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人獣共通感染症とは何か?~人から動物へ移る病気と移らない病気

 人獣共通感染症(じんじゅうきょうつうかんせんしょう)とは、ヒトとそれ以外の脊椎動物の両方に感染、または寄生する病原体により生じる感染症のことで、平たく言うと「ペットから人、人からペットへとうつる危険性のある感染症」のことです。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

主な人獣共通感染症

 人獣共通感染症は極めたたくさんありますが、以下では聞きなじみのある代表的な感染症を列挙していきます。 感染症情報センター
人獣共通感染症(病原体別)

感染様式による分類

 人獣共通感染症を分類する際は、病原菌を基にしたもののほか、感染経路や様式を基にしたものもあります。以下はその一例です。
人獣共通感染症(感染様式別)
  • ダイレクトズーノーシス 「ダイレクトズーノーシス」(direct zoonosis)とは、同種の脊椎動物間で伝播が成立し、感染動物から直接あるいは媒介動物を介して機械的に感染するタイプです。動物からヒトへと伝播する「Zooanthroponoses」、ヒトから動物へと伝播する「Anthropozoonoses」、ヒトと動物の双方に伝播する「Amphixenoses」などに細分されます。
     具体例としては狂犬病結核ブルセラ症サルモネラ菌、炭疽、オウム病、腎症候性出血熱、細菌性赤痢、アメーバ赤痢、旋毛虫(トリヒナ)症、カンジダ症、ブドウ球菌症などが挙げられます。
  • サイクロズーノーシス 「サイクロズーノーシス」(cyclo-zoonosis)とは、病原体が感染するために、複数の脊椎動物を必要とするタイプで、この型には寄生虫が多く含まれます。
     具体例としてはアニサキス症、包虫(エキノコックス)症、有鉤条虫症、無鉤条虫症などが挙げられます。
  • メタズーノーシス 「メタズーノーシス」(meta-zoonosis)とは、脊椎動物(背骨を持つ)と無脊椎動物の間で感染が成立するタイプです。
     具体例としてはアルボウイルス感染症、発疹熱、日本住血吸虫症、肝吸虫症、リーシュマニア症などが挙げられます。
  • サプロズーノーシス サプロズーノーシス(sapro-zoonosis)とは、病原体が発育・増殖する場として、有機物・植物・土壌などの動物以外の環境を必要とするタイプです。
     具体例としてはクリプトコッカス症、トキソカラ症、アスペルギルス症、ボツリヌス症、ウェルシュ菌食中毒、などが挙げられます。
  • 混合型 上記4型が組み合わされたタイプです。
     具体例としては肝蛭症、ダニ麻痺症などが挙げられます。

人獣「非」共通感染症

 以下は、人から人へは移るものの、人から犬猫へ感染することはない伝染病のリストです。ですから仮に家庭内に感染者がいても、その病気がペットに移ることはありません。なお、国立感染症研究所では、「流行性耳下腺炎」(おたふくかぜ)を人から動物に移らない病気としてカウントしていますが、ごくまれに犬に感染することがありますので、当リストからは除外してあります。
人獣「非」共通感染症
  • インフルエンザ病原体はA、B、C型のインフルエンザウイルスで、頭痛、発熱、悪寒、筋肉痛といった症状を引き起こします。流行時期は12月~翌年3月ごろで、患者の鼻腔、咽頭、気道粘膜の分泌物から感染が広がります。
  • 百日咳病原体はグラム陰性桿菌の百日咳菌で、痙攣性の激しい咳といった症状を引き起こします。流行時期は春から夏で、患者の飛まつ物から感染が広がります。
  • 麻疹(はしか)病原体は麻疹ウイルスで、高熱、発疹といった症状を引き起こします。流行時期は一年中で、患者の飛まつ物から感染が広がります。
  • 風疹(三日ばしか)病原体は風疹ウイルスで、発熱、発疹といった症状を引き起こします。流行時期は秋~春で、患者の飛まつ物から感染が広がります。
  • 水痘(水ぼうそう)病原体は水痘・帯状庖疹ウイルスで、発熱、倦怠感、発疹といった症状を引き起こします。流行時期は12~翌7月で、患者の飛まつ物から感染が広がります。
  • 咽頭結膜熱(プール熱)主な病原体はアデノウイルスで、高熱、のどの腫れ、結膜炎といった症状を引き起こします。流行時期は夏で、患者の飛まつ物やプールの水から感染が広がります。
  • 流行性結膜炎(はやり目)主な病原体はアデノウイルス8型で、結膜炎や角膜炎といった症状を引き起こします。流行時期は夏で、プールの水、患者の手指、タオルなどを介した接触で感染が広がります。
  • 急性出血性結膜炎病原体はエンテロウイルス70型やコクサッキーA24変異株で、頭痛、発熱結膜炎といった症状を引き起こします。接触感染で広がります。
  • 手足口病主な病原体はコクサッキーウイルスA16型とエンテロウイルス71型で、発熱、のどの痛み、手・足・ひざ裏の水疱といった症状を引き起こします。流行時期は7月頃で、患者の飛まつ物や経口感染で広がります。
  • 伝染性紅斑(りんご病)病原体はヒトパルボウイルスB19で、発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、両頬の発疹といった症状を引き起こします。患者の飛まつ物から感染が広がります。
  • ヘルパンギーナ病原体はコクサッキーA群ウイルスで、発熱や口の中の水疱といった症状を引き起こします。流行時期は夏で、患者の飛まつ物から感染が広がります。
  • アタマジラミ病原体はアタマジラミやコロモジラミで、頭のかゆみといった症状を引き起こします。流行時期は一年中で、直接接触で広がります。
  • 伝染性軟属腫(水いぼ)病原体は伝染性軟疣腫ウイルスで、複数個所に数mmのイボが多発します。接触感染で広がります。

基本的な予防法

 人獣共通感染症にはさまざまな種類があり、広がり方もまちまちです。しかし病原体の種類に関わらず、ペットを飼っている人全員に実践してほしい「ゴールドスタンダード」(至適基準)というものが存在します。具体的には以下です。 The Ohio State University
人獣共通感染症・基本予防法
  • 水槽やケージを掃除する時や糞の始末をするときは手袋をはめる
  • ペットを触った後はしっかりと手洗いをする
  • ペットに顔をなめさせない
  • 爬虫類や両生類などサルモネラ菌を保有した生き物は極力素手で触らない
  • ペットのケージ、給餌場、寝床を定期的に消毒する
  • ペットのトイレを調理場から遠ざける
  • 免疫力が回復するまでペットの飼育を保留する
  • ペットを定期的に動物病院へ連れて行く
 この中でも特に重要なのは「手洗い」です。ペットを触った手を洗わずにいると、表面に付着した病原体が口、鼻、目などの粘膜と接触しやすくなってしまいます。粘膜は通常の皮膚よりも防御能が低いため、細菌やウイルスの侵入を完全に食い止めることができません。病原体に対する炎症で発生した結膜浮腫(白目スライム)例えば、猫が舐めた手で目の粘膜をこすると、唾液に含まれる何らかの病原体に対して炎症が起こり、白目がスライムのように腫れ上がってしまいます。こうした「結膜浮腫」を繰り返していると、最悪のケースでは失明してしまう危険性もありますので要注意です。現に、「猫ひっかき病が原因で左目を失明した女性」(→こちら)や、「猫のアレルゲンが緑内障罹患率を90%高める」(→こちら)といった実例もあります。ですから冒頭で述べた通り、「手洗い」だけは特に念入りに行った方がよいでしょう。