詳細
調査を行ったのは、イギリス・リンカーン大学とオーストラリア・クイーンズランド大学からなる共同チーム。猫の行動や表情と感情とがどのように連動しているかを検証するため、異なる状況における猫の反応を録画して細かく分析しました。調査対象となったのは、カナダ国内にある動物保護施設に収容された合計29頭(オス猫14頭)の猫たち。環境を統一した実験室内にステンレスケージ(76cm×76cm×71cm)を用意し、ケージの中に猫だけがいる「孤立状況」と、人間と接触している「交流状況」における反応が録画されました。
得られた猫の録画映像を細かく解析し、一般的な変化(姿勢・位置・行動)を45種、表情を「CatFACS」と呼ばれるシステムによって48種に振り分けていった所、猫の感情と態度との間に以下のような対応関係が見えてきたと言います。色の付いた枠は「孤立」と「交流」2つの状況に共通している項目です。
Facial correlates of emotional behaviour in the domestic cat (Felis catus)
Bennett, Valerie, Gourkow, Nadine, Mills, Daniel S., Behavioural Processes http://dx.doi.org/10.1016/j.beproc.2017.03.011
得られた猫の録画映像を細かく解析し、一般的な変化(姿勢・位置・行動)を45種、表情を「CatFACS」と呼ばれるシステムによって48種に振り分けていった所、猫の感情と態度との間に以下のような対応関係が見えてきたと言います。色の付いた枠は「孤立」と「交流」2つの状況に共通している項目です。
フラストレーション
孤立状況 | 交流状況 |
鼻にしわを寄せる | 鼻にしわを寄せる |
上唇を上げる | 上唇を上げる |
下唇を下げる | 下唇を下げる |
口を伸ばす | 口を伸ばす |
舌を出す | 舌を出す |
シャーと威嚇する | シャーと威嚇する |
唇を引き離す | 唇を引き離す |
下顎を落とす | 下顎を落とす |
鼻先を舐める | 鼻先を舐める |
鳴き声を出す | 鳴き声を出す |
口角を引く | ヒゲを挙げる |
目を上に向ける | 耳を内側に向ける |
耳を平たくする | 目を半分閉じる |
- | 座る |
- | 耳を後ろに向ける |
- | うなりわめく |
恐怖
孤立状況 | 交流状況 |
腹をつけて寝そべる | 腹をつけて寝そべる |
動かなくなる | 動かなくなる |
隠れる | 隠れる |
瞳孔が開く | 耳を平たくする |
瞼を上げる | 引きこもる |
しゃがみ込む | まばたきをする |
目を半分閉じる | - |
頭を左に向ける | - |
目を左に向ける | - |
リラックス
孤立状況 | 交流状況 |
香箱座りをする | 香箱座りをする |
耳を前に向ける | 耳を前に向ける |
耳を内側に向ける | 耳を内側に向ける |
ケージの前に行く | ケージの前に行く |
ヒゲを後方に引きつける | 頭を上げる |
頭を下げる | 目を上に向ける |
頭を右に向ける | ニュートラル |
目を右に向ける | 友好的 |
Bennett, Valerie, Gourkow, Nadine, Mills, Daniel S., Behavioural Processes http://dx.doi.org/10.1016/j.beproc.2017.03.011
解説
猫がフラストレーションを感じている時の代表的な態度は以下です。ほとんどの人にとって間違えようがないでしょう。
一方、猫だけの「孤立状況」と人間と接している「交流状況」においては違いが見られました。中でも興味深いのは、人間と交流している状況においてだけ見られた「目を半分閉じる」という項目です。ネット上では「愛情表現」として解釈している人が多いようですが、状況によっては全く別の意味を持っているのかもしれません。例えば猫の顔をじっと覗き込んだ時、ゆっくりとまぶたを閉じて半開きの状態になったとしましょう。この時猫は「あなたのことが好きです」と言いたいのではなく、「落ち着かないのでやめてもらえません?」と伝えたがっている可能性があります。
猫が恐怖を感じている時の代表的な態度は以下です。ケージの中にいるなど逃げ出すことができないと分かっている状況においては、「じっとして動かなくなる」というのが猫の基本戦略のようです。動物病院の診察台に乗せられた時の様子を思い浮かべればわかりやすいでしょう。
2つの状況における違いとしては、「孤立状況」においてのみ「目を半分閉じる」、「頭を左に向ける」、「目を左に向ける」という項目が見られました。顔や視線が左側に集中する現象は「レフトゲイズバイアス」(left gaze bias)と呼ばれ、恐怖を感じて右脳が活性化しているときに見られると言います。頭を左に向けて目を半分閉じているとき、猫はリラックスしているのではなく、逆に何らかの恐怖心や不安を感じているのかもしれません。
猫がリラックスしている時の代表的な態度は以下です。床に胸をつけて寝そべる「香箱座り」は、やはり安心しているときに出る姿勢のようです。
恐怖を感じている時とは逆に、「孤立状況」においてのみ「頭を右に向ける」、「目を右に向ける」という「ライトゲイズバイアス」(right gaze bias)が見られました。窓の位置や体勢によって容易に変動するとは思いますが、猫が寝そべっている時、首がどちらに傾いているかをこっそりと観察してみると面白いかもしれません。
🚨2020年10月、「猫と仲良くなるにはゆっくりまばたきするのがよい」という情報がネットを中心として流布(るふ)しました。イギリスで行われた調査が風説の出どころですが、実は見知らぬ人間が猫の目を見つめるとネガティブな反応が見られたため、視線をそらせた状態でハーフブリンクするという手法に切り替えられています。ネット情報ではこの大事な一文がすっぽり抜けていますので、くれぐれも猫を凝視して良いと勘違いしないようにして下さい。
調査の具体的な内容は以下で紹介してあります。結論だけ述べると「猫がゆっくりまばたきする理由は争いの回避」です。