猫の血液型3種類
人間の血液型には「A型」、「B型」、「O型」、「AB型」という4種類があるのに対し、猫の血液型には現在「A型」、「B型」、「AB型」の3種類だけが確認されています。血液型を決定しているのは、母猫と父猫から1本ずつ受け継ぐ血液型遺伝子の組み合わせです。具体的な遺伝子型は以下。
猫の血液型と遺伝子型
- A型の猫(3パターン)「A型遺伝子+A型遺伝子→A型」, 「A遺伝子+B遺伝子→A型」, 「A型遺伝子+AB型遺伝子→A型」
- AB型の猫(2パターン)「B型遺伝子+AB型遺伝子→AB型」, 「AB型遺伝子+AB型遺伝子→AB型」
- B型の猫(1パターン)「B型遺伝子+B型遺伝子→B型」
血液型と猫の性格
血液型と猫の性格は無関係です。猫の性格は、父猫の性格・母猫の接し方・兄弟猫とのかかわり・毛色・生後の栄養状態・人との接触の度合い・生活環境といった先天的+後天的要素が複雑に絡み合って形成されます。もし血液型が猫の性格に何らかの影響を及ぼしているとすると、日本におけるA型の比率は9割を超えていますので、ほとんどの猫が似たり寄ったりの性格になってしまうでしょう。
猫の血液型と輸血
猫に対して輸血を行わなければならない状況がまれに発生します。具体的には「貧血を起こした」(骨髄性白血病など)、「大量出血した」(怪我や手術など)、「血小板が減少した」(腫瘍や重度の炎症など)といった状況などです。人間の場合と同様、猫に輸血処置を施すときは、事前に血液型をチェックしておく必要があります。理由は、もし異なる血液型を輸血してしまうと、体内で拒絶反応を示してしまう危険性があるからです。
猫の血液型検査
血液型がわからない状態で血液同士を混ぜ合わせると、お互いの血液が赤血球を攻撃しあい、時として重篤な症状を引き起こします。こうした拒絶反応を予防するためには、あらかじめ獣医さんに頼んで血液サンプルを検査機関に送り、血液型を調べておく必要があります。また緊急の場合に備え、血液型簡易判定キットを常備している動物病院もあります。詳しくはかかりつけの獣医さんにお問い合わせください。料金は病院によってまちまちですが、5,000~7,000円のところが多いようです。
ラピッドベット-H 猫血液型判定キット
猫の血液型の調べ方
簡易検査キットを用いた調べ方では、まず猫の体内から血液を0.4mL(10滴)以上採取し、1滴ほど使って自身の血液で凝集反応が出るかどうかを確認します。もし自分の抗体が自分の赤血球を破壊してしまう場合は自己免疫疾患ということです。
次に抗A抗体が塗りつけてある「A型」と書かれた部分、および抗B抗体が塗りつけてある「B型」と書かれた部分に1滴ずつ血液を垂らし、凝集反応が出るかどうかを確認します。もし「A型」区画でだけ凝集反応が起こった場合は「A型」、「B型」区画でだけ凝集反応が起こった場合は「B型」、そして両方の区画で凝集反応が起こった場合は「AB型」と判断されます。
次に抗A抗体が塗りつけてある「A型」と書かれた部分、および抗B抗体が塗りつけてある「B型」と書かれた部分に1滴ずつ血液を垂らし、凝集反応が出るかどうかを確認します。もし「A型」区画でだけ凝集反応が起こった場合は「A型」、「B型」区画でだけ凝集反応が起こった場合は「B型」、そして両方の区画で凝集反応が起こった場合は「AB型」と判断されます。
血液の交差試験
明確なメカニズムは解明されていないものの、血液に含まれる「Mik」という新たな抗原が、輸血に際する拒絶反応に関係していることがわかってきました。また2020年に行われた最新の調査では、従来のAB分類システムでは説明のできない赤血球抗原が、少なくとも5つ見つかったと報告されています。要するにたとえ双方がA型だとしても、時として拒絶反応が起こってしまうというのです。こうした不測の事態を避けるためには、血液同士の血液型を事前にチェックするほか、「交差試験」(クロスマッチテスト)によって拒絶反応が出ないことを確認しておくことも必要となります。
Blood transfusions in cats
交差試験(こうさしけん)とは、血液中に含まれる赤血球(赤い円盤状の細胞)と血漿(サラサラした液体成分)を分離して、「血液を受け取る側の血漿×血液を与える側の赤血球」、および「血液を与える側の血漿×血液を受け取る側の赤血球」という組み合わせで反応を見る検査のことです。双方の血液が適合しない場合は、赤血球が寄り集まって赤いブツブツになり、使い物にならなくなります。
拒絶反応のメカニズム
異なる血液型同士を混ぜ合わせると、時に拒絶反応が生じ、赤血球が機能不全に陥ってしまいます。こうした拒絶反応を発生させている要因は、血液の中に含まれる赤血球、および血漿の特性です。
血液型と血液の成分
- A型の血液赤血球上にA抗原があり、血漿中にB抗体がある
- B型の血液赤血球上にB抗原があり、血漿中にA抗体がある
- AB型の血液赤血球上にA抗原とB抗原があり、血漿中に抗体はない
ペット輸血の現状
日本国内には犬や猫のための大規模な血液バンクがないため、仮にペットの血液型がわかっていたとしても、輸血に十分なだけの血液が手に入らないことがあります。2018年3月には中央大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)がネコの人工血液合成に成功しましたが、実用化は数年先になる見込みですので現時点で頼るわけにはいきません。現在行われているのは、以下に述べるような急場しのぎの対応だけです。
ペット輸血処置の現状
- 動物病院で飼育されている供血猫・供血犬から血を確保する
- 動物病院同士で助け合う
- 医療用の代替血液を用いる
- ボランティアのドナー動物を募る
献血猫になる条件
- 持病がないこと
- 10日以上前にワクチン接種を受けていること
- できれば完全室内飼いであること
- 8歳未満であること
- 4.5キロ以上で肥満体でないこと
- 感染症や寄生虫症にかかっていないこと
- 特殊な薬物療法を受けていないこと
- ヘマトクリットが35%以上であること
猫の血液の割合
猫がどのような血液型をどのような割合で持っているかという構成比率は、品種や住んでいる地域によって大きく変動します。
品種と血液型の割合
現在CFAを始めとする猫種団体に公認されている品種は、ある特殊な突然変異を持った少数の猫から徐々に数を増やしたものが大部分です。その結果、品種ごとに血液型の割合に隔たりが見られるようになりました。具体的には以下です。
B型の割合が10%未満
B型の割合が10%~25%未満
B型の割合が25%以上
Feline blood groups and blood incompatibility
国と血液型の割合
猫が暮らしている国や地域によっても、血液型の割合に特徴が見られます。国別の血液型構成比率、およびその元データを以下に列挙します。日本のデータは1986年とやや古いため、現在もこの割合が有効かどうかは疑問です。なお、どの国においてもA型の割合が半数を超えているのは、母猫か父猫のどちらかから1本でも「A型遺伝子」を受け継げば、血液型がA型になるためです。
生息場所と血液型の割合
- カナダ(2014年)ケベック州に生息する207頭の猫を調査したところ、A型=95.2%/B型=4.4%/AB型=0.48%(→出典)
- イギリス(1999年)イギリスとスコットランドに生息する139頭の雑種猫を調査したところ、A型=87.1%/B型=7.9%/AB型=5.0%(→出典)
- イスラエル(2009年)動物病院に連れてこられた100頭の猫、および献血に訪れた142頭の猫を調査したところ、A型=72.7%/B型=14.5%/AB型=12.8%(→出典)
- 中国(2012年)北京に生息する262頭の猫を調査したところ、A型=88.2%/B型=11.4%/AB型=0.4%(→出典)
- 韓国(2007年)ソウルに生息する336頭の雑種猫、および146頭の純血種を調査したところ、A型=96.5%/B型=3.5%/AB型=0%(→出典)
- 日本(1986年)299頭の猫を調査したところA型=90.3%/B型=9.7%/AB型=0%(→出典)
血液型と子猫の溶血
生まれたばかりの子猫が母猫の母乳を飲んだとたん、血液中の赤血球が破壊されてしまうという現象があります。「新生子溶血」(新生子同種溶血現象, neonatal isoerythrolysisとも)と呼ばれるこの病気を生み出している犯人は、子猫と母猫の血液型の組み合わせです。
新生子溶血の原因
新生子溶血は、B型の母猫がA型の子猫に対して初乳を与えたときに発症します。「初乳」(しょにゅう)とは、母猫が出産を終えてから数日間だけ出す期間限定の母乳のことです。A型の母猫からB型の子猫が生まれ、同じように初乳を与えたとしても新生子溶血は起こりません。理由は、母猫の初乳に含まれるB抗体が極めて弱いからです。少々わかりにくい新生子溶血の発症メカニズムをまとめると、以下のようになります。
新生子溶血のメカニズム
- A型の子猫の血液には、A抗原をもった赤血球が含まれている。
- B型の母猫の初乳の中には、血液中の血漿成分が含まれてる。すなわちA抗原を異物とみなすA抗体が含まれている。
- A型の子猫がB型の母猫の初乳を飲んでしまうと、A抗原をもつ赤血球(子猫自身の血液)と、そのA抗原を異物とみなすA抗体(母猫の初乳)とが同居してしまう。
- A抗原とA抗体がニアミスを起こすと、ちょうど異なる血液型同士を混ぜ合わせたときのように、抗体が赤血球を異物とみなし、排除しようとする。
新生子溶血の症状と治療
新生子溶血がどのような症状として現れるかは、いったいどの程度母猫の初乳からA抗体を吸収したかによって決まります。特に生まれてからの24時間は、腸管からの吸収が通常より活発なため注意が必要です。
新生子溶血の症状
- 軽度母猫からA抗体を取り込んだにもかかわらず、何の反応も示さないことがあります。
- 中程度初乳を飲んでから徐々に元気がなくなり、黄疸や血尿を示します。また赤血球が凝集や溶血などで機能不全に陥った結果血流が悪化し、耳の先端やしっぽの先が壊死して取れてしまうこともあります。
- 重度何の兆候もないまま突然死んでしまうという最悪のケースです。
新生子溶血の予防
新生子溶血は発症してからの治療が困難なため、予防が最重要課題となります。一般的な予防法は以下ですが、全てに共通しているのは事前に血液型を調べておきましょうということです。
新生子溶血の予防法
- B型の母猫を繁殖計画から外す血液型がB型の母猫に、そもそも子猫を生ませないようにします。
- B型の母猫とB型の父猫をつがえる母猫の血液型がB型でも、B型の父猫とつがえれば、生まれてくる子猫は常にB型です。結果として、母猫の初乳に含まれるA抗体が子猫の赤血球を攻撃するということはなくなります。
- A型の子猫を授乳から外す仮にB型の母猫からA型の子猫が生まれたとしても、その子猫を母猫の初乳から遠ざけてしまえば新生子溶血を避けることができます。もしA型の乳母猫がいればそちらから初乳をもらい、移行免疫を分けてもらいます。もし乳母猫がいない場合は、人口授乳に切り替えるしかありません。