ライコイの皮膚と被毛
ライコイ(lykoi, リコイ, リュコイ)は2012年、TICAによって品種として認定されたマイナー猫種。体幹や頭部と比較して四肢、足、顔、耳の毛が薄く、マズル先端部と眼球周辺部が無毛に近いという特徴を有しています。また副毛はまばらでほとんどが主毛から成っており、色は人間の「ごま塩頭」に相当する白と黒のローンパターンです。遺伝形式は常染色体劣性遺伝であることが判明しています。
上記したような特徴的な被毛から「オオカミ猫」などとも呼ばれていますが、ライコイの皮膚や毛を顕微鏡でのぞいてみると、いったい何が見えてくるのでしょうか?米国ミズーリ大学などが中心となり、ライコイ7頭(3ヶ月齢~2歳/中央値9ヶ月齢)と普通の短毛種7頭(3ヶ月齢~3歳/中央値12ヶ月齢)を対象として調査したところ、以下のような特徴が確認されたといいます。
主毛の直径が小さい
猫の被毛は太くて長い主毛とそれを取り囲むようにして生える副毛から成り立っています。主毛の太さに着目したとき「ライコイ:39μm<短毛種:47μm」という具合に、直径が17%ほど小さいという特徴が確認されました。なお1μmは0.001mmです。
副毛の直径が小さい
主毛の周辺を埋める副毛の太さに着目したとき「ライコイ:13μm<短毛種:16μm」という具合に、直径が19%ほど小さいという特徴が確認されました。
毛包の位置が浅い
毛包が皮膚表面からどのくらい埋没しているかに着目したとき「ライコイ:0.95mm<短毛種:1.14mm」という具合に、17%ほど浅い位置にとどまっているという特徴が確認されました。
単位あたりの毛包数が少ない
主毛と副毛からなる複合毛包に含まれる毛包のトータル数に着目したとき「ライコイ:14.7<短毛種:23.4」という具合に、37%ほど密度が薄いという特徴が確認されました。
毛軸密度が薄い
毛穴から外に向かって生えている毛軸に着目したとき、短毛種はテロゲン(休止期)のうち毛軸が抜け落ちるケノゲンでのみ毛軸の欠落が確認されました。それに対しライコイはアナゲン(成長期)でもテロゲンでも毛軸を欠いていることが多いという特徴が確認されました。毛が脱落した無毛毛包の割合で示すと「ライコイ:55%>短毛種:34%」で、この4割近い格差がまばらな被毛を生み出しているものと推測されます。
アナゲンの割合が少ない
毛周期のうちアナゲン(成長期)にある毛包の数に着目したとき「ライコイ:25%<短毛種:45%」という具合に、45%ほどアナゲンの割合が少ないという特徴が確認されました。
毛髄が多い
猫の被毛を横断面にしてみると、通常は中心部に毛髄と呼ばれる空間を有しています。この毛髄を有する有髄毛軸に着目したとき「ライコイ:67%>短毛種:41%」という具合に高い割合で保持していることが確認されました。
リコイ猫の被毛と皮膚に関する臨床的および組織学的記述
Michelle L. LeRoy, David A. Senter et al., 獣医臨床皮膚科 22 (3): 179?191, 2016
Michelle L. LeRoy, David A. Senter et al., 獣医臨床皮膚科 22 (3): 179?191, 2016
ライコイの被毛は病気?
ライコイの毛包を顕微鏡で見た時、毛包が拡張しつつ全体のサイズが縮小するという、形成不全の特徴が確認されました。また毛包周囲~毛包上皮において、短毛種では見られない軽度~重度のリンパ球浸潤が77%の毛単位で認められたとも。
2016年に行われたDNA調査では、系統クラスターとしてペルシャやスコットランドヤマネコに近いことが示されていますが、リンパ細胞性毛包上皮炎がライコイの好発疾患かどうかまではわかっていません。また特徴的な被毛パターンには胚形成中における肥厚上皮(プラコード)の減少が関わっているのではないかと推測されています。
この品種をこのまま増やし続けてよいのかどうかは「繁殖によって猫の健康や福祉が損なわれない」という最低条件をクリアできるかどうかにかかっています。
2016年に行われたDNA調査では、系統クラスターとしてペルシャやスコットランドヤマネコに近いことが示されていますが、リンパ細胞性毛包上皮炎がライコイの好発疾患かどうかまではわかっていません。また特徴的な被毛パターンには胚形成中における肥厚上皮(プラコード)の減少が関わっているのではないかと推測されています。
この品種をこのまま増やし続けてよいのかどうかは「繁殖によって猫の健康や福祉が損なわれない」という最低条件をクリアできるかどうかにかかっています。
ライコイ
エキゾチックショートヘアやスコティッシュフォールドのように、変わった見た目を求める人々の需要に合わせ、猫の健康を無視した乱繁殖が悪徳ブリーダーによって繰り返されるという悪しき先例があります。2017年、ライコイはTICAによってチャンピオンシップステータスを獲得しました。これはキャットショーにエントリーして賞をもらう資格があるという意味です。飼い主やブリーダーによる主観評価では、皮膚に関する異常やアレルギー症状が多いと言った報告はありませんが、今後この品種が金儲け主義のブリーダー達による搾取の犠牲にならないことを祈るばかりです。