猫の「粗相」と「選り好み」問題
猫におけるトイレの問題としてはトイレ外で排泄してしまう「粗相」や、何らかの理由でトイレの使用を忌避する「トイレの選り好み」があります。こうした問題を生み出す要因は一体何なんでしょうか。もしあるとしたら予防することはできるのでしょうか。こうした問いに答えるため、フィンランドにあるヘルシンキ大学のチームが大規模なアンケート調査を行いました。
調査対象と方法
調査対象となったのは2019年3月から2020年9月までの期間、主にSNSを通じてボランティアベースで募った18歳以上の猫の飼い主、および飼い主から得られた合計3,049頭分の猫のデータ(平均6歳 | オス51% | 全体の9割は不妊手術済 | 26品種+普通の短毛種)。
先行調査で因子分析を行った際に用いられた6つの特性(活動性/遊び好き | 怖がり | 人への攻撃性 | 人への社交性 | 猫への社交性 | 過剰な毛づくろい)を当調査内でも転用し、猫で見られるトイレの問題(粗相 | トイレの選り好み)との関連性を統計的に調べました。なおここで言う「粗相」はトイレの外での排泄行為(排尿+排便)やマーキング(スプレー)、「トイレの選り好み」は猫砂の種類、清潔さ、他の猫による使用歴などを理由にトイレの使用を拒絶することを意味しています。
先行調査で因子分析を行った際に用いられた6つの特性(活動性/遊び好き | 怖がり | 人への攻撃性 | 人への社交性 | 猫への社交性 | 過剰な毛づくろい)を当調査内でも転用し、猫で見られるトイレの問題(粗相 | トイレの選り好み)との関連性を統計的に調べました。なおここで言う「粗相」はトイレの外での排泄行為(排尿+排便)やマーキング(スプレー)、「トイレの選り好み」は猫砂の種類、清潔さ、他の猫による使用歴などを理由にトイレの使用を拒絶することを意味しています。
調査結果
統計的な解析の結果、「粗相」および「トイレの選り好み」と以下の項目との間に相関関係が見られたといいます(※因果関係とは限らない)。カッコ内の数字は相対的な変数重要度で、値が大きいほど影響力が強いことを意味しています。
粗相
- 猫への社交性(100):負の関係
- 品種(82):品種差あり(以下グラフ)
- 怖がり(58):正の関係
- 不妊化時の年齢(43):未手術>4ヶ月齢および4ヶ月齢~1歳
- 泌尿器疾患(38):あり>なし
- 性別(15):オス>メス
トイレの選り好み
- 活動性/遊び好き(100):正の関係
- 年齢(83):正の関係
- 怖がり(67):正の関係
- 家庭環境(24):子供のいる家庭>子供のいない家庭
Salla Mikkola, Milla Salonen, Emma Hakanen, Hannes Lohi, Journal of the American Veterinary Medical Association(2023), DOI:10.2460/javma.22.10.0441
猫のトイレ問題予防法
3千を超えるデータから、猫でよく見られるトイレの問題と関連が深い項目がいくつか浮かび上がってきました。関連因子がわかれば予防策も見えてくるはずです。
怖がり
猫の「怖がり」という性格は「粗相(変数重要度58)」と「トイレの選り好み(変数重要度67)」の両方と正の相関を持っていました。要するに怖がりな猫ほどトイレの問題が出やすいということです。
先行調査では「のんびりした性格の猫はマーキングが少ない」とか「シャイで見知らぬ人を怖がる子猫はフレンドリーだった子猫に比べ成猫になった時に粗相をしやすい」などと報告されており、当調査結果と重なる部分があります。
猫が怖がりだとちょっとした刺激がきっかけとなって引きこもりが起こり、トイレの使用を忌避してしまうようになるのかもしれません。ストレス源の一例を挙げると来客、トイレや猫砂の変更、トイレの置き場所の変更、引っ越し、屋外の騒音などです。
先行調査では「のんびりした性格の猫はマーキングが少ない」とか「シャイで見知らぬ人を怖がる子猫はフレンドリーだった子猫に比べ成猫になった時に粗相をしやすい」などと報告されており、当調査結果と重なる部分があります。
猫が怖がりだとちょっとした刺激がきっかけとなって引きこもりが起こり、トイレの使用を忌避してしまうようになるのかもしれません。ストレス源の一例を挙げると来客、トイレや猫砂の変更、トイレの置き場所の変更、引っ越し、屋外の騒音などです。
高齢
猫が高齢になるほどトイレの選り好みが激しくなる傾向が確認されました(変数重要度83)。
長いこと生きているとトイレにおけるネガティブな体験が重なり、ひょんなことからトイレ嫌いになってしまうのかもしれません。例えば用を足している時に「ピンポン」と呼び鈴がなって驚いたとか、排尿痛と特定の猫砂を関連付けて覚えてしまったなどです。こうした経験はトイレそのものに対する嫌悪感につながりますので、選り好みの原因になる可能性は十分にあります。
あるいはもっと単純に、高齢猫では筋骨格系疾患が多くなるため足腰に負担のかかるタイプのトイレを使うのが重労働になり、人の目からは「選り好みしている」と見えてしまうこともあるでしょう。
長いこと生きているとトイレにおけるネガティブな体験が重なり、ひょんなことからトイレ嫌いになってしまうのかもしれません。例えば用を足している時に「ピンポン」と呼び鈴がなって驚いたとか、排尿痛と特定の猫砂を関連付けて覚えてしまったなどです。こうした経験はトイレそのものに対する嫌悪感につながりますので、選り好みの原因になる可能性は十分にあります。
あるいはもっと単純に、高齢猫では筋骨格系疾患が多くなるため足腰に負担のかかるタイプのトイレを使うのが重労働になり、人の目からは「選り好みしている」と見えてしまうこともあるでしょう。
不妊手術
猫が1歳になる前のタイミングで不妊手術を行った場合、1歳を過ぎてから行った場合に比べて「粗相」のリスクが小さいという関係性が確認されました(変数重要度43)。
先行調査では「外猫に対する不妊手術でマーキングが減少した」とか「5.5ヶ月齢前のタイミングでオス猫の去勢を行うとスプレーが減少する」などと報告されています。また「8~12週齢時の手術と6~8ヶ月齢時の手術では粗相の割合に差が見られなかった」との報告もあります。
過去の調査および当調査結果を合わせて考えると、猫が1歳になる前のタイミングで不妊手術を行うと粗相の問題が起こりにくくなるとのアドバイスが成立しそうです。
先行調査では「外猫に対する不妊手術でマーキングが減少した」とか「5.5ヶ月齢前のタイミングでオス猫の去勢を行うとスプレーが減少する」などと報告されています。また「8~12週齢時の手術と6~8ヶ月齢時の手術では粗相の割合に差が見られなかった」との報告もあります。
過去の調査および当調査結果を合わせて考えると、猫が1歳になる前のタイミングで不妊手術を行うと粗相の問題が起こりにくくなるとのアドバイスが成立しそうです。
同居人
家庭内に子供がいる場合、いない場合に比べてトイレの選り好みが起こりやすくなる可能性が判明しました。
子供が猫を追いかけ回したり排泄中にいたずらするのだとすると、子供の存在自体が直接的にストレス源になると考えられます。また子供のいる家庭では何かと忙しくて猫のトイレ掃除がおろそかになり、結果として使用忌避につながるという間接的なパターンもあるでしょう。
実は過去の調査でも家庭内における猫の数ではなく、人間の存在が猫のストレス源になっている可能性が強く示唆されています。
子供が猫を追いかけ回したり排泄中にいたずらするのだとすると、子供の存在自体が直接的にストレス源になると考えられます。また子供のいる家庭では何かと忙しくて猫のトイレ掃除がおろそかになり、結果として使用忌避につながるという間接的なパターンもあるでしょう。
実は過去の調査でも家庭内における猫の数ではなく、人間の存在が猫のストレス源になっている可能性が強く示唆されています。
猫のトイレ問題を予防する
今回の調査では「トイレの大きさ」という重要な項目が変数に入っていないものの、先行調査を追認するような大事な項目が浮かび上がってきました。猫のトイレ問題を予防するためのアドバイスを簡潔にまとめると以下のようになるでしょう。
トイレ問題予防策
- まず泌尿器系の疾患を疑うトイレの問題が突然発生したような場合はまず泌尿器系の疾患を疑うようにします。トイレや猫砂を変えても、膀胱炎の痛みが収まるわけではありません。
- 特定品種ではリスクが高いかも特定の品種においてトイレの問題(粗相)が発生しやすい可能性が示唆されました。具体的にはベンガル、オリエンタル、ノルウェジャンフォレストキャット、ペルシャ、エキゾチックなどです。こうした品種における特徴が性格的な「怖がり」なのか、それとも特定の泌尿器系疾患に対する脆弱性なのかはわかりませんが 、あらかじめ知っておけば参考程度にはなるでしょう。
- 猫を怖がらせない性格的に怖がりな猫で高いリスクが確認されましたが、猫を不安にさせるような何らかの刺激や変化があると、たとえ怖がりでなくてもトイレの問題につながりやすくなると推測されます。
- 老猫にはいたわりを持つ猫が高齢になるとトイレに対するこだわりが強くなり、ちょっとした変化に対して拒絶反応が出てしまう可能性があります。トイレや猫砂を変える必要がある場合は時間をかけて慎重に行いましょう。また足腰が弱っているため、トイレまでのアクセスしやすさには特別な配慮をしてあげましょう。
- 不妊手術は1歳未満で猫に不妊手術を施す場合は、オスでもメスでも1歳未満のタイミングで行う方が良いようです。「不測の妊娠を避ける」という本来の目的以上の効果(病気予防・トイレの問題予防)が期待できるかもしれません。
- 人間がストレス源にならない家庭内における猫の数がトイレの問題と関わっていないことが明らかになった一方、家庭内に子供がいる場合、選り好みのリスクが高まることが判明しました。この事実は「猫のストレス源は、実は人間」である可能性を強く示しています。
猫のトイレの問題に関するより具体的な対策については以下のページをご参照ください。