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メインクーンの巨体が大腿骨頭すべり症の発症因子になっている可能性あり

 体が大きいことで知られるメインクーンは、そのがっちりとした体型が仇(あだ)となり、太ももの骨に異常きたす可能性が高いかもしれません(2017.5.15/オーストリア)。

詳細

 調査を行ったのは、オーストリア・ウィーン獣医科学大学のチーム。大腿骨の付け根にある大腿骨頭(だいたいこっとう)と呼ばれる部位の軟骨が地滑りを起こし、股関節の動きが不安定になってしまう「大腿骨頭すべり症」に関し、猫全体における有病率と、体が大きいことで知られるメインクーンにおける有病率とを比較しました。 大腿骨頭すべり症では骨端軟骨部でせん断力が働き、骨頭が変形してしまう  調査対象となったのは2009年5月から2015年1月の期間、さまざまな理由によって動物病院(Tierklinik Hollabrunn)を受診した猫たち。明確な外傷歴がないことを確認した上で大腿骨頭すべり症の有無を調査したところ、猫全体における有病率が0.67%(29/4,348)だったのに対し、メインクーンの有病率は8.17%(17/208)とずば抜けて高く、標準の12.2倍に達することが明らかになったといいます。すべり症を発症した17頭のメインクーンに関する細かい情報は以下です。
すべり症のメインクーン
  • 16頭は去勢済みのオス猫
  • 1頭は避妊手術済のメス猫
  • 平均21.47ヶ月齢
  • 平均体重は7.5kg
  • 平均BCSは5.06/9.0
  • 右側だけ4頭
  • 左側だけ3頭
  • 両側10頭
 飼い主によると、来院する前2日~9週の間に運動性の低下や脱力が見られたといいます。また整形外科的な検査をしたところ、すべての猫で股関節を触診したときの痛みが確認され、特に股関節を伸ばした時と足を下に引っ張ったときのものが顕著だったとも。
 こうしたデータから調査チームは1~2.5歳のメインクーンにおいて、後ろ足の脱力や運動性の低下といった徴候が見られた場合は、大腿骨頭すべり症を鑑別リストに入れておく必要があるとアドバイスしています。
Slipped capital femoral epiphysis in 17 Maine Coon cats
Danilo Borak et al., Journal of Feline Medicine and Surgery Vol 19, Issue 1, 2017

解説

 大腿骨頭すべり症に関する調査はそれほど多くなく、メインクーンにおける症例はこれまでたった4例しかありませんでした。しかし今回行われた大規模な調査により、股関節形成不全症に加え、大腿骨頭すべり症もメインクーンにおける品種特有疾患である可能性が強まりました。1歳前後のタイミングで、「激しい運動ができない」、「ジャンプに失敗する」、「足の付け根を触ると痛がる」、「足を引きずる」といった徴候が見られた場合は、整形外科的な疾患を疑ったほうが無難でしょう。進行性で自然治癒することがないため、大腿骨の骨切り術、股関節置換術、医療ワイヤーによる固定といった治療が行われます。 体が大きいことで人気のロシアのメインクーン「タイホン」(Tihon)  以下は、なぜメインクーンにおいて大腿骨頭すべり症の発症率が高いのかに関する考察です。

骨端軟骨閉鎖の遅延

 骨端軟骨(骨端線)は成長期において細胞の増殖が行われる場所で、「骨端線が開いている」とはまだ成長中であること、「骨端線が閉鎖している」とは成長が止まって骨化したことを意味しています。
 猫においては一般的に、大腿骨遠位端(太ももの膝に近いほうの端)の骨端軟骨閉鎖が54~76週齢、脛骨近位端(すねの膝に近いほうの端)の閉鎖が50~76週齢で起こるとされています。一方、今回の調査ですべり症と診断された猫たちでは、どちらか一方の閉鎖不全が17頭中13頭(76.47%)で確認され、診断時の年齢中央値は19ヶ月齢(76週齢)だったそうです。ほとんどの猫では閉鎖しているはずの76週齢というタイミングにおいて、7割以上のメインクーンが閉鎖不全を起こしていたという事実から、「体が大きいため成長が完了するまでに時間がかかる」という可能性が見えてきます。骨端軟骨が閉鎖しないうちに(軟骨が柔らかいうちに)体が大きくなり、太ももの付け根に大きな力がかかった結果、せん断力が働いてすべり症につながったのかもしれません。

不妊手術

 過去に行われた調査でも今回行われた調査でも、不妊手術を受けた猫で高い発症率が確認されました。不妊手術がすべり症に与える影響は2つ考えられます。1つは体重の増加、もう1つは成長の遅延です。
 不妊手術を受けた猫の体重が増加するという現象は世界中で普遍的に確認されています。手術によって増加した体重が大腿骨頭に対する荷重ストレスを増加させ、すべり症を引き起こしたという可能性は大いにあるでしょう。
 不妊手術の中でも特に、性的に成熟する前の段階で行う早期不妊手術は、成長ホルモンの分泌様式に影響を及ぼして骨端軟骨の閉鎖を遅らせるという可能性がいくつかの調査で示唆されています。不妊手術によって軟骨の閉鎖が遅れると同時に、大腿骨の長軸方向への成長が促されることで質量が大きくなり、太ももの付け根に対する荷重ストレスの増加につながったという可能性が考えられます。

遺伝

 人間における発症率調査では、人種的にアフリカ系アメリカ人およびパシフィックアイランダーズ(太平洋島嶼国の住人)に多いとされています。今回の調査中、4頭のメインクーンは同腹仔でした。原因遺伝子は不明ですが、大腿骨の相対的な後傾、骨端軟骨スロープの増加、成長率、甲状腺ホルモンのバランスといった因子を介して、発症率を高めている可能性を否定できません。

体重

 17頭の患猫の平均体重は7.5kgで、過去にDiehlが行った調査と大差は見られませんでした。しかし、普通の短毛種の体重が4~5kgであるという事実から考えると、かなり大柄と言えるでしょう。メインクーンに特有の大きな体が太ももの付け根に対する荷重ストレスとなり、大腿骨頭へのせん断力に変換されたという可能性は大いに考えられます。太り気味や肥満体型の猫が3頭だけだったということから考えると、7kg超という体重自体が、猫にとっては既にオーバーワークなのかもしれません。

性別

 すべり症の発症率に関し「オス猫:メス猫=16:1」という極端な性差が見られました。人間を対象とした調査では、成長期にある(13歳くらい)肥満体型の少年における発症率が高いとされています。人間も猫も、男性(オス)の方が女性(メス)よりも体が大きく、体重に格差が生まれた結果、発症率の極端な性差につながったのかもしれません。 メインクーン