トップ2020年・猫ニュース一覧12月の猫ニュース12月23日

A型でもB型でもない猫の新しい血液型を発見か~AB方式では説明がつかない拒絶反応の謎に迫る

 事前に猫の血液型を調べたにもかかわらず、クロスマッチテスト(交差適合試験)や輸血をしてみたところ拒絶反応が起こってしまったという珍現象が世界中で報告されています。どうやらA型でもB型でもない未知の血液型があるようです。

猫の新しい血液型?

 赤血球の表面に存在している抗原のタイプから、猫の血液型はA型、B型、AB型の3種類に分けられ、基本的に同じ型の血液しか輸血できません。例えばA型の猫に輸血する場合はA型の血液、B型の猫に輸血する場合はB型の血液などです。理論上、同一型の血液間で拒絶反応が起こることはありませんが、実際に輸血してみたところなぜか凝集反応が起こって赤血球が使い物にならなくなるという現象が世界各地で報告されてきました。この事実から、従来のAB方式とは全く異なる抗原が猫の赤血球に発現しているのではないかと推測されてきました。 抗体によって凝集反応を起こした赤血球は固まって毛細血管を通れなくなる  検証調査を行ったのはカナダ・モントリオール大学獣医学部のチーム。大学が飼育している供血猫、研究用に飼育されているコロニー猫、大学附属のクリニックを受診した一般のペット猫などの中から、最も保有率が高いA型血液をもった猫たち合計258頭を選抜し、46の小グループに細分した上で、採取した血液を総当たり方式で混ぜ合わせて輸血した時の状態を実験室内で再現しました(※1頭平均クロスマッチ=4.8回)。
 型が同じ血液間の混合ですので通常であれば拒絶反応は起こりませんが、なぜか猫全体の7%(18/258頭)、クロスマッチ全体の3.9%(48/1,228)で赤血球の凝集反応が見られたといいます。この奇妙な現象を解明するため、凝集反応を示した18頭のうち7頭の猫を対象とした詳細な調査が行われました。その結果、従来のAB方式とは全く異なる、少なくとも5つの抗原が凝集反応に関わっている可能性が浮上してきたと言います。便宜上FEA(ネコ赤血球抗原)1~5と名付けられたこれらの保有率は以下です。
非AB式の抗原5種
  • 1=83.7%(216/258頭)
  • 2=9.6%(15/156頭)
  • 3=18.2%(23/126頭)
  • 4=75.3%(70/93頭)
  • 5=96%(74/77頭)
 統計的に意味があったのは、赤血球上に抗原としてFEA1を保有しているかどうかという点だけで、FEA1を保有している猫と比べ、保有していない猫が血漿中に拒絶反応のもととなる自然抗体を保有しているオッズ比は3.9というものでした。なお自然抗体の有無と健康状態、性別、年齢、品種は無関係だったとも。
Identification of 5 novel feline erythrocyte antigens based on the presence of naturally occurring alloantibodies
Marie Binvel, Julie Arsenault, Boris Depre, Marie‐Claude Blais, Journal of Veterinary Internal Medicine, DOI:10.1111/jvim.16010

輸血前にはクロスマッチを

 事前に血液型をチェックしたにも関わらず、クロスマッチテスト(交差適合試験)や輸血をしてみたところ拒絶反応が起こってしまったという珍現象は世界中で0~29%の確率で報告されています。地域によって発生率に大きな格差が見られる理由としては、猫たちの地域属性、凝集反応の定義の違い、目視チェック時の主観の相違などが考えられています。
 発生率に差はあるものの、通常では起こりえない拒絶反応がなぜか起こってしまうという現象は厳然たる事実です。2007年に行われた報告では、赤血球上の「Mik」とよばれる非AB式抗原と、血漿中に含まれる「Mik」に対する自然抗体が抗原抗体反応に関わっているのではないかと推測されました。A型の猫66頭を対象とした調査で「Mik」抗原の保有率が94%だったのに対し、当調査におけるA型血液猫たちの「FEA1」保有率が83.7%という近い値だったことから、調査チームはこの2つの抗原が実は同一の分子なのではないかと推測しています。
 奇妙な凝集反応を引き起こす原因が「Mik」であれ「FEA1」であれ、血液型だけ調べて「大丈夫!」と早合点してしまうと、輸血時に低確率で拒絶反応が起こり猫の生命に危険が及んでしまいます。返す返すも、事前のクロスマッチによって凝集反応や溶血反応が起こらないことを確認しておくことが重要です。 ウシの赤血球から精製したヘモグロビンを遺伝子組換えイヌ血清アルブミンで包み込んだ構造の人工血液  近年、日本の中央大学が「ヘモアクト-F」と呼ばれる猫の人工血液を開発して話題になりました。これは赤血球の表面をアルブミンと呼ばれるアミノ酸で取り囲むことにより、酸素の運搬能力を損なうことなく抗原だけを隠して拒絶反応が起こらないようにするという画期的な人工血液です。実用化すれば、そもそも血液型を調べる必要がありませんので血液を提供するドナー猫も、血液を受け取るレシピアント猫も、輸血に際して命を危険に晒す可能性が大幅に減ってくれるでしょう。
猫の血液型については「猫の血液型・完全ガイド」、人工血液については「ネコ用の人工血液(ヘモアクト-F)が世界で初めて開発される」で詳しく解説してあります。