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猫の声の種類と意味・完全ガイド~ネコ語に含まれる気持ちから声変わりの原因まで

 猫は「オス猫同士」「オス猫とメス猫」「母猫と子猫」「人間といるときだけ」など、さまざまな状況でたくさんの鳴き声を発します。こうした声にはいったいどのような意味や気持ちが含まれているのでしょうか?過去に行われた研究を元にまとめましたので、声変わりの原因とともにしっかりと理解してネコ語翻訳家になりましょう!

猫が出す声の種類と意味

 猫の鳴き声には様々な種類があり、それぞれ違った意味を持っています。鳴き声がよく聞かれる状況は「オス猫とオス猫」「オス猫とメス猫」などですが、相手が人間である時にだけ発する特殊な鳴き声も確認されています。以下は代表的な猫の鳴き声一覧です。

口の開閉を伴う鳴き声

 以下は口の開閉を伴う猫の鳴き声です。口をいったん開けてから閉じるまでの間に声が出ますので、多くの場合音程が高くなったり低くなったりします。

Meow

✓声の特徴
母音が連なり[iau]という音を形成した声/日本なら「ニャオ」、英語圏なら「ミャウ」など国によって当てはめる擬音語が異なる
✓声の意味
もっぱら人間に対して何かを要求したり、関心を自分に向けさせる時に発せられる/1歳を過ぎた成猫の場合、他の猫に対してはほとんど用いない 🔈Meowのサンプル動画

Mew

✓声の特徴
ハイピッチで鼻から抜くような鳴き声/母音は[i] or [e]
✓声の意味
子猫においては母猫の注意を引く/成猫においては甘え、悲しみ、ストレス、服従など 🔈Mewのサンプル動画

Trill

✓声の特徴
短くて柔らかい「Meow」の一種/舌の上で転がすように出され、人間で言うところの「うがい」に近い音/発声を伴う「Purr」に近い/ハイピッチなTrillを「Chirr」、ローピッチなTrillを「Grunt」と分けることもあり
✓声の意味
親しいものとの接近や接触/あいさつ/遊び 🔈Trillのサンプル動画

Trill-Meow

✓声の特徴
TrillとMeowの混合/Meowの最初にうがいのようなTrillが混じり、「うんにゃ」という感じに聞こえる
✓声の意味
興奮/喜び 🔈Trill-Meowのサンプル動画

Moan

✓声の特徴
母音は[o] or [u]
✓声の意味
悲しい/要求 🔈Moanのサンプル動画

Squeak

✓声の特徴
ハイピッチでドアがきしるような声が鼻から抜ける
✓声の意味
要求 🔈Squeakのサンプル動画

Purr

✓声の特徴
いわゆる喉を鳴らす時の「ゴロゴロ」/肺を出入りする空気によって作り出されるローピッチで規則的な音/吐き出す息(呼気相)でも吸い込む息(吸気相)でも音が鳴る
✓声の意味
満足/空腹/ストレス/痛み/出産(分娩)/死に際/すべての状況に共通するのは「私はあなたにとって脅威ではありません」という意味合い 🔈Purrのサンプル動画

Howl

✓声の特徴
生後3~4週齢ころから出現/長く繰り返される警告シグナル/「Howl」(長さ=0.8~1.5秒/F0=700Hz)と「Yowl」(長さ=3~10秒/F0=200~600Hz)を区別することもあり/怒こっている時に出ることから「Anger Wail」とも呼ばれる/口を大きく開いて閉じる途中で音程や声の大きさを変えながら発せられる/警告の意味合いが強いときは「Growl」と混じり合うこともある/赤ん坊の「アウアウ」に似ている
✓声の意味
威嚇/警告 🔈Howlのサンプル動画(※14秒~)

Mating Call

✓声の特徴
繁殖シーズンで発情期のメス猫が発する/「Meow」を長く引き伸ばしたような声/赤ん坊の鳴き声に似ている
✓声の意味
興奮/オス猫の誘惑 🔈Mating Callのサンプル動画

口を動かさずに出す声

 以下は口の開閉を伴わないで発せられる猫の鳴き声です。口を閉じたまま、もしくは開いたまま顎を固定して発せられます。

Growl

✓声の特徴
喉の奥から絞り出すようなしゃがれた声/生後3~4週齢ころから出現/規則的、高速、ローピッチのパルス音/ゆっくり吐き出される安定した呼気により長く続く/そのまま「Hiss」に続くことがある
✓声の意味
威嚇/警告 🔈Growlのサンプル動画

Hiss

✓声の特徴
危険、脅威、恐怖を感じた時に反射的に行われる不随意的な発声反応/生後30日齢頃から出現/閉じた状態の声門に強い呼気を通すことでヘビのような威嚇音を出す/口は大きく開かれ犬歯を露出する/反応の途中で脅威ではないことが分かった場合、シャーという時の顔のまま「ミャー」と鳴く奇妙な現象も起こる
✓声の意味
驚き/恐怖 🔈Hissのサンプル動画

Spit

✓声の特徴
「Hiss」の前や後に出される「カッ」とたんを吐くときのような短い爆発音/生後30日齢頃から出現/毒を吐く時のヘビの真似?
✓声の意味
威嚇/恐怖/はったり 🔈Spitのサンプル動画

Chatter&Chirp

✓声の特徴
獲物となる鳥やネズミを見た時に発せられる声/顎を小刻みに動かして歯をカチカチ鳴らすのが「Chatter」/カチカチの間に挟まれるニワトリ(アヒル)のような甲高い声が「Chirp」/「Chirp」が長く伸ばされた声を「Tweedle」、ネズミが出すようなやや弱めのチューチュー声を「Tweet」として分類することもある
✓声の意味
獲物に効果的に近づくため、鳥やネズミの鳴き声を真似ている(?) 🔈Chatter&Chirpのサンプル動画

Snarl

✓声の特徴
ケンカで相手に飛びかかる瞬間などに発せられる大きくてしゃがれたハイピッチの声/母音はもっぱら[a]/痛みを感じている時に発することもあることから「Cry」や「Pain Shriek」とも呼ばれる
✓声の意味
威嚇/痛み 🔈Snarlのサンプル動画(※1分~)
ここで紹介したのは基本的に体に異常がない猫の発する鳴き声レパートリーです。しかし病気や怪我などが原因で、声が変わってしまうこともあります。
NEXT:猫の声が変わる原因は?

猫の声が変わる原因

 突然であれゆっくりであれ、猫の声が変わって今までとは違う音程や声質を出すことがあります。人間に対して発せられる「Meow」を例に取ると、主に以下のような原因が考えられます。

病気が原因で声が変わる

 猫の声が急に変わった時、まず第一に考えなければならないのは病気の可能性です。猫の声を作り出す声帯、喉頭、声門、神経のどこか一つにでも異常が発生すると、いつもとは違う声に変わってしまいます。よくある原因をまとめると以下のようになるでしょう。

鳴きわめき

 猫がひっきりなしに大声で鳴くことにより声帯に炎症が起こり、声がかすれたり声が出なくなってしまうことがあります。分離不安の傾向があり、飼い主がいない家の中で寂しがって大声で鳴きわめく癖がある猫において特によく起こります。症状は一時的ですが、分離不安を根本的に改善しなければ声帯炎がまた再発するでしょう。猫の分離不安

喉頭炎

 声帯を取り巻く喉頭部に炎症が起こると、声帯そのものや声帯の周囲にある組織が膨張し、声がかすれるとか声が出ないという症状として現れることがあります。対処法は炎症を抑えることで、猫風邪(ヘルペス)やカリシウイルスを伴っている場合はそちらに対する治療が優先されます。猫ウイルス性鼻気管炎猫カリシウイルス感染症

喉頭麻痺

 声帯の周辺に分布している神経(反回神経)に異常があると、声門が閉じたまま動かなくなり声がかすれるとか声が出ないという症状として現れることがあります。よくある原因はダニ麻痺です。アメリカとオーストラリアに生息しているダニの中には唾液腺から強力な神経毒を出すものがおり、屋外で噛まれると神経が麻痺して声の変化が起こります。ちなみに動画共有サイトで「ダンディな声を出す猫」が話題になっていますが、「ジャック」という名のこの猫は喉頭麻痺の手術後に声が低くなってしまったとのこと(※真偽は不明ですがおそらくフェイク)。 猫の喉頭麻痺

異物の誤飲

 間違って飲み込んでしまった異物が声帯や声帯の周辺にが止まっていると、声がかすれるとか声が出ないという症状として現れることがあります。厄介なのは魚や鳥の骨、縫い針、釣り針が刺さってしまった状態です。レントゲンで金属が確認された場合は、麻酔をした上で摘出しなければなりません。猫が異物を飲み込んだ

頻回嘔吐

 猫は胃の内容物をよく吐き戻すことで有名な動物ですが、その数があまりにも多い場合は自分自身の胃酸で声帯に傷がつき、声が枯れるとか声が出ないという症状として現れることがあります。この場合の対処法は吐き戻す回数を減らすことです。猫の嘔吐

膿瘍・腫瘍

 声帯や喉頭部に膿が溜まって膨らみを形成しているような場合は声質が変わってしまいます。同様に腫瘍が形成された場合も声帯の形が変わったり空気の通り道が変わったりして声質の変化が起こります。膿瘍に関しては時間とともに縮小することもありますが、腫瘍ができてしまった場合の対処法は外科的な手術です。

外傷

 声帯や喉頭部に外側から何らかの傷がつくと声が変わってしまうことがあります。例えば猫同士の喧嘩で首筋に噛みつかれたとか、屋外を放浪している時にすれ違った犬に噛みつかれたなどです。猫を放し飼いにしてはいけない理由

横隔膜の異常

 呼吸を司る横隔膜に異常があると、痛みによって声が出なくなってしまうことがあります。よくある原因は交通事故や落下事故によって生じた横隔膜の裂傷やヘルニアなどです。猫の横隔膜ヘルニア

加齢

 加齢に伴って声質が変わってしまうことがあります。原因は多くの場合、声帯の開閉に関わっている筋肉が弱まり、しっかりと閉じなくなってしまうことです。筋肉の弱化が進行すると声帯が全く閉まらなくなり、息は吐くけれども声が出ない状態になってしまいます。猫の老化・老衰

先端肥大症

 原因はよくわかっていませんが、糖尿病を発症した猫では先端肥大症という内分泌系疾患が共存することが多いとされています。人間における先端肥大症と同様、骨格自体が大きくなりますので、発声に関わる器官がやや大きくなって声が低くなるかもしれません。猫の先端肥大症 人間と猫における先端肥大症の比較写真

ガスの吸引

 有害なガスを吸い込むと声帯に傷や炎症が発生し、声がかすれるとか声が出ないという症状として現れることがあります。よくある原因は火事による煙の吸引です。ガスの有毒性と熱により生体が損傷を受け、声が出なくなってしまいます。猫が喜ぶ部屋の作り方

声変わりで声が低くなる

 猫にも人間と同様、「声変わり」というものがあります。基本的には生まれたばかりの時に発する声が最も高く、それからおよそ1年かけてゆっくりと低くなっていきます。 こうした声変わりが起こる理由は、成長に伴って声帯、喉頭、喉頭上部の声管が大きくなると同時に、筋肉が発達して声帯をしっかりと閉じることができるようになるからです。 発生器官の成長に伴い、猫の声(基本周波数, f0)はだんだん低くなっていく  スウェーデン国内に暮らす成猫45頭と子猫9頭を対象とし、日常生活の中で自然に発せられる鳴き声の特徴が調査されました(Schotz, 2019)。1頭につき平均27サンプル、合計1,591の発声サンプルを解析した所、成猫(平均6.2歳 | 平均体重4.6kg | オス43%)と子猫(平均3ヶ月齢 | 平均体重2kg | オス44%)との間で以下のような違いが見られたといいます。
子猫と成猫の声の違い
  • 基本周波数(f0)の平均✓子猫→1,238Hz
    ✓成猫→593Hz
  • 発声1回の持続時間✓子猫→0.49秒
    ✓成猫→持続時間0.69秒
 簡単に言うと、子猫の声は高くて短く、成猫の声は低くて長いということです。人間の声変わりは思春期頃になってようやく起こりますが、猫の声変わりは生まれたその日から始まり、体の成長とともに数ヶ月で終わります。

人に飼われると声は高くなる

 人間に飼われているペット猫と、人間の世話を受けていない野猫を比較した場合、「Meow」という鳴き声には明白な違いがあるようです。
 調査を行ったのは韓国にある慶尚大学校の獣医療チーム(Yeon, 2011)。野猫とペット猫の発声様式の違いを検証するため、人と接する機会がない野猫25頭と、13の一般家庭で飼育されているペット猫13頭を対象とし、異なる5つの状況における両者のボイスサンプルを採取しました。
 両者の発声様式にいったいどのような違いがあるかを音声学的に検証したところ、人と暮らしているペット猫の「Meow」に関して以下のような特徴が浮かび上がってきたと言います。
ペット猫の「Meow」
  • 基本周波数が高い
  • 第一フォルマントが高い
  • 周波数の最大値が高い
  • 第1四分位の周波数が高い
  • 第3四分位の周波数が高い
  • 1回の発声時間が短い
 こうした結果から調査チームは、社会化(人馴れ)の度合いによって猫の発声パターンには識別可能な音声学的な違いが生じうるという結論に至りました。ものすごく単純化して表現すると、人と接する機会がなく人慣れが進んでいない野猫においては警戒心に由来する威嚇や防御姿勢が多く見られるのに対し、人と接する機会が多いペット猫においてはいわゆる高い声による「猫なで声」を出す機会が多いということです。家や人間に慣れるに連れ、猫の声が少しずつ高くなっていくというのは普通の現象と考えてよいでしょう。

感情で猫の声が変わる

 猫がどのような感情を抱いているかによって声が高くなったり低くなったりすることが確認されています。
 スウェーデン国内に暮らす成猫45頭を対象とし、日常生活の中で自然に発せられる鳴き声の特徴が調査されました(Schotz, 2019)。主に人間に対して発せられる「Meow」という鳴き声に着目し、その中に含まれる平均的な基本周波数(f0)を調べたところ、注意を引く時や満足を感じている時は曲線が上がり、不満やストレスを感じている時は曲線が下がるパターンを示したといいます。具体的には以下のような感じです。 人の注意をひこうとしている時の成猫の「Meow」に含まれる基本周波数(f0)グラフ 満足を感じている時の成猫の「Meow」に含まれる基本周波数(f0)グラフ 不満を感じている時の成猫の「Meow」に含まれる基本周波数(f0)グラフ ストレスを感じている時の成猫の「Meow」に含まれる基本周波数(f0)グラフ  さらに2023年に行われた追認調査でも、ポジティブな感情を抱いているときの「にゃ~」の抑揚が弓なり(いったん上がって下がる)、ネガティブな感情を抱いているときのそれが一直線の右肩下がりになることが確認されています。 猫が人に発する「にゃ~(Meow)」に含まれたメッセージとは? さまざまな状況下において発せられた猫のにゃーとその抑揚パターン一覧
人間でも「うれしい!」というときは語尾の声が高くなり、「全然おいしくない…」というときは語尾の声が下がります。感情とイントネーションの関係性は人間と猫とでかなり似ているのかもしれませんね。
NEXT:母猫と子猫の会話

母猫と子猫の会話

 一般的な猫の鳴き声はほとんどが1歳を超えた成猫が発するものです。しかし生まれたばかりの子猫もまた、特別な声によって母猫と意思の疎通を図っています。「母猫と子猫の会話」を示す具体例としては以下のようなものがあります。

子猫が発する救難信号

 生後まもない子猫が母猫からはぐれたりストレス環境下にある時に発せられる救難信号。この甲高い声の中には子猫ごとに異なる音響変数が含まれており、母猫が我が子を個体識別するときの手がかりになっているようです。
 調査を行ったのはモンタナ州立大学を中心としたチーム(Scheumann, 2012)。子猫が発する救難信号を音響学的に解析するため、子猫たちを母猫から引き離した状態にし、録音された音声データを合計22の変数(時間3+発声源4+フィルター12+トナリティ3)に分けて調査しました。
 その結果、個体識別のヒントになる要素は発声源とフィルター関連の音響変数の中に多く含まれており、子猫が抱いている感情は時間、発声源、トナリティ関連の音響変数の中に多く含まれていることが明らかになったといいます。つまり聴覚が優れた猫が子猫の鳴き声を聞くと、そこに含まれている様々な音響学的な特性を聞き分け、子猫の個体識別をしたり、子猫がどのようなレベルのストレスを感じているかが分かるかもしれないということです。

メス猫は子猫の声に敏感

 猫はオスが育児に参加しないため、子猫の世話はもっぱら母猫が行います。そうした動物としての習性を反映してか、オス猫とメス猫の聴覚には明らかな違いがあるようです。
 調査を行ったのは、ドイツ・ハノーバーにある医学校と獣医学校からなる共同研究チーム。チームはまず生後9~11日のオス猫4頭とメス猫3頭から、「通常の救難信号」と「切迫した救難信号」を引き出し、合計14パターンの声を録音しました。
  • 通常の救難信号親や同腹仔から3分間引き離した状態で発せられる鳴き声
  • 切迫した救難信号親や同腹仔から引き離した状態+人間が手で持ち上げるか仰向けにひっくり返した状態で発せられる鳴き声
 以下でご紹介するのは、子猫が母猫からはぐれてしまった時に発せられる「救難信号」(distress call)と呼ばれる特徴的な鳴き声です。 元動画は→こちら
 次に、オス猫9頭(平均年齢2.4歳)とメス猫8頭(平均年齢3.6歳 | そのうち4頭は出産経験あり)を実験室に入れ、猫が水を飲んでいるタイミングを見計らって、スピーカーから事前に録音しておいた子猫の救難信号を流しました。
 合計238のセッションを行い、オス猫とメス猫が「通常の救難信号」と「切迫した救難信号」に対してどのような反応を見せるかを詳しく調べたところ、出産経験の有無にかかわらずメス猫は子猫が発する声からどの程度切迫しているかを本能的に理解できるという結果が観察されました。要するに、オス猫よりもメス猫のほうが子猫の声に敏感に反応するということです。 メス猫はオス猫より子猫の声に敏感

母猫が発する「Greeting Chirp」

 未熟な子猫が母猫に助けを求める時の救難信号は有名ですが、逆に母猫から子猫に発せられる「Greeting Chirp」という特徴的な鳴き声はあまり知られていません。
 報告を行ったのは、メキシコ・トラスカラ自治大学を中心としたチーム。猫の母子間における音声的なコミュニケーション能力を調査するため、「Meow」(ニャオ)と「Greeting Chirp」(※)と呼ばれる2種類の声を、子猫の母猫、および子猫とは血縁関係のない全く別のメス猫から録音し、子猫に聴かせてリアクションを観察しました。
Greeting Chirp
 「Greeting Chirp」(グリーティングチャープ)とは、母猫が子猫に対して用いる声の一種。まるでうがいをするように、「クルルルル」とのどの奥で音を細かくを刻みながら出す。 元動画は→こちら
 その結果、「母猫のGreeting Chirp」に対する反応が最も大きかったと言います。こうした事実から研究チームは、母猫が発する「Greeting Chirp」には音声学的な特徴が含まれており、子猫は声の特徴を聴き分けて自分の母親を認識することができるとの結論に至りました。 母猫と子猫は特殊な声で会話している NEXT:サイレントミャオとは?

声を出さずに鳴くサイレントミャオ

 病気や怪我をしている訳ではないのに、猫は時々サイレントミャオ(もしくはサイレントミャア)と呼ばれる奇妙な現象を見せることがあります。これは、口を開けているにもかかららず、なぜか声は出ていない状態のことです。
猫のサイレントミャオ
 以下でご紹介するのは、口は開いているのに声を出さない「サイレントミャオ」の瞬間をとらえた動画です。かすれたような吐息しか出しません。 元動画は→こちら
 サイレントミャオは不安と期待が入り混じった状況や、ちょっと疲れているときなどによく観察されます。ですから人間に置き換えると、コンビニのレジに誰もいないとき「すいませ~ん…」と小声で店員を呼ぶような状況や、寝起きで夢うつつのとき、誰かの呼びかけに適当に返事する状況に近いでしょう。
 ただし猫が急に声を出さなくなったとか、ゴロゴロとのどを鳴らさなくなったというような場合は喉頭麻痺の可能性があります。以下のページなどを参考にして動物病院を受診してください。 猫の喉頭麻痺 NEXT:ネコ語を理解しよう!

ネコ語を理解するコツは?

 猫が発する「Meow」(ミャ~オ, ニャ~オ)という鳴き声は、成猫同士の間ではほとんど聞かれないといいます(Brown, 1993)。また猫以外のネコ科動物においてもやはり、幼獣のころは聞かれるものの、 成長してから人間に対して発せられることはほとんどないそうです(Cameron-Beaumont, 1997)。「ネコ語」とでも言うべきこの鳴き声は、おそらく猫が人間を操るために生み出したものなのでしょう。いくつかの研究調査により、猫と密接に暮らしている人ほど、「Meow」に含まれる意味を正確に理解できることが示されています。

飼育歴とネコ語の理解力

 猫と密に接している人ほど、猫の「ミャ~オ」という鳴き声に含まれる感情や背景(文脈)を聞き分ける能力が高いようです。
 調査対象となったのは猫の飼育歴に関わらず集められた成人28人(男性13人+女性15人 | 平均年齢23.9歳)。12頭の猫(メス猫7頭+オス猫5頭 | 平均年齢6.8歳)が日常生活の中で発した「Meow」という鳴き声100サンプルを聞いてもらい、声に含まれる感情価と声の背景にある文脈とを言い当ててもらいました。ここで言う「Meow」とは、平均基本周波数(F0)が400~1200 Hz、声の持続時間が110~3100ミリ秒で、ピッチの変動を含む「ミャ~オ」といった感じの声のことです。また「感情価」とはポジティブかネガティブかという観点で、「文脈」の具体的な内容は以下です(Nicastro, 2003)
猫の「Meow」が発せられる文脈
  • 食事関連食事と飼い主の方を交互に見る。耳は立ち上がりしっぽは上にピンと伸ばされる
  • 敵対的人間の手やヘアブラシと言った対象物に攻撃を加えようとする。耳を後方にひきつけ目は大きく見開かれ、しっぽは畳み込まれる
  • 友好的足元に擦り寄って喉をゴロゴロ鳴らし、目を半開きから閉じた状態にして尻尾は上に高く上げられる
  • 障害物窓やドアといった障害物に出くわした時、目を大きく見開き、障害物と飼い主の方を交互に見る。尻尾は高く上げられる
  • ストレス同じ場所をうろうろしたり目を大きく見開いて耳を立てる。しっぽは垂れ下がり左右に動く
 1つの文脈において20サンプル、合計100サンプルを被験者たちに聞いてもらった所、文脈の正解率は27.2%で偶然レベル(20%)を超えたといいます。正解率と年齢や性別と間に関連性は見られませんでしたが、猫の飼育歴(最近猫を飼い始めた)、猫との交流(頻繁に猫と交流する)、猫への愛情(猫にポジティブな感情を抱いている)の度合いが高いほど、声の背景にある文脈の正解率も高くなったとのこと。特に「猫への愛情」との間に強い連動が見られたそうです。
 一方、ポジティブかネガティブかという感情価の正解率に関しては、偶然(50%)をやや上回る53.7%にとどまりました。猫の飼育歴(最近猫を飼い始めた)および猫との交流(頻繁に交流する)が高いほど、正解率が高まったものの、猫への愛情との関連性は見られなかったといいます。
 こうした結果から調査チームは、猫に関する経験値が高いほど猫が発する「Meow」の背景にある文脈を予測する能力や、含まれる感情価を読み取る能力が高まると結論づけています。

飼い猫と他人の猫の違い

 猫を飼っていたり、過去に飼った経験がある人は、そうした経験がない人よりは猫の「Meow」という鳴き声を正確に理解できるようです。しかし他人が飼っている猫の声まで正確に把握できるわけではありません。
 調査対象となったのは、イギリスのリンカーンに暮らす10人の猫の飼い主(女性8名+男性2名 | 平均年齢は35.5歳)とその飼い猫10頭(メス6頭+オス4頭 | 平均年齢は5.4歳)。飼い主の側の条件は過去最低6ヶ月間猫を飼育していることと家庭内でもっぱら猫の世話を見る人であること、猫の側の条件は6ヶ月齢以上、不妊手術済、体に痛みを抱えていないことと設定されました。
 猫たちを事前に4つの異なる状況に置き、最初に発せられる「Meow」をという鳴き声を実験用のサンプルとして集めました。4つの状況の具体的な内容は以下です(Ellis, 2015)
猫の「Meow」が発せられる文脈
  • 障壁交渉猫が普段使わない室内に独りきりで放置し自力では出られないようにする
  • 注意喚起猫が普段よく使う室内に飼い主と猫が共に入り、猫を呼んだ上で優しく話しかけたり体を触ったりする
  • 食餌の準備普段どおりに餌の準備をする
  • おあずけ食事の準備をした後、猫からは見えるけれども自力では到達できない場所にフードを置き、しばらくおあずけ状態にする
 4つの状況下における猫たちの音声サンプルを取った後、今度は飼い主を対象とし、1人につき8種類の音声サンプルを聴いてもらいました。そのうち4つは自分の飼っている猫が4つの状況において発した声、残りの4つは他人が飼っている猫が4つの状況において発した声です。
 音声サンプルを聞いた上でその背景にあるシチュエーションを言い当ててもらったところ、自分の飼い猫の発する声を聞いた時は40%の被験者(=4人)が偶然を超えるレベル(4サンプル中3つ以上)で背景にある文脈を言い当てることができたといいます。一方、見知らぬ猫の声を聞いた時の正解率に関しては誰一人として偶然レベルを超えなかったとのこと。これら正解率の格差は統計的に有意と判断されました。
 飼い猫の声の文脈を聞き分ける正解率が偶然レベルを超えたことから、猫はコンスタントに同じ様式で文脈依存性の発声法を持っていると推測されます。しかし声の主が見知らぬ猫になった時の正解率は偶然レベルを超えなかったため、猫が身につけている発声法は生まれつき備えているものではなく、人間との生活の中で個別に身に付けたものだと考えられます。

ネコ語翻訳機は使える?

 猫の飼い主向けグッズとして「ネコ語翻訳機」なるものが国内でも海外でも発売されています。基本コンセプトは、猫の鳴き声を機械に聞かせると、その背景にある感情や気持ちを液晶モニターや音声などを通して示してくれるというものです。
ネコ語翻訳機(?)
 以下でご紹介するのは海外で開発された「Catterbox™」と呼ばれるネコ語翻訳機の動画です。 「chatterbox」(おしゃべりな人)と「cat」を引っ掛けてネーミングされています。 元動画は→こちら
 日本国内では「ミャウリンガル™」と呼ばれるネコ語翻訳機が有名です。満足、恐怖・ピンチ・威嚇、要求、自己表現、求愛(さかり)という6種類の感情を解析でき、表示翻訳パターンは約200種あるとのこと。 また近年は「人猫語翻訳機」スマートフォンアプリも出回っているようですが、こちらは猫の声を分析するのではなく、人間の言葉を「猫語」に翻訳してスピーカーから出力されるという代物です。
ネコ語を理解するコツは、おもちゃに頼らずまずは「猫が出す声の種類と意味」を理解することです。猫の声が高くなったとか低くなったという場合は「猫の声が変わる原因」を参考にして、異常がないかどうか確かめるようにしましょう。