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寄生虫(猫ジラミ)による毛球症の症例~皮膚のかゆみが過剰なグルーミングを引き起こす

 嘔吐や排便を通じて体外に排出できないほどたくさんの被毛を飲み込むことで発症する猫の毛球症(ヘアボール)。過剰なグルーミング(毛づくろい)が最大の危険因子ですが、ノミ・ダニ・シラミといった外部寄生虫がこうした異常行動を促すことが確認されています。

猫ジラミによる毛球症例

 症例報告を行ったのはブラジル・セアラー州の州都フォルタレザにある動物病院を中心としたチーム。12歳になるペルシャ(避妊済みメス | 3kg)が嘔吐、反応鈍麻、重度の腹痛、3日間に及ぶ拒食と無尿を主訴として受診しました。 シラミの寄生により毛球症を発症した患猫のペルシャ  ノミアレルギー性皮膚炎の既往歴があった以外、身体検査で粘膜、リンパ節、末梢の血流、心肺機能、直腸温に異常は見られず、血液生化学検査も正常範囲内だったといいます。
 超音波検査では胃の拡張が確認されましたが、貯留したガスで内容物を確認できなかったため試験開腹が施されました。胃を切開して中から出てきたのが巨大な毛球(trichobezoar, 胃石とも)。 猫の胃から取り出された巨大な毛球(trichobezoar)  背中にまだら状の脱毛と毛艶の喪失が見られたことからスクレーピング検査を行った結果、猫ジラミ(Lynxacarus radovskyi)の寄生が確認され、最終的には寄生虫による皮膚の掻痒が過剰な毛づくろい(グルーミング)を促し、飲み込む被毛が増えて毛球症を引き起こしたと診断されました。 猫の被毛から採取された猫ジラミ(Lynxacarus radovskyi)の顕微鏡所見 Gastric Obstruction by Tricobezoar in Cat Associated with Lynxacarus radovskyi: a Case Report
Erico do Nascimento Arruda, Marilene da Silva Marques, et al., Brazilian Journal of Case Reports(2021), DOI:10.52600/2763-583X.bjcr.2021.1.2.26-31.

毛球症は予防できる病気

 毛球症の危険因子は長毛や過剰なグルーミングですが、飼い主の心がけ次第で十分予防が可能な生活習慣病です。
 当症例の猫はおとなしい性格でノミ皮膚炎の既往歴があるにもかかわらず、絶食が3日も放置されていました。飼育環境までは記載されていませんが、飼い主がしっかり完全室内飼いを徹底し、ブラッシングと寄生虫予防を行い、早急に動物病院を受診していれば十分防げた印象を受けます。

寄生虫対策

 ノミやダニに比べて頻度は高くないものの、シラミもまた刺咬症(虫刺されによるかゆみ)やアレルギー性皮膚炎を引き起こしうる寄生虫です。 猫の被毛に寄生した猫ジラミの肉眼所見  虫の種類に関わらず完全室内飼いを徹底していれば寄生される危険性はかなり減らせるでしょう。一般的なスポットオン(滴下)タイプの寄生虫予防薬はシラミを適用範囲に入れていませんが、セラメクチン出典資料:Han, 2019)、フルララネル出典資料:Han, 2016)、フィプロニル出典資料:Jones, 2000)、イミダクロプリド出典資料:Rocha, 2019)を含んだものは獣医師の裁量によりオフラベル(適用範囲外)で使用されることがあります。 猫の寄生虫対策・完全ガイド

被毛のケア

 毛の長さに関わらず、飼い主が定期的にブラッシングしてあげれば、抜け毛の総量が減り、結果として猫が飲み込む毛の量を減らすことができます。これが被毛ケアのゴールドスタンダードです。
 猫が長毛種でブラッシングさせてくれないようなやっかいな場合は、予防医療目的のライオンカット(サマーカット)が施されることもありますが、しっかり被毛を刈るためには鎮静もしくは麻酔が必要となりますので猫の体にとって決して望ましくありません。まずはなぜ猫がブラッシングを嫌がるのかから考え直してみましょう。「無理やり押さえつけられた」など過去のトラウマが影響していることもあります。 猫のブラッシングの仕方・完全ガイド

初期症状に注意

 猫はしょっちゅう吐く動物で、飼い主も「ああ、またか」くらいしか考えないことが少なくありません。しかし間欠的な嘔吐や吐き戻しに加えて腹痛(おなかを触ろうとすると拒絶する)、脱水(胃がパンパンで水を飲めない)、食欲不振~完全な絶食、掻痒(しょっちゅう体のどこかを掻きむしる)、部分的~広範囲の脱毛、便秘、直腸脱などの症状が見られた場合は取り急ぎ動物病院を受診しましょう。 猫が吐くのは病気? 猫の毛球症 猫ジラミに寄生された猫の被毛で見られるまだら状の非対称性脱毛