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猫の毛球症対策フードとサプリメント完全ガイド

 飲み込んだ毛が胃や腸の中にたまる猫の毛球症(ヘアボール)。フードやサプリといった形でたくさんの対策グッズが売られていますが、いったいどの成分がどのような効果を発揮するのでしょうか?また安全性や危険性に関する検証は十分なのでしょうか?最新の科学的なデータと共に詳しく解説します。

猫の毛球症対策フード

 猫の毛球症とは、グルーミングで飲み込んだ毛が胃袋や腸管内にとどまり、食餌や水を受け付けなくなってしまう病気。「ヘアボール」(毛玉)とも呼ばれます。よく知らない方は取り急ぎ以下のページをご覧ください。 猫の毛球症 猫は唾を吐けないので口内の毛は飲み込むしかない  日本国内では上記「毛球症」を予防するためのフードがたくさん市販されています。全ての商品に共通しているコンセプトは、フードに含まれる食物繊維によって消化管の蠕動(ぜんどう)運動を刺激し、毛玉が形成される前に糞便として排出してしまうというものです。以下では代表的な商品をご紹介しますが、残念ながら「ヘアボールを吐き戻す回数が減った」とか「糞便中に含まれる毛の量が増えた」という実証データを公開しているメーカーは1つもありません。なお食物繊維以外の成分については「キャットフード成分・大辞典」の方で詳しく解説してあります。

ロイヤルカナンFCNヘアボールケア

 ロイヤルカナン(Royal Canin)から発売されている毛球症対策用フード。オオバコ(サイリウム)を主体とする食物繊維が15.2%の割合で含まれています。ヘアボールケアだけを14日間使い続けることにより、糞便中に自然に排出された毛の量が約2倍になったと主張していますが、具体的な給餌試験のデザインは公開されていません。

サイエンス・ダイエットPROプロ毛玉

 ヒルズ(Hill’s)から発売されている毛球症対策用フード。食物繊維としてはセルロースビートパルプが用いられています。食物繊維の適切な配合が健康的な便通を助け、毛玉の軽減をサポートすることが証明されていますと主張しているものの、具体的な実証データは公開されていません。

ニュートロナチュラルチョイス毛玉トータルケア

 マースジャパンから発売されている毛球症対策用フード。食物繊維としてはオーツ麦(オオムギ)とオオバコ種皮(サイリウム)が用いられています。

アイムス成猫用毛玉ケア

 マースジャパンから発売されている毛球症対策用フード。食物繊維としてはビートパルプサイリウム、スリッパリーエルム(北米ニレ)が用いられています。

カルカンドライ成猫用毛玉ケア

 マースジャパンから発売されている毛球症対策用フード。食物繊維としてはビートパルプなどが用いられています。

ねこ元気毛玉ケア

 ユニ・チャームから発売されている毛球症対策用フード。食物繊維としてはセルロースパウダーが用いられています。

銀のスプーン三ツ星グルメ毛玉ケア

 ユニ・チャームから発売されている毛球症対策用フード。食物繊維としてはセルロースパウダーが用いられています。

メディファス室内猫毛玉ケアプラス

 ペットラインから発売されている毛球症対策用フード。食物繊維としてはセルロース(13.5%)が用いられています。

コンボキャット毛玉対応

 日本ペットフードから発売されている毛球症対策用フード。食物繊維としては酵母細胞壁が用いられています。

ウィルダネス室内飼い毛玉ケア

 ブルーバッファローから発売されている毛球症対策用フード。食物繊維としてはセルロースパウダーとオオバコ種皮(サイリウム)が用いられています。
毛球症対策フードの特徴は、消化管に働きかけて蠕動運動を促すという点。それに対しサプリメントの特徴は、形成されたヘアボールに直接働きかけるという点です。
NEXT:毛球症対策サプリの成分

猫の毛球症対策サプリメント

 毛球症対策サプリメントとは、胃の中に溜まった毛がスムーズに腸管内に移動するよう補助したり、形成されてしまったヘアボールを分解することを目的として与えられるサポート成分のことです。日本国内で市販されている毛球症サプリメントの主な含有成分を、安全性や危険性に関する情報と共にご紹介します。なお民間療法的に用いられる「オリーブオイル」に関しては効果が確認されていませんし、製品にも含まれていませんので省略します。

流動パラフィン

 パラフィン(paraffin)とは炭化水素化合物の一種。常温で半透明~白色の軟らかい固体を形成するものは「固形パラフィン」、常温で無色透明の液体を形成するものは「流動パラフィン」と呼ばれます。流動パラフィンを猫の毛球症サプリメントに入れる目的は、胃の中の毛をスムーズに腸管内を移動し、糞便として排出されやすくすることです。形成されたヘアボールを分解することではありません。 固形パラフィンと流動パラフィン  日本では厚生労働省によって既存添加物の「製造用剤」として認可されています。定義は「石油から得た炭化水素類の混合物」です。使用目的は「パン生地を分割するときや焙焼(ばいしょう)するとき、型からパンを分離させやすくするため」に限定されており、また「パンに0.1%以上残存しない」という使用基準も定められています出典資料:環境衛生局
 海外では2009年、EFSA(欧州食品安全機関)が高粘度白色ミネラルオイル(HVMO)の安全性に関する見直しを行い、一日摂取許容量(ADI)を体重1kg当たり1日12mgと定めました。一方、JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)で使用基準は規定されていません。
 以下は日本国内で市販されている「流動パラフィン」を含んだ毛玉対策サプリメントの一覧です。「人間向けADI比」とは、人間に設定されている摂取上限値(体重1kg当たり1日12mg)を基準とした時、体重4kgの猫の摂取量がどの程度になるのかを示しています。どの商品をとっても人間の2~50倍という極めて高濃度の流動パラフィンを猫に摂取させているようです。安全性の根拠が示されていませんが大丈夫なのでしょうか?
流動パラフィン含有の毛球症対策サプリメント
  • 毛玉とりペースト✓発売元=大阪製薬
    ✓流動パラフィン含有率=33%
    ✓用量・用法=毎日1.3g
    ✓猫の1日摂取量=430mg
    ✓人間向けADI比=9.2倍
  • スッキリン✓発売元=現代製薬株式会社
    ✓流動パラフィン含有率=44%
    ✓用量・用法=毎日1g
    ✓猫の1日摂取量=440mg
    ✓人間向けADI比=9.2倍
    ※予防目的の場合は1週間に1~2回
  • ヘアボールバスター✓発売元=現代製薬
    ✓流動パラフィン含有率=44%
    ✓用量・用法=毎日1g
    ✓猫の1日摂取量=440mg
    ✓人間向けADI比=9.2倍
  • ラキサトーン✓発売元=フジタ製薬
    ✓流動パラフィン含有率=3.4%
    ✓用量・用法=毎日3~5g
    ✓猫の1日摂取量=100~170mg
    ✓人間向けADI比=2.1~3.6倍
    ※ワセリン21.4%含有
  • ラキサプラスゲル✓発売元=ビルバックジャパン
    ✓パラフィンの含有率=58%
    ✓用量・用法=体重1kg当たり1g
    ✓猫の1日摂取量=2,320mg
    ✓人間向けADI比=48.3倍
    ※パラフィンは流動52%+固形6%、予防目的の場合は週に2~3回

パパイン・パパイヤ抽出物

 パパイン(papain)はタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の一種。未成熟のパパイアから分離されたことから命名されました。商品ラベルには多くの場合「パパイヤ抽出物」と記載されています。
 名前が示すとおりタンパク質を分解する作用を有しており、肉を柔らかくするときやビールの清澄剤などに用いられます。またコンタクトレンズ表面のタンパク汚れ除去や、脱毛用品にも用いられます。これは皮膚の角質層にあるコラーゲンの結合を加水分解する作用を有しているからです。 パパイヤの果実と中に含まれるタンパク質分解酵素パパインの分子構造図  日本では厚生労働省によって既存添加物の「酵素」として認可されています。定義は「パパイヤ(Carica papaya Linne)の果実より得られた、たん白質分解酵素で乳糖又はデキストリンを含むことがある」で、使用基準は特に設定されていません。
 海外ではJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)でもEFSA(欧州食品安全機関)でも一日摂取許容量(ADI)や使用基準は設定されておらず、国際がん研究機関(IARC)によって発がん性も確認されていません。ただしパイナップルに含まれる「ブロメライン」と呼ばれる酵素との間でアレルギーの交差反応を起こすことがあります。
 胃酸に含まれるペプシンやパパインでケラチンは分解できないとされていますので(Novone, 2018)パパインの目的はあくまでも形成されたヘアボールに含まれる毛髪以外のタンパク質を分解することです。細切れになれば胃から腸内に移動しやすくなり、糞便として排出されやすくなります。

ブロメライン・パイナップル抽出物

 ブロメライン(bromelain)は生のパイナップルの果実に含まれているタンパク質分解酵素の一種。「ブロメリン」とも呼ばれます。 パイナップルの果実と中に含まれるタンパク質分解酵素ブロメラインの分子構造図  日本では厚生労働省によって既存添加物の「酵素」として認可されています。定義は「パイナップル(Ananas comosus Merrill)の果実又は根茎より得られた、たん白質分解酵素で乳糖又はデキストリンを含むことがある」で使用基準は特に設定されていません。
 海外ではJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)でもEFSA(欧州食品安全機関)でも一日摂取許容量(ADI)や使用基準は設定されておらず、国際がん研究機関(IARC)によって発がん性も確認されていません。ただしパパイヤに含まれる「パパイン」と呼ばれる酵素との間でアレルギーの交差反応を起こすことがあります。
 パパイヤに含まれるパパインとは違い、パイナップルに含まれるブロメラインは粘膜や食餌由来のタンパク質のほか、被毛に含まれるケラチンも多少分解できるとされています。2004年に行われた実験では、さまざまなpHでブロメラインのタンパク質分解能力を調べた所、pH2.5のときが26%、pH7のときが37%だったといいます(Shields, 2004)。猫の胃におけるpHは1~4(平均2.5)、腸におけるpHは5.7~6.4と推定されていますので、ブロメラインは胃の消化管の中で10~50%のタンパク質を分解できると推計されています。なおヘアボールに含まれる毛は42%、残り58%は粘膜や食餌由来のタンパク質などでした。
猫の毛球症は飼い主のブラッシングでも予防することができます。詳しくは「毛球症」をご参照ください。