サルモネラ菌の病態と症状
サルモネラ菌とは、グラム陰性の腸内細菌科の一属(サルモネラ属)に属する細菌のことです。
主な生息場所は動物の小腸で、腸の細胞から腸間膜リンパ節へと移動し、そこで増殖してエンテロトキシンという毒素をまき散らします。細かいものまで含めると2,000以上の種類がありますが、臨床上問題となるのは、腸チフスあるいはパラチフスと呼ばれる消化器系の不調を引き起こす「チフス性サルモネラ」、および食中毒を引き起こす「食中毒性サルモネラ」です。
サルモネラ菌の症状には以下のようなものがあります。
サルモネラ菌の症状には以下のようなものがあります。
サルモネラ菌の主症状
- 食中毒性サルモネラ菌の主な症状 食中毒性サルモネラ菌の主な症状は、腹痛、嘔吐、下痢、粘血便などです。若齢、高齢、免疫力の低下を引き起こす各種の病気にかかっている動物においては、細菌が血液中に拡散する「菌血症」を起こして重症化することもあります。また最も恐ろしいのは、細菌が産生する「エンドドキシン」と呼ばれる毒素によるショック症状です。これは「エンドトキシンショック」とも呼ばれ、最悪のケースでは死亡してしまうこともあります。
- チフス性サルモネラ菌の症状 チフス性サルモネラ菌は人に対して特異的に感染し、他の動物には感染しません。症状は10~14日程度の潜伏期間の後、徐々に体温が上昇し、40℃近くにまで高まります。その後バラ疹や脾腫といった特徴的な症状が現れると同時に、下痢や便秘と言った消化器系の症状も呈するようになります。重症患者においては腸出血や腸穿孔などを起こすこともありますが、90%以上の患者では自然と熱が下がり、ゆるやかに快方へと向かっていきます。
サルモネラ菌の原因
サルモネラ菌の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
サルモネラ菌の主な原因
- 糞便からの感染 サルモネラ菌は、菌を保有した人や動物の糞便の中に含まれているため、汚染された糞便に何らかの形で接することで感染してしまいます。具体的には食糞(主に犬)、糞便によって汚染された動物や水の摂食(野良犬や野良猫)、ペットの糞便を片付ける際の不注意などです(人間)。
- 食品からの感染 サルモネラ菌に汚染された食物を、十分に加熱しないまま食べてしまうことで感染するケースもあります。具体的にはドライフード(犬や猫)、生肉(レース犬やそり犬)、鶏卵や鶏肉(人間)などです。猫における数少ない症例報告では、生の牛肉や鶏肉が感染源として報告されています(→詳細)。
- 爬虫類からの感染 サルモネラ菌はカメ、ヘビ、トカゲといった爬虫類が高率で保菌していることでも知られています。2005年に行われた調査によると、ペット用爬虫類のうちこの菌を保有していた割合は、家庭内飼育で32.2%、ペットショップで80.0%、輸入直後で56.0%だったそうです。こうした爬虫類を触った手を誤ってなめてしまうことで感染することもあります。
- 免疫力の低下 サルモネラ菌を保有していても、何の症状も示さない個体がいる一方、激しい症状を呈して重症化してしまう個体もいます。こうした個体差を生み出している要因の一つが免疫力です。若齢、老齢、妊娠、免疫不全症、免疫抑制剤の投与、ストレスなど、免疫力を低下させる引き金があると、通常であれば抑え込める細菌の増殖を許して発症してしまうことがあります。
サルモネラ菌によるリコール
- 2015年1月「Kangaroo Bites」・「Roo Bites」(Jump Your Bones)
- 2014年12月「Barkworthies Chicken Vittles dog chews」(Barkworthies)
- 2014年9月「Bravo! Turkey and Chicken」(Bravo!)
- 2014年6月「Science Diet® Adult Small & Toy Breed」(Hill’s Pet Nutrition)
- 2014年5月「Lamb Crunchy’s Dog Treats」(Pet Center, Inc)
サルモネラ菌の治療
サルモネラ菌の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
サルモネラ菌の主な治療法
- 除菌 サルモネラ菌の治療は対症療法とニューキノロン系抗菌剤による除菌になりますが、欧米では耐性菌を誘発する腸内細菌叢を乱し、治癒を遅らせるとして、高齢者や小児を除き抗菌剤は投与すべきでないという考えが主流になっています。
- 輸液 激しい下痢によって体液が著しく失われた場合は、輸液によって水分を補います。
- サルモネラ菌の予防策
「食中毒性サルモネラ菌」に関しては、ペットから人への感染のほか、人からペットへの感染も同時に気をつける必要があります。犬や猫の糞便がついたものを手で触らない、もし触ったとしても充分に手洗いすることはもちろんのこと、以下の予防法が有効です。なお手の写真の黒い部分は、洗い残しが発生しやすい場所を示しています。
- 肉・魚などはなるべく生食を避け十分に加熱する
- サラダなどで使う野菜は十分に洗う(洗剤を用いる場合もある)
- まな板・包丁なども常に清潔にしておく(まな板は漂白剤で漂白するのが好ましい)
- ネズミやゴキブリがかじったと思われるような不衛生な物は食べない
- あまり大量に作り置きしない
- 鶏卵は割ったままの状態で置かない。(卵の殻の表面に、ニワトリの糞便が付着している可能性があるため)
- カメ類・爬虫類ペットに触った後は石鹸でよく手を洗う