猫のストレススコアとは?
「猫のストレススコア」(Cat-Stress-Score, CSS)とは、猫の姿勢や表情からストレスの度合いを予測するために、アメリカのMcCuneが1994年に考案したものです。
猫の典型的な姿勢でご紹介したLeyhausenの「猫の姿勢図」が16パターンに細分されているのに対し、この「CSS」は7パターンとかなりシンプルなもので、「ストレス」という点に主眼が置かれています。
猫のストレススコア(PDF)
姿勢から見るストレススコア
ストレスの度合いと猫の姿勢の相関関係を、写真を用いて解説します。ご自身のペット猫のほか、野良猫、猫カフェの猫など、さまざまな場所における猫の気持ちを察するときのヒントになってくれます。
ゴロ寝
「ゴロ寝」とは、両手両足を伸ばしきって完全に脱力しておなかを見せた姿勢のことです。家の中で完全にリラックスしているとき、もしくは気温が22度を越えて暑いときなどによく観察されます。「猫のストレススコア」でいうと「非常にリラックス」に相当するでしょう。
横寝
「横寝」とは、体の側面を地面に付けて寝た姿勢のことです。両手両足は地面に接触しておらず、リラックスしていることは間違いないものの、「ゴロ寝」ほどではありません。「猫のストレススコア」でいうと「非常にリラックス」~「ややリラックス」くらいに相当するでしょう。
横座り
「横座り」とは、前足を地面に接地し、後足は横に投げ出した姿勢のことです。ちょうど着物を着た女性が、足を崩した姿勢に似ています。下半身はリラックスしているものの、上半身の覚醒レベルは高く、不測の事態に対応できるよう、頭を垂直に立てています。「猫のストレススコア」でいうと「ややリラックス」に相当するでしょう。
香箱座り
「香箱座り」(こうばこずわり)とは、両手両足を折りたたんで座り、さらに前足の手首から先を折りたたんで体の下に挟み込んだ姿勢のことです。お香を入れる「香箱」に似ていることから、日本では「香箱座り」と呼ばれていますが、欧米ではカット前の食パンに似ていることから「Loaf」と呼ばれます。前足はリラックスしているものの、後足は地面に付けており、いつでも動けるような体勢を保っています。「猫のストレススコア」でいうと「ややリラックス」程度に相当するでしょう。
スフィンクス座り
「スフィンクス座り」とは、両手両足を折りたたんで座った姿勢のことです。上記「香箱座り」との違いは、前足を体の下に入れておらず、地面に接地しているという点です。香箱座りの状態よりもすばやく行動に移ることができます。「猫のストレススコア」でいうと「ややリラックス」~「やや緊張」程度に相当するでしょう。
三つ指
「三つ指」とは、後足を折りたたみ、前足を伸ばした姿勢のことです。ちょうど旅館の女将さんが、三つ指を付いてお客さんに挨拶するときの姿勢に似ています。「猫のストレススコア」でいうと「やや緊張」程度に相当するでしょう。
四つ足
「四つ足」とは、両手両足の関節を伸ばし、地面に接地している姿勢のことです。不測の事態に備え、今すぐにでも走り出すことができますので、覚醒レベルはかなり高い状態にあります。「猫のストレススコア」でいうと「やや緊張」~「非常に緊張」程度に相当するでしょう。
尻込み
「尻込み」とは、両手両足の関節を曲げて縮こまり、しっぽを丸めてうずくまった姿勢のことです。自分の体を小さく見せることで、相手の戦闘意欲を萎えさせようとしています。子猫や臆病な猫、動物病院に連れてこられたばかりの猫などでよく観察されます。「猫のストレススコア」でいうと「怖がっている」~「非常に怖がっている」程度に相当するでしょう。
ハロウィン
「ハロウィン」とは、両手両足の関節を伸ばし、さらに背中の毛を逆立てた姿勢のことです。 自分の体を大きく見せることで「自分は強いんだぞ!」と相手を牽制しています。恐怖が極限に達したときや、発情期でオス同士がいがみ合っているときなどによく見られます。「猫のストレススコア」でいうと「恐れおののいている」に相当するでしょう。
表情から見るストレススコア
ストレスの度合いと猫の表情の相関関係を、写真を用いて解説します。猫は表情が乏しい動物と思われがちですが、必要最小限のことくらいは顔を通じて伝えようとしています。
寝顔
「寝顔」(ねがお)とは、文字通り猫が寝ているときの表情です。目を閉じて完全に脱力しています。まぶたの裏で眼球がコロコロと動いているようなときは、「REM睡眠」中で、何か夢を見ているのかもしれません。「猫のストレススコア」でいうと「非常にリラックス」に相当するでしょう。
とろん顔
「とろん顔」とは、まぶたを半ば閉じ、目頭から第三眼瞼(だいさんがんけん=白いまぶたのような膜)が飛び出した状態のことです。日向ぼっこしているときや、人になでられて余りにも気持ち良いときなどに、よくこの表情を見せます。「猫のストレススコア」でいうと「非常にリラックス」に相当するでしょう。
まったり顔
「まったり顔」とは、まぶたを半ば閉じ、ぼーっとした表情のことです。脱力はしていますが、「寝顔」や「とろん顔」ほどではありません。眠いときや、人間になでられているとき、猫同士でグルーミングしているときなどによく見られます。のどは鳴らしたり鳴らさなかったりです。「猫のストレススコア」でいうと「ややリラックス」程度に相当するでしょう。
ちなみにネット上では、「目を半分閉じる」という仕草を愛情表現として解釈している人が多いようですが、ビデオ録画を用いて詳細に観察したところ、状況によってはフラストレーションを意味している可能性が示されています。詳しくは以下のページをご参照ください。
ちなみにネット上では、「目を半分閉じる」という仕草を愛情表現として解釈している人が多いようですが、ビデオ録画を用いて詳細に観察したところ、状況によってはフラストレーションを意味している可能性が示されています。詳しくは以下のページをご参照ください。
真顔
「真顔」とは、猫が覚醒し、気持ちがニュートラルなときに見せる表情です。まぶたと瞳孔の開き方が中程度という点が特徴でしょう。また耳やひげにも緊張が見られません。「猫のストレススコア」でいうと「ややリラックス」~「やや緊張」の間のどこかに相当するでしょう。
びっくり顔
「びっくり顔」とは、まぶたと瞳孔が大きく開かれた表情のことです。「あれは何だ?」と好奇心を抱いたときや、「変な奴が来た!」と警戒心を抱いたときなどによく見られます。ひげや耳も前方に傾くことが多くなります。「猫のストレススコア」でいうと「やや緊張」に相当するでしょう。
悪魔顔
「悪魔顔」(あくまがお)とは、まるで悪魔の角のように耳を横に向けてピンととがらせ、瞳孔を目一杯に開いた表情のことです。人間で言うと、眉をひそめてしかめっ面をした状態に近く、しつこくなで続けたときなどによく観察されます。「猫のストレススコア」でいうと「非常に緊張」~「怖がっている」程度に相当するでしょう。ちなみにこの特徴的な耳の形には「イカ耳」や「船耳」など、様々な呼び方があります。
はったり顔
「はったり顔」とは、耳を寝かせて瞳孔を開き、犬歯を見せて「シャー!」という威嚇音を発する状態のことです。相手を牽制しているものの、瞳孔が目一杯に開いていることから、「怒ってるんだぞ!…本当は怖いけど」といった「はったり」に近い心理状態だと考えられます。「猫のストレススコア」でいうと「怖がっている」に相当するでしょう。
怒り顔
「怒り顔」とは、耳を寝かせて後方に引きつけ、犬歯を見せて「シャー!」という威嚇音を発する状態のことです。 上記「はったり顔」とは違い、瞳孔が収縮して攻撃する気満々であることから、怒りの本気度はかなり高いものとなります。「猫のストレススコア」でいうと「恐れおののいている」に相当するでしょう。
エソグラムとストレススコア
2021年、アイルランドにあるダブリン大学の調査チームは、猫が見せる表情や行動から心的な状態を推測するための、初心者向けのエソグラム(動物学的行動目録)を作るため、情動回路を猫向けにアレンジした上でいくつかの典型パターンを作成しました。「情動回路」(emotional circuits)とは多くの動物が脳の古い部位に生まれつき持っている原始的な回路のことです。
検証の結果、「恐怖」「怒り」「喜び・遊び」「満足」「興味」という5つの基本情動に区分するのが妥当との結論に至ったといいます。詳しくは以下のページでも解説してありますが、ストレススコアと共通する部分も多いのでここで簡単にご紹介しておきます。
検証の結果、「恐怖」「怒り」「喜び・遊び」「満足」「興味」という5つの基本情動に区分するのが妥当との結論に至ったといいます。詳しくは以下のページでも解説してありますが、ストレススコアと共通する部分も多いのでここで簡単にご紹介しておきます。
恐怖(Fear)
「恐怖」という情動を抱いているときに見られるエソグラムは、ストレススコアで言う「怖がっている」~「恐れおののいている」に近いでしょう。
- 目大きく見開かれ瞳孔は散大する/瞬きもしくはゆっくりとした瞬き/まぶたを固く閉じる/アイコンタクトを避ける/軽度の恐怖心を抱いている時は顔が左を向く
- 耳横もしくは後ろに倒れる/耳介が見えなくなる
- しっぽ・尾体の下に隠す/体の周囲に巻きつける
- 体立毛反射/力んだかがみ姿勢/頭を低く下げる/背中を弓なりにして立つ/軽度の恐怖心を抱いている時は顔が左を向く
- 行動警戒/驚愕/振戦/フリーズ(硬直)/隠れる/逃走・回避/グルーミング(転位行動)/生命維持行動(食べる・飲む・排泄する)の中断/眠らない
怒り(Anger/Rage)
「怒り」という情動を抱いているときに見られるエソグラムは、ストレススコアで言う「非常に怖がっている」に近いでしょう。
- 目瞳孔は縦長~散大/相手を凝視
- 耳横に回旋/耳介の内側が見える状態
- しっぽ・尾固く垂れ下がる/逆L字に挙上/地面をペチペチ叩く/左右もしくは上下に素早く動く(テイルラッシュ)
- 体背骨やしっぽの立毛反射/前傾姿勢/臀部挙上/背中を弓なりにして立つ
- 行動犬歯をむき出しにする/飛びかかる/追いかける/猫パンチ/噛み付く/押しのける
喜び・遊び(Joy/Play)
「喜び・遊び」という情動を抱いているときに見られるエソグラムに対応したストレススコアはありませんが、猫が遊びや狩猟ごっこに興じているときに生じる特殊なポジティブ感情だと考えられています。
- 目瞳孔散大/眼裂は覚醒もしくはリラックスで見開かれる
- 耳直立して耳介が前方を向く
- しっぽ・尾垂直/逆Uの字に挙上
- 体子猫においては口を半開きにする(プレイフェイス)/背中を弓なりにする
- 行動高い場所に上る/走り回る/他の猫に近づいて飛びかかる・手を出す・掴んで組み伏せる・甘噛をする・お腹を見せて取っ組み合いをする・ケリケリ・サイドステップ・逃げる/対象物を嗅ぐ・なめる・かじる・前足でちょんちょんする・投げる・組み伏せる・飛びかかる
満足(Contentment)
「満足」という情動を抱いているときに見られるエソグラムは、ストレススコアで言う「ややリラックス」~「非常にリラックス」に近いでしょう。
- 目瞳孔が縮小して半分以下まで細まる
- 耳直立して耳介が前を向く
- しっぽ・尾脱力して動かない~ややカールした状態で挙上する
- 体座位/丸くなって横になる
- 行動ストレッチ/あくび/グルーミング(セルフ・アロ)/ニーディング(生地コネ動作)/ノーズタッチ/匂い嗅ぎによるあいさつ/ヘッドハンティング(軽い頭突き)/顔や体を対象物にこすりつける/ヘソ天/横になってクネクネ
興味(Interest)
「興味」という情動を抱いているときに見られるエソグラムは、ストレススコアで言う「やや緊張」に近いでしょう。
- 目瞳孔散大/右側を見る/対象を凝視
- 耳直立して耳介が対象の方に向く/耳先がピョコピョコ動く
- しっぽ・尾水平/あいさつ時は挙上
- 体後ろ足で立ち上がる/前足を対象物に置く/頭を突き出す/頭が右を向く
- 行動エリアや対象物を探索する/匂いをかぐ/なめる/前足でチョンチョン触る/他の猫と鼻挨拶したり顔や体を擦り付ける/狩猟行動(待ち伏せ・追跡・飛びかかり・掴みかかり・噛みつき)
カナダにあるゲルフ大学が行った調査により、猫の飼育歴や飼育頭数に関わらず、猫が見せる表情の微妙な変化から感情を読み取ることが非常にうまい人が一部にいることが示されています。皆さんも猫マスターになってみては?