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猫の甲状腺機能亢進症~症状・原因から予防・治療法まで

 猫の甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

猫の甲状腺機能亢進症の病態と症状

 猫の甲状腺機能亢進症とは、のどにある甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンの機能が過剰になった状態のことです。
 甲状腺ホルモンには「トリヨードチロニン」(T3)と「サイロキシン」(T4)という2種類があり、いずれも、全身の細胞に作用して代謝を上げる働きを持っています。これらのホルモンの機能が強くなりすぎた状態が「甲状腺機能亢進症」、逆に弱くなりすぎた状態が「甲状腺機能低下症」です。 猫の甲状腺と副甲状腺(上皮小体)の位置関係  猫の甲状腺機能亢進症の症状としては以下のようなものが挙げられます。なおこの病気が人間に発症したときは、眼球の裏側にある「外眼筋」(がいがんきん)と呼ばれる筋肉が腫れたり肥大したりして、徐々に目が突出してきますが、猫においてはこうした徴候は見られません。
猫の甲状腺機能亢進症の主症状
  • 甲状腺の腫れ
  • 体重減少
  • 落ち着きが無くなる
  • 水を頻繁に飲む
  • おしっこの量と回数が増える
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 毛づやの悪化
  • 高体温
  • 不整脈
  • 心筋症
 ニューヨークのコーネル大学が行った調査では、患猫の90%近くで見られる体重減少は、脂肪ではなく主として筋肉の目減りによって引き起こされており、このパターンでの体重減少は全体の75%にまで及ぶことが明らかになりました(→詳細)。つまり病気を発症してやせてきた猫のうち、4頭中3頭は筋肉が落ちているということです。 甲状腺機能亢進症の猫で見られるMCSの変化  発症に伴って体重減少は見られるものの、「やせ」というレベルにまで至るものは全体の3分の1程度にすぎず、病気を適切に治療すれば体重の回復を見込めるとも。ただし、約半数では筋肉量を元のレベルにまで戻す事は難しいとしています。飼い主としては、日常的に猫の体を観察して筋肉量の変化をチェックし、病気の早期発見につなげたいものです。MCS(筋肉のつき具合)をチェックする方法に関してはこちらのページもご参照ください。

猫の甲状腺機能亢進症の原因

 猫の甲状腺機能亢進症の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
猫の甲状腺機能亢進症の主な原因
  • 遺伝 シャムバーミーズの発症率が低いという事実から、遺伝子が何らかの関わりを持っていると推測されています。
  • 甲状腺腫  甲状腺に発生した良性、もしくは悪性の腫瘍によって甲状腺ホルモンが過剰に生成されるようになり、発症します。猫においてはほとんどがこちらのパターンです。甲状腺が病的に肥大する腺腫が98~99%を占め、残りの1~2%が甲状腺ガンだと推計されています。
  • 被毛の色や長さ(?) 被毛の色が黒に近かったり毛が長い猫では、被毛のメラニン色素を作り出すのに大量のチロシン(アミノ酸の一種)が必要になります。チロシンは甲状腺ホルモン(チロキシン)の原料でもあるため、被毛に大量のチロシンが奪われると、甲状腺がフル稼働しないと体に必要なホルモンを作り出すことができません。その結果、甲状腺がオーバーワークになって亢進症を発症するのではないかという仮説があります。イギリスで行われた検証では、完全には証明されないものの、完全に否定することもできないとの結果に行き着いています(→詳細)。
  • 環境要因(?)  かつて亢進症は比較的まれな病気でしたが、1980年以降急激に増え、近年では高齢猫の10頭に1頭はこの病気にかかっているといわれています。発症理由は定かではないものの、何らかの環境要因がかかわっていると考えられています。具体的にはフェノール、ハロゲン化炭化水素、防臭加工の猫砂、ビスフェノールA、フタル酸エステルを含んだフード、大豆イソフラボン、難燃剤のPBDEs、フード中のヨウ素などです。

猫の甲状腺機能亢進症の治療

 猫の甲状腺機能亢進症の治療法としては、主に以下のようなものがあります。なお根治療法の一つとして「放射性ヨード(ヨウ素)治療」が欧米で用いられていますが、現行法の日本においては、獣医療の現場で行うことが認められていません。
猫の甲状腺機能亢進症の主な治療法
  • 外科手術  甲状腺腫が原因のときは、大きくなった甲状腺を手術によって切除します。甲状腺は左右に2つありますが、両方を切除した場合は不足する甲状腺ホルモンを補うため、生涯に渡ってホルモン投与が必要となります。こうした治療を行わないと、医原性の甲状腺機能低下症副甲状腺機能低下症を招いてしまいますので要注意です。
  • 投薬治療  甲状腺の摘出を行わない場合は、甲状腺ホルモンの生産を妨げるような薬を投与します。しかし投薬治療によって腫瘍がなくなるわけではないため、生涯に渡る投薬が必要です。
  • 食事療法 ヨードの含有量が少ない療法食がヒルズなどから発売されています。反応率が82%程度で腎不全を抱えてる猫にも安全というメリットがある反面、一生涯同じ食事しか食べられないとか、食事を止めた時の再発率が100%といったデメリットを併せ持っています。
  • 室内環境の見直し 近年、病気を引き起こす見えない犯人として「揮発性有機物質」(きはつせいゆうきぶっしつ, VOC)が注目されてきました。これは常温で蒸発し、気体となる有機化合物のことで、化学物質過敏症と内分泌かく乱を引き起こす黒幕と考えられています。内分泌かく乱を引き起こす原因物質は、一般的に「環境ホルモン」と呼ばれていますが、何らかのメカニズムを通して猫の甲状腺に作用している可能性も考えられます。環境中からこうした目に見えない揮発性有機物質を可能な限り減らすことは、決してマイナスにはならないでしょう。見えない化学物質に注意
 2016年、「全米猫獣医学会」(AAFP)は甲状腺機能亢進症に関する知識を総括し、診断や治療に関するガイドラインを公開しました。詳しくはこちらの記事をご参照ください。