耳が聞こえない白猫の割合
体のどこかに色が入っている有色猫と比較し、全身が真っ白な白猫では非常に高い確率で聴覚障害が見られます。過去に行われた調査で報告されている有病率は以下です(Strain, 2017)。
白猫の聴覚障害・有病率
- 非純血種純血種ではない白猫256頭を対象とした調査では、片方だけ聞こえない割合が12.1%、両方とも聞こえない割合が37.9%
- 純血種✅行動テストによる聴覚診断では、ノルウェジャンフォレストキャット329頭中18%、メインクーン134頭中17%、ターキッシュアンゴラ474頭中11%
✅BAERによる聴覚診断で10種類の純血な白猫84頭を調べたところ、6品種(ターキッシュアンゴラ | ブリティッシュショートヘア | メインクーン | ノルウェジャンフォレストキャット | ペルシャ | フォーリンホワイト)で聴覚障害が確認され、片側性が9.5%、両側性が10.7%
✅300頭以上のターキッシュバンで耳(片側 or 両側)が聴こえない割合は全体の14%程度で、頭部に黒斑があれば正常、目が青い場合はハイリスク
白猫の耳が聞こえない理由
毛の色が白いと、いったいなぜ耳が聞こえなくなるのでしょうか?現在考えられている聴覚障害の発症メカニズムは以下です(Strain, 2017)。
白い被毛を作り出す「W遺伝子」→耳の中の蝸牛管に張り巡らされている血管線条内のメラニン細胞が働かなくなる→血管線条の血流障害が起こって蝸牛管の外壁にある不動線毛(stereocilia)が働かなくなる→外界からの音が脳に伝わらなくなる猫の被毛を白くする遺伝子は、色素細胞であるメラニン細胞の働きをストップさせ、結果としてメラニン色素の生成が妨げられてしまいます。メラニンの生成が滞ると血管線条が正常に機能しなくなり、そこから栄養を受け取る不動線毛が機能不全に陥って外部からの音を電気信号に変換することができなくなります。つまり音が鼓膜に伝わっても、その音刺激が脳にまで到達しなくなるということです。
発症メカニズムはいまだ不明
メラニン細胞の機能不全によって聴覚障害が引き起こされるのだとしたら、メラニンを生成できない白猫は全て両方の耳が聞こえなくなるはずです。しかし聴覚障害の割合でも示したように、全ての白猫が聴力を失うわけでもありませんし、片耳だけ聞こえないという変則的な形もあります。
白い被毛を形成する遺伝子が聴覚障害に関わっている事は確かなものの、そこに何らかの調整遺伝子が関わって有病率を変化させていると考えられています。現在、この調整遺伝子がどこにあるのかは解明されていません。また片方の目だけ青い場合、高い確率で同じ側の耳が聴こえないという現象がありますが、なぜこのような変則パターンがあるのかも不明です。
白い被毛を形成する遺伝子が聴覚障害に関わっている事は確かなものの、そこに何らかの調整遺伝子が関わって有病率を変化させていると考えられています。現在、この調整遺伝子がどこにあるのかは解明されていません。また片方の目だけ青い場合、高い確率で同じ側の耳が聴こえないという現象がありますが、なぜこのような変則パターンがあるのかも不明です。
白猫遺伝子とレトロウイルス
白猫の聴覚障害には、意外にもある種のウイルスが関係しているようです。
猫の祖先はリビアヤマネコですので、本来であれば全ての猫がマックレルタビー、すなわちキジネコ柄を有しているはずです。しかし実際は三毛、サビ、茶トラ、ポイント、黒などさまざまなパターンが存在しています。こうした変則的な被毛パターンは全て、猫が家畜化されてから生じた突然変異によって形成されているものです。白斑(ホワイトスポット)や真っ白(ドミナントホワイト) という被毛色も突然変異によって生み出されたものですが、最新の調査によりその発現にはレトロウイルスが関わっていることが明らかになってきました。 従来の考え方では、被毛を真っ白にする遺伝子が「W遺伝子」で、白斑を作り出す遺伝子が 「S遺伝子」だとされています。 しかし近年の研究によると「W」と「S」は別物ではなく、実は「W」という遺伝子の型によって説明できるのではないかと考えられています。具体的には「WW→全身真っ白」「Ww→狭~広範囲の白斑」「ww→ワイルドタイプ(キジトラ)」というものです。そして別の調査により、このW遺伝子がネコB1染色体上のKIT遺伝子にあることまで突き止められています。さらに興味深いのは、KIT遺伝子にネコ内在性レトロウイルス1(FEV1)の遺伝子が挿入されることによって異常が起こり、白い被毛とホワイトスポット(白斑)の両方に関わっている可能性があるという点です(Song, 2013)。
猫の祖先はリビアヤマネコですので、本来であれば全ての猫がマックレルタビー、すなわちキジネコ柄を有しているはずです。しかし実際は三毛、サビ、茶トラ、ポイント、黒などさまざまなパターンが存在しています。こうした変則的な被毛パターンは全て、猫が家畜化されてから生じた突然変異によって形成されているものです。白斑(ホワイトスポット)や真っ白(ドミナントホワイト) という被毛色も突然変異によって生み出されたものですが、最新の調査によりその発現にはレトロウイルスが関わっていることが明らかになってきました。 従来の考え方では、被毛を真っ白にする遺伝子が「W遺伝子」で、白斑を作り出す遺伝子が 「S遺伝子」だとされています。 しかし近年の研究によると「W」と「S」は別物ではなく、実は「W」という遺伝子の型によって説明できるのではないかと考えられています。具体的には「WW→全身真っ白」「Ww→狭~広範囲の白斑」「ww→ワイルドタイプ(キジトラ)」というものです。そして別の調査により、このW遺伝子がネコB1染色体上のKIT遺伝子にあることまで突き止められています。さらに興味深いのは、KIT遺伝子にネコ内在性レトロウイルス1(FEV1)の遺伝子が挿入されることによって異常が起こり、白い被毛とホワイトスポット(白斑)の両方に関わっている可能性があるという点です(Song, 2013)。
- ネコ内在性レトロウイルス1(FEV1)
- 元々は外部にあったレトロウイルスの一部が宿主の体内に取り込まれた後、宿主のゲノムと一体化してしまうこと。ちなみにこの内在性レトロウイルスを手がかりとし、猫がどのように世界に広まったのかという移動の歴史を解明しようとした京都大学は研究もある。感染性レトロウイルスの度重なるネコゲノムへの侵略
耳が聞こえない猫の注意点
猫の耳が聞こえない場合、騒音による音響ストレスがないというメリットがある反面、音によって外の世界を知ることができないという大きなデメリットもあります。白猫に限らず、耳が不自由な猫や耳が悪くなった老猫と暮らしている飼い主は、以下のような注意点を念頭に置いておく必要があるでしょう。
いきなり後ろから触らない
耳が聞こえる猫なら後ろから近づいても足音で誰かが来ていると気づくことができますが、耳が聞こえない猫の場合そうした気配に気づくことができず、いきなり触ると驚いてしまうことがあります。これは環境ストレスの1つと言っても過言ではありません。
猫に不要なストレスをかけないよう、触るときは必ず正面から近づき、目によって自分の姿を見てもらってからの方が良いでしょう。
猫に不要なストレスをかけないよう、触るときは必ず正面から近づき、目によって自分の姿を見てもらってからの方が良いでしょう。
要求鳴きを出させない
人間には「Lombard effect」(ロンバード効果)というものがあり、自分を取り巻く環境がうるさい場合、意識せずとも声のボリュームを上げ、自分自身の声が耳で聞こえるように自動調整します。しかし耳が聞こえない白猫の場合、自分の声によるフィードバック調整がうまくいかず、環境内が静かでもあるにもかかわらず大きな声で鳴くかもしれません。
猫の要求鳴きが出ないよう、行動欲求を満たしてストレスフリーな環境整えてあげれば、鳴き声による騒音も防げるでしょう。
猫の要求鳴きが出ないよう、行動欲求を満たしてストレスフリーな環境整えてあげれば、鳴き声による騒音も防げるでしょう。
放し飼いをしない
耳が聞こえない猫を屋外に出してしまうと、自転車や車の音が聞こえず交通事故に遭ってしまう危険性が高まります。たとえ耳が聞こえていても事故のリスクはあるため、放し飼いという無責任な飼い方は絶対にしないよう注意が必要です。
具体的な室内環境の整え方に関しては「猫が喜ぶ部屋の作り方」で詳しくまとめてあります。