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結核~症状・原因から治療・予防法まで

 人獣共通感染症の内、結核(けっかく)について病態、症状、原因、治療法別に詳しく解説します。人にも犬猫などのペットにも感染する病気ですので、予備知識として抑えておきましょう。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

結核の病態と症状

 結核とは、ミコバクテリウム属の結核菌(けっかくきん) により引き起こされる感染症です。「ミコバクテリア症」の一種に数えられています。
ヒト型結核菌  結核菌は1882年に細菌学者コッホによって発見されました。かつて日本では国民病と言われるほど猛威をふるいましたが、第二次世界大戦後、結核予防法(昭和26年3月31日法律第96号)が制定され、抗生物質を用いた化学療法が普及するに伴い激減しました。
 結核の主な症状は以下です。感染者の体内における異物を除去しようとする能力、すなわち免疫力の状態によって症状の現れ方も違ってきます。
結核の主症状
  • 免疫力が正常な場合【人】
     吸入された結核菌はリンパ管内のリンパ液や血管内の血液に乗って体中に広がり、細胞内に寄生して潜伏します。しかし菌の増殖を抑えようとする免疫力が正常な場合、通常は何の症状も示しません。
    【犬や猫】
     通常は何の症状も示しません。
  • 免疫力が低下している場合【人】
     異物を除去しようとする免疫力が低下している場合、肺の上部において「肺結核」を発症します。感染者の免疫機能が障害される例としては、 加齢、エイズ(後天性免疫不全症候群, AIDS)、糖尿病、悪性腫瘍、ステロイドや免疫抑制剤といった薬物の使用などが挙げられます。症状は、全身倦怠感、食欲不振、体重減少、長期間に渡る37℃前後の微熱、就寝中に大量の汗をかく等、他の感染症と鑑別診断するのが難しい症状が大半です。咳は痰を伴うこともあるし、伴わないこともあります。痰に肺からの血が混じる「血痰」になることもしばしばです。
    【犬や猫】
     のどや首元のリンパ節腫脹、よだれの増加、発熱、元気がない、食欲不振と体重減少といった漠然とした症状を示します。人間のように肺の症状が出ることはあまりないようです。2017年にイギリスで行われた猫の症例報告(→詳細)では、手足の先端を中心とした骨や軟部組織の病変、病変部付近のリンパ節腫脹、関節の痛みや可動域の制限などが主な臨床症状として挙げられています。

結核の原因

 結核の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
結核の主な原因
  • 空気感染  結核患者からの咳、くしゃみ、唾により感染します。人はもちろんのこと、犬、猫、うさぎなどの小型哺乳類のほか牛などの家畜動物、鹿などの野生動物にも感染します。
  • 経口感染 犬では、感染動物が吐き出したものを口に入れることで感染することもあります。また猫では、子猫が母猫の被毛についた菌をなめとることで感染したり、成猫が小動物を捕食することで感染することがあります。
  • 経皮感染 猫の場合、皮膚の病変(腫瘤)が顔面、会陰部、しっぽ、手の先、足の先など、ネズミを始めとするげっ歯類に噛みつかれやすい部位に多発します(→詳細)。このことから、結核菌を保有したネズミが猫に追いつめられた際、反撃に転じて噛みつき、噛み傷を通して細菌が伝染するものと推測されています。
 結核菌には多くの種類がありますが、その中の一部は人間と動物の両方に感染する能力を持っています。例えば人間の結核症を引き起こす主要菌「Mycobacterium tuberculosis」(ヒト型結核菌)は、人間だけをえり好みして感染するわけではなく、家畜動物、野生動物、愛玩動物にも感染することがあります。また牛の結核症を引き起こす「M.bovis」(ウシ型結核菌)は、牛だけをえり好みして感染するわけではなく、その他の動物や人間にも感染する能力を持っています。現に2013年、イギリスのバークシャー州とハンプシャー州で猫が感染源と考えられる人間のウシ型結核菌感染例が世界で初めて報告されました(→詳細)。このように結核菌は、人間にも動物にも感染する「人獣共通感染症」としての側面を持っているのです。
 現在、牛の結核に関しては、積極的な撲滅計画によってほぼゼロに抑え込まれています。しかし人間の結核に関しては、いまだに年間約2万人の新規感染者を出しているというのが現状です。ですから人間→動物という感染ルートや、人間から結核菌を移された動物→人間という感染ルートの可能性は否定できません。 平成25年結核登録者情報調査年報集計結果

結核の治療

 結核の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
結核の主な治療法
  • 隔離治療  肺結核は、咳やくしゃみを通じての空気感染が起こりうるため、菌を排出する可能性のある結核患者は感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律により結核病棟への入院が義務づけられています。
     かつてはストレプトマイシン単剤の投与が効果的でしたが、現在は耐性獲得(結核菌が薬剤に慣れてしまうこと)の危険があるため単剤での治療は行わず、副作用の危険性を考慮しながら複数の薬を併用するのが主流となっています。
  • 結核の予防  かつて日本ではまずツベルクリン反応検査を行い、陰性反応が出た者のみにBCG接種を行う形をとっていました。しかし2005年4月1日に結核予防法が改定され、ツベルクリン反応検査を行わずに全員にBCG接種を行う形に変更されています。なお、日本では2007年3月31日をもって結核予防法が廃止され、結核については感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律で二類感染症に指定されて同法の適用を受けることとなっています。