トップ2023年・猫ニュース一覧3月の猫ニュース3月19日

ヒゲが波打っている猫は高確率で白血病(FeLV)陽性

 臨床の現場で逸話的に報告されていた「白血病の猫はヒゲが波打っている」という特徴。同じ特徴を有する猫たちを集めて統計的に検証したところ、FeLVとヒゲの形状との間に明白な関連性が認められました。

猫のヒゲと白血病の関係

 調査を行ったのは愛媛県にある新居浜動物病院を中心としたチーム。診察現場でよく目にする「FeLV陽性猫のヒゲがクネクネと波打っている」という特徴が、一体どの程度一般化できるのかを確かめるため、様々な臨床ステータスにある猫たちを対象とした比較調査を行いました。なおFeLVとは猫白血病ウイルス、「波打ちヒゲ」とは1本の中に少なくとも2ヶ所のカーブを有するひげが少なくとも2本生えている状態のことを意味します。 猫白血病(FeLV)陽性猫において高確率で見られる波打ちヒゲ  まず波打ちヒゲが確認された56頭の猫たちの血清を検査したところ、FeLV陽性と診断された割合は89.3%(50頭)でした。残り6頭の内訳は慢性腎臓病が2頭、伝染性貧血が1頭、外傷が1頭、不明が2頭だったそうです。
 次に比較として真っ直ぐなヒゲを有する302頭の猫たちを調べたところ、FeLV陽性はわずか7.6%(23頭)で残りはすべて陰性だったといいます。
 さらにFeLVと同じレトロウイルスである猫エイズウイルス(FIV)のみ陽性の24頭における波打ちヒゲが0頭(0%)だったのに対し、FIVとFeLV同時陽性の12頭のうち波打ちヒゲは8頭(67%)でした。
 多変量解析の結果、FeLV陽性ステータスと波打ちヒゲとの間に統計的に有意な関係性が認められました。
Wavy changes in the whiskers of domestic cats are correlated with feline leukemia virus infection
Morishita, M., Sunden, Y., Horiguchi, M. et al.. BMC Vet Res 19, 58 (2023), DOI:10.1186/s12917-023-03610-7

ヒゲで知る猫の健康

 ヒゲがくねくねと波打っている状態はかなり目立ちますので、今まで世界中で誰も調査・報告していなかったのは驚きです。ウイルスとヒゲの間には一体どのような関係があるのでしょうか?

ヒゲで何が起こっている?

 ヒゲの弯曲部を顕微鏡で調べたところ、狭小化、直径の不均一化、毛髄の劣化や破断などが認められたといいます。FeLVに感染するとなぜヒゲに変化が現れるのでしょうか? FeLV陽性猫が有する波打ちヒゲの顕微鏡所見  波打ちヒゲを有する36頭から上唇の組織サンプルを採取して調べたところ、真皮層に単核細胞の浸潤が見られたほか病的な変性は見られなかったといいます。一方、IHC(免疫組織染色)でFeLV抗原3種(p27・gp70・p15E)の有無を調べたところ、上唇の上皮細胞、表皮、粘膜上皮、通常の毛の毛包、汗腺、皮脂腺、ヒゲの毛包上皮で検出されました。さらに数ケースを電子顕微鏡で調べたところウイルス様の粒子が確認されたそうです。
 こうした観察結果から考えると、FeLVが本来の標的臓器である骨髄以外の場所にも漂着している可能性がうかがえます。仮説としては「ウイルスがヒゲの毛包部にある上皮内で増殖し、ヒゲの形成過程に影響を及ぼしている」などがありえますが、体に生えている通常の被毛に影響(脱毛・変形・変質)を及ぼさない理由はよくわかっていません。複数箇所にカーブが形成されることから考え、ウイルス暴露後数ヶ月かけて波打ちが形成されると推測されます。

波打ちヒゲの診断的な価値

 当調査を通し、FeLVに対する「波打ちヒゲ」の感度が68.4%、特異度が97.9%、陽性適中率が89.3%と算定されました。
 「感度68.4%」とはFeLV陽性が確定している猫が100頭いた場合、そのうちおよそ70頭のヒゲが波打っているという意味です。一方「陽性適中率89.3%」とは、波打ちヒゲを有する猫が100頭いた場合、そのうちおよそ90頭はFeLV陽性という意味です。調査チームが尤度比(ゆうどひ)を計算したところ32.5となり、診断的な価値は充分あると判断されました。
尤度比
感度と特異度の比を感度÷(1-特異度)という計算式で表した値で、10より大きければ検査法として有効とみなされる。今回の調査では0.684÷(1-0.979)=32.57となり、目安である10を大きく上回った。
 FeLVと波打ちヒゲの両方が確認された50頭のうち、一般的なFeLVの症状が確認されたのは34%(17頭)にすぎなかったといいます。言い換えると、残りの6割超(33頭)は波打ちヒゲだけがFeLVの症状だったということですので、FeLVステータスの簡易チェックとしてヒゲを見る方法は実用性が高いと考えられます。
 例えば多数の猫を扱う保護シェルターでは健康状態がわかっていない猫が頻繁に出入りします。しかしたとえ病歴が不明でもヒゲの状態を見れば、少なくとも臨時で隔離しなければならない猫がすぐにわかるでしょう。あるいはTNRで多数の猫たちに不妊手術を施す際、ヒゲが波打っている個体を優先的に捕獲・譲渡することで、屋外におけるウイルスの排出と蔓延をいち早く抑制することもできます。一般家庭で猫が迷子になり、運よく帰宅した後でヒゲに変化が現れたら、外で悪質なウイルスをもらってしまった可能性を考慮しなければなりません。 猫白血病ウイルス感染症
巻き毛を特徴とするレックス種ではヒゲを含めたすべての被毛がカーリーになります。波打ちヒゲが診断項目になりうるのは普通の短毛種だけです。 カーリーな被毛が特徴のレックス種(猫)