猫の耳の構造
猫の耳は、基本的に私たち人間と同じ構造をしています。以下は猫の耳の解剖学的構造図です。
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- 耳介耳介(じかい)とは耳のひらひら部分のことです。音のする方向に向け、パラボラアンテナのように集音する役割を果たします。
- 耳道耳道(じどう)とは音の通り道のことです。縦穴のように垂直に降りる「垂直耳道」と、横穴のように水平に伸びる「水平耳道」とが、ちょうどアルファベットの「L」のような形を作っています。
- 鼓膜鼓膜(こまく)とは音を響かせる薄い膜のことです。まるでドラムのように振動し、音を鼓室へと伝えます。
- 鼓室鼓室(こしつ)とは鼓膜の後ろにある小部屋のような空間です。中には耳小骨(じしょうこつ)と呼ばれる小さな骨があり、入ってきた音を20倍以上に増幅します。ちなみに耳小骨は体の中で最も小さな骨であり、「ツチ」、「キヌタ」、「アブミ」の3つから構成されています。
- 耳管耳管(じかん)は鼓室と口の中をつなぐ管で、鼓室の空気圧を大気圧と等しくする役割を担っています。
- 蝸牛蝸牛(かぎゅう)とは、音を電気信号に変換して脳へ送る中継装置のようなものです。形がカタツムリ(蝸牛)に似ていることからこう呼ばれています。ちなみに蝸牛に隣接している3本の管は「三半規管」(さんはんきかん)と呼ばれ、バランス感覚をつかさどっています。
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猫の聴力の発達
猫の五感の中で、「聴覚」は最もすぐれているといわれます。これは暗い林や森の中で、獲物を待ち伏せすることで生き延びてきた種族だからでしょう。「音」に対する感度を進化させれば、日光量の少ない夜でも獲物の居場所を突き止めることができるからです。
猫の優れた聴覚は、以下のような段階を追って発達します。
猫の優れた聴覚は、以下のような段階を追って発達します。
猫の聴覚の発達
- 生後6日まで生後2~3日ごろから電位が見られ、生後6日目までに200~6,000ヘルツまで可聴域が広がる。
- 生後16日まで生後7日目には定位反応が見られ、13~16日齢までには音の聞こえる方向へ探索をするようになる。外耳道は6~14日齢に開き、おおよそ17日齢で完成する。
- 生後31日まで3~4週齢で同腹の子猫や人間の音声を認識し、防衛反応(背中を丸めてシャーシャー音を出す)も見られる。31日齢までに耳介が深くくぼんでいく。
白猫の聴覚障害
猫の聴覚を調べる際、音に対する反応を見る行動学的な方法(手を叩いて振り向くかなど)と音に対する脳の電気反応を見る生理学的な方法(BAER, 聴性脳幹誘発反応)とがあります。白猫を対象として行われた調査では、両親が白猫の場合、何らかの聴覚障害を持って生まれる確率は52~96%だといいますので、全身が真っ白な白猫においては高い確率で聴力に異常があることは確かなようです。
なお全身が真っ白で両目がブルーの場合は両方の耳、片目だけがブルーの場合は青い目があるほうの耳が聴覚障害を発症しやすいと言われています。詳しいメカニズムに関しては以下の記事をご覧ください。
声や名前の聞き取り能力
2013年に行われた実験で、猫は飼い主の声を聞き分けることができるという事実が明らかになりました(:Saito)。実験では、20匹の猫を対象に、知らない人の声を3人分聞かせた後、飼い主の声を聞かせるというテストが行われました。その結果、15匹の猫が飼い主の声に対して反応を見せたとのこと。またその反応は、犬のように吠えたりするのではなく、耳を動かしたり顔を向けるといった控えめなものだったとも。
こうした事実から、猫は第三者の声と飼い主の声を聞き分けることができるという可能性が示されました。猫の名前を呼んだとき、面倒くさそうにしっぽを2~3回振ったり、耳をピクピク動かすことがあります。これは「はいはい。あなたの声はちゃんと聞こえてますよ」という猫流の返答なのかもしれません。なお2019年、上記したのと同じ研究者が別の実験を行い、「猫は自分の名前を理解できる」ことを確認しています。詳しい内容は以下の記事をご覧ください。 NEXT:耳のひらひら部分について
こうした事実から、猫は第三者の声と飼い主の声を聞き分けることができるという可能性が示されました。猫の名前を呼んだとき、面倒くさそうにしっぽを2~3回振ったり、耳をピクピク動かすことがあります。これは「はいはい。あなたの声はちゃんと聞こえてますよ」という猫流の返答なのかもしれません。なお2019年、上記したのと同じ研究者が別の実験を行い、「猫は自分の名前を理解できる」ことを確認しています。詳しい内容は以下の記事をご覧ください。 NEXT:耳のひらひら部分について
猫の耳介
耳介(じかい)とは、耳のひらひら部分のことです。猫の耳介には小さな筋肉がたくさんついており、まるでパラボラアンテナのように自分の意志で自由に耳を動かすことができます。
猫の耳介の筋肉
以下は、猫の耳を動かす筋肉と動かす方向の一覧です。実は人間の耳にも、「前耳介筋」、「上耳介筋」、「後耳介筋」といった筋肉が付いていますが、ほとんど痕跡的な役割しか果たしていません。
猫の耳介筋と耳の動き方
- 耳を前方に向ける 耳を前方に向ける時に動員される筋肉は、「前頭筋」(ぜんとうきん)と「頬骨耳介筋」(きょうこつじかいきん)がメインです。驚いたときや何かに興味を抱いたときなどによく見られます。
- 耳を後方に向ける 耳を後方向ける時に動員される筋肉は、「頚耳介筋」(けいじかいきん)と「側頭筋」(そくとうきん)がメインです。不愉快なことがあったときや怒ったときなどによく見られます。
- 耳を下方に向ける 耳を下方に向ける時に動員される筋肉は、「耳下腺耳介筋」(じかせんじかいきん)がメインです。何かを怖がっているときや服従心を示すときなどによく見られます。
猫の耳介のタイプ
猫の耳介の種類には、本来それほどバリエーションはありません。しかし1800年代半ば頃から急速に進められてきた選択繁殖により、品種特有の耳というものが生みだされました。
画像出典:MESSY BEAST
猫の耳介の位置
- ノーマルノーマル(Normal)とは、最もよく見られる耳の位置です。
- フレアベースフレアベース(Flare Base)とは、耳の付け根がやや広がっている状態のことです。まるでろうそくの炎(flare)のように見えることからこう呼ばれます。
- ワイドセットワイドセット(Wide-set)とは、耳の先端が極端に外側に向かっている状態のことです。耳と耳との距離が離れて「ワイド」(Wide)に見えることからこう呼ばれます。
- クロースセットクロースセット(Close-set)とは、耳の先端が極端に内側に向かっている状態のことです。「ワイド」とは逆に、近づいて「クロース」(Close)に見えることからこう呼ばれます。
猫の耳介の形
- プリックプリック(Prick)とは、ピンと立った耳のことで、最も一般的にみられるタイプです。「立ち耳」とも言います。
- ルースフォールドルースフォールド(Loosely Folded)とは、やや前方に折れ曲がった耳のことです。「半折れ耳」とも言います。
- フォールドフォールド(Folded)とは、前方に完全に折れ曲がった耳のことです。「折れ耳」とも言い、代表格としてはスコティッシュフォールドが挙げられます。
- カールカール(Curled)とは、後方に巻き上がった耳のことです。「巻き耳」とも言い、代表格としてはアメリカンカールが挙げられます。
- フラッピーフラッピー(Floppy)とは、軟骨が柔らかく、形が一定しない耳のことです。「floppy」とは英語で「だらりとした」を意味します。
猫に聞こえる音の範囲
猫の可聴域(かちょういき=音の聞こえる範囲)は25~75,000ヘルツくらいです。人間の「20~20,000ヘルツ」、犬の「40~65,000ヘルツ」と比較しても、高音域に対する感度が優れています。実験では100,000ヘルツという、とてつもない高音でも脳内に反応電位が見られますが、実際に音として認識されているかどうかは定かではありません。
音程の聞き分け能力に関しても高い音の方が感度がよいようです。低周波では1音程の1/2の差を聞き分けますが、高周波数では1音程の1/5~1/10という、極めて微小な高低差を聞き分けることができます。なお異なる2つの場所から同時に流れてくるリズムの聞き取り能力をテストしたところ、猫は人間よりも高音域のリズムに対して敏感であることが明らかになっています。詳しい報告は以下の記事をご覧ください。
猫が呼びかけに反応しなかったり、音へのリアクションが悪いなと感じたときは、中耳炎や内耳炎にかかっている可能性があります。そうした異常が現れたときは念のため獣医さんに診てもらいましょう。また、猫が部屋の片隅を凝視しながらじっとしていると、「あれ・・ボケが始まったのかな?」と思うかもしれませんが、ほとんどの場合は人間には聞こえない微弱な音に反応しているだけです。
猫が聞き取りやすい音は、強さで言うと20デシベル、周波数で言うと250~35,000ヘルツ近辺です。また最も感度がよいのは、頭の正中線から20~40度の角度に位置する20,000ヘルツ以上の音だといいます。これは、猫の獲物となりやすいネズミなどのげっ歯類が、およそ17,000~148,000ヘルツの周波数でコミュニケーションをすることと関係しているのでしょう。また京都大学の心理学部が2016年に行った調査によると、音だけを頼りに見えない物体の存在を予測する能力に関しては、サルよりも猫の方が優れているそうです。こうした能力が発達した背景には、「暗闇の中で音を頼りに獲物を捕える」という猫の狩猟スタイルがあるもの推測されます。詳しくは以下の記事をご参照ください。
猫は一般的に、野太い男性の声を好まない傾向にありますが、これは声が低くて体の大きい捕食動物を連想させるからだと考えられます。逆に、子猫の泣き声に相当する2,000~6,000ヘルツくらいの音域を好むといわれています。猫が呼びかけに反応しなかったり、音へのリアクションが悪いなと感じたときは、中耳炎や内耳炎にかかっている可能性があります。そうした異常が現れたときは念のため獣医さんに診てもらいましょう。また、猫が部屋の片隅を凝視しながらじっとしていると、「あれ・・ボケが始まったのかな?」と思うかもしれませんが、ほとんどの場合は人間には聞こえない微弱な音に反応しているだけです。
- 猫の鈴
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「サザエさん」に登場するタマを始め、猫が首に鈴をつけている姿をよくみかけます。しかし、これは猫にとって本当に必要なものなのでしょうか?
- 猫の鈴のメリット部屋の中で足元に猫が来たとき、鈴の音で居場所が分かるので、踏んづける事故を予防できる。万が一迷子になった時、鈴の音で居場所を見つけやすくなる。放し飼いにしている場合は、飼い猫であることの証になる。
- 猫の鈴のデメリット猫にとっては多大なストレス!
猫の音源定位能力
音源定位能力(おんげんていいのうりょく)とは、音がどこから伝わってきているかを判断する能力のことです。
ちなみに犬の音源定位能力は8度、人は1~3度程度ですので、この能力に関しては人間の方に分があると言えます。これは、人が「言語」というものを重要なコミュニケーション手段として進化させてきた結果です。
NEXT:Q & A集
人と猫の音源定位能力
猫のそれは、75%の精度で5度の位置ずれを感知すると言います。猫の耳に入る音には、左右で極めて微小なずれがあり、それは25~80マイクロ秒(0.000025~0.000080秒)程度です。この時間差を脳が瞬時に計算し、音がどこからやってきたのかを判断します。ちなみに犬の音源定位能力は8度、人は1~3度程度ですので、この能力に関しては人間の方に分があると言えます。これは、人が「言語」というものを重要なコミュニケーション手段として進化させてきた結果です。
NEXT:Q & A集
猫の耳と聴覚・Q & A
以下は猫の耳や聴覚についてよく聞かれる疑問や質問の一覧リストです。思い当たるものがあったら読んでみてください。何かしら解決のヒントがあるはずです。
耳の付け根にある袋のようなものは耳たぶですか?
耳たぶではなく「ヘンリーのポケット」と呼ばれる部位です。
猫の耳の付け根をよく見ると小さな袋状の構造になっています。「皮膚辺縁嚢」とか「ヘンリーのポケット」(Henry’s Pocket)と呼ばれるこの部位は、犬や猫をはじめとしたネコ目の動物全般についているようです。 その機能に関してはよく分かっておらず、耳が折れやすくしているとか高音域を増幅しているといった説が提唱されています。機能はともかく、ツツガムシなど外部寄生虫が入り込みやすいことが報告されていますので猫を外に出さないよう注意しましょう。
耳を後ろに倒すのはなぜ?
恐怖やストレスを感じているからです。
猫は恐怖やストレスを感じたとき、耳を後ろに倒して平べったくします。「イカ耳」などと呼ばれるこの耳は、人間で言う「しかめっ面」と同じで不快感を示すときの表情の一種です。「捕獲萌え」や「ライオンキングごっこ」などと言って無理に抱きかかえられた猫でよくみられますので、SNS上の「いいね」のためにストレスを掛けるのは控えましょう。
なおヒトを始めとする霊長類では、恐怖やストレスを感じた時に脳の右半分が活性化し、同じ側にある鼓膜の温度が上昇するという不思議な現象が確認されています。この現象は猫にもあるようですが、脳内に「奇網」(carotid rete)と呼ばれる特殊な冷却システムをもっているためそれほどはっきりとした温度差としては現れないようです。 常に温度計を用意して猫の鼓膜音を計測するなどということは現実ではありませんので、ストレスを感じているかどうかは温度ではなく耳の形を見た方が良いでしょう。
耳の先端から生えている長い毛は何?
リンクスティップやタフトと呼ばれています。
リンクスはネコ科動物の一種。 2017年の最新分類法では1属、4種、8亜種が確認されています。 その全てに共通しているのは、耳の先端から長くて黒い毛が生えているという点です。
- Lynx canadensis
【一般名】カナダオオヤマネコ
【亜種】なし - Lynx lynx
【一般名】オオヤマネコ
【亜種】lynx/balcanicus/carpathicus/dinniki/isabellinus/wrangeli - Lynx pardinus
【一般名】スペインオオヤマネコ
【亜種】なし - Lynx rufus
【一般名】ボブキャット
【亜種】rufus/fascatius
野良猫の耳が切れている意味は?
不妊手術を施された「サクラねこ」の証です。
外を放浪している猫の耳を見ると、きれいなV字型にカットされていることがよくあります。桜の花びらに似ていることから「サクラねこ」とも呼ばれるこの切れ込みは、不妊手術を施してTNRが行われたことを示す証です。「TNR」とは トラップ・ニューター・リターンの略語であり、野良猫の数を減らすことを目的とした地域猫活動の一環として行われています。 ただし耳の横に切れ込みがあったり、切れ込みがあまりにもギザギザしているような場合は、生活の中で自然についた傷である可能性が大です。その場合はあらためて捕獲し、不妊手術を施した上でわかりやすいサクラカットを入れる必要があります。
「アワビを食べると猫の耳が腐る」は本当?
本当です。
江戸時代の1712年に発行された百科事典「和漢三才図会」(わかんさんさいずえ)内には以下のような一節があります。
猫、鳥貝の腸を食へば、則ち、耳欠落す、往々之を試むるに然り(猫がからす貝のはらわたを食べると耳が落ちてしまうので与えてはいけない)こうした風説が産まれた理由は、アワビの中腸線に含まれるクロロフィルによって日光皮膚炎が生じ、耳の先端が壊疽を起こして実際に落ちてしまうことがあるからです。皮膚炎の原因はクロロフィルが酵素によって分解されて生成される「フェオホルバイド」および「ピロフェオホルバイドa」という化学物質ですので、生のアワビは与えないようにしましょう。
耳の後ろをしきりにかきます
耳掃除が必要かもしれません。
猫の耳はL字型に曲がった洞窟のような構造になっています。外耳道と呼ばれるこの道のどこかにかゆみや痛みがあると、猫は耳の後ろをひっかいたり足の爪でグリグリと耳の穴をほじくるしかありません。猫がひっきりなしに耳の後ろをカキカキしているような場合は、飼い主が耳掃除をしてあげましょう。この習慣は耳の異常をいち早く見つける上でも重要です。
毛の一部がはげています
白癬菌かもしれません。
白癬菌は水虫の仲間に属する真菌(かび)の一種で、猫において非常に高い確率で確認されています。東京都内のペットショップで行われた保菌率調査では、3.6%だったという報告もあるくらいです。 英語の「リングワーム」(ringworm)が示すように、白癬菌に感染した部位は被毛が抜け落ち、円形のハゲができてしまいます。耳の一部に不自然な脱毛部位がある場合は、白癬菌を疑ったほうがよいでしょう。
かさぶたができています
耳疥癬かもしれません。
耳疥癬(みみかいせん)とは耳の外や中にミミヒゼンダニが寄生して発症する病気。黒い耳垢が大量に出るほか、ひどいときは耳のひらひら(耳介)がただれてかさぶたのようになってしまいます。 治療に際しては殺ダニ薬を投与します。予防に関しては猫を外に出さないこと、および耳疥癬にかかった猫とかかっていない猫を一緒に寝かさないことです。
耳が赤くただれています
扁平上皮がんかもしれません。
扁平上皮がんは皮膚を構成している扁平上皮細胞が悪性(がん)化した状態。日光に当たりやすい耳や、紫外線の影響を受けやすい白猫で多く発症します。
ひとたび発症すると、耳を根本から切除して転移するのを防がなければなりません。予防法は猫を外に出さないこと、および室内では紫外線をカットする窓ガラスを用いることなどです。なお日焼け止めクリームは猫が毛づくろいの際になめとってしまいますので使用しないでください。またタバコの煙ががんの発症率を高めることが報告されていますので、家の中で吸うのはやめましょう。