猫の骨軟骨異形成の病態と症状
猫の骨軟骨異形成とは、遺伝子の作用により骨が十分に成長しない病気のことです。手足が短い場合は特に「小人症」(Dwarfism)とも呼ばれます。
現在、猫の種類は、メジャーなもので40種類超、マイナーなものまで含めると100種類以上が存在しています。しかしこうした品種の中には、どういうわけか骨の成長に異常を持った状態を標準と定め、繁殖する時の基準として設けているものがあります。具体的には、「短足」、「鼻ペチャ」、「耳折れ」です。なお、文中に出てくる略号の正式名称は、文章の下に付記してあります。
現在、猫の種類は、メジャーなもので40種類超、マイナーなものまで含めると100種類以上が存在しています。しかしこうした品種の中には、どういうわけか骨の成長に異常を持った状態を標準と定め、繁殖する時の基準として設けているものがあります。具体的には、「短足」、「鼻ペチャ」、「耳折れ」です。なお、文中に出てくる略号の正式名称は、文章の下に付記してあります。
骨軟骨異形成の品種
- 短足 短足の品種は、「軟骨異形成」によって作り出されています。犬ではダックスフント、猫ではマンチカンなどが該当します。ブリーダーたちは口をそろえて「足の長さ以外は普通の猫」と言い張っているものの、その主張に明確な根拠があるわけではありません。一方、動物の福祉を科学的に考察する「UFAW」では、関節への過度な負担から変形性関節症に発展する危険性を否定できないとしています。この品種は「TICA」、「AACE」、「UFO」のほか、南アフリカとオーストラリアの一部の団体では公認されているものの、「FIFe」、「GCCF」、「CFA」では、「遺伝的疾患を品種の標準として認めるわけにはいかない」として、いまだに未公認の状態です。
- 鼻ペチャ 鼻ペチャの品種は、「軟骨形成不全」によって作り出されています。犬ではブルドッグ、猫ではペルシャやヒマラヤンが該当します。鼻ペチャ品種は遺伝病のデパートといっても過言ではなく、流涙症、短頭種気道症候群、眼瞼内反、膿皮症といった様々な疾患を好発します。ペルシャは鼻ペチャの度合いによって「I~IV」というグレードに分けられますが、グレードIIIやIVに属するペルシャは特に「ウルトラペルシャ」と呼ばれ、つぶれた鼻先によって一生涯深刻な合併症を抱えることも少なくありません。
- 耳折れ 耳折れの品種は、「軟骨異形成」によって作り出されています。具体的にはスコティッシュフォールドなどです。耳折れを作り出すのは「Fd」と呼ばれる遺伝子であり、「Fd/Fd」をホモ型、「Fd/fd」をヘテロ型と言います。「Fd/Fd」の方は重大な疾患を抱えていることが多いため、ペットショップで売られているのはおおむねヘテロ型(Fd/fd)の方です。耳の軟骨が不完全にしか発達しないということは、他の軟骨も大なり小なり成長不良を抱えているということであり、 具体的には、しっぽの硬直、短い手足、手根骨や足根骨の不整列、関節軟骨の不全といった異常が報告されています。1999年に行われた調査(PDF)では、「軟骨異形成を抱えたスコティッシュフォールドは遅かれ早かれ関節の障害に苦しむことになる。この問題に対する最善の解決策は、この猫を繁殖に用いないことである」という結論に達しています。また日本のアニコム損保が公開している「家庭どうぶつ白書2014」(PDF)では、他の品種の3倍近く筋骨格系の疾患を発症している可能性が示唆されています。関連疾患が多いことから、「FIFe」と「GCCF」ではいまだにこの品種を公認していません。
略号一覧
- TICA= The International Cat Association
- AACE= The American Association of Cat Enthusiasts
- UFO= The United Feline Organization
- FIFe= Federation Internationale Feline
- GCCF= Governing Council of the Cat Fancy
- CFA= Cat Fanciers' Association
- UFAW= Universities Federation for Animal Welfare
猫の骨軟骨異形成の原因
猫の骨軟骨異形成の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
猫の骨軟骨異形成の主な原因
- 遺伝 品種標準として固定されている「短足」、「鼻ペチャ」、「耳折れ」は全て遺伝です。マンチカンの短足は常染色体優性遺伝、ペルシャの鼻ペチャはいまだ不明、スコティッシュフォールドの耳折れは不完全優性遺伝だと推測されています。
- 選択繁殖 骨の成長に異常を持った猫を選択的に繁殖してきたのは人間です。ですから骨軟骨異形成は、人間が作り出した病気と言っても過言ではないでしょう。また近年は、「ジェネッタ」、「スクークム」、「ドウェルフ」、「ナポレオン」、「バンビーノ」、「フォールデクス」、「ミンスキン」など、骨や軟骨の成長不全を抱えていると思われる品種が徐々に増えつつあります。公認団体が限られているため、どれもまだメジャーな品種ではありませんが、見た目を追求するあまり、遺伝的疾患を品種標準として組み込んでしまうという人間のエゴが見え隠れしてなりません。
猫の骨軟骨異形成の治療
猫の骨軟骨異形成の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
猫の骨軟骨異形成の主な治療法
- 対症療法 生まれ持った体型を根本的に変える方法は無いため、併発した疾患に対するその場その場の治療が行われます。マンチカンやスコティッシュフォールドでは変形性関節症、ペルシャやヒマラヤンでは流涙症、短頭種気道症候群、眼瞼内反、膿皮症などが好発疾患です。
- 人間の意識を変える 猫の健康よりも見た目の可愛さを優先するという人間の側の意識を変えない限り、遺伝的疾患を無くす事は出来ないでしょう。人間が何かを見て「かわいい」と感じる時、そこにはある法則性があると言われています。この考え方は1943年、動物学者コンラート・ローレンツが「ベビースキーマ」(別名=baby schema, 幼児図式, Kindchenschema, キントチェンシェマetc)という表現で提唱したものであり、可愛らしさの源は「広い額、幅の広い顔、平坦な顔、大きな目、浅い彫り、小さな鼻、幅の広い鼻、小さな上顎、小さな下顎、小さな歯、短い手足」といった要素だと考えられています。子猫、短頭種、短足猫が持つベビースキーマの魅力に抗(あらが)う事は容易ではありません。しかし本当に猫が好きならば、小さな体や短い手足には、筋骨格のケガや病気を発症しやすいという負の側面があることも知っておかなければならないでしょう。