猫に対する輸血治療の現状
猫に対する輸血は大量出血、重度の貧血、手術といった状況において必要となります。しかし日本国内においては動物用の血液バンクが認められていないため、必要な時に必要な血液を十分な量だけ確保することは至難の業です。多くの場合、動物病院で飼育されている供血猫のほか、一般の猫の飼い主に広く呼びかけて血液のドナーをかき集めるという形で対応しています。しかしすべての状況において血液の確保がうまくいく訳もなく、また血液型の不適合によって拒絶反応が引き起こされることもあるため、重篤な症状に陥ったり命を落としてしまうということも少なくありません。
【写真元】Giving a Cat a Blood Transfusion
もし動物病院に十分な量の血液が確保されるようになれば、血液不足で危機的な状況に陥る猫たちの数はぐんと減ってくれることでしょう。今回、中央大学とJAXAが開発した人工血液は、上記したような理想的な状況を現実化するための大きな足がかりになるものだと考えられます。では一体どのようにして血液を合成したのでしょうか?
ネコ用人工血液の開発プロセス
2013年、中央大学の小松教授を中心とした研究グループはヘモグロビンにヒト血清アルブミンを結合させた「ヘモグロビン-アルブミンクラスター」の合成に世界で初めて成功しました。これは血液の2大成分であるヘモグロビンとアルブミンを結合させたもので、中央のヘモグロビンをヒトアルブミンが取り囲むような構造をしています。
- ヘモグロビンとアルブミン
- ヘモグロビンとは人間や猫を含むあらゆる動物の血液中に存在する赤血球の中にある、鉄を含んだタンパク質の一種。分子量は動物共通の64,500。酸素分子をくっつけたり離したりする能力を持ち、肺から体の隅々へと酸素を運搬する役割を担っている。 アルブミンは動物の血清中に最も多く存在するタンパク質の一種で、約60%を占める。役割は浸透圧の調整、代謝産物の貯蔵、薬物の運搬など。ヒトの血清アルブミンの分子量が66,241であるのに対し、ネコのそれは65,800とちょっと違う。
ネコ用人工血液の特徴
人工的に生成されたネコ血清アルブミンは生体由来のアルブミンと全く同じ性質を有しており、拒絶反応の原因となる抗原抗体反応を引き起こさないことが確認されています。つまり猫の血液型にかかわらず体内に投与できるということです。また表面がマイナスに帯電しているため血管から外に漏れ出すということがなく、血圧の上昇を引き起こすことがありません。さらに血中半減期が生体アルブミンよりも長く、ヘモグロビンを含まない人工血清アルブミンだけでも血漿増量剤として使えるとのこと。
輸血治療は血液を受け取る側(レシピアント)だけでなく、血液を提供する側(ドナー)にもリスクが発生する勇気のいる施術です。実用化はもう少し先ですが、液体もしくは粉末状の人工血液が動物病院に常備されるようになれば、緊急の輸血が必要な状況において危機的な状況に陥る猫の数が減ってくれる事は間違いないでしょう。 JAXA(宇宙航空研究開発機構) 中央大学理工学研究所
輸血治療は血液を受け取る側(レシピアント)だけでなく、血液を提供する側(ドナー)にもリスクが発生する勇気のいる施術です。実用化はもう少し先ですが、液体もしくは粉末状の人工血液が動物病院に常備されるようになれば、緊急の輸血が必要な状況において危機的な状況に陥る猫の数が減ってくれる事は間違いないでしょう。 JAXA(宇宙航空研究開発機構) 中央大学理工学研究所