小袋の名前は「ヘンリーのポケット」
言われるまで気づかないほど地味なものですが、猫の耳の付け根には小さなポケットのようなものが付いています。「皮膚辺縁嚢」とか「ヘンリーのポケット」(Henry's Pocket)などと呼ばれるこの小さな袋は、猫だけでなくイヌ、キツネ、フェレットといったネコ目(食肉目)全般に付いているようです。
実はこのポケット、何のために存在しているのかよくわかっていません。真っ先に思いつくのは「耳を動かす時の緩衝地帯」というものです。耳を横に倒したり後ろに引きつけるとき、ポケットがちょうどよい「遊び」になって皮膚の過剰な引っ張りや折りたたみが緩和されます。しかし本当にそのような機能があるかどうかを科学的に検証した人はいません。
突飛な推理としては「音を反射して増幅してる」というものがあります。しかし耳は柔らかい組織ですので、硬い壁のように音を反響して増幅するというよりは、むしろ音(空気の振動)を吸収してしまう可能性の方が高いと考えられます。
思考を放棄すれば「全く意味はなく退化の過程にある無駄な部位」という考え方もできるでしょう。いずれにしても何のために存在しているのかわからないということです。
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思考を放棄すれば「全く意味はなく退化の過程にある無駄な部位」という考え方もできるでしょう。いずれにしても何のために存在しているのかわからないということです。
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ポケット中の寄生虫に注意!
「ヘンリーのポケット」が何のために存在してるのかはよく分かっていませんが、ある種の外部寄生虫にとっては格好の住処になってしまうことは確かなようです。
2002年から2012年の期間、イタリア国内にある2つの動物病院を受診した猫を対象とし、「ツツガムシ」(およびその類語)というキーワードで回顧的に調査したところ、合計72頭の症例が見つかったと言います。感染部位を細かく調べた結果、以下のような内訳になりました(※複数箇所の同時寄生あり)。
ツツガムシが特異的にこの場所を好む理由としては、外からアクセスしやすいと同時に皮膚が薄く、「スタイロストーム」(stylostome)を形成しやすいからだと考えられています。スタイロトームとはツツガムシが皮膚に針を差し込んだ時、唾液によって形成する筒状の物質で、血液成分を吸うストローのような構造物のことです。他の理由としては「ポケットの袋構造がツツガムシの幼虫を程よく守ってくれるから」などが挙げられます。
ちなみに上記した調査においてツツガムシに寄生された猫は、1頭の例外もなく全て放し飼いでした。感染に気づかずに無症状のまま過ごす猫がいるものの、4~5割ではかゆみや紅斑を発症することもありますので気をつけましょう。 Feline trombiculosis: a retrospective study in 72 cats
Federico Leone, Andrea Di Bella, Antonella Vercelli, Luisa Cornegliani, Vet Dermatol 2013;24: 535-e126, DOI: 10.1111/vde.12053
2002年から2012年の期間、イタリア国内にある2つの動物病院を受診した猫を対象とし、「ツツガムシ」(およびその類語)というキーワードで回顧的に調査したところ、合計72頭の症例が見つかったと言います。感染部位を細かく調べた結果、以下のような内訳になりました(※複数箇所の同時寄生あり)。
ツツガムシが好む寄生場所

- 耳介=80.6%
- 指間=15.3%
- あご=13.9%
- こめかみ=11.1%
- 唇=9.7%
- 股間=6.9%
- 爪の付け根=6.9%
- まぶた=5.6%
- 腹部=5.6%
- 脇の下=4.2%
- 肛門周辺=4.2%
- 首=2.8%
- 四肢=2.8%

ちなみに上記した調査においてツツガムシに寄生された猫は、1頭の例外もなく全て放し飼いでした。感染に気づかずに無症状のまま過ごす猫がいるものの、4~5割ではかゆみや紅斑を発症することもありますので気をつけましょう。 Feline trombiculosis: a retrospective study in 72 cats
Federico Leone, Andrea Di Bella, Antonella Vercelli, Luisa Cornegliani, Vet Dermatol 2013;24: 535-e126, DOI: 10.1111/vde.12053