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猫の尿管閉塞(結石)~症状・原因から検査・治療法まで

 猫の猫の尿管閉塞について病態、症状、原因、治療法別にまとめました(🔄最終更新日:2022年8月)。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

尿管閉塞(結石)の病態と症状

 猫の尿管閉塞(ureteral obstruction)とは、腎臓と膀胱をつなぐ尿管と呼ばれるパイプが目詰まりを起こしてしまった状態のことです。管の中に異物がとどまるパターンと、管が押しつぶされて通り道が狭くなるパターンとがあります。猫の尿管は直径がせいぜい0.4mm程度ですので、1mm未満のかなり小さな障害物でも簡単に閉塞が起こり、結石が目詰まりを起こした場合は特に尿管結石とも呼ばれます。 猫の泌尿器解剖模式図~上部尿路(腎臓+尿管)と下部尿路(膀胱+尿道)  尿管閉塞、腎毒、腎盂腎炎により急性腎障害が繰り返されると慢性腎臓病につながる危険性が高まります。また慢性腎臓病をすでに持病として抱えている場合、部分的であれ完全であれ尿管閉塞によって急性増悪の代償不全が起こり、高カリウム血症や酸性血症につながる危険性があります。
 猫の尿管閉塞性における主な症状は以下です。別の疾患でも引き起こされる非特異的な症状しか示さないケースもけっこうあります出典資料:D.L.Clarke, 2018)
猫の尿管閉塞の主症状
  • 元気消失
  • 食欲不振
  • 絶食
  • 嘔吐
  • 多飲多尿
  • 腹痛
  • 体重減少
  • 血尿
  • 排尿困難
  • 頻尿
  • 尿もれ
  • 粗相
 尿管閉塞によって片方の腎臓が障害を受けた場合、障害側が機能不全に陥って縮小すると同時に、残された健康な腎臓が仕事を肩代わりすることでオーバーワークとなり、肥大化することがあります。患側が縮小、健側が肥大したこの状態はときに「大小腎症候群」(big kidney little kidney syndrome)などと呼ばれます。

発症年齢・性別

 1984年から2002年の期間、北米にある2つの大学附属病院を受診し「尿管結石症」と診断された猫163頭を対象とした調査では、年齢中央値が7歳(8ヶ月齢~16歳)だったと報告されています。性別の内訳は避妊メスが92頭、去勢オスが69頭、未手術メスが2頭でした出典資料:A.E.Kyles, 2005)
 また2000年4月から2010年12月までに麻布大学附属動物病院腎泌尿器科において尿管結石と診断された猫27頭を対象とした調査では、平均年齢が5.6歳(7ヶ月齢~12歳)だったとされています。性別は去勢オスが12頭、未去勢オスが2頭、避妊メスが13頭でした出典資料:Takayanagi, 2012)
 こうしたデータから、閉塞の原因を「結石」に限定した場合の発症年齢は5~7歳に多く、性別による明白な隔たりはないものと推測されます。

尿管結石の場所

 1984年から2002年の期間、北米にある2つの大学附属病院を受診し「尿管結石症」と診断された猫163頭を対象とした調査では、どちらか一方の尿管だけに閉塞が起こる片側性が76%(123)、両方の尿管に閉塞が起こる両側性が19%(31)だったといいます。場所の内訳は左の尿管結石が42%、右の尿管結石が34%、両側の結石が25%でした出典資料:A.E.Kyles, 2005)
 また2007年7月~2016年5月の期間、ペンシルベニア大学付属の動物病院で尿管結石との診断を受けた猫78頭を対象とした調査では片側性が44%(34)、両側性が56%(44)だったといいます。場所の内訳は片側性のうち左側の尿管閉塞が44%、右側の閉塞が50%、両側性のうち少なくとも1つの結石が見つかった割合は左が61%、右が77%だったそうです出典資料:V.E.Nesser, 2018)
 こうしたデータから、閉塞の原因を「結石」に限定した場合、左右どちらか一方の尿管に結石が詰まりやすいという明白な傾向はないと考えられます。加えて、尿管を縦軸で3つに区分した場合、近位 、中間部、遠位(尿管膀胱移行部)における発症率にも統計的に有意なレベルの差は認められていません。

尿管結石の成分

 1984年から2002年の期間、北米にある2つの大学附属病院を受診し「尿管結石症」と診断された猫163頭を対象とした調査では93の尿石サンプルが成分解析され、シュウ酸カルシウムのみが87%(81)、シュウ酸カルシウム+リン酸カルシウムが8%(7)、シュウ酸カルシウム+尿酸塩が2%(2)、リン酸カルシウムのみが2%(2)だったと報告されています出典資料:A.E.Kyles, 2005)
 また2000年4月から2010年12月までに麻布大学附属動物病院腎泌尿器科において尿管結石と診断された猫27頭を対象とした調査では、13例において外科的な尿石摘出が行われ、全例がシュウ酸カルシウムだったそうです出典資料:Takayanagi, 2012)
 こうした事実から、猫における尿管結石の成分の9割近くにはシュウ酸カルシウムが含まれているものと推測されます。北米と日本では共通して、年ごとの症例増加傾向が確認されています。この傾向にはシュウ酸カルシウム結石の発症率が関係していると考えられています。

尿管閉塞(結石)の原因

 猫の尿管閉塞症には管の中に異物がとどまるパターンと、管が内外から押しつぶされて通り道が狭くなるパターンとがあります。
尿管閉塞の原因
  • 結石
  • 血塊
  • 感染
  • 医原性の結紮
  • 尿管狭窄
  • 異所性尿管
  • 腎移植後の後腹膜線維症
  • 悪性新生物(がん)
 尿管閉塞に対しステント留置術を受けた猫69頭(尿管79本)および皮下バイパス(SUB)を受けた猫134頭(尿管174本)を対象とした調査では、閉塞原因に関し以下のような割合が報告されています出典資料:Berent, 2014 | 出典資料:Berent, 2018)。ほとんどが「結石」と「狭窄」で占められていることがお分かりいただけるでしょう。 猫における尿管閉塞症の原因一覧グラフ
閉塞原因ステント皮下バイパス
尿管結石70.9%65.5%
尿管狭窄12.7%16.1%
結石+狭窄15.2%16.7%
膿性塞栓子1.3%0%
腎盂腎炎0%0.6%
 なお直接的な原因となっているかどうかは別として、猫の尿路閉塞症では感染症が3割近く見られ、大腸菌、レンサ球菌、腸球菌、ブドウ球菌が多く検出されるといいます出典資料:D.L.Clarke, 2018)。  また短毛種における発症率は33%、長毛種の発症率は17%、ペルシャの発症率は8%、シャムは6%など、猫の毛の長さと腎結石の発症率との関連性を指摘した報告もあります。
 日本の麻布大学附属動物病院が2007年4月~2014年3月の間、腎臓由来の尿管結石と診断された猫64例を元に統計データをとった結果、結石を発症しやすい品種としてスコティッシュフォールドアメリカンショートヘアヒマラヤンといった純血種の名が浮上して来ました。詳しくは以下のページをご参照ください。 尿管結石を発症しやすい猫の品種が判明

尿管閉塞(結石)の検査・診断

 猫の尿管閉塞症において一般的に行われる検査は以下です出典資料:Clarke, 2018)
  • 血液検査高窒素血症(95%)、高リン血症、高カルシウム血症、低カルシウム血症、高カリウム血症
  • エックス線検査2mm超の結石、腎臓のサイズ・数・位置を特定する際に有効な検査です。結石診断の感度は単独で81%、超音波と組み合わせると90%にまで高まります。デメリットはエックス線を透過する血塊を検知できないこと、および腸内ガスや便が溜まっている場合は結石が見えにくくなることです。
  • 超音波検査血流変化、腎盂の拡張評価、尿のエコー輝度、小さな結石、尿管の狭窄、炎症、後腹膜浸潤、異所性尿管、腫瘍、リンパ節の病変を特定する際に有効な検査です。結石診断の感度は単独で77%程度とされています。腎盂の大きさが7mmを超えると尿管閉塞の可能性が高くなり、13mmを超えるとほぼ100%尿管閉塞だと考えられます。猫の場合、腎盂の大きさが7mmに満たない時でも多くのケースで尿管閉塞が確認されます。デメリットは血塊を見過ごしてしまうことがあることです。
  • CTスキャンエックス線では検知できないような2mm未満の結石を特定する際に有効な検査です。デメリットは実施できる施設が限られる点、および検査費用が高額な点です。
  • 尿検査等張尿、血尿、膿尿、細菌尿、結晶尿を特定する際に有効な検査です。
  • 前行性腎造影腎盂と尿管の異常、完全閉塞か部分閉塞かの判別をする際に有効な検査です。超音波で腎盂内に直接造影剤を注入した上でエックス線撮影が行われます。デメリットは全身麻酔が必要な点、出血や尿もれなど医原性の障害を引き起こすリスクある点です。
 1984年から2002年の期間、北米にある2つの大学附属病院を受診し「尿管結石症」と診断された猫163頭を対象とした調査では、超音波検査で尿管、腎盂、もしくはその両方の拡張が認められたケースが92%(143/155)だったといいます。また結石と逆側の腎臓に関し、通常より縮小が56%、通常より肥大が6%だったとも。結石と逆側の腎盂もしくは尿管に関しては軽度拡張が11%、中等度拡張が25%と見積もられました出典資料:A.E.Kyles, 2005)
 さらに2000年4月から2010年12月までに麻布大学附属動物病院腎泌尿器科において尿管結石と診断された猫27例を対象とした調査では、尿管結石を有する患側の78.8%では超音波検査または静脈性尿路造影検査によって水腎もしくは水尿管が認められたといいます。また片側性尿管結石の症例においては、閉塞がみられない健側の腎臓において何らかの異常(結石・萎縮・低形成)が確認された症例は85.7%(18/21)に及んだそうです出典資料:Takayanagi, 2012)
 こうしたデータから、閉塞を起こした患側だけでなく、閉塞を起こしていない健側の臓器にも高い確率で病変が認められると考えられます。この病変がそもそも存在していたものなのか、それとも患側の機能を肩代わりすることで代償的に生じたものなのかは個々のケースによります。

尿管閉塞(結石)の治療

 ACVIM(米国獣医内科学会)による尿石症の治療ガイドラインでは、尿管結石による閉塞が起こっているものの腎盂の拡張が3~5mm以下で腎機能が保たれている場合は、早急な除圧よりもモニタリングを継続することが推奨されています。 ACVIMガイドライン(英語) ACVIMガイドライン(日本語)

投薬治療

 医薬的介入を行う場合は利尿薬やマンニトールの定量点滴投与、αアドレナリン阻害剤や三環系抗うつ剤などが投与されます。しかし投薬だけによる治癒率は8~17%とあまり高くありません。

外科手術

 医薬的介入が奏功せず、乏尿や無尿、高カリウム血症、代謝性アシドーシス、進行性の高窒素血症や腎盂拡張を示している猫では投薬治療を中断し、早急に低侵襲性の外科手術に切り替えるべきであるとされています。
 尿管に対する外科手術としては尿管切除、尿管膀胱切除、尿管切除と吻合、尿管再移植、尿管腎摘出術などがあります。医療技術の進歩に伴い、現在の獣医学で第一選択肢として推奨されているのは体に対する侵襲性が低く成功率が高い皮下尿管バイパスや尿管ステントです。

尿管ステント

 尿管ステント留置術とは閉塞を起こした尿管内にステントと呼ばれる人工のチューブを挿入することで通路を確保する手術のことです出典資料:Clarke, 2018)腎盂から膀胱中央部を結ぶ猫の尿管ステント  猫の尿管内径は0.4mm程度と細いため、ステントの挿入自体が不可能なこともあります。また尿管内にステントを挿入しても、結石の再発・再流入によりステントそのものが閉塞した場合はステントを除去しなければなりません。その他、位置ずれ、破損、痂皮(かさぶた)形成、無菌性膀胱炎などによって再手術とステント交換が必要となることもあります。 猫の尿管閉塞症に対するステント留置術の効果は?

皮下尿管バイパス

 皮下尿管バイパス(SUB)とは腎盂および膀胱にそれぞれ別々のカテーテルを設置し、アクセスポートで連結して皮下に固定する手術のことです。閉塞を起こした尿管を放棄してバイパスしてしまう点においてステントと決定的に違います出典資料:Deroy, 2017)皮下尿管バイパス(SUB)の側面エックス線画像  SUBの利点はアクセスポートから腎盂内の洗浄を行って結石の再流入を予防できる点、および培養検査などの目的で尿サンプルを採取することが容易な点です。また尿管に外科的な切除を行わないため、術部における尿管狭窄など重篤な合併症も予防できます。

尿管ステント vs 皮下バイパス

 尿管ステントと皮下尿管バイパス(SUB)ではどちらが治療法として有効なのでしょうか?両者を比較したいくつかの調査報告があります。
 比較的最近の2017年の調査では、ステント留置を受けた27頭(合計30ステント)とSUBを受けた23頭(合計30デバイス)をさまざまな角度から比較した結果が報告されています。不等号は統計的な有意差があったという意味です出典資料:C.Deroy, 2017)
ステント vs SUB
  • 手術時間:77分>47分
  • 総合入院期間:7日>4日
  • 術後入院期間:5日>3日
  • 周術期死亡率:18.5%≒13%
  • 生存期間中央値:14ヶ月齢<SUB
  • 70%生存率:術後3ヶ月<術後14ヶ月
  • 器具の閉塞:26%>4%
  • 追加治療率:44%>9%
  • 下部尿路関連症状:ステント>SUB
この調査においては、総合的に評価した場合ステントよりSUBの方が合併症リスクが低く、また生存期間も長くなるとの結論に至っています。