ピルビン酸キナーゼ欠損症
ピルビン酸キナーゼ欠損症(Pyruvate kinase deficiency, PKDef)とは、赤血球上にあるピルビン酸キナーゼと呼ばれる酵素が欠損することにより十分なエネルギーを産生することができなくなり、赤血球の寿命が縮んで貧血に陥ってしまう病気。診断は血液検査を通した貧血の確認や、遺伝子検査を通した疾患遺伝子の確認などで下します。貧血を根本的に改善するには骨髄移植が必要ですが、現実的ではありません。
疾患遺伝子保有率
2012年、カリフォルニア大学デイヴィス校の「Genetics Laboratory」に送られてきたDNAサンプル12,630個と、イギリスの「Langford Veterinary Services」に送られてきたDNAサンプル1,549個を対象とし、ピルビン酸キナーゼ欠損症の関連遺伝子保有率を調査しました(→出典)。その結果、メインクーンにおいて6.4%という高い保有率が確認されたといいます。調査チームは、メインクーンの繁殖に際してはピルビン酸キナーゼ欠損症の遺伝子検査を行うべきであると推奨しています。
コロナウイルス
コロナウイルスとは、ウイルスの表面にまるで太陽のコロナのような突起を持つ一本鎖RNAウイルスの総称。猫では病原性の弱い「猫腸コロナウイルス」(FeCV)と、病原性の高い変異種「猫伝染性腹膜炎ウイルス」(FIPV)があります。今現在、病原性の低い「猫腸コロナウイルス」(FECV)と致死性の高い「猫伝染性腹膜炎ウイルス」(FIPV)を事前に見分ける有効な方法は存在していません。ひとたび後者を発症してしまうと効果的な治療法がなく、二次感染を防ぐための抗生物質の投与、免疫力を高めるためのネコインターフェロンの投与、炎症を抑えるための抗炎症薬の投与などで様子を見るというのが基本方針です。
ウイルス保有率
2001年から2010年の期間、麻布大学の調査チームが日本国内に暮らす17,392頭の猫を対象としてネココロナウイルス(FCoV)の抗体検査を行ったところ、雑種の陽性率が31.2%だったのに対し、純血種のそれが66.7%と非常に高い値を示したといいます(→出典)。さらに品種別で見たところ、メインクーンが75%(135/180頭)という標準以上の値になったとも。 詳細な原因に関しては不明ですが、繁殖施設における密飼いがウイルスの伝播を促しているのではないかと推測されています。
白猫関連の聴覚障害
白猫関連の聴覚障害とは、被毛が白い猫で片方~両方の耳が聞こえなくなるという現象。発症メカニズムは、メラニン細胞の働きを抑制する「W」と呼ばれる遺伝子が、耳の中にある蝸牛と呼ばれる器官内部の血管線条に作用→音の認識に必要な繊毛が栄養不足で劣化・脱落→音を電気信号に変換できなくなる→耳が聞こえなくなるというものです。「W」遺伝子は耳のほか被毛や目(虹彩)のメラニン細胞も抑制しますので、色素が生成されず全身が真っ白になったり目がブルーになったりします。
有病率
2009年に行われた調査では、白い被毛を持つ84頭の猫に対して聴覚テストが行われました(→出典)。その結果、20.2%に相当する17頭で片側~両側の聴覚障害が確認されたといいます。そしてメインクーンでは、14頭のうち片方の聴覚障害が1頭、両方の聴覚障害が4頭という高い割合で含まれていたとのこと。
メインクーンの中には、優性遺伝子「W」による美しい白い被毛を特徴とするものがいますが、白猫関連の聴覚障害を発症する確率が高いと考えられますので要注意です。
メインクーンの中には、優性遺伝子「W」による美しい白い被毛を特徴とするものがいますが、白猫関連の聴覚障害を発症する確率が高いと考えられますので要注意です。
子宮蓄膿症
子宮蓄膿症とは、メス猫の子宮内に病原体が入り込み、炎症反応が起こって膿が溜まってしまう病気。診断は血液検査や尿検査、エックス線や超音波検査を通して下します。治療は抗生物質による投薬治療や外科的な子宮摘出がメインです。
発症リスク
2014年、スイス農科学大学の調査チームはペット保険会社に対する1999年~2006年の請求データを元に、猫における子宮蓄膿症の発生率を調査しました(→出典)。その結果、猫全体における発生率が1万頭中17ケースだったのに対し、メインクーンでは68ケースと4倍近い発症が確認されたといいます。調査チームは明確なメカニズムまではわからないものの、猫の中には当疾患を発症しやすい品種があるようだとしています。
大腿骨頭すべり症
大腿骨頭すべり症とは、大腿骨の付け根にある大腿骨頭(だいたいこっとう)と呼ばれる部位の軟骨が地滑りを起こし、股関節の動きが不安定になってしまう病気。診断はエックス線やCTスキャン、MRIなどを通して下します。治療は激しい運動を避けるといった保存療法がメインです。
有病率と発症リスク
オーストリア・ウィーン獣医科学大学のチームは2009年5月から2015年1月の期間、さまざまな理由によって動物病院を受診した猫たちを対象とし、大腿骨頭すべり症の有病率を調査しました。その結果、猫全体における有病率が0.67%(29/4,348)だったのに対し、メインクーンの有病率は8.17%(17/208)とずば抜けて高く、標準の12.2倍に達することが明らかになったといいます。
調査チームは1~2.5歳のメインクーンにおいて、後ろ足の脱力や運動性の低下といった徴候が見られた場合は、大腿骨頭すべり症を鑑別リストに入れておく必要があるとアドバイスしています。
調査チームは1~2.5歳のメインクーンにおいて、後ろ足の脱力や運動性の低下といった徴候が見られた場合は、大腿骨頭すべり症を鑑別リストに入れておく必要があるとアドバイスしています。
股異形成
股異形成(股関節形成不全症)とは、大腿骨と骨盤をつなぐ股関節が正常に形成されず、不安定な状態が続く病気。診断はエックス線やCTスキャン、MRIなどを通して下します。治療は激しい運動を避けるといった保存療法がメインです。
有病率
1974年から1995年の期間、O.F.A(Orthopedic Foundation for Animals)が受け取った288件の股関節の評価依頼のうち、メインクーンが98.6%に相当する284件を占めていたといいます(→出典)。そして団体の基準にのっとって関節を評価した所、21.1%の割合で股異形成の所見が見られたとも。メインクーンに特徴的な巨体が発症に関わっているものと推測されています。
腹膜心膜横隔膜ヘルニア
腹膜心膜横隔膜ヘルニアとは、心膜腔と腹膜腔が連絡することにより、おなかの中にある臓器が本来あるべき場所からずれてしまう先天的な疾患。診断はエックス線や超音波検査を通して下します。治療は外科的な修復です。
有病率
2000年から2007年の期間、ヴァージニア州リッチモンドにある「Veterinary Surgical Associates」を受診した猫5,270頭を対象とし、腹膜心膜横隔膜ヘルニアに関する調査が行われました(→出典)。その結果、猫における有病率が0.59%(31/5270頭)で、そのうちメインクーンが4頭含まれていたといいます。受診した猫全体におけるメインクーンの割合が2.2%(116/5270)だったにもかかわらず、ヘルニアを発症した猫の中におけるメインクーンの割合が12.9%とずば抜けて高かったことから、調査チームはメインクーンの好発疾患である可能性を指摘しています。
心筋症
疾患遺伝子
2005年、ワシントン州立大学の調査チームはメインクーンにおいて高頻度で見られる肥大型心筋症の原因遺伝子を特定するため、肥大型心筋症と診断されたメインクーン16頭と発症していない7頭、およびメインクーン以外の猫100頭を対象とした大規模な遺伝子調査を行いました(→出典)。その結果、「MYBPC3」(ミオシン結合タンパク質C)という遺伝子における変異が、肥大型心筋症の原因になっている可能性が高いことが判明したといいます。遺伝子の変異によってアミノ酸が変化し、心筋を構成しているタンパク質の機能や構造を変化させることで病気が引き起こされているのではないかとのこと。
アメリカでの疾患遺伝子保有率
2008年、アメリカにある「Veterinary Cardiac Genetics Laboratory 」とワシントン州立大学に送られてきた3310頭分の遺伝情報を元に、MYBPC3の変異保有率調査が行われました(→出典)。その結果、ヘテロ型とホモ型を合わせメインクーンの34%が保有していたといいます。他の国で行われた保有率調査でも同様の数字が報告されていることから、メインクーンにおける変異遺伝子の保有率は、国を問わず30%超ではないかと推測されています。
フランスでの疾患遺伝子保有率
2010年、フランスの調査チームが2,744頭のメインクーンと1,013頭のメインクーン以外の猫を対象とし、肥大型心筋症の原因遺伝子として確認されている「MYBPC3」の「A31P」と呼ばれる領域における変異を調査した所、メインクーンにおける保有率が41.5%と極めて高いことが明らかになったといいます(→出典)。さらにメインクーン164頭を対象として心エコー検査を行った所、55頭(34%)で変異遺伝子が確認され、1本だけ保有したヘテロ型が48頭、2本保有したホモ型が7頭だったとも。そして変異を有していない猫109頭における肥大型心筋症の有病率が1.8%(2/109)だったのに対し、ヘテロ型48頭では10.4%(5/48)、ホモ型7頭では71.4%(5/7)という高い値が確認されたそうです。