状況別の「にゃ~(Meow)」
調査を行ったのはスウェーデンにあるルンド大学のチーム。猫の代表的な鳴き声である「にゃ~(Meow)」が、発せられる状況に応じてどのように変化するのかを検証するため、ペット猫を対象とした前向き調査を行いました。
調査対象
調査対象となったのはスコーネにある34の家庭で暮らす70頭の猫たち。家庭内における発声状況を以下の7つに絞り、声が発せられる瞬間を映像で記録していきました。
発声状況
- ドアドアや窓の近くに陣取り、飼い主に対して開けるよう要求する
- あいさつ自発的に飼い主に近づく
- ごはんえさを持った飼い主の近くに陣取る
- 抱っこ抱っこをせがむ or 抱っこの最中
- 遊び遊びをせがむ or 遊びの最中
- 抱き上げ人間に抱き抱えられて足が地面から離れる
- キャリー飼い主が近くにいる状況でキャリーに入る
調査結果
データに不備がなかったサンプルだけに絞り込み、最終的に50頭(メス26+オス24)が発した合計969の音声サンプルが解析に回されました。猫たちの平均年齢はメスが7.18歳、オスが6.90歳、純血種と非純血種はほぼ半々です。
発声が1~20回未満が全体の76%、20~60回未満が20%、60回以上が4%となり、969の音声サンプル中91.6%に相当する888サンプルまでもが事前に設定した7つの状況下のいずれかで記録されました。
発声が1~20回未満が全体の76%、20~60回未満が20%、60回以上が4%となり、969の音声サンプル中91.6%に相当する888サンプルまでもが事前に設定した7つの状況下のいずれかで記録されました。
「にゃ~」の状況別割合
- ごはん=40.3%
- キャリー=22.1%
- あいさつ=10.2%
- 遊び=10.2%
- ドア=9.8%
- 抱っこ=4.3%
- 抱き上げ=3.0%
声の持続時間
個々の猫が発した声の持続時間を平均化したところ530~3161msと個体差が見られ、全体では1秒に満たない700ms(0.7秒)でした。性別を元に平均化した結果はオス>メスとなり、オスの方がやや間延びした声を出す傾向が確認されましたが、統計的には非有意でした。
7つの状況を総当り形式で比較したところ、「遊び>抱っこ」「キャリー>ごはん/あいさつ」という勾配が見られました。
7つの状況を総当り形式で比較したところ、「遊び>抱っこ」「キャリー>ごはん/あいさつ」という勾配が見られました。
F0平均
F0(基底周波数)平均に関しては208~1000Hzという個体差があり、全体では525Hzでした。性別を元に平均化した結果はオス<メスとなり、オスの方がやや低い声を出すことが確認されました。また若い猫より高齢猫の方がF0が小さい、つまり低い声を発することが明らかになりました。
全体的な傾向としては、比較的低いF0が「抱っこ」「抱き上げ」「キャリー」で発せられ、比較的高いF0が「ドア」「ごはん」「あいさつ」「遊び」で発せられることが明らかになりました。
7つの状況を総当り形式で比較したところ、「抱っこ」で発せられる声が「抱き上げ」と「キャリー」を除く5つの状況より低いこと、および「ドア>抱き上げ」「ドア>キャリー」「ごはん>キャリー」という勾配が確認されました。
全体的な傾向としては、比較的低いF0が「抱っこ」「抱き上げ」「キャリー」で発せられ、比較的高いF0が「ドア」「ごはん」「あいさつ」「遊び」で発せられることが明らかになりました。
7つの状況を総当り形式で比較したところ、「抱っこ」で発せられる声が「抱き上げ」と「キャリー」を除く5つの状況より低いこと、および「ドア>抱き上げ」「ドア>キャリー」「ごはん>キャリー」という勾配が確認されました。
F0レンジ
1頭の猫が発するF0の上限と下限(レンジ)を調べたところ、5~702Hzという幅が見られ、全体では概ね100~200Hzの範囲内に収まりました。性別ではオスの方がメスより小さい、すなわち音域がやや狭いことが明らかになりましたが、統計的に有意とまでは判断されませんでした。また年齢による影響も見られませんでした。
7つの状況を総当り形式で比較しましたが、F0レンジに関してはどの比較においても差は認められませんでした。
7つの状況を総当り形式で比較しましたが、F0レンジに関してはどの比較においても差は認められませんでした。
F0コンター
F0コンター(抑揚)に関しては個体ごとに決まっておらず、同じ状況でも異なるコンターが記録される現象もしばしば起こりました。
とはいえまったくバラバラというわけではなく、状況ごとに抑揚のパターンのようなものもが見られました。具体的には以下です。 Context effects on duration, fundamental frequency, and intonation in human-directed domestic cat meows
Susanne Schotz a b, Joost van de Weijer a, Robert Eklund, Applied Animal Behaviour Science Volume 270, January 2024, DOI:10.1016/j.applanim.2023.106146
とはいえまったくバラバラというわけではなく、状況ごとに抑揚のパターンのようなものもが見られました。具体的には以下です。 Context effects on duration, fundamental frequency, and intonation in human-directed domestic cat meows
Susanne Schotz a b, Joost van de Weijer a, Robert Eklund, Applied Animal Behaviour Science Volume 270, January 2024, DOI:10.1016/j.applanim.2023.106146
猫の「にゃ~」から心を知る
さまざまな状況における猫の「にゃ~」を解析したところ、ある特定の感情価と密接に関連した発声パターンらしきものが見えてきました。この知見を応用して私達は猫マスターになれるのでしょうか。
声の持続時間
声の持続時間を状況別に比較したところ「遊び>抱っこ」「キャリー>ごはん/あいさつ」という勾配が見られました。ネガティブな状況に比べポジティブな状況における声が短くなる現象は、猫を対象とした先行調査でも報告されており(:Nicastro et al., 2003) 、猫以外の哺乳動物でも確認されています。
もしこの現象が普遍的なものだとすると、「短いにゃ~は満足の証」というわかりやすい指標になりますが、その差は時にコンマ以下ですので、実生活の中で聞き分けることはそれほど簡単ではないかもしれません。例えばポジティブな「抱っこ」の持続時間は0.594秒、ネガティブな「キャリー」のそれは0.820秒でした。
もしこの現象が普遍的なものだとすると、「短いにゃ~は満足の証」というわかりやすい指標になりますが、その差は時にコンマ以下ですので、実生活の中で聞き分けることはそれほど簡単ではないかもしれません。例えばポジティブな「抱っこ」の持続時間は0.594秒、ネガティブな「キャリー」のそれは0.820秒でした。
F0平均=声の高さ
状況別のF0平均、つまり声の高さに関してはオスの方が小さい、すなわち低い声を発することが確認されました。この性差は人間と同じですので直感的に理解しやすいポイントです。また若い猫より高齢猫の方が低い声を発する点に関しても人間のパターンと同一のようです。若い頃のヒット曲を音程を下げて歌うシンガーを、一度は見たことがあるのではないでしょうか。
状況別では「ドア」「ごはん」「あいさつ」「遊び」において比較的高いF0が発せられました。2019年に公表されたSchotzの調査(:Schotz, 2019)では人と猫の異種コミュニケーションではF0が高くなると報告されていますので、人に対して何かを要求するような状況では声が高く大きくなるのかもしれません。コンビニで「レジお願いしまーす!」と呼びかける状況に近いので感じでしょうか。
状況別では「ドア」「ごはん」「あいさつ」「遊び」において比較的高いF0が発せられました。2019年に公表されたSchotzの調査(:Schotz, 2019)では人と猫の異種コミュニケーションではF0が高くなると報告されていますので、人に対して何かを要求するような状況では声が高く大きくなるのかもしれません。コンビニで「レジお願いしまーす!」と呼びかける状況に近いので感じでしょうか。