猫の尿路結石症とは?
尿石の成分
猫における尿路結石のうちで圧倒的に多いのはストルバイトとシュウ酸カルシウムで、以下のデータが示すように国に関わらず全体の9割近くを占めています。
2成分の増減は天候、ライフスタイル、食事内容、療法食の有無、解析ラボの検査技術など多様な要因によって変わるのかもしれません。ただ共通して言えることは、猫の尿石症においてはシュウ酸カルシウムとストルバイトが圧倒的大多数を占めているという事実です。
猫の尿石に多い成分
- カナダ1998~2003年の期間に解析された5,484の尿石サンプルのうちシュウ酸尿石が50%、ストルバイト尿石が44%を占めていた(:D.M. Houston, 2003)。
- アメリカ1985~2004の期間に解析された5,230の尿石サンプルのうち、直近3年の内訳ではシュウ酸カルシウムが40%、ストルバイトが44%を占めていた(:A.B.Cannon, 2007)。
- スイス2002~2009年の期間に解析された884の尿石サンプルのうち、シュウ酸カルシウムが50%(441)、ストルバイトが45%(398)を占めていた(:Gerber B, 2016)。
2成分の増減は天候、ライフスタイル、食事内容、療法食の有無、解析ラボの検査技術など多様な要因によって変わるのかもしれません。ただ共通して言えることは、猫の尿石症においてはシュウ酸カルシウムとストルバイトが圧倒的大多数を占めているという事実です。
尿石の採取部位
猫の尿石が採取される場所は8割以上が下部尿路と総称される膀胱もしくは尿道です。
例えば1981年から2008年の期間、ドイツと近隣数ヶ国で採取された猫の尿路結石5,173サンプルを部位別に調べたところ、膀胱もしくは尿道から採取された割合が全体の93%に達したといいます(:A. Hesse, 2012)。また2014年から2020年の期間、オランダ国内で採取された猫の尿路結石3,500サンプルを調べたところ、全体の85.5%までもが膀胱由来だったといいます(:N.D.Burggraaf, 2021)。さらに2005年から2018年の期間、アメリカのカリフォルニア大学デーヴィス校が3,940の尿石サンプルを部位別に調べたところ、以下のような内訳になったといいます(:L.Kopecny, 2021)。尿路結石全体の95.3%(4,464/4,681)までもが下部尿路由来という比率がおわかりいただけるでしょう。
1つの結石の中に複数の成分が含まれていることは決して珍しいことではありません。ある1つの結石だけに焦点を絞って予防策を講じても別の結石が形成される可能性は常にありますので注意が必要です。
猫における報告例が特に多いストルバイト結石、シュウ酸カルシウム結石、プリン(尿酸+キサンチン)結石に関しては2016年、ACVIM(米国獣医内科学会)が最新の医学的エビデンスに基づき、治療に関するガイドラインを公開しました。以下で1つずつ内容をご紹介します。 ACVIM Small Animal Consensus Recommendations on the Treatment and Prevention of Uroliths in Dogs and Cats
J.P. Lulich, A.C. Berent, L.G. Adams, J.L. Westropp, J.W. Bartges, C.A. Osborne, Journal of Veterinary Internal Medicine Volume 30, DOI:10.1111/jvim.14559
例えば1981年から2008年の期間、ドイツと近隣数ヶ国で採取された猫の尿路結石5,173サンプルを部位別に調べたところ、膀胱もしくは尿道から採取された割合が全体の93%に達したといいます(:A. Hesse, 2012)。また2014年から2020年の期間、オランダ国内で採取された猫の尿路結石3,500サンプルを調べたところ、全体の85.5%までもが膀胱由来だったといいます(:N.D.Burggraaf, 2021)。さらに2005年から2018年の期間、アメリカのカリフォルニア大学デーヴィス校が3,940の尿石サンプルを部位別に調べたところ、以下のような内訳になったといいます(:L.Kopecny, 2021)。尿路結石全体の95.3%(4,464/4,681)までもが下部尿路由来という比率がおわかりいただけるでしょう。
成分 | 上部 | 下部 |
シュウ酸カルシウム | 7.0% | 91.9% |
ストルバイト | 0.1% | 99.0% |
尿酸 | 0.8% | 98.9% |
アパタイト | 3.8% | 95.2% |
シリカ | 0.0% | 89.5% |
血塊 | 13.7% | 82.2% |
猫における報告例が特に多いストルバイト結石、シュウ酸カルシウム結石、プリン(尿酸+キサンチン)結石に関しては2016年、ACVIM(米国獣医内科学会)が最新の医学的エビデンスに基づき、治療に関するガイドラインを公開しました。以下で1つずつ内容をご紹介します。 ACVIM Small Animal Consensus Recommendations on the Treatment and Prevention of Uroliths in Dogs and Cats
J.P. Lulich, A.C. Berent, L.G. Adams, J.L. Westropp, J.W. Bartges, C.A. Osborne, Journal of Veterinary Internal Medicine Volume 30, DOI:10.1111/jvim.14559
尿路結石症の検査・診断
尿石の成分解析
治療方針を決める上で尿石の成分を解析することは必須です。結石の現物を取り出せた場合は、以下のような技術を用いて成分を明らかにすることもできます(:L.A.Koehler, 2009)。
成分解析方法
- 量的解析光学結晶学的な解析法で成分の構成比率までわかる。具体的には偏光顕微鏡、赤外分光法、エネルギー分散型X線分析など。
- 質的解析測色学的な解析法で構成成分はわかるが割合まではわからない。またシリカやキサンチンの解析には向いていない。
尿石のGuesstimate
結石が尿路の中に留まっている状態で構成成分を知ることができれば時間と費用の短縮になり、また治療計画を立てやすくなります。しかし各種の画像検査を行っても、せいぜい「○○の可能性が高い」という推測ができる程度です。ミネソタ尿石センターは「Guess=当て推量」と「Estimate=評価」を合体させた「Guesstimate」という造語でこの難しさを表現しています。例えば以下のように、尿pH、エックス線密度などのヒントから可能性が高い尿石を推測していきます(:L.A.Koehler, 2009)。
体内尿石の推定ヒント
- ストルバイト尿pH:中性~アルカリ/エックス線密度:+~++++/上部尿路結石(腎臓+尿管)の場合は1~2割/尿道塞栓子の8割
- シュウ酸カルシウム尿pH:酸性~中性/エックス線密度:++~++++/上部尿路結石(腎臓+尿管)の場合は8~9割
- 尿酸(プリン)尿pH:酸性~中性/エックス線密度:0~++
- シスチン尿pH:酸性~中性/エックス線密度:+~++
複数の成分からなる尿石
尿路結石が単一の成分だけから構成されているなら話は単純ですが、実際には複数の成分が含まれていることがあり、診断や治療を難しくしています。1981年から2007年の期間中、ミネソタ尿石センターが解析した猫の尿石94,776を例を取ると、全体の70%を超える単一成分を持たない複合型尿石を「ミックス型尿石」とした場合の割合が1%、そして単一主成分を70%以上含む複合型尿石を「コンパウンド型尿石」とした場合の割合が3.3%だったといいます(:Osborne, 2009)。
- 病巣(nidus)尿石が形成される最初期の部分(中心にあるとは限らない)
- 結石(stone)尿石の中で最も割合が多い部分
- 外殻(outer shell)完全(ひとつづき)な同心円状の外層
- 表層結晶(surface crystal)不完全(とぎれとぎれ)な尿石の外層
シュウ酸カルシウム結石
シュウ酸カルシウム結石(calcium oxalate urolith)とはシュウ酸とカルシウムが結合して結晶化し、巨大な塊になったものです。結石の元となる分子が尿中で水に溶け切らず、過飽和状態になることで形成されます。
危険因子
高カルシウム尿の原因
危険因子の一つである高カルシウム尿の原因は血中カルシウム濃度の上昇(高カルシウム血症)、腸管からのカルシウム過剰吸収、腎臓の尿細管における再吸収不全、骨からの過剰放出などです。また代謝性アシドーシスは骨のターンオーバーを促進することで血清イオン化カルシウム濃度を上昇させ、尿細管における再吸収量を減らすことでカルシウムの尿中排出量を増やし、結果として高カルシウム尿を誘発します。
その他、ループ利尿薬、糖質コルチコイド薬、尿の酸性化剤、ビタミンCやDの過剰投与によっても引き起こされる可能性があります。
その他、ループ利尿薬、糖質コルチコイド薬、尿の酸性化剤、ビタミンCやDの過剰投与によっても引き起こされる可能性があります。
高シュウ酸尿の原因
尿中シュウ酸濃度上昇の原因はシュウ酸の元になるアミノ酸(グリシン・セリン)やビタミンCの過剰摂取です。また子猫を対象とした調査において、ビタミンB6が欠乏した食事で実験的に高シュウ酸尿が誘導されることから、ビタミンB6不足も危険因子と考えられています。
体質的な原因としては、肝臓においてシュウ酸の前駆物質の代謝に関与する酵素の一種D-グリセリン酸デヒドロゲナーゼが欠落した血縁猫において高シュウ酸尿が見られます。また猫における実証データはないものの、「Oxalobacter formigenes」と呼ばれるシュウ酸を代謝する腸内細菌を多く保有した犬においてシュウ酸カルシウム結石のリスクが確認されていることから、猫でも同様のメカニズムが作用する可能性を否定できません。
体質的な原因としては、肝臓においてシュウ酸の前駆物質の代謝に関与する酵素の一種D-グリセリン酸デヒドロゲナーゼが欠落した血縁猫において高シュウ酸尿が見られます。また猫における実証データはないものの、「Oxalobacter formigenes」と呼ばれるシュウ酸を代謝する腸内細菌を多く保有した犬においてシュウ酸カルシウム結石のリスクが確認されていることから、猫でも同様のメカニズムが作用する可能性を否定できません。
酸性尿の原因
尿pHはシュウ酸カルシウムの可溶性に小さいながらも直接的な影響を及ぼします。例えば飽和度に関し、尿pH7.2超<6.5未満という具合に、酸性に傾いているときの方が飽和しやすいことがわかっています(:Bartges, 2013)。
酸性尿が長期間持続すると軽度の代謝性アシドーシスにつながり、骨からのカルシウム流出と尿中へのカルシウム放出が増えてしまう可能性があります。また低クエン酸尿を促進し、内因性の結石阻害因子の機能を低下させる可能性もあります(=結石ができやすくなる)。再発性結石症を示す猫において尿pHを6.6~7.5に保つことが提案されているのはこのためです。
酸性尿が長期間持続すると軽度の代謝性アシドーシスにつながり、骨からのカルシウム流出と尿中へのカルシウム放出が増えてしまう可能性があります。また低クエン酸尿を促進し、内因性の結石阻害因子の機能を低下させる可能性もあります(=結石ができやすくなる)。再発性結石症を示す猫において尿pHを6.6~7.5に保つことが提案されているのはこのためです。
食事療法
ストルバイトとは違い、シュウ酸カルシウム結石を溶解させるようなプロトコルは確立していません。食事療法によってできることはせいぜい結石ができにくい体内環境を維持し、予防することだけです。
酸性化食の停止
猫の尿pHが6.25を下回って酸性に傾くとシュウ酸カルシウム結石ができやすくなると考えられています。例えば尿を酸性に傾ける塩化アンモニウムを猫が食事経由で摂取すると、尿中へのカルシウム排出量が増えるとか、尿pHを6~6.2に調整するような酸性誘導食は6.5~6.9に調整された食事に比べてシュウ酸カルシウム結石のリスクが3倍になるなどと報告されています(:Lekcharoensuk, 2001)。
逆に尿pHがアルカリ性に傾くとシュウ酸カルシウムの相対的過飽和値が減少して結石ができにくくなると考えられています。例えば5頭の猫を対象とした調査では、酸性化食をやめたり尿の人為的な酸性化をやめることで血清カルシウム濃度が正常化したと報告されています(:Thumchai, 1996)。
再発性のシュウ酸カルシウム結石症を示す猫においては尿pHが6.5未満になるよう調整された薬や食事は避け、尿pHを6.6~7.5に保つことが基本です。
逆に尿pHがアルカリ性に傾くとシュウ酸カルシウムの相対的過飽和値が減少して結石ができにくくなると考えられています。例えば5頭の猫を対象とした調査では、酸性化食をやめたり尿の人為的な酸性化をやめることで血清カルシウム濃度が正常化したと報告されています(:Thumchai, 1996)。
再発性のシュウ酸カルシウム結石症を示す猫においては尿pHが6.5未満になるよう調整された薬や食事は避け、尿pHを6.6~7.5に保つことが基本です。
水分摂取量の増加
カルシウム/シュウ酸
食事中のカルシウムもしくはシュウ酸のどちらか一方だけを減らすと、残った他方の生体内利用能と腸管からの吸収量が高まり、結果として尿中排出量が増える可能性があります。またカルシウム摂取量を制限すると結石形成リスクが高まることから無節操な食事制限は推奨されません。
摂取成分と注意点
- クエン酸塩クエン酸は尿中においてカルシウムと結合して水溶性の複合体を形成し、イオン化カルシウム濃度を低下させます。またクエン酸塩がクエン酸回路内で酸化すると、重炭酸塩を生成することで尿をアルカリに傾け、結石の形成リスクを低下させます。療法食にクエン酸カリウムが添加されている目的は、上記したメカニズムを通してシュウ酸カルシウム結石の形成を阻害することです。
- リンリン制限はビタミンDの活性を高め、腸管からのカルシウム吸収量増加を促して高カルシウム尿を招く可能性があることから、禁忌とされています。またリンはシュウ酸カルシウム結石に対する阻害効果(げっ歯類や人)を有する尿中ピロリン酸塩濃度を左右することから、むやみやたらに減らすと結石の形成リスクが高まってしまう可能性を否定できません。さらに猫での実証データはないものの、人ではリンの過剰摂取によってリン酸カルシウム結石の形成リスクが高まりますので、たくさん摂ればよいというものでもありません。
- マグネシウム低マグネシウム食とシュウ酸カルシウム結石のリスクが示唆されています。逆にマグネシウムの過剰摂取はストルバイトのリスクを高めることから、極端な増減を避けた適正量の摂取が推奨されます。
- アミノ酸動物由来のタンパク質はクエン酸塩の排出量を減らして骨からのカルシウム動員を増やし、尿中へのカルシウムとシュウ酸の排出量を増やすことから、人ではシュウ酸カルシウム結石の危険因子と考えられています。猫を対象とした給餌試験では、食事中のタンパク質を35→57%に増やしたところ、尿中カルシウム濃度が35%増加し、クエン酸塩濃度が45%低下したとされていますので、人間の場合と同様危険因子になりうるかもしれません(:Pablack, 2014)。しかし逆に高タンパク食が予防的に作用したことを示唆する調査もあるため結論的なことは言えません。
- ビタミンCビタミンCはシュウ酸の前駆物質であり、また人間とは違い猫の体内では自然合成されるため、サプリメントのような形でわざわざ添加する必要はありません。またクランベリーはシュウ酸とビタミンC濃度が高く、尿を酸性に傾けるので禁忌とされています(:Terris, 2001)。
- ビタミンB6成猫における実証データはないものの、子猫を対象とした給餌試験ではビタミンB6不足によって高シュウ酸尿が誘導されることから、不足しないよう注意します(:Bai, 1989)。
- 食物繊維食物繊維は猫が高カルシウム血症の場合に限り予防的に作用する可能性が示されています。また大豆や米ぬか由来の繊維は腸管からのカルシウム吸収量を減らすとの報告があります。
投薬治療
利尿薬は尿細管におけるカルシウムの再吸収を促進すると同時に、間接的に骨からのカルシウム分離と腸管からのカルシウム吸収に影響を及ぼします。
例えば臨床上健康な猫にヒドロクロロチアジド(1mg/kg q12h)を投与したところ、尿中シュウ酸カルシウムの相対的過飽和が65%減少したとの報告があります。しかし医学的なエビデンスレベルが高いとは言えませんので、再発症例にチアジド(サイアザイド)系利尿薬を使用するかどうかは慎重に考慮します(:Hezel, 2007)。
骨粗しょう症に使用されるビスフォスフォネートが投与されることもありますが、特発性の高カルシウム血症を示している猫においては治療が難しく、糖質コルチコイドや食事の変更と組み合わせてもなかなか反応してくれないことが少なくありません(:ACVIM, 2016)。
例えば臨床上健康な猫にヒドロクロロチアジド(1mg/kg q12h)を投与したところ、尿中シュウ酸カルシウムの相対的過飽和が65%減少したとの報告があります。しかし医学的なエビデンスレベルが高いとは言えませんので、再発症例にチアジド(サイアザイド)系利尿薬を使用するかどうかは慎重に考慮します(:Hezel, 2007)。
骨粗しょう症に使用されるビスフォスフォネートが投与されることもありますが、特発性の高カルシウム血症を示している猫においては治療が難しく、糖質コルチコイドや食事の変更と組み合わせてもなかなか反応してくれないことが少なくありません(:ACVIM, 2016)。
外科手術
猫の上部尿路結石症(腎結石+尿管結石)の8~9割は、溶解しにくいシュウ酸カルシウムでできており、厄介なことに食事を介した溶解治療に反応してくれません。
腎結石においては閉塞を起こしていない限り現状のモニタリングが優先されますが、ひとたび閉塞が起こると命に関わる危険な状態になりますので、外科手術によって物理的に除去する必要があります。具体的には発症部位に応じて以下のページをご参照ください。
腎結石においては閉塞を起こしていない限り現状のモニタリングが優先されますが、ひとたび閉塞が起こると命に関わる危険な状態になりますので、外科手術によって物理的に除去する必要があります。具体的には発症部位に応じて以下のページをご参照ください。
ストルバイト結石
ストルバイト結石(struvite urolith)とはリン、マグネシウム、アンモニウムからなる結晶のことです。情報源によっては「ストラバイト」と表記されることもありますが、当ページ内では英語の発音に合わせて「ストルバイト」に統一します。
上部尿路(腎臓・尿管)ではほとんど見られませんが、下部尿路(膀胱・尿道)における結石症の4~5割はストルバイトであり、犬とは違って細菌感染症を伴わない無菌性の結石が大部分を占めています。また中心部分にストルバイトとは別の有機成分からなる核を内包していることもあります。
上部尿路(腎臓・尿管)ではほとんど見られませんが、下部尿路(膀胱・尿道)における結石症の4~5割はストルバイトであり、犬とは違って細菌感染症を伴わない無菌性の結石が大部分を占めています。また中心部分にストルバイトとは別の有機成分からなる核を内包していることもあります。
危険因子
過去に行われた調査や報告により、猫におけるストルバイト形成の危険因子がいくつか確認されています。海外におけるものですので、あくまでも参考程度にお考えください(:Funaba, 2012 | :Grauer, 2015 | :Bartges, 2015)
ストルバイトの危険因子
- 水分摂取量の低下ドライフード(カリカリ)を給餌しているときより、水でふやかしたドライフードやウェットフードを給餌しているときの方が水分摂取量が増え、結果的に尿が希釈されて結晶ができにくくなります。逆に水分摂取量が少ないと尿が濃縮され、ちょうど砂糖を入れすぎた紅茶のように結晶ができやすくなります。
- アルカリ尿アルカリ尿(6.8以上)の原因には投薬、食事、摂食スタイル(どか食い)、基礎疾患(尿細管障害)などがあります。
- 尿路感染症犬に比べ猫ではそれほど多くありませんが、尿路感染症による細菌性ストルバイト結石にはウレアーゼ産生性細菌(ブドウ球菌・腸球菌・プロテウス)が関わっており、尿中アンモニウム濃度上昇でアルカリ尿が引き起こされ、リンのイオン化状態が変化することで結石が形成されやすくなってしまいます。細菌性ストルバイト結石の危険因子は子猫、メス猫、ペルシャ、高齢、体重減少、慢性腎不全、甲状腺機能亢進症、糖尿病などです。
- 尿中結晶濃度上昇ストルバイトを構成するリン、マグネシウム、アンモニウムの尿中濃度が高まると、それだけ過飽和状態に陥りやすくなり結晶化→結石化という転機を取りやすくなります。
- 年齢?ストルバイト結石の好発年齢に関しては調査報告によってばらばらであまり統一感がありません。例えば「無菌性のストルバイト結石は1~10歳に多い」「2~7歳でピーク」「6~8歳をピークにその後は減少傾向に入る」といったものがあります。
- メス複数の調査でメス猫に多い可能性が示唆されています。
- 品種好発品種として報告があるのはバーミーズ、ペルシャ、ヒマラヤン、レックス種、アビシニアン、ロシアンブルー、バーマン、シャムなどです。
食事療法
シュウ酸カルシウム結石とは違い、ストルバイト結石は食事療法による溶解治療がよく効きます。無菌性であれ感染性であれ、麻酔や手術のリスクや費用を最小限に留めるため、医学的方法による溶解が第一選択肢となります。ストルバイト向けに販売されている療法食の共通項は「低リン」「低マグネシウム」「尿pH6.0程度に酸性化」です。
療法食は医薬品ではなく決して「処方」されるものではありませんが、給餌するかどうかは持病の有無に左右されますので、必ず担当獣医師の指示を仰いでください。細かい注意点や実際の効果に関しては以下のページでも解説してあります。
療法食は医薬品ではなく決して「処方」されるものではありませんが、給餌するかどうかは持病の有無に左右されますので、必ず担当獣医師の指示を仰いでください。細かい注意点や実際の効果に関しては以下のページでも解説してあります。
投薬治療
シュウ酸カルシウム結石が尿路感染症に起因する細菌性結石の場合は、抗菌薬を投与して結石の再生を防ぎます。多いのはブドウ球菌、腸球菌、プロテウスですが、抗菌薬を決める際は耐性菌の出現リスクを最小限に抑えるため、当てずっぽうではなく尿培養と感受性テストの結果を元にします。
また溶けた結石の中に潜んでいた細菌による再発を予防するため、3ヶ月間くらいは月に1度の尿検査行い、バクテリアの有無をモニタリングします。
また溶けた結石の中に潜んでいた細菌による再発を予防するため、3ヶ月間くらいは月に1度の尿検査行い、バクテリアの有無をモニタリングします。
外科手術
食事療法による溶解がうまくいかない場合は、結石がそもそもストルバイトではない可能性を考慮し、外科手術によって物理的に除去する方針に切り替えます。
ACVIM(米国獣医内科学会)では体に対する負担が最小限に抑えられるよう、侵襲性の低い手技を推奨しています。具体的には発症部位別に以下のページをご参照ください。
ACVIM(米国獣医内科学会)では体に対する負担が最小限に抑えられるよう、侵襲性の低い手技を推奨しています。具体的には発症部位別に以下のページをご参照ください。
尿酸尿石
尿酸尿石(urate urolith)は、核酸の主要成分であるプリン体が代謝される過程で生み出される尿酸の体内濃度が高まり、最終的に結晶・結石化した状態のことです。プリン体と尿酸の中間段階に当たるキサンチンが結晶化することもあり、キサンチン尿石と尿酸尿石を合わせてプリン尿石と総称することもあります。
多くの哺乳類では各種の酵素を通じて体内のプリン体をヒポキサンチン→キサンチン→尿酸→アラントインへと代謝して体外に排出しています。しかし何らかの理由によりこの代謝経路に不具合が生じると、最終産物であるアラントインがスムーズに生成されなくなり、中間産物であるキサンチンもしくは尿酸が過剰に蓄積して結石化します。
尿酸はさまざまな分子と結合して尿酸ナトリウムや尿酸カリウムといった尿酸塩を形成しますが、猫において圧倒的に多いのは尿酸アンモニウム結石です。形成された尿酸塩結石はエックス線透過性で大きさは1mm~1.5 cm、形状は球形~卵形が多いとされます。
尿酸はさまざまな分子と結合して尿酸ナトリウムや尿酸カリウムといった尿酸塩を形成しますが、猫において圧倒的に多いのは尿酸アンモニウム結石です。形成された尿酸塩結石はエックス線透過性で大きさは1mm~1.5 cm、形状は球形~卵形が多いとされます。
危険因子
猫におけるプリン尿石の危険因子はよくわかっていません。理論上は肝臓疾患によりプリン体からアラントインへの代謝およびアンモニアから尿素への代謝が阻害されることで尿酸塩結石ができやすくなると想定されています。その他、シャントを始めとする門脈の機能不全、高尿酸尿症、腎微生物によるアンモニウムの生成量増加、酸性尿(pHが7.0を下回るとアンモニウムと結合しやすい)、核となる有機物(細胞残滓・結晶)、糖タンパクなど阻害因子の欠落、濃縮尿、プリン体の前駆体を多く含んだ食事などが危険因子と考えられています。
1981年1月から2008年12月までの期間、アメリカにあるミネソタ尿石センターで解析を行った尿酸塩尿石5,072例と非尿路疾患437,228例を比較したところ、以下のような特徴が浮かび上がってきました(:Albasan, 2012)。
2000~2008年の期間、カリフォルニア大学デイヴィス校の結石ラボで314症例を解析した結果、猫の年齢中央値は7歳、体重は5.5kg、オス48%+メス52%で最も多かったのは尿酸アンモニウム結石だったといいます。また門脈シャントが確認されたのはわずか7例で、シャントあり(2歳)の方がなし(7歳)より若かったとも(:Dear, 2011)。
キサンチン尿石は尿酸塩結石に比べてそれほど多くなく、すべての尿石症のうちわずか0.14%程度との報告があります。キサンチンを唯一の成分とした単一結石が多く、多くは5mm未満、複数個形成されていることもあり、95%は下部尿路から採取されたそうです。86%の猫は手術済みで平均年齢は2.8歳でした(:Bartges, 2015)。
1981年1月から2008年12月までの期間、アメリカにあるミネソタ尿石センターで解析を行った尿酸塩尿石5,072例と非尿路疾患437,228例を比較したところ、以下のような特徴が浮かび上がってきました(:Albasan, 2012)。
猫の尿酸尿石の特徴
- 97.0%(4,920/5,072)は下部尿路
- 0.7%(34/5,072)は上部尿路
- オス(1.14倍)>メス
- 純血種>非純血種
- 不妊手術済み(12倍)>未手術
- 1歳未満<1歳以上
- 4~7歳が最多で1歳未満の51倍
2000~2008年の期間、カリフォルニア大学デイヴィス校の結石ラボで314症例を解析した結果、猫の年齢中央値は7歳、体重は5.5kg、オス48%+メス52%で最も多かったのは尿酸アンモニウム結石だったといいます。また門脈シャントが確認されたのはわずか7例で、シャントあり(2歳)の方がなし(7歳)より若かったとも(:Dear, 2011)。
キサンチン尿石は尿酸塩結石に比べてそれほど多くなく、すべての尿石症のうちわずか0.14%程度との報告があります。キサンチンを唯一の成分とした単一結石が多く、多くは5mm未満、複数個形成されていることもあり、95%は下部尿路から採取されたそうです。86%の猫は手術済みで平均年齢は2.8歳でした(:Bartges, 2015)。
食事療法
猫のプリン体尿石(尿酸塩尿石・キサンチン尿石)に対する食事療法は確立していません。ACVIM(米国獣医内科学会)が2016年に公開した猫の尿石症治療ガイドラインでは低タンパク・低プリン(特にプリン体を多く含む肉や魚といった動物性の高タンパク食を避ける)、尿の希釈(尿比重1.030未満)、尿の酸性化予防(pH7.0~7.5/補助的にクエン酸カリウム)を長期的に継続することを推奨しています(:ACVIM, 2016)。また上記した食事療法と投薬治療を組み合わせることにより3.5ヶ月程度で結石が溶けるという逸話的な報告もあります。
タンパク制限は授乳中の母猫や成長中の子猫には禁忌ですので、給餌する場合は指示に従ってください。
タンパク制限は授乳中の母猫や成長中の子猫には禁忌ですので、給餌する場合は指示に従ってください。
投薬治療
猫のプリン体尿石(尿酸塩尿石・キサンチン尿石)に対する投薬治療は確立していません。
犬においてはキサンチンオキシダーゼ阻害剤(アロプリノール)による尿酸生成量の低下が効果的であると報告されていますが、猫における薬効は十分に検証されていないのが現状です。この薬は肝臓におけるキサンチンから尿酸への代謝を阻害することで尿酸の体内濃度を減らす効果を有しています。
しかし肝臓や腎臓に持病があると代謝されないまま残ったキサンチンが逆に尿石の危険因子になりますので、投薬する際は必ず担当獣医師の処方に従ってください。なお人間において報告されている副作用は皮膚発赤、消化管不良、血小板減少症、血管炎、肝炎などです。
犬においてはキサンチンオキシダーゼ阻害剤(アロプリノール)による尿酸生成量の低下が効果的であると報告されていますが、猫における薬効は十分に検証されていないのが現状です。この薬は肝臓におけるキサンチンから尿酸への代謝を阻害することで尿酸の体内濃度を減らす効果を有しています。
しかし肝臓や腎臓に持病があると代謝されないまま残ったキサンチンが逆に尿石の危険因子になりますので、投薬する際は必ず担当獣医師の処方に従ってください。なお人間において報告されている副作用は皮膚発赤、消化管不良、血小板減少症、血管炎、肝炎などです。
外科手術
尿酸塩結石が食事療法や投薬治療に反応しない場合は、そもそも結石の成分を誤診している可能性を考え、外科手術による物理的な除去を考慮します。また酵素阻害薬や溶解フードが入手できない場合、猫が薬や療法食を受け付けない場合、溶解作用を含んだ尿が尿石に十分接触できないような場合(尿路閉塞・尿道結石)も、医学的溶解より手術療法が優先されることがあります。
猫におけるプリン尿石は尿酸塩でもキサンチンでも9割以上が下部尿路(膀胱+尿道)です。詳しくは以下のページをご参照ください。
猫におけるプリン尿石は尿酸塩でもキサンチンでも9割以上が下部尿路(膀胱+尿道)です。詳しくは以下のページをご参照ください。