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猫の分離不安の原因と対策~家庭内ストーカーを効果的にやめさせるには?

 トイレだろうとお風呂場だろうと猫が足元にまとわりつき、「もういい加減にして!」と思うことはないですか?飼い主と離れることに異常な不安を感じる猫の「分離不安症」(ぶんりふあんしょう, Separation Anxiety Syndrome)について原因と対策を解説します(🔄最終更新日:2021年10月)

猫の分離不安とは?

 分離不安(ぶんりふあん)とは、親しい仲間と離れ離れになった動物が極度の不安に陥ることです。別れに伴う苦悩自体は動物の世界では広く認められており、決して病的なものではありません。例えば鳥、犬、猫、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、クジラ目、人間を含めた霊長類といった動物種において確認されています。しかしその苦悩が極端に強く、病的な行動にまで発展してしまう場合は「分離不安」という特殊なカテゴリで扱われるようになります。

猫の分離不安の症状

 分離不安傾向がある猫でよく見られるのは、「絶えず足元にまとわり付く」「トイレやお風呂にまでついてくる」「目が合うまでじっとこちらを見つめる」「視界に割り込んでニャーニャー鳴く」「ドアの向こうで叫ぶ」「トイレ砂をひっかく」「再会時に熱狂的に出迎える」など、絶えず飼い主の関心を自分に向けようとする行動です。
 こうした行動はそのうち悪化し、以下に示すような分離不安行動へとつながっていきます。なお「パニック系」は探索行動や鳴き声を増やすことで離れ離れになった仲間と再会する機会を高めようとする相のことで、「意気消沈系」はエネルギーを温存するために活動性を低下させて環境から引きこもろうとする相のことです。
分離不安徴候・パニック系
パニック系の分離不安徴候は興奮、鳴き声の変化、攻撃行動など
  • 興奮落ち着きを失う・うろうろする・飛び跳ねる
  • 鳴き声の変化クンクン鳴き・吠える・大声で鳴く・遠吠えの増加
  • 破壊行動逃げ出そうとドアを引っ掻く・カーテンによじ登る・テーブルの上の物を手当たり次第に落とす・地面を掘る・トイレを引っ掻き回す・窓に体当りする
  • 攻撃行動マウンティング・かじりつく・うなる・噛み付く・引っ掻く
  • 身体的異常吐く・よだれをたらす・震える・呼吸が荒くなる・脈が速くなる
分離不安徴候・意気消沈系
意気消沈系の分離不安徴候は抑うつ、自傷行為、不適切な排泄など
  • 抑うつ社会的交流を避ける・元気がなくなる・食欲を失う・服従的姿勢や表情を見せる・恐怖に駆られた姿勢や表情を見せる
  • 自傷行為過剰なグルーミング・毛をむしり取る・自分の尻尾をかじる
  • 排泄行為の異常不適切な場所でのおしっこやうんち(粗相)

分離不安の問題点

 分離不安の徴候のうちパニック系に含まれる「鳴き声の変化」「破壊行動」「攻撃行動」、および意気消沈系に含まれる「自傷行為」「排泄行為の異常」といった行動は、時として飼い主を悩ませ、最悪のケースでは「飼育放棄」につながってしまう危険性をはらんでいます。
 例えばアメリカにおいて猫を飼育放棄する際の危険因子を調べた所、猫を自由に外出させていることや不妊手術を受けていないことのほか、「毎週~毎日の頻度で不適切な排泄が見られること」という項目が挙がってきたといいます出典資料:Patronek GJ, 1996
 また猫の分離不安について2002年に行われた調査によると、1~3歳のうち26.5%、4~5歳のうち32.4%、6~7歳のうち17.6%に見られるとされています。そして分離不安の症状を見せる猫のうち、70.6%は不適切な場所での排尿、35%は不適切な場所での排便、8.8%は破壊行動、11.8%は過剰な鳴き声、5.9%は過度のグルーミングを見せるとも出典資料:S.Schwartz, 2002
分離不安に伴う問題行動
分離不安には、粗相や便のお漏らしなど、様々な問題行動が付随する  トイレ以外の場所で粗相をしてしまった猫のうち、75%までもが飼い主の布団やベッドの上にしたと言いますので、分離不安が原因で布団を汚してしまい、怒った飼い主が猫を捨ててしまうという流れが見て取れます。
猫が分離不安を抱かないように対策を立てることは、絶え間ない猫の苦痛を解消するのみならず、猫の生活を確保するためにも必要なことなのです。それでは具体的な対処法を見ていきましょう!
NEXT:分離不安の解決策

猫の分離不安解決策

 「猫の性格」というページでも詳しく解説しましたが、仲間と一緒にいたがる「社会性」(sociability)というものは非常に多くの要因によって影響を受けます。例えば以下のようなものです。
  • 先天的要因父猫の性格 | オキシトシン受容器遺伝子 | 毛色 | 利き手の有無
  • 後天的要因母猫による世話 | 栄養状態 | 人との接触 | 社会経験 | 生活環境 | 去勢避妊手術
 例えば先天的要因のうち「毛色」については、アメリカ・ペンシルベニア大学の獣医学チームが面白い調査結果を報告しています。チームは100項目からなる飼い主へのアンケート調査から猫の行動特性を浮き彫りにする「Fe-BARQ」(フィーバーク)と呼ばれる特殊な調査票を用い、毛の色や被毛パターンと猫の行動にどのような関連性があるのかを検証しました(J.Serpell, 2016)。最終的に調査対象となったのは、15品種に属する394頭です。
 その結果、猫の毛色や被毛パターンと「分離不安」との間に関係性が見られたといいます。具体的には、猫が以下のどれかにあてはまる場合、分離不安傾向が強まるというものでした。 猫の毛から性格を見抜く「猫の毛占い」 猫がある特定の被毛色や被毛パターンをもっている場合、分離不安が強まる傾向が確認されている  「ブラウン」(チョコレート)は黒をやや薄めた感じの被毛色です。「ライラック」(ラベンダー)はブラウンをさらに薄めてセピアに近くなった色合いを指します。「ポイント」とは顔、手足、しっぽの先端の色が濃くなるパターンのことで、シャムに多いことで知られています。
 上記した被毛の特徴と分離不安がどのようなメカニズムを通して関わり合っているのかはまったくわかっていません。人間で言う「手相占い」程度の意味しかありませんが、ひょっとすると先天的な要因によって分離不安を示しやすい猫がいるのかもしれません。
 上で紹介したような毛色は変えようがありませんが、後天的な要因であれば多少飼い主の側でコントロールすることができます。例えば、以下のような心がけを持っておけば、猫の分離不安がいくらか軽減すると考えられます。

ストレス管理

 猫が過剰に飼い主の関心を求める行動の背景には、満たされない欲求があるかもしれません。欲求を満たすためにニャーニャーと要求鳴きをしているうちに、飼い主への依存心が強まってしまったという可能性もあります。
 「猫のストレスチェック」を参考にしながら、まずは生活環境の中に、猫にとってのストレス要因が無いかどうかを総チェックしましょう。また何らかの病気を抱えていないことを確かめるため、健康診断も受けておきます。

留守番部屋の整備

 分離不安症の猫を室内に残して外出すると、「猫の分離不安の症状」で述べたような様々な行動を示すと考えられます。猫の怪我を予防すると同時に飼い主の所有物を守るためには、以下のような点に気をつけておく必要があります。
猫が留守番する部屋の準備
  • 安全の確保猫と離れるときはテーブルの上の物をなるべく少なくし、倒れそうなものを固定しておいた方がよいでしょう。例えばゴミ箱、鉢植え、棚の上のものなどです。物が壊れるだけならまだましですが、落下物が猫にぶつかって怪我をしてしまうと取り返しがつきません。
  • 安心毛布猫が嫌がらないようであれば、テレビやラジオをつけっぱなしにしておくという手もあります。近年は猫用に開発された「Music for Cats」などのリラクゼーションミュージックもあるようです。また飼い主の匂いがついたタオルや洋服を室内に残しておくと、猫が安心してくれるかもしれません。ただし2021年に行われた最新の観察調査では、飼い主がいないのに匂いだけがある状態を、猫たちがストレスと捉えている可能性が示されました。ですから「飼い主の匂いをなるべく室内に残さない」という逆説的な対策も、場合によっては考慮しましょう。 留守番中の猫にとって飼い主の匂いは逆にストレスの原因?
  • 気晴らしパズルフィーダーなどを用意して気晴らしにします。猫が好きなおもちゃを室内に残しておくという手もありますが、誤飲事故を防ぐために紐状のものは使えません。猫が外の景色を自分のペースで監視できるよう、日当たりの良い窓際に監視台やお昼寝ベッドを用意してあげるのも効果的です。
  • 寝室のブロック猫の不適切な排泄を予防するため、寝室に入れないようにしておくことは重要です。留守番中の粗相のターゲットは、7割以上が飼い主の布団やベッドだといいます。一度おしっこが染み付いてしまうと寝具の総交換を余儀なくされることもありますので、猫のアクセスを徹底的に遮断しておきましょう。 分離不安症の猫が見せる不適切な排泄は、飼い主の寝具をターゲットとするのが特徴
  • フェロモン 猫の顔から分泌される5種類のフェイシャルフェロモンの内、「F3」を人工的に合成した「フェリウェイ®」という商品があります。確認されている変化は猫を落ち着かせる、顔のこすりつけやグルーミングを活発化する、食事に対する興味を増加させる、尿スプレーを減らすなどです。仲間と離れ離れになった猫の不安を和らげる効果があるかどうかは定かではありませんが、「近くに仲間がいる!」と錯覚してくれる可能性はあります。

外出ルーチンを崩す

 「外出ルーチン」とは、飼い主が家を出る前にかならず行う行動のことです。例えばカギを持ってジャラジャラ鳴らす、上着を羽織る、財布を持つ、カバンを用意するなどが含まれます。猫がこうしたルーチンと外出とを結びつけて覚え、「飼い主さんがどこかに行ってしまう!」と予想できるようになると、外出する前から孤独の苦痛を味わうようになってしまいます。
 猫の不安を和らげるためには、日頃からルーチンをわざと乱して猫に外出を悟られないようにしておくことが重要です。例えば以下のような例があります。
外出ルーチンの崩し方
  • カギを鳴らすけれども食事をするだけ
  • 上着を羽織るけれどもトイレに行くだけ
  • 財布を持つけれどもテレビを見るだけ
  • カバンを用意するけれども洗濯するだけ
 このように外出ルーチンと外出以外の行動とを結びつけておけば、本当に外出するとき猫に察知されることなく家を出ることができるようになります。少なくとも、外出直後に猫が感じる急激な不安感を和らげる効果はあるでしょう。

負の弱化

 「負の弱化」とは、猫にとってのごほうびを取り去ることで、行動の頻度を下げることです。例えば、過剰に関心を求めるという行動をやめさせたい場合は猫が飼い主の関心を求めて騒ぎ立てた瞬間、無視することが基本方針となります。この方針を徹底すると、「関心を求める」という行動と「飼い主の関心を失う」という報酬の喪失とが猫の頭の中で結びつき、徐々に騒ぐことが無くなっていきます。
 逆に、絶対にやってはいけないのは、たまに猫の要求に応えてあげることです。これは「猫のしつけの基本」で解説した「間欠強化」に相当します。気まぐれで大当たりを出すスロットマシーンと同様、やる側の射幸心(しゃこうしん)に火をつけ、行動の頻度が逆に高まってしまうのです。
 飼い主と再会した瞬間、猫は足元に擦り寄ってニャーニャー鳴きながら熱烈に歓迎してくれるかもれません。すぐに応えてあげたくなる所ですが、しばらく我慢して猫が落ち着きを取り戻すまで待ち、鳴き止んだタイミングで抱っこやナデナデをしてあげるようにします。

正の強化

 「正の強化」とは、猫にとってのごほうびを与えることで、行動の頻度を上げることです。「負の弱化」とはちょうど表裏の関係に当たります。
猫がおとなしくしていたら、マッサージなどのごほうびを与えることも大事 猫のつきまとい行動をなくすためには、家族全員が一度の例外もなく、「猫の要求に素直に応じない」という基本方針を貫くことが必須であると述べました。それと同時に、猫がおとなしくしていたら、エサ、遊び、マッサージなど、猫にとってのごほうびを与えるという正の強化を行えば、より一層猫の問題行動が減ってくれるでしょう。「むしろ静かにしていたほうが構ってくれる!」ことを覚えてくれれば、無駄にニャーニャー鳴いたり足元にまとわりついてくることもなくなってきます。

新しい猫を迎える(?)

 「家庭内にもう1頭猫を迎えてあげる」という多頭飼い対策は一長一短です。猫同士の相性が良ければ飼い主への過度な依存心が和らいで分離不安の軽減につながりますが、相性が悪いと慢性的なストレスの原因となり、分離不安以外の問題が色々と生じてきます。例えば特発性膀胱炎などです。
 ですから新しい猫を迎えて多頭飼いする場合は、以下に述べるような手順を踏んでゆっくり対面させるといった配慮が必要となります。 猫の多頭飼いのすすめ
先住猫と新顔猫の引き合わせ
  • 生活空間の整備限られた資源を求めて猫同士が争わないよう、生活に必要なものは必ず猫の頭数分用意します。具体的には、食器、トイレ、寝床、休憩エリアなどです。
  • 匂いに慣らせる先住猫と新しい猫をいきなりご対面させるのではなく、1週間程度の準備期間を設けて新しい猫の匂いを少しずつ先住猫に慣らせておきます。例えば新顔猫の使った食器やブラシを嗅がせるなどです。その間、猫同士が鉢合わせしないよう生活空間を区切っておきます。
  • ご対面はケージ越しに準備期間を終えて猫同士を対面させるときは、新顔猫をケージに入れておいたほうが無難です。先住猫が警戒してシャーシャー威嚇しながら、猫パンチを繰り出すかもしれません。これではトラウマになってしまいます。
  • 猫の様子を観察するご対面が終わったら、猫のストレスチェックを参考にしつつ、双方の猫が何らかのストレスを感じていないかどうかを確かめます。猫の場合は、特発性膀胱炎を発症して急におしっこが出なくなることもしばしばです。

キャットシッターに頼む

 家を離れている時間があまりにも長いときや、分離不安の症状が深刻なときは、キャットシッターに頼むことも考えます。自分のテリトリーに見知らぬ人間が入り込んでくるというストレスはありますが、別離のストレスよりはましかもしれません。
ペットホテルに預けるという方法は、飼い主との別離の苦痛のほか、見知らぬ環境に放り込まれる苦痛が加わりますのでおすすめできません!
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猫も別れを寂しがる?

 猫が飼い主と別れて分離不安の症状を示すことはよくあることです。では、一緒に暮らしていた動物が死んでしまったとき、残された猫はやはり分離不安に陥るのでしょうか?2016年、この疑問に答えるためのユニークな調査がニュージーランドで行われました。
 調査を行ったのはニュージーランドの「Companion Animal Council」を中心としたチーム。オーストラリアとニュージーランドに暮らすペットの飼い主に対し、「ペットのペットロス」に関する調査票を広く配布し、最終的に279人(うち女性254人)から回答を得ました。調査票の具体的な内容は、複数のペットを飼っている家庭において1頭が死んだ時、残されたペット動物の行動にどのような変化が生じたかというものです。
 その結果、仲間の死を経験した猫196頭のうち、77.5%に相当する152頭が最低1つの変化を見せたと言います。また変化が見られた項目の平均数は「4.5 ± 0.2」で、行動の変化が観察された期間は平均して6ヶ月未満だったとも。
 調査チームは別離に際して動物が見せる「別れの二相性モデル」を引き合いに出し、仲間と死別した猫が見せる様々な反応も、このモデルに当てはまるのではないかと推論しています。具体的には以下です。
別れの二相性モデル
  • 第一の相(パニック)探索行動や鳴き声を増やすことで離れ離れになった仲間と再会する機会を高める。死別後の猫では「鳴いている時間の増加」(43%)、「鳴き声のボリュームの増加」(32%)、「愛着行動の増加」(40%)という形で見られた。
  • 第二の相(意気消沈)エネルギーを温存するため活動性を低下させて環境から引きこもる。死別後の猫では「食べるスピードが遅くなった」(12%)、「食べる量が減った」(21%)という形で見られた。
こうしたデータから、すべての猫が同じように反応するわけではないものの、仲間との別れに際し、まるで寂しがっているかのような反応を見せる猫がいるという事実が明らかになりました。以下でご紹介するのは、猫で多く見られた具体的な変化の一覧です。
Owners’ Perceptions of Their Animal’s Behavioural Response to the Loss of an Animal Companion
Jessica K. Walker, Natalie K. Waran, et al. Animals 2016, 6(11), 68; doi:10.3390/ani6110068

仲間の死体に対する反応

仲間の死体に対し猫の4頭に3頭は匂いを嗅ぐなどの探りを入れる
  • うなる=7%
  • 匂いを嗅ぐ=74%
  • 興味なし=18%
  • その他=2%
 74%という非常に高い確率で「匂いを嗅ぐ」という行動が見られました。仲間の遺体を探るという行動は認知能力が高い動物において確認されている普遍的なものです。例えばアフリカゾウは死んだ仲間の骨や牙を隅から隅まで調べると言われています。またイルカも死んだ仲間に対する興味を示すことが報告されています。さらにニホンザルやチンパンジーは、すでに死んだ子供の遺体を1週間~2ヶ月間も持ち歩くことがあるそうです。
 遺体を調査するという行動自体はありふれたものですが、この行動を「悲しみ」の現れであると解釈する証拠はありません。ただ単に目の前にいるにもかかわらず体温を感じないので不審に思ったといった単純な解釈も可能です。また猫の中にはオスカーのように人間の死期を察知する不思議な能力を持ったものもいますので、「遺体が発する特有の匂いに引きつけられた」という可能性もあるでしょう。

食餌の量や食べるスピード

仲間の死後、5頭に1頭の猫では食事量が減る
  • 増えた=9%
  • 減った=21%
  • 拒絶した=3%
  • 変化なし=67%
仲間の死後、8頭に1頭の猫では食べるスピードが落ちる
  • 増えた=2%
  • 減った=12%
  • 変化なし=86%
 21%では食事量が減り、12%では食べるスピードが落ちたといいます。1996年に行われた別の調査では、仲間の死に伴い猫の46%で摂食量が減ったと報告されていますので、割合的にはやや少ないといえます。
 人間においてはストレスの増加に伴い食欲が減退することが確認されていますが、1~2割の猫でも同じような生理学的な変化が起こったのかもしれません。ただし、同居動物の死が残されたペットにとってストレスとなるかどうかは、生前の関係性に大きく依存します。例えば、しょっちゅう喧嘩していた相手が死んだ場合は、必ずしもストレスにつながるとは限りません。

睡眠時間

仲間の死後、5頭に1頭の猫では睡眠時間が増える
  • 増えた=20%
  • 減った=5%
  • なくなった=0%
  • 変化なし=76%
 睡眠パターンの変化は、社会的な分離を経験したラット、いくつかの霊長類、いくつかの家畜動物でも観察されており、最も多いのは睡眠時間の減少だとされています。
 今回の調査では20%で睡眠時間の増加が観察された一方、睡眠時間の減少が確認されたのはわずか5%でした。少なくとも睡眠時間の増減から猫の内面の悲しみを推し量る事は難しいようです。睡眠時間が増えた理由は、遊び相手や相互グルーミングの相手が居なくなり、じっと寝そべっている時間が増えたからかもしれません。

人や同居動物への攻撃性

仲間の死後、25頭に1頭の猫では同居している人間への攻撃性が高まる
  • 増えた=4%
  • 減った=1%
  • 変化なし=95%
仲間の死後、8頭に1頭の猫では同居している動物への攻撃性が高まる
  • 増えた=12%
  • 減った=0%
  • 変化なし=88%
 同居人への攻撃性はほとんど変化がありませんが、同居している動物への攻撃性の上昇が12%ほど確認されました。メンバー構成が変わったことにより家の中におけるヒエラルキーが変わり、突如として強気に転じたのかもしれません。あるいはただ単にストレスに対処するための転嫁行動なのかもしれません。猫がストレスを感じた時は通常、グルーミングの増加など自分の体を対象とした「自己指向性行動」(SDB)が増えますが、中には他の動物の体を対象とするものもいると考えられます。

不適切な排泄

仲間の死後、およそ半数の猫では不適切な排泄(粗相)の頻度が増える
  • 増えた=46%
  • 減った=8%
  • 変化なし=46%
 46%という非常に高い確率で不適切な排泄が報告されました。仲間と離れ離れになった状況において病的な不安を覚える「分離不安」の猫では、不適切な排泄や排便、鳴き声の増加、破壊行動、病的なグルーミングが見られると言いますので、粗相してしまった猫の内面では何らかの不安が生じていた可能性があります出典資料:Schwartz S, 2002
 ただし不適切な排泄が見られたタイミングが死別の直後なのか、それともしばらく経ってからなのかによって意味合いは大きく変わります。直後の変化ならば、上記したように不安の兆候と解釈してもよいかもしれませんが、しばらく経ってからの変化ならば、泌尿器系の病気である可能性も否定できません。今回の調査では変化が見られたタイミングまでは報告されていませんので、解釈には困難が伴います。

鳴き声の時間と大きさ

仲間の死後、5頭に2頭の猫では鳴いているトータル時間が長くなる
  • 増えた=43%
  • 減った=2%
  • なくなった=1%
  • 変化なし=54%
仲間の死後、3頭に1頭の猫では鳴き声のボリュームが上がる
  • 増えた=32%
  • 減った=3%
  • 変化なし=65%
 43%では鳴いているトータルの時間が増え、32%では鳴いている時の声のボリュームが大きくなったと言います。猫は極端な不安に陥っている時に「アウゥ~ン」という特徴的な大声を出しますが、上記した変化がこの「アウゥ~ン」ならば、猫の内面にストレスが生じていると考えてよいかもしれません。
 仲間と離れ離れになった状況において病的な不安を覚える「分離不安」を抱えた136頭の猫を対象とした調査でも、「鳴き声の増加」が特徴的な行動の一つとして報告されています出典資料:Schwartz S, 2002。ですから、今回の調査で見られたような鳴き声の変化は、母猫とはぐれた子猫が発する救難信号(distress call)を成猫が発したものとも考えられます。

愛着に関連した行動

仲間の死後、およそ6割の猫では愛情を求めたり愛情を示すと言った行動が増える
  • 愛情を求める行動が増えた=40%
  • 愛情を求める行動が減った=15%
  • しつこく愛情を示すようになった=22%
  • 接触を避けるようになった=1%
  • 変化なし=22%
 愛情を求める行動の増加が40%という高率で確認されました。おそらく「足元にすり寄ってくる」、「膝に飛び乗ってくる」、「布団に入ってくる」といった行動のことだと思われます。
 飼い主と強い絆で結ばれた犬は、しばらくの間離れ離れになっていた飼い主と再会する状況において激しい愛情行動を示すそうです。また、この行動は人間の子供を対象とした観察でも確認されています。猫で観察された愛情を求める行動の増加が、それに先行する不安やストレスに起因するものならば、猫の内面にも別離の悲しみと言う感情が生じていたのかもしれません。

縄張りに関連した行動

仲間の死後、3頭に1頭の猫ではいなくなった仲間が好んで使用していた空間をうろついたりする
  • 死んだ仲間がよくいた場所を探す=36%
  • 死んだ仲間のお気に入りの場所を避ける=5%
  • いつもより高い場所を求める=13%
  • 隠れる行動が増えた=9%
  • 変化なし=37%
 1996年の調査では、仲間と別離した猫の41%で「いなくなった仲間がよく使っていた場所を探索する」という行動が確認されています。今回の調査でも同様の行動が36%という高率で報告されました。
 いなくなった仲間の姿を探すという行動は、動物界においては広く認められているようです。例えば女首長の死体を見るためにゾウの群れが長距離を移動したとか、子供を失ったヒヒがすでにこの世を去った子供の姿を探すといった事例が報告されています。
 猫が見せるこの行動が内面の悲しみを反映しているのかどうかは微妙なところです。今まであまり使っていなかった場所が急に自由空間になったので、自分の匂いを擦り付けることで所有権を主張しているだけかもしれません。
粗相の原因はいろいろありますので、ひょっとすると分離不安とは無関係な要因が関わっているかもしれません。「おしっこの失敗」を熟読していろいろな可能性を検討しましょう。