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酵母(イースト)~安全性と危険性から適正量まで

 キャットフードのラベルに記された「酵母」(イースト)。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも猫に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、猫の健康にどのような作用があるのでしょうか?

酵母の成分

 酵母(yeast)はビールづくりの過程で麦汁の栄養を吸収して発酵を行う微生物の一種です。キャットフードのラベルでは酵母エキス、ビール酵母、醸造用乾燥酵母、酵母細胞壁、イーストなどとも表現されます。 キャットフードの成分として用いられる「酵母」  酵母の細胞壁は乾燥重量中26~32%を占めており、ベータグルカンやマンナンオリゴ糖といった多糖類を30~60%、タンパク質を15~30%、脂質やキチンを5~20%含んでいます。またタンパク質の多くはマンナンオリゴ糖と結合しマンノプロテイン複合体を形成しています。
 日本では「酵母細胞壁」(Yeast cell wall)が厚生労働省によって既存添加物の「増粘安定剤」や「製造用剤」として認可されています。定義は「サッカロミセス属菌(Saccharomyces cerevisiae)の細胞壁から得られた多糖類を主成分とするもの」です。使用基準は特に定められていません。

酵母は安全?危険?

 酵母を猫に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?以下でご紹介するのは酵母に関して報告されている安全性もしくは危険性に関する情報です。

人に対する効果

 人間においては主として糖尿病患者の血糖値をコントロールする目的で摂取されます。
 例えば2型糖尿病患者にビール酵母を与えた無作為化比較試験10報をメタ分析したところ、空腹時血糖値の低下と関連が認められたと報告されています出典資料:He J, 2017。同様に無作為化比較試験4報をメタ分析したところ、2型糖尿病患者がビール酵母を摂取することにより空腹時血糖値が低下する報告されています出典資料:Yin RV, 2015
 一方、ベータグルカンが持っているとされる免疫力増強作用に関してはしっかりとした調査が行われていません。ビール酵母から抽出されたグルカンの安全性(毒性)は、ラットを用いた急性毒性試験で半数致死量(LD50)が体重1kg当たり2,000mg超、90日間の亜急性毒性試験で無毒性量が体重1kg当たり1日1,000mgとされています。今のところ遺伝毒性は認められていません出典資料:食品安全委員会

猫に対する効果

 酵母に含まれる主な成分はβグルカンとマンナンオリゴ糖で、キャットフードには主として食物繊維源として混ぜられます。目的は腸内における消化性を改善することです。
 ブラジル・サンパウロ大学の調査チームは臨床上健康な猫27頭(平均4.19kg/9.44歳)をランダムで3つのグループに分け、「何も含んでいない基準フード」「イースト0.3%と活性代謝物を含んだフード」「イースト0.6%と活性代謝物を含んだフード」のいずれかを給餌しました。ここでいうイーストとは「Original XPC」という商標名で販売されているパン酵母(Saccharomyces cerevisiae)のことです。
 3週間かけて猫たちをフードに慣らせた後、4週目の終わりで消化性と便スコア、5週目の終わりで便細菌叢と発酵性、6週目で血液採取と免疫学的パラメーターの検証を行ったところ、イーストを含んだ群では摂食量、便の量、便スコアはそのままで粗繊維と灰分の見かけの消化性が向上したといいます。発酵性に関しては、イースト0.3%群でのみ乳酸濃度の増加とイソ吉草酸濃度の低下が確認されたとも。便細菌叢に関しては濃度にかかわらずイースト群で「Clostridium perfringens」の減少が見られたそうです。一方、免疫パラメーターに明白な変化が見られなかったことから、健康増進に寄与しているのかどうかまではわかっていません出典資料:Matheus, 2021
 上記した調査以外、猫を対象としてβグルカンやマンナンオリゴ糖を給餌した試験はほとんど見つかりません。ですから現時点では猫における酵母の安全性、危険性、および適正量に関してはよくわかっていないというのが現状です。パッケージラベルに「酵母」と記載されているキャットフードはたくさんありますが、実は人間や犬において示されている「何となくおなかに良いらしい」というイメージだけで加えられているものと推測されます。
キャットフードのラベルでは「Bio-Mos®」と記載されているかもしれません。これは「Alltech」というアメリカの会社が出芽酵母を原料として生成したマンナンオリゴ糖のことです。猫を対象とした給餌試験結果は公開されていません。