猫の毛の構造
猫の体には人間の頭髪のおよそ300倍もの毛が生えています。鼻の表面(鼻鏡)、粘膜と皮膚の接合部、肉球を除くほぼすべての部位から生えており、体温調整、怪我の予防、病原体のブロックといった重要な役割を担っています。では猫の毛や皮膚を顕微鏡で拡大して見るとどうなっているのでしょうか?
毛を生み出す複合毛包
人間の場合、1つの毛穴から1本の毛しか生えませんが、猫の場合は時に数十本もの毛が同じ毛穴から生えてきます。こうした奇妙な生え方をする理由は、皮膚の下で毛を作り出す「毛包」(もうほう, hair follicle)と呼ばれる組織が一箇所に集まってグループを形成しているためです。これを「複合毛包」と言います。
複合毛包には長くて太い主毛を作り出す「主毛包」が中心部にあり、細くて短い副毛を作り出す「副毛包」がそれを取り囲むようにして並んでいます。呼称にはたくさんのバリエーションがあり、主毛は「一次毛」「上毛」「オーバーコート」「トップコート」「ガードヘア」、副毛は「二次毛」「下毛」「柔毛」「アンダーコート」などとも呼ばれます。また毛先の下にふくらみがある副毛を「オーンヘア」(※awn=植物のノギ)、均等にうねりやウェーブがある副毛を「ダウンヘア」(※down=羽毛)と呼び分けることもあります。主毛も副毛も中心部に空洞(毛髄)を有していますが、副毛の方が小さく、また毛の表面を覆う毛小皮(キューティクル)も顕著です。
主毛包には皮脂腺、汗腺(アポクリン)、立毛筋が付属しますが副毛包にはありません。主毛は2~5本、副毛は5~20本で、数の比率は背中の1:10から、へそ周りの1:24までさまざまです。猫においては特に腹部の副毛が豊富で、多くの人に「もふもふしたい」という欲求を掻き立てます。
猫の毛の生える方向
猫の毛は生える方向がある程度決まっています。猫をなでたりブラッシングしたりする際に役に立つので覚えておきましょう。
猫の毛の生える方向
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猫の毛の生え変わり
毛が成長する季節と期間
猫の毛の成長速度は、屋内で飼育されている猫だろうと外にいる猫だろうと日照時間が短くなると遅くなり、長くなると早くなります。例えば南半球のニュージーランドに暮らす猫の場合、日照時間が短くなる6月ごろから被毛の成長が遅くなりだし、9月に最低を迎え、日照時間が長くなる10月ごろから成長が早まり、3月に最高を迎えます(:W.H.Hendriks, 1997)。ニュージーランドと日本とでは季節がほぼ6ヶ月ずれますので、北半球の日本に暮らしている猫の場合は以下のような上下動を示すでしょう。
逆に5月から数ヶ月間(季節で言うと春~初秋)の時期に渡って毛の成長が早まる理由は、下から伸びてきた新しい毛によって古い毛を押し出し、脱毛を促進したいからです。こうすることで被毛量を減らし、体温がこもりにくくして暑い夏を乗り切ろうとします。ただし日本の場合は梅雨のせいで夏の日照時間が減るため、ニュージーランドに暮らす猫のようなきれいな上下動(正弦波パターン)は観察されないかもしれません。
なお室内飼育されている10頭の猫を対象とした調査では、9月から翌6月までの被毛の平均成長速度に関し、以下のような数値が報告されています。単位は1日に伸びる毛の長さで「1μm=1/1000mm」、場所はアイルランド(緯度53.4)です(:K.P.Baker, 1974)。
季節別・猫の被毛生成量
12月から3月(季節で言うと冬~早春)の時期にかけて毛の成長が遅くなる理由は、下から伸びてきた新しい毛が古い毛を押し出して抜けてしまうことを防ぎたいからです。こうすることでなるべくふかふかの被毛を保ち、寒い冬を乗り切ろうと身構えます。逆に5月から数ヶ月間(季節で言うと春~初秋)の時期に渡って毛の成長が早まる理由は、下から伸びてきた新しい毛によって古い毛を押し出し、脱毛を促進したいからです。こうすることで被毛量を減らし、体温がこもりにくくして暑い夏を乗り切ろうとします。ただし日本の場合は梅雨のせいで夏の日照時間が減るため、ニュージーランドに暮らす猫のようなきれいな上下動(正弦波パターン)は観察されないかもしれません。
なお室内飼育されている10頭の猫を対象とした調査では、9月から翌6月までの被毛の平均成長速度に関し、以下のような数値が報告されています。単位は1日に伸びる毛の長さで「1μm=1/1000mm」、場所はアイルランド(緯度53.4)です(:K.P.Baker, 1974)。
毛の成長速度(9月~翌6月平均値)
- オス・主毛=313.6μm
・副毛=241.4μm - メス1・主毛=321.7μm
・副毛=280.2μm - メス2・主毛=270.8μm
・副毛=239.7μm
猫の毛は何本ある?
猫の全身に生えている毛をすべて数えたら、いったいどのくらいになるのでしょうか?正確に計測したデータはありませんが、犬や猫が含まれる「ネコ目」に関しては以下のような数値が推計されています。参考までに、その他の動物における被毛密度も併せて記します(:W.Meyer, 2002)。
なお平均体重3.8kgの短毛猫20頭を対象とした調査では、体重1kg当たりの被毛重量が19.9g、体表面積1平方cm当たり23.7mgだったと報告されています(:W.H.Hendriks, 1997)。こちらのデータをもとにすると、体重4kgの猫だとおよそ80gくらいが毛の重さということになるでしょう。
NEXT:どのように毛が逆立つ?
動物の被毛密度(本/平方cm)
- モグラ目=23,500
- コウモリ目=22,000
- ネズミ目=20,500
- ウサギ目=18,500
- ネコ目=11,000
- ウシ目=2,000
- ウマ目=1,300
なお平均体重3.8kgの短毛猫20頭を対象とした調査では、体重1kg当たりの被毛重量が19.9g、体表面積1平方cm当たり23.7mgだったと報告されています(:W.H.Hendriks, 1997)。こちらのデータをもとにすると、体重4kgの猫だとおよそ80gくらいが毛の重さということになるでしょう。
NEXT:どのように毛が逆立つ?
猫の毛が逆立つ仕組み
猫は寒い時のほか、攻撃姿勢をとる時や恐怖を感じた時に全身の毛が逆立ちます。「立毛」(りつもう, piloerection)と呼ばれるこの現象を作り出しているのは、毛の根元に付着している立毛筋と呼ばれるとても小さな筋肉です。人間で言う「鳥肌が立った状態」と言えばわかりやすいでしょう。
NEXT:ひげの構造や役割
猫の立毛反射
立毛筋は主毛と副毛からなる複合毛包のうち、太くて長い主毛にだけ付着しており、その周辺にあるふわふわとした副毛には付いていません。主毛は皮膚に対して30~60度の角度で生えていますが、立毛筋が収縮することによりこの角度が変わり、直角に近づいて毛が逆立った状態になります(:V.K.Affolter, 1994)。また立毛筋と毛軸との間には皮脂腺が付いており、毛が立つと圧迫されて中にある皮脂が外(毛孔内)に押し出されるという仕組みになっています。
立毛筋が特に豊富に存在しているのは首の後ろ~背中~しっぽにかけてのエリアです。調節中枢は脳の中の視床下部と呼ばれる部位で、コリン作動薬に反応して散瞳、発声、立毛など、上の動画で紹介したような典型的な防御反応が起こることが確認されています(:S.M.Brudzynski, 1981)。また立毛筋自体はアドレナリン(エピネフリン)とノルアドレナリン(ノルエピネフリン)の両方に反応します。攻撃態勢を取る時と恐怖を感じている時の両方において毛が逆立つ理由は、危機を察して脳内にアドレナリン(エピネフリン)が作用し、立毛反射が引き起こされるからでしょう。
身体が寒いと感じた時に毛が逆立つ目的は、毛と毛の間に空気を含ませてジャケットのように断熱性を高めるためです。一方、怒りや恐怖を感じた時に毛が逆立つ目的は、敵対する相手に対し自分の体が実際よりも大きく見えるようハッタリをかますためです。ハロウィンの猫でも典型的な姿勢を見て取ることができますね。NEXT:ひげの構造や役割
猫のひげ
ひげの名称
ひげが生えている皮膚部分は、学術文献的には「顔面鼻部隆起部」(mystacial pad)や「触毛隆起部」(vibrissal pad)と呼ばれることが多いようです。一方、一般的には「ウィスカーパッド」(※ウィスカーは動物のひげの意)と呼ばれたり、ギリシア文字のオメガ(ω)で代用されます。
猫のひげの位置と名称
- 上毛(じょうもう)目の上/約6本
- 上唇毛(じょうしんもう)口の上/約16本
- 口角毛(こうかくもう)口の端/1~2本(写真では不鮮明)
- 頭下毛(とうかもう)あごの下/短毛が数本(写真では不鮮明)
- 頬骨毛(きょうこつもう)ほほぼねの上/1~2本
ひげの微細構造
ひげの最大の特徴は、根本に静脈洞(sinus)と呼ばれる血のたまり場がある点です。特に輪状塊(ringwulst)と呼ばれる構造物は洞毛特有で、静脈洞内の血圧変化や毛の動きに応じて動くと考えられています。輪状塊の基部にはこん棒に似た形の神経終末が付着しており、ひげの根本に生じたほんのわずかな変動を脳に伝えているものと考えられます(:Ebara, 2005)。
洞毛の毛根は結合組織性の厚い被膜で二重に包まれており、毛軸を包む毛包では形態的に異なる少なくとも6種類の神経終末が確認されています。「こん棒」「槍」「樹木の枝」などに例えられるこれらの神経終末の多くは、周辺組織の変形を感知する機械受容器と考えられており、それぞれの形に応じて伸縮や圧迫など、感知しやすい刺激があるものと推測されています。
毛の感覚終末で受容された刺激は電気信号に変換され、上顎神経や三叉神経節を通って最終的に大脳皮質へと投射されます。猫の大脳皮質にはヒゲの配列に対応した感覚地図のようなものがあり、「バレル」(barrel)と呼ばれる神経細胞の集団が入ってきた情報の処理を行っています。
毛の感覚終末で受容された刺激は電気信号に変換され、上顎神経や三叉神経節を通って最終的に大脳皮質へと投射されます。猫の大脳皮質にはヒゲの配列に対応した感覚地図のようなものがあり、「バレル」(barrel)と呼ばれる神経細胞の集団が入ってきた情報の処理を行っています。
ひげの役割・機能
猫のひげの根元には感覚受容器(外界の変化を感知するセンサー)が豊富に存在しています。実験で得られた数値データだけを信用すると、重さではわずか2mg、移動距離では5オングストローム(1μmのさらに1/2000)程度の動きで電気信号が発生するほど敏感です。さすがに5オングストロームは大げさでしょうが、俗に猫が顔を洗うと雨が降ると言われている理由は、低気圧の接近でひげに付着した水分を拭き取って鋭敏さを保とうとしているからなのかもしれません。
子宮の中にいる子猫は他の体毛よりもまず「ひげ」を生やすことを優先します。生まれたての子猫は目も見えないし耳も聞こえませんが、ひげの感覚さえあれば自分の周囲にあるものがある程度感知できるという訳です。
長さは5~10cm、若い猫ほどひげが長く、老猫ほど短くなります。また個体差はありますが抜け替わりは半年に一度程度です。最近では抜け落ちたひげを保管するための専用の容器まで売られています。猫が大事にしているのひげの役割を以下にまとめます。
長さは5~10cm、若い猫ほどひげが長く、老猫ほど短くなります。また個体差はありますが抜け替わりは半年に一度程度です。最近では抜け落ちたひげを保管するための専用の容器まで売られています。猫が大事にしているのひげの役割を以下にまとめます。
猫のひげの役割いろいろ
- 空気の流れを読み、獲物の匂いを察知する
- 目の上の毛に何かが当たると反射的に目を閉じる
- 細かいゴミを吸着し、目に入るのを防ぐ
- 獲物に触れ、生死を振動で判断する
- 障害物を感知し、通れるかどうかを判断する
- 気分を表す
ひげと気分・感情
猫のひげの役割の1つに「気分を表す」というものがあり、一般的な通説をまとめると次のようになります。ひげの根本に付着した立毛筋は骨格筋組織で、顔面神経由来の運動性神経線維が運動終板を形成しています。ですから体に生えている被毛とは違いある程度は自分の意志で動かすことができるようです。しかしひげと気分の相関関係には例外が多く、教科書どおりの答えが通用しないこともありますので、これは参考程度にとらえて下さい。なお、食事のときはひげが汚れないように後方にひきつけることだけは確かです。
猫のひげと気分の相関関係
- ひげが前方に倒れる興奮・緊張・興味
- ひげが下に垂れるリラックス・体調不良
- ひげが10時10分の方向にピンと上がる上機嫌
- ひげを後方に引きつける食事中
猫のまつげ
猫のまつ毛は、眼球の周囲から1mmほど離れたところに生えています。人間やラクダのように前方に向かってピンと伸びているわけではないので、「猫はまつ毛を持たない」という一般的な風説も、あながち間違いとは言い切れません。
さてこのまつ毛ですが、2015年に発表された最新の研究により「目の中に入るゴミを減らすと同時に、目から蒸発する水分量を減らす」という役割を持っていることが明らかになりました(:Guillermo, 2014)。実験を行ったのは、アトランタにあるジョージア工科大学の研究チーム。お皿に入れた水とプラスチックの模造まつ毛で擬似的に眼球を再現し、まつ毛の長さによって眼球表面のゴミや水分量がどのように変化するかを観察しました。その結果、まつ毛の長さが目の横幅の3分の1である時、最もゴミが入りにくく、また水分の蒸発量も少なかったといいます。さらにこの「1/3ルール」は、まつ毛のある22種の哺乳動物の全てにおいて当てはまったとも。 仮にこの理論が正しいとすると、「前方に突き出したまつ毛を持たない猫の眼球からは、さぞかしたくさんの水分が蒸発しているのだろう」ということになります。また同時に、眼球が乾くことで発生するドライアイの発症率も高くなっているはずです。ところが、犬においては非常にありふれた疾患であるドライアイも、どういうわけか猫においては極めて稀とされています。顔の中における眼球の露出率が犬よりも大きく、なおかつ涙の分泌量が犬よりもやや少ないにもかかわらずです(:Margadant, 2003)。
謎に満ちたこの現象ですが、猫の日常を観察していると何となく答えが見えてきます。猫は一日の内の約12~14時間を睡眠に費やしており、しかも「30分起きて80分寝る」という、かなり変則的な取り方をしています。この事実から考えると、猫がドライアイになりにくい理由は、目が乾く前に眠りに落ちてしまうからという非常に単純なことなのかもしれません。砂漠出身の猫にとっての睡眠は、エネルギーを温存すると同時に、狩りをするときに重要な眼球を乾燥から守るという役割も持っているのでしょう。 NEXT:長毛種はどう生まれる?
さてこのまつ毛ですが、2015年に発表された最新の研究により「目の中に入るゴミを減らすと同時に、目から蒸発する水分量を減らす」という役割を持っていることが明らかになりました(:Guillermo, 2014)。実験を行ったのは、アトランタにあるジョージア工科大学の研究チーム。お皿に入れた水とプラスチックの模造まつ毛で擬似的に眼球を再現し、まつ毛の長さによって眼球表面のゴミや水分量がどのように変化するかを観察しました。その結果、まつ毛の長さが目の横幅の3分の1である時、最もゴミが入りにくく、また水分の蒸発量も少なかったといいます。さらにこの「1/3ルール」は、まつ毛のある22種の哺乳動物の全てにおいて当てはまったとも。 仮にこの理論が正しいとすると、「前方に突き出したまつ毛を持たない猫の眼球からは、さぞかしたくさんの水分が蒸発しているのだろう」ということになります。また同時に、眼球が乾くことで発生するドライアイの発症率も高くなっているはずです。ところが、犬においては非常にありふれた疾患であるドライアイも、どういうわけか猫においては極めて稀とされています。顔の中における眼球の露出率が犬よりも大きく、なおかつ涙の分泌量が犬よりもやや少ないにもかかわらずです(:Margadant, 2003)。
謎に満ちたこの現象ですが、猫の日常を観察していると何となく答えが見えてきます。猫は一日の内の約12~14時間を睡眠に費やしており、しかも「30分起きて80分寝る」という、かなり変則的な取り方をしています。この事実から考えると、猫がドライアイになりにくい理由は、目が乾く前に眠りに落ちてしまうからという非常に単純なことなのかもしれません。砂漠出身の猫にとっての睡眠は、エネルギーを温存すると同時に、狩りをするときに重要な眼球を乾燥から守るという役割も持っているのでしょう。 NEXT:長毛種はどう生まれる?
長毛猫の遺伝子
猫には毛が短いタイプと長いタイプとがおり、犬やマウスの場合と同様、FGF5遺伝子が関わっていると考えられています。FGF5(線維芽細胞成長因子5)遺伝子とは 胚の成長と発達、形態発生、組織の修復などを司る重要な遺伝子の一つで、動物の毛周期においては成長期(アナゲン)から退行期(カタゲン)への移行をスムーズにするという役割を担っています。
長毛を生む遺伝子変異
猫では少なくともFGF5遺伝子における3つの変異が長毛の発現に関わっていることが確認されています。具体的には以下です(:C.Drogemuller, 2007)。
長毛種の猫は寒さに強いと言うメリットを有している一方、以下に述べるようなデメリットも同時に有していますので、できれば飼い主が定期的に短くカットしてあげる必要があります。
猫の長毛を生む変異
- ミスセンス変異c.194C>Aこの変異はアミノ酸の一種であるプロリンをヒスチジンに変えると推定されています。長毛のソマリ、ペルシャ、メインクーン合計25頭の全てにおいてホモ型(両親から1つずつ受け継ぐ型)の遺伝子型が確認されている一方、55頭の短毛種ではまったく保有していないか、あっても両親どちらか一方だけから受け継ぐヘテロ型という遺伝子型でした。
- ミスセンス変異c.182T>AFGF5のエクソン1で見られるこの変異はアミノ酸の一種であるバリンをアスパラギン酸に変えると推定されています。長毛種の代表格であるノルウェジャンフォレストキャットでのみ確認されている変異です。
- フレームシフト変異c.474delTこの変異はFGF5遺伝子が形成するタンパク質の長さを、アミノ酸10個分ほど短くすると推定されています。長毛種の代表格であるメインクーンにおいて高頻度で確認されている突然変異ですが、すべての個体で確認されているわけではありません。
長毛種の猫は寒さに強いと言うメリットを有している一方、以下に述べるようなデメリットも同時に有していますので、できれば飼い主が定期的に短くカットしてあげる必要があります。
長毛種のカット
猫が毛づくろいをする際、口の中に入った抜け毛はそのまま飲み込んでしまいます。短毛種に比べて長毛種は、同じ本数を飲み込んだとしても体積が数倍に膨らみますのでどうしても毛球症を発症しやすくなってしまいます。あらかじめ短くカットしておけば飲み込む毛の量が短毛種並みになり、予防になるでしょう。ただし猫の場合、トリミングサロンでじっとしてくれないことが多いため、手っ取り早く丸刈りにしてしまう人が見受けられます。サマーカットやライオンカットと呼ばれるこうした丸刈り状態は、猫にとってストレスになると同時に体温調整が難しくなりますので避けるようにします。
足元の毛が伸びすぎて肉球にまでかかっている場合、肉球の滑り止め機能が低下してスリップ事故を起やすくなってしまいます。 足の裏をチェックし、あまりにも伸びているようでしたら爪切りをするついでにカットしてあげましょう。
NEXT:無毛猫はどう生まれた?
無毛猫の遺伝子
被毛をほとんど持たず、地肌が完全に見えてしまう品種として「スフィンクス」がいます。
無毛猫やヘアレスキャットなどとも呼ばれるこの猫の体質を作り出しているのは「KRT71」と呼ばれる遺伝子内の変異です。KRT71遺伝子は被毛の主成分であるケラチンと呼ばれるタンパク質の生成に関わっており、変異がある場合、マウス、ラット、ウシ、イヌにおいてカーリーコート(巻毛)を作り出すことが確認されています。
スフィンクスの変異はKRT71遺伝子のエクソン7における置換(c.816+1G>A)で、ケラチン中にあるαヘリカルロッドドメインの大部分が消失することで内毛根鞘の著しい形成不全が起こり、毛は生えるもののすぐに抜けてしまうものと推測されています。つまりヘアレス(無毛)といってもまったく毛が生えないのではなく、生えるけれどもすぐに崩壊したり抜け落ちてしまうということです。 スフィンクスの皮膚を触った時の感触が「桃の皮をなでたよう」と形容される理由は、短いながらも全身に毛が生えているためなのでしょう。なおデボンレックスもスフィンクスと同じKRT71遺伝子に変異を持っていますが、変異の種類が全く異なるため「カーリーヘア」(巻毛)という違った表現型として現れます。詳しくは以下のページでも解説してありますのでご覧ください。 NEXT:珍種「オオカミ猫」とは?
スフィンクスの変異はKRT71遺伝子のエクソン7における置換(c.816+1G>A)で、ケラチン中にあるαヘリカルロッドドメインの大部分が消失することで内毛根鞘の著しい形成不全が起こり、毛は生えるもののすぐに抜けてしまうものと推測されています。つまりヘアレス(無毛)といってもまったく毛が生えないのではなく、生えるけれどもすぐに崩壊したり抜け落ちてしまうということです。 スフィンクスの皮膚を触った時の感触が「桃の皮をなでたよう」と形容される理由は、短いながらも全身に毛が生えているためなのでしょう。なおデボンレックスもスフィンクスと同じKRT71遺伝子に変異を持っていますが、変異の種類が全く異なるため「カーリーヘア」(巻毛)という違った表現型として現れます。詳しくは以下のページでも解説してありますのでご覧ください。 NEXT:珍種「オオカミ猫」とは?
オオカミ猫の遺伝子
2012年、TICAによって認定されたマイナー品種にライコイ(lykoi, リコイ, リュコイ)という猫がいます。特徴は体幹や頭部と比較して四肢、足、顔、耳の毛が薄く、マズル先端部と眼球周辺部が無毛に近いという点です。
2016年に行われたDNA調査では、系統クラスターとしてペルシャやスコットランドヤマネコに近いことが示されていますが、具体的にどの染色体のどの遺伝子に変異があるのかまでは解明されていません。ただ遺伝形式は常染色体劣性遺伝、すなわち父猫と母猫から1つずつ変異遺伝子を受け継いだときに発現することがわかっています。詳しくは以下のページでも解説してありますのでご覧ください。
NEXT:猫の毛を掃除しよう!
猫の毛の掃除方法
猫は1年間で膨大な量の毛を全身から生やします。オスとメスからなる39頭の猫(平均体重3.8kg)を1年間に渡り調査したところ、被毛の生成量は最大で1日1平方cm当たり289μg、最低で62μgだったとのこと。さらに短毛の成猫における1年間の被毛生成量は、体重1kgあたり32.7gと推計されています(:W.H.Hendriks, 1997)。例えば体重4kgの場合、1年間で130g超の被毛が体から伸びるという計算です。
被毛3gは上の写真くらいですので、この40倍以上に達する量の毛が体から生えることが想像できるでしょう。こうした毛はいつまでも体の表面に残り続けるわけにはいきませんので、ほぼ同じくらいの量の抜け毛が部屋中にばらまかれ、換毛が完成します。ですから猫の飼い主は日常的に掃除をし、毛むくじゃらになることを防ぐ必要があるわけです。では具体的な掃除の方法について見ていきましょう。
粘着テープ(コロコロ)
粘着テープ(コロコロ)は猫飼いの必需品です。多頭飼育で猫の毛色がまちまちな場合は無理ですが、抜け毛がどこに付いているかがすぐにわかるよう、部屋の中の布製品は猫の被毛の色とは別の色で統一するとよいでしょう。例えば白猫を飼っている場合は黒っぽい色、黒猫を飼っている場合は白っぽい色などです。粘着テープは具体的に以下のような室内アイテムに対して用います。
コロコロに適した室内品
- 服・衣類
- 毛布
- 布団
- クッション
- じゅうたん・カーペット
- カーテン
掃除機
掃除機は室内の広い範囲を手早く掃除するときに役立ちます。近年はペットの毛に特化した製品(トルネオなど)もあるようです。粘着テープで掃除できない硬い物の表面や、小さな隙間に付いた毛を取り除く場合に適しています。
猫の毛がコンセント周りに落ちていると、毛を芯としたほこりの塊ができやすくなり、上記トラッキング火災のリスクも高まります。ハンディクリーナーなどを用いてこまめに毛を吸い取る習慣が必要です。
掃除機に適した室内品
- フローリングの床
- コンセント周り
猫の毛がコンセント周りに落ちていると、毛を芯としたほこりの塊ができやすくなり、上記トラッキング火災のリスクも高まります。ハンディクリーナーなどを用いてこまめに毛を吸い取る習慣が必要です。
洋服ブラシ
洋服ブラシ(商標名ではエチケットブラシが有名)は衣類の表面をなでることによって、主としてほこりを取り除くブラシのことです。ブラシ表面にあるパイル状の合成繊維が斜めに立っていますので、逆なでするように動かすと布製品に付着した抜け毛も取り除けます。
洋服ブラシに適した室内品
- 衣類
- 猫用ベッド
猫の毛色や被毛パターンに関しては「猫の模様と色」にまとめてあります。また抜け毛を減らすためには飼い主による日常的なケアが必要です。「猫のブラッシングの仕方・完全ガイド」にまとめてありますので参考にして下さい。健康チェックは「被毛の変化・異常」からどうぞ。