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猫の腎臓療法食・完全ガイド~栄養成分の効果から与える時の注意点まで

 慢性腎不全と診断された猫の多くがお世話になる腎臓療法食。いったいどのような根拠に基づいて「腎臓に良い」とされているのでしょうか?給餌する際の注意点を含め、科学的な論文とともに詳しく解説します(🔄最終更新日2021年3月)

腎臓療法食の特徴と種類

 猫向けの腎臓療法食とは慢性腎不全の進行を遅らせるために製造された「低リン」と「低タンパク」を特徴とするキャットフードのことです。当ページ内では結石治療に用いられる療法食は含みません。療法食の目的は病気の治癒ではなくあくまでも進行を遅らせることであり、製品によってはナトリウム、抗酸化物質、オメガ3脂肪酸、ビタミンD、食物繊維、カリウムの含有量が調整されていることもあります。
 日本国内で流通している療法食の中には「ユリナリー(ウリナリー)」や「泌尿器ケア」といったタイプもありますが、こちらは主として尿石形成に配慮して栄養バランスを整えたキャットフードです。腎不全に特化した療法食との混同にご注意ください。また市販されているキャットフードの中には、総合栄養食であるにも関わらず「腎臓に配慮」など紛らわしい表記をしているものがあります。多くの場合、含有成分に科学的な根拠がなく、また低リンなど健康を害する危険性すらありますので、給餌する際は腎不全の診断と獣医師による指示を前提としてください。
 日本国内で流通している猫向け腎療法食の種類は以下です(製造元50音順)。
猫向け腎療法食
  • アニモンダ【製品名】インテグラプロテクト腎臓ケア
    【タイプ】ドライ/ウェット
    【原産国】ドイツ
    【特徴】低リン、低タンパク質、グレインフリー
    【公式情報】INTEGRA® PROTECT Nieren
  • MSDアニマルヘルス【製品名】スペシフィック®猫用・腎心肝アシスト
    【タイプ】ドライ/ウェット
    【原産国】ベルギー/デンマーク
    【特徴】低リン、低タンパク質、低ナトリウム
    【公式情報】スペシフィック®
  • サニメド【製品名】猫用リーナル
    【タイプ】ドライ
    【原産国】オランダ
    【特徴】低リン(0.44%)、低タンパク質(20.8%)、低ナトリウム(0.2%)
    【公式情報】SANIMED猫用リーナル
  • ハッピーキャット【製品名】ダイエットニーレ
    【タイプ】ドライ
    【原産国】ドイツ
    【特徴】低リン(0.35%)、低タンパク質(24.0%)、低ナトリウム(0.4%)、低マグネシウム(0.05%)
    【公式情報】ダイエットニーレ
  • ピュリナ【製品名】ベテリナリーダイエットNF腎臓ケア
    【タイプ】ドライ/ウェット
    【原産国】アメリカ
    【特徴】低リン、低タンパク質、抗酸化成分、カリウム
    【公式情報】プロプラン ベテリナリーダイエット
  • ヒルズ【製品名】プリスクリプション・ダイエット猫用k/d
    【タイプ】ドライ/ウェット
    【原産国】オランダ/アメリカ
    【特徴】低リン、低タンパク質(30%未満)、低ナトリウム、オメガ3脂肪酸
    【公式情報】猫の腎臓療法食
  • FORZA10【製品名】FORZA10(フォルツァディエチ)リナールアクティブ
    【タイプ】ドライ
    【原産国】イタリア
    【特徴】低リン(0.8%)、低タンパク質(26.0%)、低ナトリウム(0.24%)
    【公式情報】リナールアクティブ
  • ペットライン【製品名】ドクターズケア猫用キドニーケア
    【タイプ】ドライ
    【原産国】日本
    【特徴】低リン(0.35%)、低タンパク質(24.2%)、低ナトリウム(0.3%)、EPA・DHA、フラクトオリゴ糖
    【公式情報】猫用キドニーケア
  • MONGE(モンジ)【製品名】VetSolution腎臓サポート
    【タイプ】ドライ
    【原産国】イタリア
    【特徴】低リン(0.3%)、低タンパク質(25%)、低ナトリウム(0.09%)、オメガ3脂肪酸、緑茶ポリフェノール(抗酸化物質)
    【公式情報】VetSolution
  • ロイヤルカナン【製品名】腎臓サポート・猫用
    【タイプ】ドライ/ウェット
    【原産国】フランス
    【特徴】低リン、低タンパク質、低ナトリウム
    【公式情報】猫用療法食一覧
NEXT:給餌する際の注意

腎臓療法食の注意点

 猫向けの腎臓療法食は慢性腎不全を発症した猫たちを想定して製造されているキャットフードです。市販されているおやつや総合栄養食とは違いますので、健康な猫に与えても何の効果もありませんし、場合によっては有害ですらあります。以下は腎臓療法食を給餌する際の注意点です。

原則として動物病院が指示

 腎臓療法食は動物医薬品や医薬部外品というわけではありませんが、栄養成分が特殊なため慢性腎不全と診断を受けた猫以外に与えてはいけません。原則として動物病院の指示に従って給餌計画を立てます。なお医薬品との混同を避けるため、療法食には「処方」という言葉の代わりに「指示」や「指導」という言葉が用いられます。

歯や胃腸をチェック

 猫に食欲があっても、歯が悪かったりおなかの調子が悪かったりするとせっかく用意した療法食を食べてくれません。給餌する前の段階で口腔内と消化管のチェックを行い、摂食の邪魔をする要素を排除しておきます。イギリス・ブリストル大学が行った調査でも、中等度の歯牙疾患を抱えている場合、慢性腎不全を発症するハザード比が13.8倍、重度の歯牙疾患を抱えている場合のそれが35.4倍に跳ね上がると報告されています出典資料:Finch, 2016)。歯が悪いために療法食を食べきれず、症状が悪化したという可能性が見て取れます。

変更には時間をかけて

 今まで与えていた通常のキャットフードを急に療法食に変えてしまうと、猫がびっくりして拒否してしまうかもしれません。また仮に食べてくれたとしても、成分組成が大きく変わったために胃腸がついていけず、吐き戻してしまうかもしれません。いずれにしても忌避の原因になってしまいますので、療法食を導入するときは食事量の10%くらいから始めて4~8週間かけて緩やかに切り替えるようにします。
 なお動物病院で療法食を与えると、場所や体調不良に対する嫌悪感とフードを結びつけてしまう危険性がありますので、与える際は退院して病状が落ち着いた自宅内に限定してください。同じ理由により、薬と療法食は一緒に与えないよう注意します。

時間や場所を決めて給餌

 多頭飼育で餌を出しっぱなしにしていると、どの猫がどのフードをどのくらい食べたのかがさっぱりわかりませんので、給餌時間や給餌場所を決めて与える必要があります。

食事量をしっかり把握

 腎臓療法食を与えても、猫が食欲不振で十分な量を食べないことがあります。また仮に食べてくれたとしても、その後に吐き戻してしてしまうこともあります。ですから飼い主はただ単にフードを出して終わりではなく、計量器でグラム単位の食事管理をすると同時に、猫の食べっぷりをしっかり観察して摂食量を記録しておくことが必要です。

摂食量の維持

 猫が療法食を食べてくれなかったりすぐに吐き戻してしまう場合は、「食欲低下の原因と対策」を参考にしながら摂食量を増やすような工夫を色々してみます。また医学的なエビデンスは弱いものの、獣医師が処方した食欲増進剤や制吐剤と併せて給餌することも考慮します。この際、決して自己判断だけで人間用の薬剤を投与しないでください。

新鮮な水は常に用意

 慢性腎不全の猫では水を飲む量が増えますが、それに併せて尿の排出量も増えますので、総合的には脱水状態に陥りやすくなります。脱水状態は腎臓における還流量と酸素の供給量を減少させ、ネフロンの機能を障害して慢性腎不全を促進する可能性がありますので、療法食とともに常に新鮮な水を用意しておくことは必須です。おしっこが多いことを心配して飲み水の量を減らす人がたまにいますが、食欲不振と病気を悪化させるだけですのでご注意ください。

手作り食は危険

 療法食を飼い主自らが作って猫に与える場合、原材料がはっきりしていて安心できるというメリットがあります。その反面、栄養バランスが乱れて猫の健康を逆に悪化させてしまう危険性もはらんでいるので注意が必要です。
 例えばカリフォルニア大学デイヴィス校の調査チームが慢性腎不全を患う猫向きに推奨されている手作りレシピ28種類を再現して含まれる栄養成分を検証した結果、栄養所要量を完璧に満たしたレシピは一つもなかったといいます。粗タンパクの濃度もしくは少なくとも1種類のアミノ酸が所要量を下回っていた割合が42.9%(12/28)だったほか、塩素は82.1%、セレンは32.1 %、カルシウムは25.0%の割合で基準値以下だったとも出典資料:Larsen, 2012)
 食事内容は生存期間と密接に関わっています。中途半端な知識で手作りフードを与えるくらいなら、市販されている療法食を給餌した方がはるかに安全です。

給餌チューブ

 慢性腎不全の最終段階であるIRISステージ4に進行し、猫の食欲不振が回復せず十分な量の療法食を食べてくれないような場合は食道瘻チューブや胃瘻チューブなどの設置を考慮します。チューブフィーディングは栄養だけでなく補液や薬剤の投与も容易になるのが最大のメリットです。

定期的なモニタリング

 療法食の給餌を開始した場合、2週間後に動物病院を受診して各種の検査を行うことが推奨されます。またそれ以降は3~4ヶ月に1回のペースで定期的に検査を行い、得られた結果から慢性腎不全の進行具合を予測して適宜食事の内容を変えていきます。
NEXT:療法食で寿命は伸びる?

腎臓療法食と猫の寿命

 IRIS(国際腎臓利益協会)のガイドラインが慢性腎不全のステージにかかわらず給餌することを肯定~推奨していること、およびISMF(猫医療国際協会)がステージ2と3の猫に対する療法食の給餌を「エビデンスグレードI=十分な医学的根拠がある」と区分していることから、国の内外を問わず非常に多くの猫たちが腎臓療法食のお世話になっています。しかし腎臓療法食で調整されている個別の成分が慢性腎不全の進行を遅らせるという明確なエビデンス(医学的な証拠)はありません。ではなぜこれほどまで療法食が浸透しているのでしょうか?
 この背景には食事内容と猫の生存期間に焦点を絞って行われた3つのピボット調査があります。内容を簡単にまとめると「個別の成分では因果関係をはっきり立証できないけれども、複数の成分を調整した療法食を慢性腎不全の猫たちに給餌するとなぜか生存期間が伸びてくれる」となります。以下は猫に腎臓療法食を給餌する際の理論的な根拠として世界中で引き合いに出されている具体的な調査内容です。2つにはペットフードメーカーが関わっていますが、少なくとも読んでいる最中は企業による情報操作と陰謀論を一旦忘れてください。

ヒルズによる調査

 ミネソタ大学獣医科学部と「Hill’s Science and Technology Center」からなる共同チームは、ミネアポリス・セントポール都市圏に暮らす猫およびミネソタ大学付属獣医療センターを受診した猫を対象とし、腎臓療法食と通常食を用いたランダム化、二重盲検、比較給餌試験を行いました出典資料:Ross, 2006)

給餌試験の方法

 猫たちの参加条件は腎機能に影響を及ぼしうるサプリメントや薬剤を投与されていないことと、1~3週間の間隔を開けて計測した血清クレアチニン濃度が共に2.1~4.5 mg/dLの範囲内にあること。最終的には45頭(平均体重4.27kg/平均年齢12.9歳)の猫たちが試験に加わりました。猫たちの腎臓病は給餌試験が始まる前の段階で11~13週間継続しており、療法食の特徴は低タンパク、低リン、低ナトリウム、多価不飽和脂肪酸の添加です。なお「ステージ」の診断基準に関しては「慢性腎不全の検査・診断」で詳しく解説してありますが、2019年に診断ガイドラインが最新版に更新されましたので、調査時のものとはやや内容が異なります。
  • 療法食群22頭✓去勢オス8頭+避妊メス14頭
    ✓ステージ2が16頭+ステージ3が6頭
    ✓定時摂食15頭+自由摂食4頭+混合型摂食3頭
    ✓ドライ10頭+ウェット3頭+混合9頭
  • 通常食群23頭✓去勢オス14頭+避妊メス9頭
    ✓ステージ2が17頭+ステージ3が6頭
    ✓定時摂食11頭+自由摂食8頭+混合型摂食4頭
    ✓ドライ12頭+ウェット2頭+混合9頭

給餌試験の結果

 試験開始から3ヶ月毎に猫たちの状態をモニタリングし、24ヶ月間に渡る給餌を行った結果、12ヶ月後および24ヶ月後のタイミングにおける検査値では血清尿素窒素、血清塩素、および血清リン濃度がどれも「療法食<通常食」という格差を示したといいます。またHCO3濃度に関しては逆に「療法食>通常食」という格差が見られました。
 給餌試験が終了した時点で尿毒症クリーゼ(毒素により嘔吐や脱水などの症状が引き起こされた状態)の発症件数をカウントした結果、療法食群が0%(0頭)だったのに対し通常食群が26%(6頭)だったといいます。ここで言う「尿毒症クリーゼ」の定義は沈うつ、元気喪失、食欲不振、嘔吐、口臭が尿臭に近い、尿毒症性口内炎、前回計測時と比べて血清クレアチニン濃度が20%超増加のうち3項目以上を満たすことです。
 尿毒症クリーゼを発症した6頭中、3頭は治療に反応せず40日以内に安楽死となり、残りの3頭も尿毒症の進行により97~612日後に安楽死となりました。また療法食による相対リスクの低減率は99.99%と算定されました。
 給餌試験が終了した時点で腎臓に起因する死亡率の発症件数をカウントした結果、療法食群が0%(0頭)だったのに対し通常食群が21.7%(5頭)だったといいます。ここで言う「腎臓に起因する死亡」とは腎臓の関与が明白もしくは腎臓の関与が強く疑われる死亡例のことで、療法食による相対リスクの低減率は99.99%と算定されました。また腎臓に限らず全死因を含めた死亡率では療法食群が13.6%(3頭)、通常食群が43.5%(10頭)という格差が見られ、療法食による相対リスクの低減率は44%と算定されました。
 上記した給餌試験の結果から調査チームは、自然発症した慢性腎不全(IRISステージ2もしくは3)を抱え、非タンパク尿・非高血圧という状態にある猫たちに対しては、腎臓療法食が尿毒症クリーゼおよび腎臓に起因する死亡のリスクを低減できるとの結論に至りました。
 尿毒症クリーゼのはっきりとした予見因子がないため、予防医学という観点から慢性腎不全がIRISステージ2と診断されたタイミング、もしくは血清クレアチニン濃度が2.0mg/dLを超えたタイミングで食事療法を開始することを推奨しています。

ウォルサムによる調査

 イギリスにある王立獣医大学の調査チームは、リンを制限した猫向けの腎療法食が慢性腎不全を抱えた猫の生存期間にどのような影響を及ぼすかを前向きに調査しました出典資料:Elliott, 2000)

給餌試験の方法

 調査に参加したのは、英国内にある複数の一次診療施設を受診した猫のうち、継続的な高窒素血症(180μmol/L)と尿の凝縮能力低下から自然発症の慢性腎不全と診断された合計50頭の猫たち。29頭(メス13頭+オス16頭/ 12.9歳)はリンを制限した療法食グループ(0.16~0.25g/MJ)、残りの21頭(メス8頭+オス13頭/13.7歳)はリンを制限しない通常食グループ(1.14g/MJ)に区分されました。

給餌試験の結果

 「中間生存ポイント」を療法食群に関しては生存期間の50.6%地点、通常食群に関しては生存期間の51.2%地点と定義して比較した所、血中の尿素値は療法食群でのみ減少(-5.7 mmol/L)し、血漿リン濃度は療法食群(1.50mmol/L, 76%の個体で減少)<通常食群(2.18mmol/L, 62%の個体で増加)という勾配を見せ、さらに副甲状腺ホルモン濃度は通常食群でのみ統計的に有意なレベルの増加が見られたといいます。
 給餌試験開始から腎臓に起因する自然死もしくは安楽死までの期間を集計した結果、生存期間中央値に関しては「療法食=633日>通常食=264日」、生存期間平均値に関しては「療法食=616.1日>通常食=383.8日」という大幅な格差が見られ、いずれも統計的に有意と判断されました。
 こうした結果から調査チームは、リンを制限した猫用の腎療法食は、慢性腎不全を抱えた猫の生存期間を延長する可能性があるとの結論に至りました。ただしリンの制限だけが要因ではなく、タンパク質やナトリウムの制限、ビタミンB群の摂取量増加、エネルギーの摂取量などが相互的に影響しあっているのではないかと推測されています。調査結果を解釈する上で重要となる制限項目は以下です。
解釈上の注意点
✅療法食群に対しては1993年12月から1996年12月までは缶入りのウェットフード(リン濃度0.25g/MJ)が給餌されていましたが、1996年の12月以降はフードに対する猫たちの反応に合わせ、リンの含有量をさらに少なくしたウェットフード(リン濃度0.16g/MJ)もしくは低リン低タンパクのドライフード(リン濃度0.17g/MJ)に切り替えられています。ずっと同じフードを食べていたわけではありません。
✅療法食に対する猫たちの反応に合わせ、リンの吸収量を減らすためのリン吸着剤(水酸化アルミニウムゲル)が34%(10頭)の猫に使用されましたが、通常食群にはこうした臨機応変な治療が行われませんでした。
✅生存期間中、療法食群が規定のフードを実際に食したのは平均86.6%でした。
✅執筆者4人のうち2人がペットフードメーカー「Waltham Centre for Pet Nutrition」の関係者です。

ユトレヒト大学による調査

 ユトレヒト大学獣医栄養学部の調査チームは、オランダ国内にある31の動物病院に蓄積された88,037頭分の医療記録を回顧的に参照し、1999年から2003年の期間で以下の条件を満たす猫たちの症例だけをピックアップしました出典資料:Plantinga, 2005)
  • 慢性腎不全と診断された時の年齢が8歳超
  • 慢性腎不全と診断されてから少なくとも2ヶ月間は生存
  • 血漿尿素14 mmol/L超
  • 血漿クレアチニン175μmol/L超
  • 生存期間の75%以上で同一のフードが給餌されていた
  • 慢性腎不全以外に病気を抱えていない
  • 死因が慢性腎不全
 選別の結果、合計321頭の患猫が条件を満たしたといいます。また実際の食事量までは不明ですが、猫向けに製造された腎臓療法食を給餌されていた猫が146頭、通常食を給餌されていた猫が175頭と判断されました。
 生存期間の関連因子を統計的に精査した所、血漿尿素、血漿クレアチニン濃度、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は期間延長に影響していませんでしたが、給餌されていた食事の種類は生存期間の延長に影響していることが判明しました。具体的には以下で、A~Gは異なる種類の腎臓療法食を示しています。 腎臓療法食と慢性腎不全を患う猫の生存期間平均値 腎臓療法食と慢性腎不全を患う猫の生存期間中央値  通常食群の生存期間中央値が7ヶ月だったのに対し、いずれかの療法食を食べていた猫たち146頭のそれは、平均して9ヶ月も長くなることが明らかになりました。
 こうした結果から調査チームは、低リン低タンパクを特徴とする猫向けの腎臓療法食には、慢性腎不全を患う猫たちの生存期間延長に寄与しているとの結論に至りました。
NEXT:各栄養成分と効果

腎臓療法食の成分と効果

 猫向け腎臓療法食の目的は体に必要な最低限のエネルギーや栄養素を供給すると同時に、慢性腎不全尿毒症の進行を抑え、最終的に生存期間を延ばすことです。この目的を実現するため、さまざまな栄養成分の含有量とバランスが微調整されています。腎臓療法食に含まれる一般的な成分は以下です。
猫向け腎臓療法食の成分
  • 含有量が少ない成分タンパク質 | ナトリウム | リン
  • 含有量が多い成分抗酸化物質 | オメガ3脂肪酸 | ビタミンD | 食物繊維 | カリウム | PHバランス調整(アルカリ化)成分
 上記した成分にはいったいどのような科学的な根拠があるのでしょうか?以下では慢性腎臓病を発症した猫を対象として行われたさまざまな給餌試験の結果をご紹介します。「ランダム化されていない」「二重盲検法ではない」「腎不全が自然発症ではなく人為発症」「摂食量が不明瞭」「他の成分による副次的な影響がある」「企業バイアスを否定できない(調査スポンサーがペットフードメーカー)」などの理由により、どの調査結果もエビデンスレベルが「強」とは言い難いのが現状です。

タンパク質と慢性腎不全

 タンパク質の摂取量が多いと糸球体の高血圧や高窒素血症を発症して腎不全が悪化するという理論のもと、猫向けの腎臓療法食では例外なく「低タンパク」が特徴になっています。しかしタンパク質の摂取量と慢性腎不全との因果関係がはっきり証明されている訳ではありません。高齢猫で頻繁に見られる「サルコペニア(除脂肪体重が目減りして衰弱した状態)」や「フレイル(加齢によって身体能力や認知機能が低下した状態)」を予防するため、筋肉の基礎となるタンパク質を多めに与えるべきだという正反対の意見がある理由もこうした不確かさのためです。以下では猫を対象として行われたタンパク質の給餌試験の結果をご紹介します。

効果を示す調査

 オハイオ州立大学の調査チームは、乾燥重量中40%のタンパク質と0.32%のカリウム含むドライフードを離乳直後から給餌され続けた10頭の猫における慢性腎不全の自然発生症例を確認しました出典資料:Buffington, 1993)。臨床上健康な猫9頭を対象とし、同じフードを2年間にわたって給餌したところ、3頭が臨床検査値の異常と組織学的な病変(リンパ形質細胞性の間質性腎炎および間質性線維症)を伴う慢性腎不全を発症したといいます。また別の2頭に関しては組織学的な腎障害だけで臨床検査値は正常範囲内というイレギュラーな症例として現れました。
 ミネソタ大学の調査チームは臨床上健康なメス猫14頭の腎臓を5/6切除し、食事中のタンパク質含有量が残った腎臓に及ぼす影響を検証しました。高タンパク(51.7%)グループも低タンパク(27.6%)グループも腎切除猫7頭と比較対照となる健常猫4頭という内訳で、給餌期間は1年間です出典資料:Adams, 1994)
 試験の結果、腎臓の部分切除を受けた猫における糸球体濾過率は2/3に低下し、タンパク尿が出現したといいます。また高タンパク(高カロリー)摂取グループでは腎切除の有無に関わらず糸球体濾過率が上昇しタンパク尿が出現したとも。
 収縮期血圧および平均血圧に関しては対照グループに比べて腎切除グループで高い値を示し、さらに「腎切除+高タンパク食」という条件が重なった場合、残された腎組織に形態学的な障害が確認されたそうです。この病変はラットや犬を対象として行われた同様の実験において確認されたものと同じでした。

効果を否定する調査

 アメリカ・ジョージア大学の調査チームは28頭の猫たちをランダムで7頭ずつからなる4つのグループに分け、食事中のタンパク質含有量とカロリーが腎臓の機能にどのような影響を及ぼすかを検証しました。グループの内訳は「低タンパク/低カロリー」「低タンパク/高カロリー」「高タンパク/低カロリー」「高タンパク/高カロリー」の4つで、給餌期間は1年間です出典資料:Finco, 1997)
 試験の結果、タンパク質の摂取量およびタンパク質と摂取カロリーの相互作用は、猫たちの腎機能に何ら影響を及ぼしていないことが明らかになったと言います。唯一確認されたのは、カロリー摂取量と糸球体以外の病変との間における軽度の関連性だけでした。

リンと慢性腎不全

 リンの摂取量が多いと二次性の副甲状腺機能亢進症を招く危険性があるという理論のもと、猫向けの腎臓療法食では例外なく「低リン」が特徴になっています。しかしリンの摂取量と慢性腎不全との因果関係がはっきり証明されている訳ではありません。以下は過去に猫を対象として行われたリンの給餌試験の結果です。

効果を示す調査

 ドイツにあるルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンの調査チームは臨床上健康な猫13頭を対象とし、推奨値の5倍に相当するリンを含んだ食事を29日間に渡って給餌し、推奨値を含んだ通常食を給餌された別グループと比較しました出典資料:Dobenecker, 2017)。その結果、高リン食グループにおけるリンの見かけの消化率が60%に達し、13頭中9頭において尿糖と微量アルブミン尿が確認されると同時に、腎機能の指標となるクレアチニンクリアランス低下が確認されたといいます。また腎臓によるリンの排出量は通常食グループの体重1kg当たり16mgに対し115mgに激増しました。
 イギリス・王立獣医大学の調査チームは1992年~2010年の期間、英国内にある2つの一次診療施設において慢性腎不全が原因で死亡した猫たちの死後解剖を行い、病理学的な検証を行いました出典資料:Chakrabarti, 2012)。その結果、生前における高窒素血症、高リン血症、貧血は腎臓の間質性線維症と関連していたといいます。またタンパク尿は間質性線維症および糸球体過形成と関連しており、収縮期血圧は糸球体硬化症および増殖性動脈硬化症と関連していたとも。
 フランスにあるアルフォール獣医大学の調査チームは慢性腎不全(血清クレアチニン濃度167μmol/L以上 | 血清尿素窒素濃度21mmol/L以上 | 尿比重1.036未満)と診断された35頭の猫たちをランダムで2つのグループに分け、25頭には低タンパク(15.1g/MJ)低リン(0.23g/MJ)の腎療法食、残りの10頭には通常食(タンパク質:23.6g/MJ | リン0.48g/MJ)を24週間にわたって給餌し、慢性腎不全の進行度にどのような違いが現れるのかを検証しました出典資料:Harte, 1994)
 試験の結果、平均体重に関しては療法食群が増加したのに対し通常食群は減少したといいます。また口臭、口内炎、食欲、BCS(体型)は両グループとも悪化傾向を示したものの、悪化の度合いを飼い主と獣医師が主観評価したところ、通常食グループの方が顕著と判断されました。血清尿素窒素濃度、血清クレアチニン濃度、血清リン濃度に関しては、給餌試験開始前の段階では格差が見られませんでしたが、試験終了後の計測値では通常食群が増加、療法食群が減少を示しました。

悪影響を示す調査

 高窒素血症を伴う慢性腎不全の猫に対してはリンの含有量を制限した腎臓療法食の摂取が一般的に勧められますが、一部の猫においては高カルシウム血症から骨ミネラル代謝異常を発症するリスクが指摘されています出典資料:Tang, 2020)
 慢性腎不全(IRISステージ2もしくは3)を発症した9歳以上の高齢猫71頭の医療データを後ろ向きに参照し、リンの含有量を制限した腎臓療法食に移行して200日以内の血漿総カルシウム濃度の変化を調べた所、移行した時点で血漿カリウム濃度もしくは血漿リン濃度の少なくともどちらか一方が低い値を示していた場合、移行後における血漿総カルシウム濃度増加の独立したリスクファクターになりうることが明らかになったといいます。血漿総カルシウム濃度の上昇は血漿クレアチニン、SDMA、リン濃度、FGF23値の上昇と連関していたことから、慢性腎不全の進行と関わりあっている可能性が確認されました。

ナトリウム(塩)と慢性腎不全

 ナトリウム(塩分)の摂りすぎが高血圧につながるという話は人間においてよく聞かれ、また犬においては実験において確認されています。しかし猫におけるナトリウムと高血圧との因果関係は確認されていないばかりか、ナトリウムの摂取量を減らすことが逆に腎機能の低下につながっている可能性すら示唆されています。ですから猫向けの腎臓療法食が「低ナトリウム(塩分)」を特徴としている場合、猫の健康を逆に害してしまう危険性がありますので注意が必要です。

効果を示す調査

 アメリカ・テネシー大学の調査チームが様々なステージの慢性腎不全を抱えた猫36頭を対象とし、高濃度と低濃度のナトリウムを含んだフードを12週間に渡って給餌して比較した所、血圧(収縮期・拡張期)には何の影響も見られなかったものの、高濃度グループでは血清クレアチニン、尿素窒素、リン濃度の上昇が確認されたといいます出典資料:Kirk, 2006)

悪影響を示す調査

 複数の調査により、乾燥重量中0.3~1.3%の濃度でナトリウムを含んだフードを猫に給餌しても全身の血圧に何ら影響がなかったと報告されています。それだけでなく、逆に低ナトリウム状態がRAAS(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)を活性化し、血管、心臓、腎臓の病変につながっている危険性が示されています。さらに体重1kg当たり1日50mgの割合でナトリウムを摂取した場合、尿中へのカリウム放出量が増え、結果として腎障害につながりうる可能性も示唆されています。猫と塩分の関係については以下のページに詳しくまとめてありますのでご参照ください。 猫における塩分(ナトリウム)の許容最大値と最小値

オメガ3脂肪酸と慢性腎不全

 腎臓療法食における脂質成分は、少ない量で必要カロリーを補うという意味でも、フードの嗜好性(食いつきの良さ)を高めるという意味でも重要です。中でも不飽和脂肪酸の一種であるオメガ3脂肪酸は特殊な生理機能を有していることから、療法食の成分として採用されていることがあります。具体的にはαリノレン酸(亜麻仁油 | カボチャの種 | 大豆油)、ドコサヘキサエン酸(海水魚油)、エイコサペンタエン酸(海水魚油)などです。

効果を示す調査

 過去に猫を対象として行われた研究により、オメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸といった多価不飽和脂肪酸(PUFA)には、ある種の健康増進効果がある可能性が示唆されています。具体的には以下です。
猫の疾患と多価不飽和脂肪酸
  • 骨関節炎・変形性関節症
  • 腎不全
  • 血液機能
  • 皮膚炎
  • 口内炎
  • 肥満・糖尿病
  • 神経機能・視力
 慢性腎不全におけるオメガ3脂肪酸の効果を調べた研究としては、オランダ・ユトレヒト大学の行ったものが代表格です。調査チームが腎臓療法食として販売されている7種類のフードごとに猫たちの生存期間(中央値)を比較した所、12ヶ月~23ヶ月という幅が見られたといいます。そして最も長い生存期間が確認されたフードの特徴は、EPA(エイコサペンタエン酸)を0.18g/MJの割合で含んでいたことでした。詳細なメカニズムはわからないものの、エイコサペンタエン酸がエイコサノイド(プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンなど)の代謝を変化させ、血管拡張性メディエーターの産生を促すと同時に、炎症促進性エイコノサイドの生成を抑えたのではないかと考えられています。

効果を否定する調査

 慢性腎不全のIRISステージ2~4を患う猫たちをグループ分けし、療法食もしくは通常食を給餌した上で臨床上健康な猫たちと比較した所、血清EPAと血清DHAの濃度にグループ格差は見られなかったという矛盾する報告もあります出典資料:Tonkin, 2015)
 不飽和脂肪酸の摂取量、給餌期間、病気の進行度、フードに含まれる他の成分の有無、DHAとEPAの含有比率、オメガ3とオメガ6の含有比率などによって影響が変わりますので、決して「オメガ3脂肪酸は健康によい」という単純な話ではありません。詳しくは以下のページで解説してありますのでご確認ください。 猫にオメガ3脂肪酸(DHA・EPA)を与えると何がどう変わる?

カリウムと慢性腎不全

 慢性腎臓病を発症した猫は20~30%の割合で低カリウム血症を併発するとされています。しかし慢性腎臓病では代謝性アシドーシスによって細胞内のカリウムが細胞外に移行するため、血液検査値では正常範囲内と判断されることが少なくありません。実際、慢性腎臓病を自然発症した猫を対象とした調査では、血液中のカリウム濃度が正常範囲内だったにもかかわらず、筋肉内のカリウム濃度は腎不全を抱えていない猫に比べて低下していたとの報告もありますので出典資料:Theisen, 1997)、体内におけるバッファー機能でマスキングされた低カリウム状態はかなり高い確率で起こるものと推測されます。言い換えると、血液検査によって低カリウムが検知された時点で、体内における貯蔵カリウムはかなり枯渇しているかもしれないということです。

効果を示す調査

 カリウムで問題となるのは、欠乏状態が猫の腎不全を悪化させる可能性があるという点です。
 例えばカリウム含有量が少なく酸塩基平衡を酸性に傾ける食事を8週間に渡って給餌された猫では糸球体濾過量が20%減少したとか出典資料:Dow, 1990)、9頭中3頭で腎不全が引き起こされたといいます出典資料:Buffington, 1991)。別の調査では血漿中のレニン活性が低下してアルドステロン濃度が上昇したが、カリウムサプリメントによって正常化したと報告されています。さらに低カリウム血症とクレアチニン濃度の増加が見られた猫にカリウムサプリを与えたところ、血清クレアチニン濃度の低下と糸球体濾過量の回復が確認されたという報告もあります出典資料:Dow, 1987)

カリウム量は猫に合わせて

 上で紹介したような調査結果から「じゃあフードの中にカリウムをたっぷり入れておけばよいだろう」と考えてしまいますが、摂りすぎると逆に高カリウム血症につながる危険性がありますのでそう簡単な話ではありません。また体内のカリウム濃度は酸塩基平衡によっても影響を受けますので、すべての猫に共通する理想的な含有量を設定することはなかなか困難です。療法食の中にカリウムが添加されているものがありますが、定期的に猫の健康診断を行い、腎不全の進行状態を慎重にモニタリングしながらその猫に合ったフードを選ぶことが重要です。

酸塩基平衡と慢性腎不全

 腎臓が正常に機能している場合、体内における酸塩基平衡が酸性(アシドーシス)に傾くと、尿細管における重炭酸塩の再吸収量と水素イオンの排出量を増やすことで中性に近づくよう再調整します。しかし慢性腎臓病においてはこうした恒常性メカニズムが障害されてバランスが崩れ、53~80%という非常に高い割合で代謝性アシドーシスに陥るとされています。
 アシドーシスは直接的に腎機能を悪化させたり、カリウムの枯渇を介して間接的に腎不全を進行させ、食欲不振、嘔吐、元気喪失、筋肉の喪失を引き起こす可能性が示唆されていることから、IRISの治療ガイドラインでは症状が安定し水和状態が保たれているときの血中重炭酸塩濃度もしくは総二酸化炭素濃度が16~24mmol/Lにおさまるよう、クエン酸カリウムや重炭酸ナトリウムを補給することで調整するよう推奨されています。また一般的に動物性タンパクに含まれる含硫アミノ酸の方が酸性に傾ける特性が強いことから、療法食の原材料としては植物性タンパクが優先的に用いられます。

ビタミンDと慢性腎不全

 慢性腎不全では「慢性腎不全に伴う骨ミネラル代謝異常」(CKD-mineral and bone disorder=CKD-MBD)と呼ばれる病態に陥ることがあります。発症メカニズムは以下です。
腎機能低下→ビタミンDの生成量と働きが低下→腸管からのカルシウム吸収低下→血液中のカルシウム濃度が低下→尿中へのリンの排泄機能が低下して血液中のリン濃度が上昇→副甲状腺ホルモンの分泌量が増加(二次性副甲状腺機能亢進症)→異化作用が進んで骨のカルシウムが減少→血中での高カルシウム・高リン状態が持続→カルシウム・リンが血管壁の石灰化を促進→腎不全の進行
 上記したような代謝異常を予防するため、ビタミンDが強化されていることがあります。人間とは違い猫は紫外線から皮膚でビタミンDを合成できませんので、「窓辺で日向ぼっこさせていれば良い」というわけにはいきません。また慢性腎不全を発症した犬に対してカルシトリオール(活性型ビタミンD)治療が推奨されていますが、猫においては逆効果が報告されているため基本的には避けられます。

抗酸化物質と慢性腎不全

 活性酸素による酸化ストレスが慢性腎不全の発症や進行に影響している可能性が示されていることから、猫向けの腎臓療法食に抗酸化物質が添加されていることがあります。
 例えばコロラド州立大学の調査チームが慢性腎臓病の猫20頭と臨床上健康な猫10頭を対象とした比較を行った結果、患猫においては血清尿素窒素、クレアチニン、リン濃度が高く、ヘマトクリットと尿比重が低いことが明らかになったといいます。また酸化ストレスを示す「GSH:GSSG比」に関しては患猫177.6>健常猫61.7、抗酸化能に関しては患猫0.56<健常猫0.81、免疫系細胞(好中球・単球・マクロファージ)が異物除去を行う際に放出する活性酸素種の量に関しては患猫732>健常猫524という格差が統計的に確認されたとも。
 こうしたデータから、猫の慢性腎臓病には「活性酸素放出による防衛機能発動→酸化ストレスの増加→抗酸化能の低下」という発症メカニズムが関わっているのではないかと推測されています出典資料:Keegan, 2010)
 ペットフードメーカー大手の附属機関「Hill's Science and Technology Center」は慢性腎不全を自然発症した10頭の猫(メス7+オス3/10歳超)を対象とし、抗酸化物質であるビタミンCとEおよびβカロテンを含んだフードがどのような影響を及ぼすかを検証しました出典資料:Yu, 2006)。比較フード(ビタミンEが166.1mg/kg | ビタミンCが55mg/kg未満 | βカロテンが1.4mg/kg)とテストフード(ビタミンEが742mg/kg | ビタミンCが84mg/kg | βカロテンが2.1mg/kg)を4週間ずつ交互に給餌して各種パラメータを比較した所、テストフードを与えた場合に限り、活性酸素種によってDNAが受けた損傷の度合いを示す血清8-OHdG値、および細胞内におけるDNA構造の崩壊を示すコメットアッセイ値が低下したといいます。

食物繊維と慢性腎不全

 食物繊維とは宿主の体内では消化されない炭水化物を指す総称です。腸内細菌による発酵作用を受けるものは特に発酵性食物繊維と呼ばれ、人間を対象とした調査ではある種の健康増進効果が確認されています。

効果を示す調査

 カナダにあるトロント大学の調査チームは2014年9月、医学文献のデータベースである「MEDLINE」「EMBASE」「CINAHL」「Cochrane Library」を回顧的に参照し、食事中の食物繊維が慢性腎臓病患者にどのような影響を及ぼすかを総括的にレビューをしました出典資料:Chiavaroli, 2014)
 食物繊維を豊富に含んだ食事と、全く含んでいない~少量だけ含んだ食事を被験者に与え、その結果を比較したものだけをピッアップした所、慢性腎臓病を抱える合計143名の被験者を対象とした14報が選定条件を満たしたと言います。内訳は血清尿素に焦点を絞ったものが13報(123名)、血液クレアチニン濃度に焦点を絞ったものが12報(120名)、リン濃度に焦点を絞ったものが7報(66名)でした。14報中12報(86%)ではアラビアガム、イヌリン、サイリウム、ラクチュロースなどの発酵性食物繊維が用いられ、食物繊維の1日の摂取量は中央値で26.9g、タンパク質のそれは中央値で57gと算定されました。
 両グループにおける検査値を比較した所、食物繊維を豊富に含んだグループでは血清尿素濃度(1.76mmol/L)および血清クレアチニン濃度(22.83mmol/L)が相対的な低値を示し、後者に関しては摂取量に依存する形での低下が見られたといいます。
 血清尿素濃度の低下に関しては、発酵性の食物繊維によって大腸内で増加した細菌叢がタンパク質由来の窒素を直接捕獲したり、生成した短鎖脂肪酸がアンモニア(NH3)と結合することにより体外に排出される窒素量が増えたからではないかと推測されています。また血清クレアチニン濃度低下に関しては、消化管の上皮を透過したクレアチニンが腸内細菌叢による代謝を受けたからではないかと推測されています。

安易な添加には要注意

 上記した調査は人間の慢性腎臓病患者を対象としたものでありそっくりそのまま猫に応用できるわけではありません。また食物繊維を添加することによって満腹感が高まり、療法食の摂取量が減ってしまう危険性もあります。摂食量が減ると必要最低限な栄養素が足りなくなったり、筋肉の異化作用が始まって慢性腎不全が悪化しますので、逆に害の方が大きいという事態に陥ってしまいます。
 猫を対象とした調査では、炭酸カルシウムとキトサン(甲殻類の殻や菌体の細胞壁に含まれる食物繊維の一種)の摂取により血漿尿素濃度とリン濃度が低下したという予備的な報告があるものの、どの食物繊維をどのくらい与えると最も効果的なのかはまったくわかっていません出典資料:Wagner, 2004)猫のフローラ(細菌叢)最新情報
腎臓療法食は市販されていますが、基本的には慢性腎不全の進行ステージに合わせて獣医師が指示するものです。自己判断で与えると逆に健康が悪化する危険性がありますのでご注意ください。猫の慢性腎不全