詳細
調査を行ったのは、ドイツ・ハノーバーにある医学校と獣医学校からなる共同研究チーム。チームはまず生後9~11日のオス猫4頭とメス猫3頭から、「通常の救難信号」と「切迫した救難信号」を引き出し、合計14パターンの声を録音しました。
Wiebke S. Konerding, Elke Zimmermann, et al. 2016
- 通常の救難信号親や同腹仔から3分間引き離した状態で発せられる鳴き声
- 切迫した救難信号親や同腹仔から引き離した状態+人間が手で持ち上げるか仰向けにひっくり返した状態で発せられる鳴き声
子猫の救難信号への反応
- 水を飲むのをやめた9%
- 不完全に頭を向けた15%
- 不完全に体を向けた1%
- 完全に頭を向けた36%
救難信号への反応性差
- 「通常」に対する反応の早さに性差はなかった
- オス猫の場合、「通常」と「切迫」における反応の早さに違いはなかった
- メス猫の場合、「通常」よりも「切迫」に対して10%早い反応を見せた
- 「切迫」に対するメス猫の反応は、出産経験とは無関係だった
Wiebke S. Konerding, Elke Zimmermann, et al. 2016
解説
メス猫の反応性に影響を及ぼしたのは、救難信号の基本周波数に含まれるある種の性質だったと言います。「基本周波数」(F0)とは、ある個体が発する音声のうち、喉頭、声帯、伝声管の太さや長さといった物理的な特性によって固定される周波数のことです。具体的には「救難信号の出だしにおけるF0が低い」、「F0の最低値が低い」、「F0の変化が大きい」という要素が、母猫の反応性を早めていました。音が低いほど反応性が早まるという現象は、「猫は高い音に敏感」という事実と矛盾するように思われます。しかし低い音からスタートした方が、高い周波数に移行した時にメリハリが生まれて聞き取りやすくなるというメリットを持っています。「切迫した救難信号」の方に上記した要素が多く含まれていた理由は、声の中にあえて低い周波数を混ぜることで、母親が聞き取りやすい音の抑揚を作りたかったからかもしれません。
切迫した救難信号に対しメス猫だけが素早い反応を示したという現象は、過去にメスブタやクロカイマンを対象として行われた調査の結果と一致します。猫を含めたこれらの動物に共通しているのは、「メスだけが育児に参加する」という習性です。繁殖期のオス猫は交尾が終わるやいなや、さっさとメス猫の元を離れ、すぐに違うメス猫の尻を追っかけ始めます。育児に参加することはおろか、自分の子供が生まれたかどうかを確認することすらしません。ですから、子猫の発する救難信号から、それがどの程度切迫しているのかを理解する必要性があまりないのだと推測されます。「イクメン」とは程遠いですね。