下部尿路症候群
下部尿路症候群(LUTD)とは、膀胱から尿道口をつなぐまでのどこかに結石などを生じてしまう病気。猫ではシュウ酸カルシウム結石やストラバイト結石が大半を占めています。診断は尿内の結晶検査やエックス線撮影で下します。治療は結石の除去と食事療法がメインです。
発症リスク
ミネソタ大学の調査チームが1981年から1997年の期間、ミネソタ尿石センターを受診した尿路疾患を抱えた猫(シュウ酸カルシウム結石7,895頭+ストラバイト結石7,334頭)と北米とカナダの動物病院を受診した尿路疾患を抱えていない猫150,482頭のデータを比較したところ、ブリティッシュショートヘアがシュウ酸カルシウム結石を発症する確率は標準の13倍、ストラバイト結石を発症する確率は2.9倍に達することが明らかになったといいます(→出典)。
難産
難産とは出産に際して胎子をスムーズに体外に分娩することができない状態のこと。胎子が大きすぎて母猫の産道を通過できない場合は、帝王切開が行われることもあります。
発症リスク
スウェーデン農科学大学の調査チームが1999年から2006年までの期間、国内のペット保険会社に寄せられた「難産」に対する払い戻し請求を基にして、品種ごとの発生率を調査したところ、猫全体における発生率は1万頭につき22件(0.22%)、純血種では67件(0.67%)、雑種では7件(0.07%)という結果が出たと言います。さらにこの発生率を品種ごとに調べたところ、ブリティッシュショートヘアでは標準の2.5倍も難産に陥りやすいことが明らかになりました。
白猫関連の聴覚障害
白猫関連の聴覚障害とは、被毛が白い猫で片方~両方の耳が聞こえなくなるという現象。発症メカニズムは、メラニン細胞の働きを抑制する「W」と呼ばれる遺伝子が、耳の中にある蝸牛と呼ばれる器官内部の血管線条に作用→音の認識に必要な繊毛が栄養不足で劣化・脱落→音を電気信号に変換できなくなる→耳が聞こえなくなるというものです。「W」遺伝子は耳のほか被毛や目(虹彩)のメラニン細胞も抑制しますので、色素が生成されず全身が真っ白になったり目がブルーになったりします。
発症率
2009年に行われた調査では、白い被毛を持つ84頭の猫に対して聴覚テストが行われました(→出典)。その結果、20.2%に相当する17頭で片側~両側の聴覚障害が確認されたといいます。そしてブリティッシュショートヘアでは、31頭のうち片方の聴覚障害が4頭、両方の聴覚障害が1頭という高い割合で含まれていたとのこと。
ブリティッシュショートヘアの中には、優性遺伝子「W」による美しい白い被毛を特徴とするものがいますが、白猫関連の聴覚障害を発症する確率が高いと考えられますので要注意です。
ブリティッシュショートヘアの中には、優性遺伝子「W」による美しい白い被毛を特徴とするものがいますが、白猫関連の聴覚障害を発症する確率が高いと考えられますので要注意です。
肥満
肥満とは脂肪細胞に過剰な脂肪が蓄積されている状態のこと。いわゆる「デブ猫」。診断は体型を目視チェックで評価するBCS(ボディコンディションスコア)や体重測定で下します。治療法はダイエットです。
BCS
2014年、オランダ・ユトレヒト大学獣医学部は2つのキャットショーに参加していた22品種・268頭の猫を対象とし、体型(BCS)を9段階で評価していきました(→出典)。その結果、体重過多の目安であるBCS7以上が4.5%で見られ、特に不妊手術を受けた猫で数値が高くなる傾向にあったといいます。さらに品種別で体型を評価していった所、全体平均が5.55だったのに対し、ブリティッシュショートヘア37頭の平均が5.92±0.95と標準以上の値を示したといいます。
肥大型心筋症
肥大型心筋症とは、心臓の壁が厚くなりすぎて収縮に支障が生じ、血液をしっかり全身に送れなくなる病気。診断は胸部エックス線や心エコー検査、心電図検査などを通じて下します。治療は心臓の収縮力を高めるための投薬、およびストレス管理がメインです。
有病率と発症リスク
2011年、デンマークにあるコペンハーゲン大学の調査チームは、国内に暮らすブリティッシュショートヘア329頭(メス214頭)を対象とし、心筋症のサブタイプである肥大型心筋症の有病率を調査しました(→出典)。その結果、「疑いあり」が4.3%(14頭)、「肥大型心筋症」の確定診断が8.5%(28頭)という割合で確認されたといいます。診断時の年齢中央値は2.7歳で、統計的にはオス猫のほうが7.89倍も発症しやすい傾向が明らかになりました。
新生子溶血
新生子溶血とは、B型の母猫がA型の子猫に対して初乳を与えたとき、拒絶反応が起こって赤血球が破壊されてしまう現象のこと。最悪のケースでは死亡してしまいます。
B型の割合
1999年、スコットランドのエジンバラ大学やグラスゴー大学からなるチームは、英国内から集められた純血種207頭、非純血種139頭の血液サンプルを対象とし血液型の割合を調査しました(→出典)。その結果、非純血種におけるB型の割合が7.9%だったのに対し、純血種では40.1%と異常に高い割合を示したといいます。純血種の中にはブリティッシュショートヘアが121頭も含まれていたため、この品種に限定して血液型の割合を出してみた所、A型39.7%、B型58.7%、AB型1.6%と、B型が過半数に達していることが判明しました。また1991年に米国で行われた調査でも、ブリティッシュショートヘアのB型率が58.8%(50/85頭)と極めて近い値になっています。
もし母猫がB型で、生まれてきた子猫がA型というミスマッチが起こった場合、子猫の赤血球と母乳由来の血漿成分が拒絶反応を起こし、新生子溶血を引き起こしてしまう危険性が大です。繁殖に際しては事前に猫の血液型を調べ、「B型の母猫をそもそも繁殖に使わない」、「B型の父猫とだけ繁殖させる」等の配慮が必要となります。
もし母猫がB型で、生まれてきた子猫がA型というミスマッチが起こった場合、子猫の赤血球と母乳由来の血漿成分が拒絶反応を起こし、新生子溶血を引き起こしてしまう危険性が大です。繁殖に際しては事前に猫の血液型を調べ、「B型の母猫をそもそも繁殖に使わない」、「B型の父猫とだけ繁殖させる」等の配慮が必要となります。
猫伝染性腹膜炎(FIP)
猫伝染性腹膜炎(FIP)とは、猫腸コロナウイルスが突然変異を起こして強い病原性を獲得し、腹膜炎を特徴とする激しい症状を引き起こす致死性の高い病気。今現在、病原性の低い「猫腸コロナウイルス」(FECV)と致死性の高い「猫伝染性腹膜炎ウイルス」(FIPV)を事前に見分ける有効な方法は存在していません。ひとたび発症してしまうと効果的な治療法がなく、二次感染を防ぐための抗生物質の投与、免疫力を高めるためのネコインターフェロンの投与、炎症を抑えるための抗炎症薬の投与などで様子を見るというのが基本方針です。
発症リスク
レーベル先天黒内障
レーベル先天黒内障とは、眼球に外見的な異常はないのに生まれつき目が見えない眼科系疾患。診断は眼底検査や視力の電気的検査(網膜電図)を通して下します。根本的な治療法はありませんので、猫も飼い主も視力障害と付き合いながら暮らしていくことになります。
疾患遺伝子保有率
2016年、猫の遺伝子を全て解析するプロジェクト「99 Lives Cat Genome Sequencing Initiative」は、3頭の猫を対象とした全ゲノムシーケンス(WGS)を行い、ペルシャでたびたび報告されているレーベル先天黒内障という眼科系疾患の原因遺伝子特定を試みました(→出典)。その結果、「AIPL1」と呼ばれる遺伝子の変異(c.577C>T)が疾患の発症に関わっている可能性が浮上してきたといいます。その後さらに40品種に属する1,700頭の猫を対象として「AIPL1」の変異を調査してみた所、ペルシャの血統が混じった品種でのみ確認され、その保有率は1.15 %であることが明らかになったとのこと。調査チームは具体的な品種名としてペルシャのほか、ブリティッシュショートヘア、スコティッシュフォールド、セルカークレックス、エキゾチックショートヘア、ヒマラヤンを挙げています。
脊柱管狭窄症
脊柱菅とは脊髄と呼ばれる神経線維の束を保護している背骨の中の管状構造のこと。脊柱菅狭窄症ではこの管が狭くなり、本来は脊髄を守るはずの管が逆に脊髄を圧迫して痛みや運動障害といった進行性のミエロパチー(脊髄症)を発症します。保存療法のほか片側椎弓切除といった除圧のための外科手術がありますが、治療成績は必ずしも良いものではありません。
発症リスク
2010年1月から2018年9月の期間、イギリスにあるロンドン大学、王立獣医大学、民間の二次診療施設を受診した猫たちの医療記録を回顧的に参照し、胸椎脊柱管狭窄症の症例だけをピックアップしました(→出典)。その結果9頭の症例が見つかったと言います。疫学的な検証を行ったところ、9頭中3頭までがブリティッシュショートヘアで占められており、明らかに多いことが明らかになりました。また8頭が去勢済みのオス猫でこちらも統計的に有意なレベルで多いと判断されました。
さらに年齢や体重が同等の臨床上健康な猫81頭(ブリティッシュショートヘア30頭+普通の短毛種30頭+ベンガル10頭+エキゾチックショートヘア5頭+メインクーン6頭)と患猫たちの脊柱管をCTやMRI画像で比較したところ、健常な猫と比べて脊柱管がすべてのレベルで低いことが判明したといいます。この格差は特に普通の短毛種と狭窄症を発症したブリティッシュショートヘアとの間で大きかったとのこと。例えば以下は、胸椎(T1~13)の椎体中間部における脊柱管の高さを比較したものです。すべてのレベルにおいて患猫の方が低い(=脊柱管の直径が狭い)ことがお分かりいただけるでしょう。 不思議なことに、狭窄症を発症していない臨床上健康なブリティッシュショートヘアと普通の短毛種を比較しても、やはり統計的に有意なレベルで脊柱管が狭かったそうです。
こうしたデータから調査チームは、脊柱管狭窄症はブリティッシュショートヘアにおける品種固有疾患であり、症状は示していなくても潜在的に発症する危険性を抱えているとの結論に至りました。
さらに年齢や体重が同等の臨床上健康な猫81頭(ブリティッシュショートヘア30頭+普通の短毛種30頭+ベンガル10頭+エキゾチックショートヘア5頭+メインクーン6頭)と患猫たちの脊柱管をCTやMRI画像で比較したところ、健常な猫と比べて脊柱管がすべてのレベルで低いことが判明したといいます。この格差は特に普通の短毛種と狭窄症を発症したブリティッシュショートヘアとの間で大きかったとのこと。例えば以下は、胸椎(T1~13)の椎体中間部における脊柱管の高さを比較したものです。すべてのレベルにおいて患猫の方が低い(=脊柱管の直径が狭い)ことがお分かりいただけるでしょう。 不思議なことに、狭窄症を発症していない臨床上健康なブリティッシュショートヘアと普通の短毛種を比較しても、やはり統計的に有意なレベルで脊柱管が狭かったそうです。
こうしたデータから調査チームは、脊柱管狭窄症はブリティッシュショートヘアにおける品種固有疾患であり、症状は示していなくても潜在的に発症する危険性を抱えているとの結論に至りました。