詳しくは猫のトイレのしつけをご参照ください。また、尿の純度を落とさないため、猫砂、トレー、保存容器は、すべて清潔なものを用いるよう注意します。

採尿シートを使った採尿

PEPPYから発売されている検尿用採尿シート  近年は、おしっこの採取に特化した「採尿シート」が市販されるようになりました。使い方は、いつも使っているトイレの上にカットした採尿シートを置いておき、猫がその上でおしっこするのを待つだけです。出たおしっこはシートに吸収されますので、飼い主はそれを搾り取って清潔な容器に保存します。このシートは不純物や残留塩素が少ないため、尿の純度を損なわないまま採尿できるよう工夫されています。 検尿用採尿シート

尿検査の項目と読み方

 採尿した猫のおしっこは、時として重大な病気の兆候を示すことがあります。正常な犬や猫のおしっこは、古い赤血球が壊されてできるウロクロームといった色素の影響で、黄色~琥珀色をしているはずです。何らかの理由によりおしっこに異常な色素が混入すると、赤や緑など普通では見られないような色が現れます。以下は一例です。 異常な尿色と考えられる疾患の一覧
  • 淡黄色尿崩症・利尿薬の使用・慢性腎不全
  • 濃黄色ビリルビン尿・カロチンやリボフラビンなどビタミン剤の摂取
  • 淡赤色膀胱炎・腫瘍・ネフローゼ症候群・外陰部の傷・サルファ剤の使用
  • 赤色腎臓・尿路・前立腺の感染症・腎結石尿道結石膀胱結石・腫瘍・ブラックベリーなどの摂取
  • 褐色ヘモグロビン尿・メトヘモグロビン尿・ミオグロビン尿・メトロニダゾールの使用
  • 淡緑色胆汁色素・緑膿菌性尿路感染症・食用色素
  • 混濁白血球・細菌・結石・粘液・膀胱や前立腺の細胞・腎臓疾患によるタンパク尿
 おしっこの色だけから疾患を確定することはできませんので、動物病院では細かな成分分析が行われます。以下は、尿検査において行われる代表的な調査項目と数値の読み方です。

PH値

  • 略号:PH
  • 意味:おしっこに含まれる水素イオンの濃度
  • 正常値:6.0~7.0
 PH値(ぺーはーち)は、数値が低ければ低いほど「酸性」で、逆に高ければ高いほど「アルカリ性」です。酸性に傾いている場合は、飢餓、発熱、代謝性アシドーシス、アルカローシス、尿路感染を示唆しています。またシュウ酸カルシウム結石の要因にもなります。逆にアルカリ性に傾いている場合は、アルカローシス、遠位尿細管アシドーシス、尿路感染症、尿路閉塞を示唆しています。またストラバイト性結石の要因にもなります。

尿比重

  • 略号:SG
  • 意味:水に対するおしっこの重さ
  • 正常値:1.035
 数値が1.0に近い、すなわち水に近ければ近いほど含有物が少なく尿が薄いことを示し、数値が1.0より大きい、すなわち水より重ければ重いほど含有物が多く尿が濃いことを示しています。「1.007以下」では腎不全による希釈尿、「1.008~1.034」では濃縮機能不十分、「1.060以上」では脱水などによる異常濃縮を示すとされます。

タンパク尿

  • 略号:PRO
  • 意味:おしっこに含まれるタンパク質の量
  • 正常値:0~15mg/dl
 値が高い場合、検出されたタンパク成分を分析してそれが病的なものがどうかが判断されます。病的な原因としては尿路の炎症などがあり、逆に病的ではない原因としては、激しい運動、腎臓での尿量調節などがあります。高値が出たからといって即「病気」と判断されるわけではありません。

尿糖

  • 略号:GLU
  • 意味:おしっこに含まれるグルコースの濃度
  • 正常値:0~30mg/dl
 グルコースとはブドウ糖とも呼ばれる、体内における主要なエネルギー源の一つです。腎臓でのグルコースの再吸収が追いつかなくなると高い値が出るようになります。可能性は糖尿病急性腎不全などです。

ケトン体

  • 略号:KET
  • 意味:おしっこに含まれるケトン体の濃度
  • 正常値:0
 ケトン体とは、エネルギーを産生する際、通常のブドウ糖ではなく脂肪を用いたときに出る副産物の総称です。血中にあふれたケトン体が尿中に漏れ出る形で検出されます。可能性は糖尿病、飢餓、絶食などで、放置するとケトアシドーシスに陥る危険性があります。

ビリルビン

  • 略号:BIL
  • 意味:おしっこにビリルビンが含まれている
  • 正常値:0
 ビリルビンとは、赤血球中のヘモグロビンが肝臓や脾臓などで壊されたときにできる副産物のことです。検出された場合、赤血球の大量破壊や、肝臓・胆道の障害が示唆されます。

ウロビリノーゲン

  • 略号:URO
  • 意味:おしっこにウロビリノーゲンが含まれている
  • 正常値:0
 ウロビリノーゲンとは、ビリルビンが腸内細菌によって分解されたものです。通常は便と共に排泄されますが、腸管から肝臓へと戻り尿中に出現することがあります。検出された場合は、ビリルビンのときと同様、赤血球の大量破壊や、肝臓・胆道の障害が示唆されます。

潜血(せんけつ)

  • 略号:OB
  • 意味:おしっこにヘモグロビンとミオグロビンが含まれている
  • 正常値:0
 ヘモグロビンとは赤血球に含まれている成分で、ミオグロビンとは筋肉中に含まれている成分のことです。検出された場合は、尿路の出血、赤血球の破壊(溶血)、筋肉疾患などを示唆しています。また尿道カテーテルや膀胱穿刺によって採尿した際、偶発的に尿中に血が混じり、陽性と出ることがあります。

亜硝酸塩

  • 略号:NIT
  • 意味:おしっこに亜硝酸塩が含まれている
  • 正常値:0
 亜硝酸塩(あしょうさんえん)が検出された場合、尿路系に細菌が感染していることを示唆しています。

白血球

  • 略号:WBC
  • 意味:おしっこに白血球が含まれている
  • 正常値:0
 検出された場合、尿路系の炎症や出血を示唆しています。原因は、尿路結石による物理的な刺激、細菌感染、腫瘍など様々です。放置すると尿中に膿が放出されるようになります(膿尿)。

タンパク/クレアチニン比

  • 略号:UPC(P:C)
  • 意味:おしっこに含まれているクレアチニン含量とタンパク含量の比率
  • 正常値:0.2未満
 尿タンパク(PRO)が検出された時、追加で検査が行われることがあります。尿タンパク単独よりも、正確に腎機能の評価を行うことができます。クレアチニンとは筋肉から産生される物質で、産生量がほぼ一定であるという特性から、腎臓の排泄機能を推し量る際の基準物質として利用されます。

尿沈渣

 尿沈渣(にょうちんさ)とは、尿中に含まれている固形成分を遠心分離したものです。これを顕微鏡で観察し、赤血球があれば出血が、白血球があれば細菌感染が、尿円柱があれば腎疾患が疑われます。また結晶があれば、その形状から種類を特定することも可能です。