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生肉を感染源とする猫では珍しいサルモネラ感染症の事例

 生の鶏肉が感染源と考えられる、猫では珍しいサルモネラ菌による中毒症例が報告されました(2017.8.1/イタリア)。

詳細

 サルモネラ感染症は、サルモネラ菌が体内に入って増殖し、内毒素を放出することよって発症する中毒の一種。人間においては8~48時間の潜伏期を経た後、悪心、嘔吐、腹痛、下痢といった症状を引き起こし、体力が弱っている人では死亡することすらあります。 サルモネラ菌の電子顕微鏡画像  一方、犬や猫ではサルモネラ菌に感染しても、ほとんどが症状を示さない不顕性感染で終わります。しかし全く無害というわけではなく、中には人間の中毒と似たような症状を示すものもいます。2014年、サルモネラ菌が原因と考えられる極めて珍しい猫の中毒症例が、イタリアのボローニャ大学によって報告されました。
 2014年1月、8歳になるメスのスフィンクス(避妊手術済/完全室内飼い)が食欲不振、体重減少、嘔吐、下痢といった消化器症状を主訴として来院した。飼い主に聞くと、受診する10日くらい前から元気がないという。糞便検査を行ったところ血便が見られたがジアルジアは陰性だった。病因ははっきりしなかったものの、既往歴などから消化器の感染症を伴う肝障害および腸炎という診断を下し、6日間の入院治療を行った。
 上記した猫の来院から4日後、同じ飼い主が今度は6歳になる別の猫を連れて来院した。腸炎を発症した猫と同居しており、娘に当たるという。症状は食欲不振、3日間続く嘔吐、下痢などだったが、全体的に母猫よりは軽症だった。発症時期が重なっていること、および生活環境を共有していることなどから考え、この2頭はおそらく同じ感染症にかかっていると推測。飼い主に詳しく聞き取り調査を行ったところ、猫の食餌は市販のドライフードとインターネットで購入した生のペット用鶏肉であることが判明した。
 猫の糞便を採取して外注検査機関IDEXXに送り、8つの消化器系病原体をチェックした所、サルモネラが検出された。また猫に与えていた食餌の病原体検査も同時に行った所、ドライフードからは何も検出されなかったのに対し、鶏肉からはサルモネラが検出された。
 上記したような事実から考え、2頭の猫で見られた消化器症状は、生の鶏肉を感染源とする「サルモネラ感染症」だと推測される。
Highly suspected cases of salmonellosis in two cats fed with a commercial raw meat-based diet: health risks to animals and zoonotic implications
Giacometti et al. BMC Veterinary Research (2017) 13:224 DOI 10.1186/s12917-017-1143-z

解説

 猫におけるサルモネラ感染症は極めて珍しく、死亡例にいたっては過去に1件の報告しかありません(→出典)。この報告では「生の牛肉」が感染源と推測されました。今回の症例と併せて考えると「生肉」が危険因子ということになりそうです。
 生肉は猫のみならず、人間に対しても感染源になりえます。例えば猫に手作りフードを与えている時、生の鶏肉を触ってそのままの手洗いを忘れたとしましょう。その手でポテトチップを食べて指先に残ったパウダーを舐めとると、サルモネラ菌も一緒に体内に入り、いとも簡単に感染が成立してしまいます。 人間のサルモネラ感染症の半数以上は汚染食品が原因  ヨーロッパにおけるサルモネラ菌の感染率は「23.4/100,000人」で、そのうちの55%が汚染食品との接触が原因と推定されています。ですから生肉に関しては猫よりもむしろ人間の方が気をつけた方がよいかもしれません。鶏肉をシャリにしたお寿司を猫に与えるという動画が話題になりましたが、この動画中の鶏肉はちゃんと加熱されています。安易に真似して生の鶏肉を与えないようにしましょう。 猫に鶏肉を与えるときはしっかり加熱して  厚生労働省は2013年、「カメ等のハ虫類を原因とするサルモネラ症に係る注意喚起について」という通達を出しました(→出典)。内容は、2011年5月以降、米国由来のカメに触った子どもがサルモネラ菌に集団感染しているので監督者は注意してくださいというものです。カメを始めとする爬虫類やカエルを始めとする両生類はサルモネラ菌の保菌動物として有名で、50~90%という極めて高い確率で保有していることが明らかになっています。 爬虫類や両生類はサルモネラ菌の宝庫  カエルの頭をそっと叩く猫の動画が可愛いと話題になりましたが、猫は犬と違って前腕を回外(親指を外に向け)して指先を舐めることができます。舐めることによって指先に付着したサルモネラ菌を取り込んでしまう危険性がありますので、生肉だけでなくこちらにも注意が必要です。 サルモネラ菌